キミがいなくなったあとに   作:戦え!!!!

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 人類は勝利した。
 だが、ススムの親友ネオンは消えてしまった。






1:ススムよ進め

 

 

 

「ボク…EDFをやめます。」

 

 もはやこの通常業務(ギサンダーたいじ)にも慣れた青年は、にべもなく仲間に告げた。

 

「…そ、そうですね。

 ススム君も疲れているでしょうから、一度羽を伸ばすべきです。EDFに籍は残しておきます。」

 

 ススムや彼の指揮官であるコマンダーを、長期にわたって情報面から支えてきた戦術士官は、精神的にも肉体的にも疲労状態にあるのだろう“ミナトススム”の身を案じ、長期休暇という形で上層部に彼の休息を打診する。

 

「…いえ、ボクはもう、EDFには戻りません。」

 

 慣れた手つきでマガジンの装填を終える。

 ルーキー・ストーク・アサルトライフルの、最後の一掃射でギサンダーをひと薙ぎし、敵の殲滅を目視とレーダー反応の二度で確認した。

 

「…ススム君…。」

 

「あわわ、ススム君がEDFをやめちゃいますよ〜?!」

 

 戦術士官の友人ジャッキーと後輩のオペレータが彼の決意に焦りを見せた。その隣で止めようとするジャッキーを更に抑止したのは、将軍だった。

 

「…仕方あるまい。彼が下した決断ならば、我らにそれを変える権利はない。義務もな。」

 

「…ススム、いなくなる…。」

 

 フォレストブラザーのロブは、例え頼りなくても最後まで戦い続けた勇敢なススムの変わってしまった姿に、悲しさを隠せなかった。

 

 共に歩んできた仲間たちは、ヘルメットも武器もその場に置き、部隊章を引き剥がして帰投するススムの背中を、ただ見送ることしかできなかった。

 

「ち、ちょっと。やっぱりアタシ、あのコに言いたいこと言ってくる!」

 

 戦術士官の旧友、ジャッキーもその背中を追う。

 彼を捕まえて、色々と吹き込んだようだが、やがてススムはそれも気にせず歩みを続けた。

 

 ジャッキーも、もうその背中を追うことはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 この数ヶ月間、EDFは多数の敵を同時に相手取り、劣勢を強いられていた。一時期は、地球をバラバラに破壊され、分断された各地のEDFが殲滅されることさえあったのだ。

 

 それが、2の発売───長期の消息不明を経て戻ってきた凄腕のコマンダーと、入隊したてで右も左も分からない新人レンジャーのミナトススムの二人によって、戦局が変わった。

 

 EDFは次々と敵の戦力を排除していき、バラバラの地球を繋ぎ止め、最後のマザーシップを破壊し、地球は救われた。

 

 

 

 ──でも、ネオンちゃんは?

 

 ススムは、無念の内に倒れていった数々の仲間の姿を思い浮かべ、そして最後に一番の友だちの顔を想起した。

 

 確かに、直接地球を救ったのはボクじゃない。だからボクは別に表彰状なんて必要ない。それはコマンダーと……ネオンちゃんが受け取るべきだったものだ。

 

 瞼の裏に、触覚がチャームポイントな友だちの顔を思い起こした。無茶をよくする子で、目を離すとすぐに寝てる敵をフルアクティブにしちゃうような、危なっかしい仲間だ。

 

 だから、彼女はいなくなっちゃダメだったんだ。危なっかしくて、ボクやジャッキーさんが見てないとすぐに危ない目に遭っちゃうような子だ。

 

 …ネオンちゃんは消えた。

 地球を救うという使命の元に生まれた、侵略者を模したブラザーやシスターは、地球の脅威が消え去った時、母なる地球の意思によって役目を終えたとされ、消える。

 

 それを聞かされてなお、ネオンちゃんもボクも、地球を守るために戦った。

 だから、覚悟はしていた。

 

 

 

「ただいま…。」

 

 とぼとぼと歩いていたが、いつの間にか家に着いていた。ボクは惰性でそう言い、ボロボロのアーマースーツを脱ぐこともせず、ベッドに突っ伏した。

 

 枕の傍に佇むクマの人形は、もう饒舌ではなくなって、安心感を与える事もない。ただ家に一人、疲れ果てた元EDF隊員がいるだけだ。

 

