なり替わることを決意した後、俺は【檜山大介】になり替わる上で大切になる【檜山大介】の身辺情報をあの部屋で必死に探した。
結果から言うと、何の成果も得られませんでしたぁ~。
ただ悪戯に時間を消費しただけだった。悲しきかな。
という訳で、今は部屋から出て散策している訳だが・・・・・・・・・・・・他の部屋もあの部屋の豪華さに引けを取らないものだった。豪華な赤いカーペットの敷かれた廊下にガラス細工の様な凝った意匠の窓。この豪華さ・・・・・・最低でも貴族の屋敷かテンプレ通りなら王城かだ。
あとは使用人だとかメイドさんともすれ違った。
どちらも俺を見るなり【檜山様こんにちわ】なんて言ってくるのだから驚いた。
テンプレ通り、異世界転移者は召喚した国が手厚く保護しているようだ。
有難い反面、重要人物であることが確定してしまい、いざとなったら
・・・・・・もしかしたら転移前の俺を知ってる連中っていないのか? すれ違う連中はだいたい使用人かメイドか兵士や騎士だし、もしそうだとしたら、俺的にはかなり助かる。逆にクラス転移とかだったらヤバい。
「ふんふーん」
にしてもこんな豪華なカーペットの上を歩けるなんてな、色も相まってレッドカーペットの上を歩いてるみたいだ。
状況が思いのほか良さそうな見込みなのを良いことに鼻歌を歌いながら、肩で風を切るように歩いていると・・・・・・今一番会いたくないヤツと鉢合う。
「よう! 大介!」
「んあ? ・・・・・・ああ、よう!」
不意打ちの如く後ろからいきなり声を掛けられた。咄嗟に振りかえると黒髪黒目の青年が・・・・・・いや絶対日本人じゃん。それも元の人格の友達だろコレ。
「今まで何してたんだよ? もう昼だぜ。」
「ああ、なんかホームシックになっちまってな。家族が恋しいぜ。」
家族が恋しいと言うと、青年は怪訝な顔をした。
「あれ? お前家族がウザいとか言ってなかったっけ?」
マズッた!
「いや・・・・・・いざ会えなくなると、案外寂しいもんだなって思ってよ。」
内心では冷や汗だらだらになりながらも、適当にそれっぽい言い訳を並べる。
「まあ、確かにな。もう会えないかも知れないんだもんな~。」
「だろ? やっぱ俺には日本が一番だな。」
「それは言えてるな!」
どうやらリカバリーが効いたようで、楽しく談笑する雰囲気になった。
しかし油断は禁物だ。
それから暫く二人っきりで歩きながら談笑に興じた。
そして、その会話の中ではしっかりと有用な情報を落としてくれた。
例えば、俺達異世界転移者は常人よりも強くなってることだったり、この世界には魔物が居ることだったり、俺は実は風適正が高いことだったり、此処がハイリヒ王国の王城ってことだったり。魔人族とかいう種族が人類の敵らしいことだったり。クラス転移していたことだったり。
会話の中だけでもそれなり以上の情報を貰えた。ありがてぇ。
「ああ、話変わるけどさ・・・・・・大介どうすんの?」
「どうすんのって?」
そうして情報収集目的で談笑していると、俺の話し相手こと近藤が言いずらそうにしながら、話題を変えた。
良くは分からないが恐らく今から話す内容は地雷。十五年生きてきた経験から感覚的に分かった。
「分かんねえのかよ、ベヒモスの事だよ。」
「ベヒモスってああ、あの魔物か~」
「そうだよ! 元はと言えば、お前がグランツ鉱石を無警戒で取りに行った所為だろ?」
「あ、ああ。あんときは俺も冷静じゃなかった。ホントに申し開きも出来ねえ。」
相手は真剣そのものだが、【ベヒモス】という固有名詞の正体が多分魔物であること以外一ミリも分からないため、のらりくらりと質問を躱すことしかできない。
だからこそ、俺と近藤の内心には高い温度差が生じていた。
何も知らない俺にはできるのは【形だけの謝罪】今はこれだけだった。しかし…・・・
「・・・・・・オレはそれで許せるけど、死人も出てるからな。他の奴らに許してもらえるかは分かんねーよ。」
【死人】その単語を聞いた瞬間、俺の表情が凍り付いた。
さっきまでは何故、近藤が真剣な顔になって俺に【どうすんのか】と問うのかまるで分からなかったが、やっと分かった。
俺の行動で死人が出て、未だ謝罪の言葉も無いのなら確実に孤立する。ということを暗に伝えたかったのだろう。
だが、あまりにも俺の察しが悪いから、直接言ってくれたのだろう。ありがてぇ。
・・・・・・・・・・・・え? 憑依先が間接的とはいえ人殺しなんだが? これどうすんの?
