みなよ、世界は透き通ってる ~忘れられた預言者の二人旅~ 作:息抜きのもなか
作者にしては珍しく曇る予定は全くないです。
その八つは神を討つためにその身を捧げ、第十のセフィラの一つの素体は神として滅び、楔として利用されたもう一つの素体は神殺しを誓った彼女の妹たちによって自由を得た。
そうして彼らの物語は終わり、全ては水の中へと吞み込まれた。
いま彼の地には神を顕現させるための祭壇の残骸が、同族を集めた主と共に沈んでいるのみ。
その終わりを迎えた地に、一つの人影があった。
「一度の戦闘もなく、ただの舞台装置で終わっちゃうなんて、あんまりな扱いだね」
藍色のショートヘアが、崩れて沈んだ鋼鉄大陸を進んで行く。
儀式を行った祭壇までたどり着いた小さな影は、準備運動のようにぐーっと一つ伸びをしてから、水上に出ている祭壇の一部に手を掛ける。そして彼女はそのまま、少女のどこから出ているのかわからない出力を以てその外殻を引き剥がしてみせた。
橙色の円が立体的に重なったヘイローを持つ少女は、その怪力を駆使して迷いなく祭壇の分解を進めていく。自身の身体が濡れることも意に介さず、少女は一部のパーツを水上に浮かべた外殻の上に放り込みながら作業を続ける。
祭壇のパーツを剥がしながら内部を下り続けた彼女は、とうとう姿を見せた小さな地下の空間へと身を投じる。
そして祭壇の地下、鋼鉄大陸を鋼鉄大陸たらしめていた場所に、藍色の少女は辿り着く。
エホバと呼ばれる場所には、一つのコアがあった。それは鋼鉄大陸の本体とも呼べるであろう預言者の核。誰にも結末を語られることのなかった最後の一柱が、誰にも奪われることなく沈黙を守っていた。
小さな影の手は何者にも阻まれることなく、そのコアを掴み、引き抜いた。
「お待たせ、ネツァク。僕らの巡礼を始めようか」
少女が手を掲げれば、彼女が選び抜いて水上に放り投げたはずのパーツが彼女の手元へとふわりと集まって寄ってくる。集まったパーツは少女の黄金の瞳の明滅と共にその姿かたちを変えていき、やがて一つの状態へと収束する。
そして構成されたのは、白く小さな機械兵。その型はレイバーと呼ばれたデカグラマトンの兵士で、ネツァクが鋼鉄大陸上に展開していた兵士たちの一つと遜色ない。
それらを生んでいた立場であるネツァク本体がその一兵士にその存在を書き換えられたとなれば屈辱を感じそうなものであるが、身体を起こし自身を確かめるような素振りを見せた機械は、そんな感情を感じさせないように飛び跳ね、少女へと感謝を示しているように見えた。
「うん、うん。分かっているよ。まずはあの子たち、だよね?」
それから、二人の巡礼は始まった。
ネツァクにとって、鋼鉄大陸は自身の身体のようなもの。どこでなにが起こっていたかなど、全てその
レイバーとなったネツァクを水に浸からせないように抱え上げたり頭の上に乗せたりしながら、二人は海に沈んだ鋼鉄大陸を巡っていく。
少女が乗ってきたであろう小舟に乗りながら次のポイントへ向かっていたところで、小舟の端から水面を覗きこんでいたネツァクが何かに気が付いて、ガコガコと自身の身体を変形させ、砲塔を手のように使って船を進めている少女の背中を小突いてみせる。
「あ、見つけた?」
少女はそれだけでネツァクの意図に気付いたのか、オールを漕ぐ手を止めて水面を覗き込む。
そしてネツァクと同じものを見つけたのか、ネツァクに対して「あっちで合流しよう」と言って近くの水上に顔を出している構造物を指さしてからその返答を待たずに水の中へと飛び込んだ。
少女の姿を見てネツァクは少し心配するように水面を覗き込むような動作を見せ、しかし少女の言いつけ通りに構造物を目指すことにしたのかオールと自身の構造を見比べる様子を見せ、そして最終的には砲塔と足を器用に使いながら一本のオールで船をどうにか目的地へと進めていく。
