王城の一角にある客室。
俺はそこに居座っていた。
【何で追放されてねえんだよ】って思うかもしれないが、安心してほしい。
しっかり追放される予定です。
じゃあ何で王城に居座ってんのかって言うと、分かりやすく言うと追放までの執行猶予が付いた。
どうやら、教会側が【勇者様のお仲間を追放するとは何事だ!!】と割り込んできたらしい。
こうなると分かっていたから王国側は勇者一行の誰にも責任追及をしなかったのだろう。
【待って頂きたい。追放っては言っても王都から追放というだけで、実際にはお飾りの追放処分なのだ。】と、国王様が反論をかましたお陰で、教会側は一旦引っ込んでくれたが、追放までの執行猶予と教会から派遣する護衛を付けることを条件付きだった。
俺目線だと執行猶予は全く要らないが、教会からしたらいきなり勇者一行の一人が追放されて、一人で行動することになったので、事故防止のためにも俺に着ける護衛を選ばなければならない。
大変そうだね。(お前のせい)
そんでもって執行猶予中は王城の中でなら好きにしてていいよって言われたので、ぐーたらしている訳だ。
とはいえ、何もしていない訳じゃない。
図書館から借りてきた本を読んでこの世界の基礎知識を身に着けている。
5,6冊ほどの本が枕元に置かれていた。
そのうち一冊は今現在檜山の手に納まっている。
「魔法大全集・・・・・・結構面白いこと書かれてるじゃん。」
【魔法大全集】ここ数日間、檜山が気に入って読み込んでいる本だった。
内容としてはその名の通り色々な魔法の効果と詠唱呪文が描かれている図鑑の様なものだ。
この本を頼りに数日間、訓練を続けると【火球】と【風球】が使えるようになった。
使えるようになって直ぐはテンションが鰻登りだったが、数時間後には一転して、こんなカスみたいな威力で戦闘をやってけるのか心配になった。
しかし、初めて魔法を使えた時の高揚感を忘れらず、こうして使えそうな魔法を探しているのである。
「【旋風】・・・・・・かぁ」
【旋風】その名の通り、小さな竜巻を巻き起こす魔法だ。
かなりメジャーな魔法で普通【風球】の次に覚える風魔法といったらこれらしい。
風球のように直接ダメージを与える魔法ではなく、動きを阻害したり、威力調整次第で小さい魔物なら吹っ飛ばすことも可能と便利方面に伸びた魔法だ。
「ここ室内だけど、【旋風】ならいいだろ。」
旋風を使ってみたい欲求が抑えきれず、室内で魔法をぶっ放そうと詠唱を始める。
「ここに巻き上がる風のうねりを望む――――旋風」
威力もなるべく落とすし、出来るかどうか試すだけだし・・・・・・ちょっとだけならバレへんバレへん。
【ブワァ!】
先程まで無風だった部屋の中に空気を下から巻き上がるようなうねった風が生じた。
なお威力を落としているので、布団のシーツがちょっと巻き上がるぐらいで大した効果は生じていない。
「おお。結構良さげかも!」
ただ、威力を強めればこの限りではないだろう。
おそらく瞬間風速15メートルは越せる気がする。
ちなみに瞬間風速15メートルは、人が風上に向かってかなり歩きづらくなる程度の風だ。
詠唱があるから接近戦で相手の体制を崩す狙いで使うのはかなり難しそうだが、ちょっと距離を置いて味方のサポートとしてなら役に立ちそうだ。
「もうちょい威力上げてみるか・・・・・・」
魔力をほんの少し強く籠めて詠唱をやってみる・・・・・・
【ブオオ!】
先程よりも少し強い風が部屋を満たした。
夏場の扇風機替わりには良さそうな魔法だ。
「日本にいるときに使えればなぁ・・・・・・」
電気も使わないし、場所も取らない、エコも実用性も兼ね備えた最高の魔法だ。
檜山がしみじみとそんな下らないもの思いにふけっていると、その肝心の檜山の知らぬ間にこの部屋のドアノブが回り、扉が開いた!
