## 【シーン1:博麗神社】
昼の博麗神社は、初夏に近づく日差しで石畳が白く光っていた。
縁側にはいつもの顔ぶれが揃っている。タカはお茶を飲み、霊夢も隣でお茶、魔理沙は団子を三本目に突入していた。風が境内を抜けて、軒の鈴がちりんと鳴る。いつも通りの昼だった。
そして今日も、いつも通りに二人が来た。
「だから紅魔館の方が良いに決まってるでしょう。毎日楽しいわよ」
「白玉楼の方が落ち着きます!生活には静けさが必要です!」
レミリアと妖夢。今日は鳥居のところから既に言い合いながら歩いてきた。
「落ち着いてどうするのよ。若いうちは遊ぶべきだわ」
「遊んでばかりでは強くなれません!修行も大切です!」
「遊びよ」
「修行です!」
「絶対に遊びよ」
「絶対に修行です!」
「……今日も息ぴったりで仲良しですね、お二人とも」とタカがお茶をすすった。
「本当にあいつら見てて飽きないな」と魔理沙。
「本当に面白いやつらだわ」と霊夢。
全員もう慣れていた。この光景が始まって、もう何日になるだろう。
でも今日は少し違った。いつもより二人の声が大きい。いつもより目が本気だった。
「もういい加減、決めなさいよ!」とレミリアがタカに詰め寄った。
「そうです! いつまで保留するつもりですか!」と妖夢も詰め寄った。
「え、ちょっと待ってください、二人とも急に——」
「決めたの!?」
「決めたんですか!?」
「……まだです」
二人が同時に固まった。数秒の沈黙。
「まだなの!?」とレミリアが目を見開いた。
「まだですか!? あれから何日経ったと思っているんですか!」と妖夢。
「まだです。だって、簡単に決められる話じゃないですし……」
「もう、らちがあかないわね」とレミリアがため息をついた。
「本当にそうですよ」と妖夢が頷いた。
「そこだけは即座に一致するんですね……」
「当然よ!」
「当然です!」
「絶対に納得いきません!」
霊夢はお茶を飲みながら笑っていた。魔理沙も団子を片手に笑っている。完全に他人事の顔だった。
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## 【シーン2:提案】
レミリアが急に立ち上がった。何か思いついた顔をしている。嫌な予感がした。
「よし!決めたわ!」
「何をですか?」と妖夢が警戒した。
「考えたら簡単な話よ」レミリアは胸を張った。「私と妖夢、それぞれタカと一日過ごすの。それで楽しかった方を選べばいいわ。シンプルでしょう」
「一日……一日中タカさんと一緒!?」と妖夢は顔を真っ赤にして考え込んだ。
「ええ。丸一日よ」
「……なるほど。悪くない案です」
「なるほどなんですか? 待ってください、僕の予定は——」
「つまりお泊まりデートよ」とレミリアがはっきり言った。
「デート!?デートですか!?」
霊夢がお茶を吹きそうになった。魔理沙は団子を落とした。
「お前ら真昼間から何言ってるんだ!」と魔理沙が団子を拾いながら言った。
「何か問題でも?」とレミリアが涼しい顔で返した。
「ありません!」と妖夢が即答した。
「あります!あります!大ありです」とタカ。
「ないわよ!」
「ありません!」
「僕に拒否権は?」
レミリアと妖夢が顔を見合わせた。それから同時に答えた。
「ないわね。タカには」
「ありません!タカさんには!」
「即答!? せめて考えるふりをしてください!」
「当然よ。ここで拒否されたら一生、話が進まないもの」
「当然です。これはタカさんのための企画ですから」
「僕のための企画で僕に拒否権がないの、おかしくないですか」
「面白そうじゃないのー!もっともっとやりなさいよー!」と霊夢が湯呑み越しに笑った。
「霊夢さん、助けてください」
「絶対に嫌よ。面白いもの!」
「魔理沙さーん」
「頑張れ!私からは何も言えない」
「味方がいない……」
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## 【シーン3:順番】
「では、先に私ですね!」と妖夢が言った。
「どうしてよ!」とレミリアがすかさず返した。
「言い出したのは貴方です。提案者は後にするのが礼儀です」
「聞いたことのない礼儀ね。関係ないわ!」
「あります!」
「じゃあジャンケンで決めましょう。文句ないでしょう!」
「……受けて立ちます!」
妖夢が真剣な顔で構えた。レミリアも真剣な顔で構えた。吸血鬼と半人半霊が、博麗神社の縁側で全力のジャンケンをしようとしている。
「何をやってるんですか、あの二人は?」
「青春じゃない?」と霊夢。
「青春だな。でも私らよりずっと年上なんだけどな」と魔理沙。
「絶対違いますよこれは!」
数分後——あいこが五回続いた激闘の末——勝負がついた。
「やったー!勝ちました!」と妖夢が拳を握った。パーを出した手がまだ開いたままだった。
「ぐぬぬ……負けは負けね。あなたに譲るわ」とレミリアが本気で悔しそうな顔をした。
「では、先は私ですね」
「覚えてなさい。次は負けないから」
「別に勝負ではありませんが、先に白玉楼で決まりです!」
「ここからが本当の勝負よ!最初から最後までの勝負よ!」
「……勝負だったんですか、これ?」とタカが聞いた。
誰も答えなかった。
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## 【シーン4:出発】
妖夢がタカの前に立った。
いつもの落ち着いた佇まいだった。でも、よく見ると手が少し落ち着かない。刀の柄を触ったり離したり、袖を直したりしている。
「では……行きましょう」
「今からですか?」
「今からです。善は急げと言いますので」
「心の準備が……」
「いりません。というか、必要ありません!」
「酷いですよー。いつもの妖夢さんじゃないー!」
「いつもと変わらないです」
「嘘ですよー!」
「……私も初めてですから」
言った後、妖夢自身が固まった。
「……えっ?」
顔がじわじわ赤くなっていく。
「へぇ、可愛いわね。庭師さん」とレミリアがにやりと笑った。
「な、何がですか?」
「別に何もないわよ?」
「その顔は絶対に別にじゃありません!」
霊夢は口元を押さえて笑いを堪えていた。魔理沙は堪えきれずに完全に吹き出していた。
「だ、大丈夫ですか、妖夢さん!」
「大丈夫です!……大丈夫ですからー!!」
いつもより明らかに大きい声だった。妖夢は咳払いを一つして、居住まいを正した。それから改めてタカを見た。まだ耳が少し赤い。
「……では、行きましょう。白玉楼へ」
「はい!よろしくお願いします!」
「せいぜい楽しみなさいよ。2人とも」とレミリアが腕を組んだ。
「貴方に言われたくありません!」
「帰ってきたら感想を聞くわ。詳細にね。フフフ」
「聞かれるんですか、僕?」
「当然よ。聞かせなさいよ」
「逃げたい……」
「吸血鬼はしつこいわよ」と霊夢。
「お前、本当に面白いな!ハハハ!」と魔理沙。
タカは諦めて、妖夢と一緒に鳥居へ向かった。
二人の背中が石段を降りて見えなくなるまで、レミリアはじっと見送っていた。それから腕を組み直して、ぼそりと言った。
「……負けないわよ」
「だから、何と戦ってるのよ、あんた達は」
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