〜東方外来録〜   作:歩向タカ

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第十八話「決まらない答え」

## 【シーン1:博麗神社】

 

昼の博麗神社は、初夏に近づく日差しで石畳が白く光っていた。

 

縁側にはいつもの顔ぶれが揃っている。タカはお茶を飲み、霊夢も隣でお茶、魔理沙は団子を三本目に突入していた。風が境内を抜けて、軒の鈴がちりんと鳴る。いつも通りの昼だった。

 

そして今日も、いつも通りに二人が来た。

 

「だから紅魔館の方が良いに決まってるでしょう。毎日楽しいわよ」

 

「白玉楼の方が落ち着きます!生活には静けさが必要です!」

 

レミリアと妖夢。今日は鳥居のところから既に言い合いながら歩いてきた。

 

「落ち着いてどうするのよ。若いうちは遊ぶべきだわ」

 

「遊んでばかりでは強くなれません!修行も大切です!」

 

「遊びよ」

 

「修行です!」

 

「絶対に遊びよ」

 

「絶対に修行です!」

 

「……今日も息ぴったりで仲良しですね、お二人とも」とタカがお茶をすすった。

 

「本当にあいつら見てて飽きないな」と魔理沙。

 

「本当に面白いやつらだわ」と霊夢。

 

全員もう慣れていた。この光景が始まって、もう何日になるだろう。

 

でも今日は少し違った。いつもより二人の声が大きい。いつもより目が本気だった。

 

「もういい加減、決めなさいよ!」とレミリアがタカに詰め寄った。

 

「そうです! いつまで保留するつもりですか!」と妖夢も詰め寄った。

 

「え、ちょっと待ってください、二人とも急に——」

 

「決めたの!?」

 

「決めたんですか!?」

 

「……まだです」

 

二人が同時に固まった。数秒の沈黙。

 

「まだなの!?」とレミリアが目を見開いた。

 

「まだですか!? あれから何日経ったと思っているんですか!」と妖夢。

 

「まだです。だって、簡単に決められる話じゃないですし……」

 

「もう、らちがあかないわね」とレミリアがため息をついた。

 

「本当にそうですよ」と妖夢が頷いた。

 

「そこだけは即座に一致するんですね……」

 

「当然よ!」

 

「当然です!」

 

「絶対に納得いきません!」

 

霊夢はお茶を飲みながら笑っていた。魔理沙も団子を片手に笑っている。完全に他人事の顔だった。

 

---

 

## 【シーン2:提案】

 

レミリアが急に立ち上がった。何か思いついた顔をしている。嫌な予感がした。

 

「よし!決めたわ!」

 

「何をですか?」と妖夢が警戒した。

 

「考えたら簡単な話よ」レミリアは胸を張った。「私と妖夢、それぞれタカと一日過ごすの。それで楽しかった方を選べばいいわ。シンプルでしょう」

 

「一日……一日中タカさんと一緒!?」と妖夢は顔を真っ赤にして考え込んだ。

 

「ええ。丸一日よ」

 

「……なるほど。悪くない案です」

 

「なるほどなんですか? 待ってください、僕の予定は——」

 

「つまりお泊まりデートよ」とレミリアがはっきり言った。

 

「デート!?デートですか!?」

 

霊夢がお茶を吹きそうになった。魔理沙は団子を落とした。

 

「お前ら真昼間から何言ってるんだ!」と魔理沙が団子を拾いながら言った。

 

「何か問題でも?」とレミリアが涼しい顔で返した。

 

「ありません!」と妖夢が即答した。

 

「あります!あります!大ありです」とタカ。

 

「ないわよ!」

 

「ありません!」

 

「僕に拒否権は?」

 

レミリアと妖夢が顔を見合わせた。それから同時に答えた。

 

「ないわね。タカには」

 

「ありません!タカさんには!」

 

「即答!? せめて考えるふりをしてください!」

 

「当然よ。ここで拒否されたら一生、話が進まないもの」

 

「当然です。これはタカさんのための企画ですから」

 