「失礼しま・・・・・・」
【ブオオ!】
何者かが扉を開ると同時に言葉を発しようとするが、その言葉を発する間もなく【旋風】による風のうねりに晒される。
「きゃ!」
「へ?」
自分が知らぬ間に入っていた侵入者の声に驚いた檜山が音源の方を見ると・・・・・・
そこに広がっていたのは純白の花園だった。おそらく【旋風】の所為・・・・・・おかげだろう。
レースがあしらわれた高級で触り心地の良さそうなモノ。
それが、檜山の目の中にいきなり飛び込んできた。
意味の分からなさによる混乱が頭を満たすが、その目線ははしっかりと花園へと向かっていた。
完全に不幸な事故だった。
だが、相手側からすればそうもいかなかったようで・・・・・・
【ゴン!!】
【見入るな】と言わんばかりの怒りの籠った回し蹴りが、ソコを見入っていた檜山の頭に炸裂した。
「ぐわああ!!!! いっっってぇ~!!!」
大体1メートルぐらいは横に吹っ飛ばされた先で、檜山は頭を抱えて悶絶していた。
ただ悶絶するだけではなく、痛みを紛らわせようと足をバタバタと動かしていて、そのシャレにならないレベルが分かる。すごく痛そうである。
「くうう~メッチャクチャ痛ぇ~!!」
頭をさすりながら、上半身を起こした檜山は回し蹴りの犯人と相対する。
犯人は、銀糸のような銀髪にアニメでしか見ない糸目という濃すぎる特徴を持ったうえに、人形の様な整った顔立ちだった。
犯人は呆れたようにため息をつくと、見えてるんだか見えて無いんだか分からない細い糸目を地面に倒れている檜山を向ける。
「あれはそちらが悪いでしょうに・・・・・・」
「そりゃそうかもしんねえけど、いきなり扉を開けておいて回し蹴りはねぇって!!」
「私はキチンとノックもして声も掛けましたのに、反応がなかったので開けただけですが?」
まるで、物語から飛び出してきたような浮世離れした外見をした女の子に檜山は内心ドキリとしながらも、いきなり部屋に入って来た挙句、回し蹴りで蹴り飛ばされたことについて食って掛かる。
しかし、いきなりは部屋に入っていないと、女の子はそう言い返した。
「はぁ? マジでしたのかよ?」
「確かに致しましたよ?」
「ホントに?」
「はい。ホントですよ。」
「ホントのホントに?」
「・・・・・・そうですよ。」
何度もしつこく確認するが、どうやら本当にノックも声掛けもしたらしい。だが、檜山の耳にはそんな音は記憶されていなかった。あるのは、風の音だけ・・・・・・
「風の音? ・・・・・・・・・・・・あ、成程。俺の風の音にかき消されてたのか。」
「・・・・・・おそらくそうでしょうね。」
檜山が今になって分かったことを、銀色の女の子は最初から分かっていた様な反応を示した。
そういえば、部屋での魔法使用は禁止されていたなぁ・・・・・・って。
今の状況が相当不味いことを察知した檜山は蛇に睨まれた蛙の如く動きをピタリと止める。
「・・・・・・・・・・・・あ。」
「それで、貴方は部屋での魔法使用禁止の決まりを破った訳ですが・・・・・・・・・・・・何か申し開きは?」
「へ・・・・・・へへ」
笑顔のままでそう問い詰めて来る銀色の女の子には、有無を言わさぬ圧力を感じた。
整った顔立ちでの笑顔はチャーミングだが、この場面では圧力しか感じない。
この日、檜山は美人の笑顔は恐ろしいことを思い知った。
タグに着けてたオリヒロ登場です。
これで王都でやりたい事は大体やったので、次回には旅立たせようかな。
グダグダやっちゃったし、こっからテンポ良く行きたい。