自身の足を用いて移動する。それは最も原始的な移動手段である。
歩きなら時速8km、走りなら時速45kmの速度で移動ができる。
時速45kmと聞くととても早く聞こえるかもしれない。しかし、人間の全速力が保たれるのはたったの数秒だ。
それに、徒歩は足にとても疲労が溜まる。足への疲労は戦闘のパフォーマンスに直結するため、徒歩は移動手段の選択として賢い選択とは言えない。
つまり何が言いたいのかと言うと・・・・・・
「馬車最高ー!!」
長々と語ったが、この一言に尽きる。
自身の足を動かさなくとも勝手に進み、速度は俺の全力ダッシュよりも圧倒的に速い。
移動効率が段違いだ。
「もう・・・・・・子供じゃないんですから。」
馬車の速さと楽さに感激し、うれし涙を浮かべる俺を他所にルーエちゃんは呆れ顔を浮かべていた。
だが、初日に味わった徒歩移動のキツさを味わった後にこの楽さだ。
ちょっとはしゃぐぐらい見逃してほしいものである。
幌から身を乗り出し、御者台でこの馬車を運転するおっちゃんに感謝を告げる。
「こんな良い乗り物に実質タダで乗せてもらって悪いね。商人のおっちゃん。」
御者台で馬を操る商人のおっちゃんは快活な声で言葉を返す。
「人二人乗せるぐらいは別にいいさ。それよりも、しっかり仕事はしてくれよ!!」
「合点承知!」
馬車に乗る代わりに、俺達はおっちゃんから仕事を引き受けた。
仕事内容は、定番の馬車の護衛である。
このファンタジー丸出しな、この世界での移動は常に危険を伴う。
魔物からの襲撃に、積み荷目当ての盗賊の襲撃や、今現在戦争中の魔人族の襲撃なんかも地域によっちゃあ、あるらしい。
そんな危険な道中の心強いお供として、傭兵やテンプレの冒険者、貴族なら自前の私兵や騎士なんかを付ける。
俺達はそのお供をする代わりに、目的地まで乗せてもらうのと、報酬としてお金を貰う事になっている。
どちらも成功報酬なので、俺達は死ぬ気でこの馬車を守るってわけだ。
「まっ、正直ルーエちゃんの【気配察知】があれば奇襲も受けないし、楽なもんだぜ。」
「
「それに関してはルーエちゃんの【気配察知】がクソ強いのが悪い。」
ルーエちゃんの【気配察知】はとても強い。正直喉から手が出るほど欲しい。
何でかって言うと、ツァルスの町で剣術訓練のついでに行った隠密訓練。コレでその技能の無法さを味わったからだ。
後ろからの奇襲は勿論。高所からの奇襲も、魔法を使った遠距離からの狙撃までも、察知されて防がれた。
訓練に使った森の木々に目でも付けてるのかってぐらい、攻撃、なんなら、その場に居るだけで存在を察知される。
まさに理不尽の極み。そんでもって本人は、近距離が強い代わりに、遠距離が強い代わりに、中距離が強いのだから、まさしくクソゲーである。
「思い出すだけで嫌になるぜ。」
「・・・・・・・・・・・・」
訓練という名のクソゲーを思い出して、身体に悪寒が走っている俺の横で、ルーエちゃんは神妙な面持ちで、武器の柄に手を掛けていた。
「どったの?」
「大型のトカゲ型4体・・・・・・・・・・・・正面から来ます!!」
「マジ!!?」
油断しきっていた俺は、ルーエちゃんより一呼吸遅れて、直剣と杖を抜いて戦闘準備を完了させる。
「どうするよルーエちゃん。魔法で先制攻撃してこのまま駆け抜けるか?」
「いえ、馬車よりもあちらの方が足が速い。ここで迎え撃ちましょう。」
トカゲ達が馬車より速いのなら、魔法の先制攻撃で仕留められなかった後がヤバい。
よって、大人しく迎え撃つのが得策だな。
「なるほどな。つーわけで、おっちゃん!馬車停めてくれ!」
「分かったが、大丈夫なんだろうな!!」
「なんとかする!」
御者台のおっちゃんが手綱を引くと馬は、速度を落としやがて立ち止まった。
それから数秒も経たないうちに、俺達の進行方向だった方向。すなわち正面から土煙と共に一匹だけでも人を丸呑みにできそうな、誇張抜きで小型のトラックはある巨大な体躯をもつトカゲが4匹現れた。
「思ってたトカゲと全然違うんだけど!!あれ恐竜でしょ!!」
大型のトカゲと聞いて、大きくても人の背丈ぐらいの大きさを想像した俺の見積もりを軽く上回って来やがった!