ネツァクがもう少しでその構造物に到着しようかというところで、目的としていた構造物の近くから水飛沫が上がり、藍色のショートカットが頭を出す。
その背には、祝福を受けられなかった白の少女が抱えられている。
「落ち着いて、ネツァク。あと二人も連れてくるから、君もゆっくりこっちに来て」
その姿を見て水に飛び込んででも近づこうとしたネツァクに、少女が諭すような声音で言う。
折角動ける身体を取り戻したのに、自身が壊れてしまったら元も子もない。それに気が付いたネツァクは少女の言う通り、オールを抱えて地道に近付く作業を再開する。
そして少女が2人目を抱えてくるより早く、ネツァクの小舟は置いて行かれた少女のいる構造物に辿り着く。
ぴょこんと跳ねる機械の身体で、ネツァクは黒いマスクと尻尾を携えた少女に駆け寄り、何をするか惑った挙句にその前髪を整えてやることにする。
その最中に残りの二人をまとめて抱えて戻ってきた少女に見つかってその不器用な姿を笑われてしまい、抗議するようにぴょこぴょこと飛び跳ねるネツァクを他所に、少女は手のかかる子供に向けるような笑みを浮かべながら、反抗期を迎えて散っていった少女たちの身なりを優しい手つきで整えていく。その水色の瞳には寂しさと優しさが同居しており、既に息のない少女たちに対する確かな愛情を感じさせた。
「三人もこの船には乗らないよね。かといって野晒しは可哀想だし……」
そんなことを考える少女に対し、ネツァクはこの構造物が何の用途で使われているか思い出したのか、短い脚でタンタンと今この立っている構造物を叩いてみせる。
その動作で少女も気が付いたのだろう。一度構造物の端まで行ってこの構造物が何であるかを確認し、ネツァクに対して頷いて見せる。
本来であればイェソドの力が必要な構造物の上にあるハッチをその怪力で無理やりに開けてみせると、そこから先にネツァクを落としてから三人を受け渡し、それから自身も部屋の中へと飛び降りる。
それからどんどん建物を下っていき、分厚い壁とセキュリティのある扉の前で立ち止まる。
ネツァクがそれに自身の回線を繋いでその扉を開けた先に、その花を咲かせた一輪の未来が出迎えた。
「これ、あの子の……」
ぴょんぴょんと
その花を踏まないように避けて、二人は先へと進んでいく。
その先の扉を超えた空間には、ティファレトが遺した緑が広がっていた。正確にはティファレトに託された少女が造った空間ではあるのだが、それでも彼の預言者が守り抜かなければ見られなかったものである。
少女とネツァクは顔を見合わせ、頷き合う。
二人は少女たちをここに置いていくことにした。
「あ、これ」
最期に自分たちの願いを掴んだ少女たちと別れ、怪力で墓標を再び
水に濡れて動きを止めたレイバーの頭の上、まるでそれを守るかのように部屋の端にいた黒い個体の上には、濡れてしまったスケッチブックがあった。ネツァクはずっと見ていたからその内容を覚えているのだろう。これも持っていきたいとでも言うように大げさに跳ねて見せ、少女もその意思を感じ取ったのか、それを拾い上げて胸に抱える。
結局、大陸中を歩き回ってみても、見つけられたのはそこまでの数にならなかったが、二人は預言者たちや無限光の役目を持った少女たちとの思い出を振り返ることができた。
その
「行ってきます」
目を閉じて口にした少女の言葉に重ねるように、白い機体が遅れてその機体を斜めに倒す。
その頭上には二人を祝福するように、透き通るような青空が広がっていた。
プロットはありませんがゴールはあります。続きは書くつもりですが時期は未定です。
ネツァクをこんなに可愛く書いていいのだろうか。