――次に目を覚ましたとき、俺は言葉の喋れない赤ん坊になっていた。
狭い視界。自由の利かない手足。前世の名前すら思い出せない。けれど、原作の記憶だけは、今も脳裏に鮮明に息づいている。
俺の頭上には今、信じられないほどの慈愛を宿した瞳で私を見下ろしている二人の男女がいる。
「この子が、私達の赤ちゃん……!」
燃えるような赤い髪を汗で濡らし、疲れ果てながらも愛おしそうに微笑む母。
そして、その肩を抱き、泣きそうなほど嬉しそうに目を細めている金髪の男。
俺はこの眩しすぎる夫婦の子供としてこの世に生を受けたのだ。
差し出された大きな温かい手が、俺の小さな頬を優しく撫でる。
この優しくて温かい人たちが、俺のお父さんとお母さんだ。
俺の小さい手でお父さんの指を強く握りしめたことに気づき、嬉しそうに眉を上げた。その碧色の瞳には、ただ純粋に我が子の身を案じる深い愛情だけが満ちている。
「ん!指をぎゅってしてくれた。…可愛いな。大丈夫だよ、僕たちがずっと傍にいるからね」
彼は俺を安心させるようにそっと胸に抱き寄せた。母親も愛おしそうに俺の手を握る。
その純粋な温もりに包まれた瞬間、涙が溢れそうになった。
それと同時に、自分が知っている凄惨な未来の光景が脳裏をよぎる。九尾が出現するあの夜、四代目火影・波風ミナトは里と未来のために命を捨てて封印術…“屍鬼封尽”を使っていたはずだ。そんなミナトとうずまきクシナも九尾を道連れに死のうとしていたが、二人は生まれたばかりの我が子であるナルトを庇ってお腹を大きな爪で貫かれる。
というか、、さっきから思っていたがこの人達がそのミナトとクシナなんじゃないかと思う。
特徴的な「だってばね!」という語尾に真っ赤な髪の女、柔らかい口調の金髪碧眼の男。だが2人が怪我も何もないという事はナルト成り代わりという訳では無さそうだ。
うずまき一族は封印術に長けていると読んだ気がする。もしかしたら俺にも封印術の才能があったりしてすぐに修行をつけさせてもらって…そしたらその時は、俺がこの2人を守りたい。原作を壊すのは正直ダメなんじゃないか、ナルトの成長に影響があるんじゃないかと心配はあった。だが、もうそんなことはどうでも良くなった。
「ミナト、見て! この子、私達を見てすっごく嬉しそうに笑ってるってばね!」
「本当だ、なんて可愛い子なんだろう。この子もクシナも、僕が命に代えても守ってみせるよ」
お父さんが俺をあやすように優しく揺らす。
お父さん、俺を守る必要はない。貴方は妻であるお母さんを守ってくれればいい。俺のお父さんとお母さんには木の葉の光、英雄のままで居てもらわなきゃいけない。生きて、これから生まれるナルトを育てて、笑って世界を照らす太陽でいなきゃいけないんだ。
あなた達は光だ。でも、死んで消える光じゃなくて、生きて世界を照らす光になってよ。光を照らすための影には俺がなればいい。
イレギュラーな俺じゃなく、2人とナルトを守るために…封印術を取得して、暗部に所属する。
火影直属じゃなくて、根の方の暗部だ。俺にはお父さんの息子というステータスがある。すぐに殺されるようなことはないだろう…お父さんの書斎に入って忍術に興味を持ったフリをして教えを乞う事が1つ目の目標だ。
「この子は私達の宝物だってばね」
ふたりが顔を見合わせて、幸せそうに笑う。まだ誰も傷ついていないから、傷つかせないから…俺は二人の愛をいっぱいに感じながら、静かに…けれど誰よりも冷徹に、家族の影となる覚悟を決めた。