いやいや落ち着け俺。まだリカバリー可能なハズだ。
ちょっと死人が出ただけ。直接手を下した訳じゃないしまだ情状酌量の余地はある筈。
・・・・・あるよな?
予定じゃあ近藤からもっと情報を聞き出すつもりだったが予定変更だ。
今ある情報でどうにか、この状況を切り抜けなければ異世界生活終わるナリ。
「・・・・・・ああ、そのことについては今日の夕飯に言おうと思ってた。」
一先ず時間的猶予を得るために今日の夕食まで問題を先送りにする。
今は大体昼過ぎぐらいだから、猶予は早く見積もって5時間遅く見積もって7時間といった所か。
「・・・・・・まあ、そんなに心配しなくても本気で謝ればみんな許してくれるだろうぜ。」
暗くなった空気を少しでも盛り上げようと近藤君が健気にも俺を励ましてくれるが人が死んでる以上、楽観視は出来ない。コレが謝って済むのなら警察は要らないぜ。
「ああ。ちょっと部屋で色々考えて来るぜ。またな。」
近藤君はオレの内心を色々察したのか、特に追及も無いまま別れた。
別れ際、近藤君の気まずそうな視線が俺を刺していた。人殺しになってしまった友人に向けるような眼があるとしたら・・・・・・あれなのだろうか?
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南雲くん。
私が初めて好きになった男の子。
気弱そうなのに怖そうな不良達相手に
本当に優しくてカッコいい人。私の大切な人・・・・・・だったのに、今はここに居ない。
私達が束になっても勝てないベヒモスを相手に時間稼ぎをして、撤退している最中に誰かの魔法の誤射で黒く深い奈落に落ちてしまった。
普通なら【助かっているはずが無い】と諦めるところだと思う。
でも私は約束したから【私が南雲くんを守る】って。
だから私は諦めない。どんな姿になっていても絶対に見つける。見つけ出して見せる。
皆が夕食に興じる最中、白崎香織は静かに決意を固める。
あの月の夜の約束を果たすために。
そうして決意を固める香織だが・・・・・・・・・・・・同時期にある人物も決意を固めていた。
「身だしなみは・・・・・・オッケーだな。
ほんでもってのどの準備も・・・・・・あ~、あ~・・・・・・」
自身の格好に不自然なところは無いか。みんなの耳に届く声を出せるか。セリフはしっかり覚えたか。そのすべてを、どうにかレスバ合手の粗を見つけまいと躍起になるマナー講師の如く確認していた。
「よし!・・・・・・チャンスは一回失敗できねえぜ!」
準備ができたことを確認すると、この広い夕食会場全体に響く声を上げる。
「注目!!」
会場全体を震わせるその一言はクラスメイト達の視線を音源たる青年に向かわせる。
(檜山くん?)
もちろん香織の視線もそちらへ向かう。
普段のいつもニヤニヤしている檜山大介からは、想像もできないほど真剣な顔付きでクラスメイトの視線の中心に佇んでいた。
その人が普段見せない顔というのは、見た者を緊張させるというが全くその通りで、会場にはついさっきまでのガヤガヤと皆が好き勝手に話す、まとまりのない騒がしい空気とは異なる、張り詰めたような緊張感が満ちていた。
やがて完全に会場から音が完全に消える。・・・・・そうなると檜山大介は遂に口を動かした。
「コホン・・・・・・今回のベヒモスの件、あれは全て私の責任であります。」
え? つい口が動いてしまった。失礼だがその場に居る誰もがそう思っただろう。
あの檜山大介と言えば、絶対に自分の非を認めない頑固で他責思考な人間だ。
そんな人間が、自身の間接的とはいえ人殺しの責任は全て自分にあると言ったのだ。
空から槍が降る事と同じぐらいあり得ない。
そんなクラスメイト達の困惑を他所に檜山大介は言葉を続ける。
「よって、この件の責任については私自身をこの王都より追放処分を行うことで、責任を取りたいと思っております。」
「「「は?」」」
なり替わり失敗しちゃった☆