 涙は枯れた。ネオンちゃんの為に泣けなくなった訳じゃない。泣いても彼女は戻ってこないと理解したからだった。

 

 ボクは、全てが終わったんだとわかって、深く眠った。明日が来なければ、あの子がいない明日を迎えずに済むなどと考えて、消え入るように。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 まだ眠たかった。でも、軍隊にいた習慣というのは、半日ベッドで息を潜めたくらいでは抜けないらしい。

 

 そりゃそうだよね、なんて考えながら、身体を起こした。目の前が赤い。いや、赤と普通のライトが明滅を繰り返している。

 

「…えっ?」

 

 自宅にそんな警告灯はない。まだ眠たい目を擦って、辺りをよく見る。随分と広い空間。見覚えはある。

 

「ここ…地下基地? EDFの地下施設だ。なんでこんな所に? ボクは自分の家で…」

 

 寝惚けているという訳ではないらしかった。なぜかこの手に握っている、捨てたはずのルーキー・ストークの冷えた鉄の冷たさが、今夢を見ているわけではないとボクに教えていた。

 

 呆然と立ち尽くしていたが、いつまでもそうさせてくれる訳でもないようだ。

 

 通りすがった隊員がボクに声をかけた。

 

「…ん!? オイ貴様! 非常事態の招集命令は聞いていないのか!」

 

 隊員は、アーマーも来ていなかった。ロングシャツにミリタリーパンツを履き慣らし、いかにも自分は教官だと言っているような装いだ。

 

「イヤ…ボクはもう除隊してて──」

 

「嘘を言うな嘘を。貴様の格好は…まあちょっとボロっちいが、EDF隊員のそれだ。戦う気概があったから、()()()()()()()である今も武器を握っているんだろう。」

 

 そんなのは言いがかりじゃないか。どうせ末端に関してはガサツなEDFのことだから、どこの基地か分からないこんな場所にまで情報は行き届いてないのかもしれないけど。

 

 でも、仮設駐屯地の司令官に除隊願を届け出たのも、それが受理されたのも本当の事だ。だからボクが寝て覚めたらこんな基地にいるわけがないんだ。

 しかもちょっとボロいし。

 

「ええい、まどろっこしい。いいからお前も戦え! α型の怪物が街を襲っている。奴らは速やかに駆除しなくては。」

 

「わっ、あ、ちょっと! うわわっ!」

 

 腕を無理やり引っ張られて、基地の上層部まで連れていかれる。どうやら、ここでもまだまだ戦わされるみたいだ。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

「誰です、そいつは?」

 

「新隊員のミナトススムだ。階級は……一等兵だ。そういう事にしろ。」

 

「ええっ!? なんですか、そういう事って…。」

 

 合ってるけど、なんて心の中で呟いた。

 結局のところ、ボクはEDF隊員だったみたいだ。最初は戦う気力なんてなくて、この基地だって抜け出して家に帰ろうと思ってた。

 

 でも、話を聞いているうちに段々と考えるようになっていった。ボクは戦えるのにEDFの隊員を放っていけるのか、市民が襲われてるのに助けなくていいのか、なんて事を。

 

 それに、階級の問題も必要ないだろうし。

 ボクはEDFから除隊する際、籍も消去してもらってる。予備役軍人ですら無くなっているから、階級は最初からで問題ないという話だ。

 

「それにしても…」

 

 と、ずっと思っていた疑問を口にする。

 

「なんだか皆さん、()()()()してませんね。ボクセルなのはボクだけみたいですけど。」

 

 大尉はボクの言葉に首を傾げ、口を開く。

 

()()()()うるさいやつだな。まあ、お前のような人間でも戦力のひとつには数えられるからな。

 

 …これよりこの大尉が貴様らの指揮を執る。目標、地上広域に侵食しつつあるα型侵略生物の完全駆除! 行くぞ!」

 

 整列し、武器を手に基地を走る。

 隣の兵士が走りながらも頭を抱える。絶望の意味合いを持つ動作だろう。

 

「最悪だ。怪物の群れなんていくら殺しても増え続けるらしい。俺たちは死ぬまで戦わされるんだ。」

「それだけならいいがな。奴らの餌は御免だ」

 