「僕のための企画で僕に拒否権がないの、おかしくないですか」

 

「面白そうじゃないのー!もっともっとやりなさいよー!」と霊夢が湯呑み越しに笑った。

 

「霊夢さん、助けてください」

 

「絶対に嫌よ。面白いもの!」

 

「魔理沙さーん」

 

「頑張れ!私からは何も言えない」

 

「味方がいない……」

 

---

 

## 【シーン3:順番】

 

「では、先に私ですね!」と妖夢が言った。

 

「どうしてよ!」とレミリアがすかさず返した。

 

「言い出したのは貴方です。提案者は後にするのが礼儀です」

 

「聞いたことのない礼儀ね。関係ないわ!」

 

「あります!」

 

「じゃあジャンケンで決めましょう。文句ないでしょう!」

 

「……受けて立ちます!」

 

妖夢が真剣な顔で構えた。レミリアも真剣な顔で構えた。吸血鬼と半人半霊が、博麗神社の縁側で全力のジャンケンをしようとしている。

 

「何をやってるんですか、あの二人は?」

 

「青春じゃない?」と霊夢。

 

「青春だな。でも私らよりずっと年上なんだけどな」と魔理沙。

 

「絶対違いますよこれは!」

 

数分後——あいこが五回続いた激闘の末——勝負がついた。

 

「やったー!勝ちました!」と妖夢が拳を握った。パーを出した手がまだ開いたままだった。

 

「ぐぬぬ……負けは負けね。あなたに譲るわ」とレミリアが本気で悔しそうな顔をした。

 

「では、先は私ですね」

 

「覚えてなさい。次は負けないから」

 

「別に勝負ではありませんが、先に白玉楼で決まりです!」

 

「ここからが本当の勝負よ!最初から最後までの勝負よ!」

 

「……勝負だったんですか、これ?」とタカが聞いた。

 

誰も答えなかった。

 

---

 

## 【シーン4:出発】

 

妖夢がタカの前に立った。

 

いつもの落ち着いた佇まいだった。でも、よく見ると手が少し落ち着かない。刀の柄を触ったり離したり、袖を直したりしている。

 

「では……行きましょう」

 

「今からですか?」

 

「今からです。善は急げと言いますので」

 

「心の準備が……」

 

「いりません。というか、必要ありません!」

 

「酷いですよー。いつもの妖夢さんじゃないー!」

 

「いつもと変わらないです」

 

「嘘ですよー!」

 

「……私も初めてですから」

 

言った後、妖夢自身が固まった。

 

「……えっ?」

 

顔がじわじわ赤くなっていく。

 

「へぇ、可愛いわね。庭師さん」とレミリアがにやりと笑った。

 

「な、何がですか?」

 

「別に何もないわよ?」

 

「その顔は絶対に別にじゃありません!」

 

霊夢は口元を押さえて笑いを堪えていた。魔理沙は堪えきれずに完全に吹き出していた。

 

「だ、大丈夫ですか、妖夢さん!」

 

「大丈夫です!……大丈夫ですからー!!」

 

いつもより明らかに大きい声だった。妖夢は咳払いを一つして、居住まいを正した。それから改めてタカを見た。まだ耳が少し赤い。

 

「……では、行きましょう。白玉楼へ」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「せいぜい楽しみなさいよ。2人とも」とレミリアが腕を組んだ。

 

「貴方に言われたくありません!」

 

「帰ってきたら感想を聞くわ。詳細にね。フフフ」

 

「聞かれるんですか、僕?」

 

「当然よ。聞かせなさいよ」

 

「逃げたい……」

 

「吸血鬼はしつこいわよ」と霊夢。

 

「お前、本当に面白いな!ハハハ!」と魔理沙。

 

タカは諦めて、妖夢と一緒に鳥居へ向かった。

 

二人の背中が石段を降りて見えなくなるまで、レミリアはじっと見送っていた。それから腕を組み直して、ぼそりと言った。

 

「……負けないわよ」

 

「だから、何と戦ってるのよ、あんた達は」

 




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