さっきまで豪胆だったおっちゃんは、困惑と絶望が入り混じった様な表情をしている。
「なんでこんな所に【グレーターリザード】が居るんだよ!!」
「グレーターリザード? アレの事か!」
絶望の表情と共に、おっちゃんの口から出たのは、何やら凄そうな固有名詞。
グレーターリザードが何なのか全く分からない俺は、おっちゃんに問うが、パニック状態のおっちゃんはオレの問い掛けを無視して震えるばかりだった。
「ライセン大峡谷付近に生息してる大型のトカゲ型の魔物ですよ。何でここに居るのかは分かりませんがねッ!」
「ああなるほど・・・・・・・・・・・・って突撃すんの早えよ! 足並み合わせろっての!」
ルーエちゃんは説明を終えると共に、グレーターリザードの群れに弾丸のような速さで突撃していった。
言いたいことを言って、さっさと戦いに行くルーエちゃんの切り替えスピードに驚愕しながらも、彼女の後に続いて俺も風魔法で補助を掛け、常人には到達不可能な速さで、グレーターリザードの群れへ突撃した。
俺が戦場に到達すると、もう既に戦いの火蓋は落とされていた。
「グオオ!!」
「まったく。鱗持ちの魔物は面倒なんですよッ!。」
ルーエちゃんは【流石師匠!】と言いたくなるほど無駄のない動きで、グレーターリザードの群れの攻撃を躱しながら細剣でグレーターリザードの群れの数匹を刻むが、彼女の得物の細剣は、丈夫な緑色の鱗に阻まれて刃は弾かれていた。
剣での攻撃は通用しないと見ると、ルーエちゃんは後方へと大きく跳び、グレーターリザードと距離を取る。
それを逃すまいと、2匹のグレーターリザードがその巨体を揺らしながら彼女へ迫る。
「穿ち貫く雷をここに――〝雷槍〟」
慌てる様子も無く詠唱が終わると、青白く輝く雷の槍が彼女の手のひらに生じ、ターゲットとなるグレーターリザードへ向かい飛び、その硬い鱗を易々と貫き頭蓋骨すらも貫通させた。
「グギャァァァ・・・ァァ・・・・・・」
狙われたグレーターリザードは大きな悲鳴を上げ、のたうち回ったが数秒もすると悲鳴は、その呼吸と共に終わりを迎えた。
「まず一匹。」
会敵からたった数十秒で、一匹のバケモノを殺したルーエちゃんの技量には、本当に驚かされる。
群れは4匹ルーエちゃんの方には2匹行った。
よって俺の方にも、2匹のグレーターリザードが向かってくる。
「間近で見ると余計デカく感じるなッと!」
遠くから見たときはトラックだと思ったが、近づいてみると大型トラックぐらいありそうなほど大きい。
これほどの巨体に剣で致命傷を与えるのは厳しい。
なら俺もルーエちゃんに
俺には致命傷を与えるのは不可能・・・・・・と今までの俺なら思う。
だが、今の俺は昔までのよわよわ魔法しか扱えない俺ではない。
「ここに周囲を圧倒する爆発を望む――〝爆裂〟」
"複合魔法"それは魔法同士を組み合わせて、組み合わせ元の魔法とは違う効果を生み出す技術だ。
炎と風 この二つの属性は相性の良さに、俺は目を付けた。
炎の勢い増させるための、酸素供給に風魔法を使った。
コレが前に行った『火災旋風』だ。
今回の〝爆裂〟はチョイとばかしそれとは異なる。
爆発によるダメージの肝となる"爆風"及び"衝撃波"これを生み出している原因は数千、数十万となる気圧、つまり気体の塊だ。
そのギッチギチに集めた気体の塊が、超高速で一気に広がることで生み出される。
それが衝撃波であり爆風。
この空気を集める工程を、風魔法で行い。
その空気の塊を、火魔法で着火ァ! して、それとほぼ同時に、空気の塊を解放することで、爆風と超高温を合わせた爆発を起こさせている。
【ドッカーン!!!!!】
空気が破裂する音と共に、凄まじい爆風が、グレーターリザードの顔面に襲い掛かる。
「グギッ!」
痛みなのか驚きなのか分からない悲鳴は、直ぐに圧倒的な爆発音に、上書きされ、消えた。
爆風が明けると、そこには頭が消し飛んだ首無しのグレーターリザードが一匹。
「こっちも一体・・・・・・」
ルーエちゃんに続き一体狩った。
もう足手纏いではないと、自分の中で、えも言えぬ満足感に満たされる。
だが、戦場で油断は禁物だ。
現にいきなり仲間が爆裂した光景に唖然とする様子も無く、もう一匹のグレーターリザードが此方に突進してきた。
〝爆裂〟の爆破範囲は半径8メートル前後。だが今の俺とグレーターリザードの距離はもう目と鼻の先だ。
練度の低い魔術師なら5秒後には物言わぬ餌になるところだが、俺は魔法剣士だ。近接での立ち回りもイケる。
「すっトロいぜ!!」
そう吠えながら、グレーターリザードの噛みつきを空中に逃げることで易々と躱す。
すると、空中で自由落下している俺を見てチャンスと見たのか、グレーターリザードは大口を開いて獲物を丸呑みにする姿勢をとる。
勝ちを確信しているグレーターリザードと同じように、俺もまた自身の勝ちを確信していた。
「風よ此処に――〝暴風〟」
短縮した詠唱により早急に発動したその魔法は〝暴風〟効果は『強風を任意の方向へ発生させる』
【ブオオ!!】
空気が移動する音が響くと、グレーターリザードの口の中に納まるはずだった檜山は、空中で軌道を大きく変え、その瞳の目の前で剣を突き立てた。
「グギャアア!!!!」
大きな悲鳴と共に、ぐれたーリザードは痛みに悶える。
「グルルァ!!!」
最大の急所である目を潰されたグレーターリザードは、自身とは対照的に傷一つ無くに無事に着地した檜山に怒りの形相を見せる。
「ガアアァ!!!」
殺意に満ちた形相で檜山に迫る。
だが、檜山は相変わらず勝利を確信した表情を崩さない。なぜなら今現在、もう既に一対一の戦闘ではないからだ。
「ルーエちゃん!!!」
【ズガァァァン!!!】
と、檜山が声を上げるのと、ほぼ同時に青白い稲妻がグレーターリザードへ走った。