「み、みんな随分と絶望してるね…。大丈夫だと思うよ、EDFも世界中に新兵器を配備予定だって聞いた事あるし…。」

 

 ススムはたった二日前の記憶を想起する。

 最後のマザーシップを撃墜したあとの通常業務の最中、総司令がデモンストレーションを兼ねて砲台を稼働させたことがある。

 

 起動したクロロバスターの破壊力は圧巻の一言に尽き、押し寄せるツキサスピアンやクイーンの大群を一息に薙ぎ払ってしまうほど。

 

 それが配備されれば、人類は絶対に負けない、そう総司令部が豪語するほどの超兵器群だった。

 

「…それが、このベース251にいつ来るか、だな。」

 

「ああ。そいつが配備されるのが先か、俺たちがくたばるのが先か。」

 

 ネガティブな意見は、そう簡単には死なないようだった。大尉が雑談を咎めに来る。

 

「貴様ら、お喋りはその辺にしておけ。システム制御班、基地のシャッターのロックを解除しろ!」

 

 通信機に呼びかけると、近くのスピーカーに電気が通った時の音がした。

 

「了解。大尉、どうかご無事で。」

 

「よし、行くぞ!」

 

 シャッターが開き、眩しい太陽の光がボクの目を一瞬ばかり奪った。強烈な光源に目が慣れた後に待っていたのは、それまでのボクの認識を簡単に覆してしまう絶望だった。

 

 横転し大破した戦車。巨大な爆発跡の痛々しいクレーター。へし折れて本来の役目を果たせなくなった電柱に剥き出しの下水パイプ。極めつけは、倒壊したビル群。

 

 それらは、ボクの目には信じられないものだった。

 

「そ、そんな…なんで!? ネオンちゃんは確かに地球を救ったはずなのに!」

 

 人類は敵の主戦力を全て撃退し、残っているのは怪物ばかり。その残党はどれもEDF保有のビークルだけで撃滅可能で、小規模な群れなら歩兵だけで排除可能なものばかり。

 現に、復興が終わった地域もちらほらあったほどで、ここまで荒廃が放っておかれているような区域はないはずだった。

 

「マザーシップを墜とした英雄か。ススム、人類の戦いってのは敵を倒したら終わりじゃない。むしろ、そこから立ち上がるまでが戦いの始まりなんだ。」

 

「だって、ありえない! ここまでボロボロなのには理由がある! EDFは戦力を拡充して復興作業に当たってる! 避難していた市民も戻ってきて、地球は平和になったはずなんだ!」

 

 どうやら現実が見えていないようだと大尉が言った。それは現実なんかじゃない。ボクは確かに、ネオンちゃんと一緒に人類を救ったんだ。その記憶も体験も本物なんだ。

 

「いいかススム。俺たち人類は、確かに十一番目の船…コマンドシップを破壊した…それは事実だ。

 だが、マザーシップの砲撃で地球全土が甚大な被害を負ったのもまた事実。結局のところ、俺たち人類は戦勝後も立ち直るには程遠い位置に立ってるんだ。」

 

 大尉はそう告げた。

 ボクは、膝から崩れ落ちそうになるのを支えてもらった。

 

 ありえない。多くのEDF師団は健在で、地球は何とか守られたはずなのに。

 

「その、ネオンとかいう兵士も、立派に戦ったんだろう。だがな、戦争というのは、勝ったあとが一番苦しいというのは歴史が物語ってる。この俺が大尉なぞやってるのもそういう事だ。」

 

 遠くからやってくる怪物の群れを見据え、大尉はボクの背中をばしんと叩いた。ボクはそれが大尉なりの気付けだと理解して、銃を手に立ち上がる。

 

「…わかりました。戦えばいいんでしょ…やりますよ。どうせボクにはそれしかないんだから…。」

 

 迫ってくる怪物の群れにライフルを向け、言った。

 

 ネオンちゃん。

 キミが守った世界は、ボクが守るよ。

 

「来るぞ! 駆除チーム到着まで持ち堪えろ!」

 

 この人たちが言うところだと…。

 

 キミがいなくなったあとにも──

 

 ──戦いは続くみたいだ。

 

 

 

 

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