〜東方外来録〜   作:歩向タカ

20 / 22
第二十話「感想」

## 【シーン1:博麗神社・翌日】

 

昼の博麗神社は、初夏の気配が混ざり始めた風が心地よかった。

 

タカは縁側に座って、ぼんやりと庭を眺めていた。頭の中では、昨日の白玉楼の一日を思い返している。

 

庭掃除。白玉楼の仕事。剣術稽古。そして、夕方に聞いた妖夢の過去。

 

師匠の言葉。何年経っても帰って来ないという話。あの時の妖夢の涙が、まだ頭から離れなかった。

 

「なに難しい顔してるのよ」

 

「あ、霊夢さん」

 

霊夢が湯呑みを片手に隣へ座った。少し遅れて魔理沙も団子の皿を持ってやってくる。

 

「昨日は白玉楼だったんだろ? どうだった」と魔理沙が団子をかじった。

 

「どう、と言われると難しいんですけど……楽しかったです」タカは少し笑った。「でも、思ったより忙しかったです。ずっと掃除して、幽々子様の食事を用意して、屋敷の管理をして、また掃除して。その後に稽古です」

 

「妖夢の一日に付き合ったんでしょ? そりゃそうなるわよ」と霊夢。

 

「相変わらず働くなぁ、あいつは」と魔理沙。

 

「真面目すぎるのよ」

 

「でも、すごいと思いました」とタカが言った。「毎日あれを一人でやってるんですよね。僕には真似できません」

 

「お前なら途中で倒れるだろうな」と魔理沙。

 

「否定できません」

 

霊夢が小さく笑った。

 

---

 

## 【シーン2:二人の来訪】

 

その時、鳥居の方から声がした。

 

「来たわよ。タカ」

 

続いてもう一つ。

 

「お邪魔します」

 

レミリアと妖夢。今日は珍しく、言い合いをせずに並んで歩いてきた。

 

「今日も揃って来たわね」と霊夢。

 

「もうお前ら完全に仲良しだな」と魔理沙。

 

レミリアは当然のように縁側の定位置へ向かった。妖夢は少し緊張した様子で、タカの前に立った。

 

「昨日は……ありがとうございました」

 

「こちらこそ。楽しかったです」

 

その言葉を聞いた瞬間、レミリアが身を乗り出した。

 

「それで? 白玉楼はどうだったの? 詳しく聞かせてもらうわよ」

 

「む、無理に答えなくても大丈夫です」と妖夢が慌てて言った。

 

「あら、でもあなたも気になるでしょ」

 

「それは……私も気になりますが」

 

「気になるんですね、妖夢さんも」

 

「……少しだけです」

 

「妖夢ー、顔が赤いぜ」と魔理沙。

 

「赤くないです!」

 

「顔が真っ赤よ」と霊夢。

 

「霊夢さんまでやめてください!」

 

レミリアが腕を組んで、審査員のような顔をした。

 

「さあ、感想を聞かせてもらおうかしら」

 

「なんで審査みたいになってるんですか」

 

「大事なことだからよ。私の明日がかかっているの」

 

「確かに大事ではあります」と妖夢まで頷いた。

 

「妖夢さんまで……」

 

---

 

## 【シーン3:白玉楼の感想】

 

タカは少し考えた。昨日見たものを、一つずつ思い出しながら話し始めた。

 

「白玉楼は、静かでした」

 

「静か……ですか」と妖夢が少し不安そうに繰り返した。

 

「はい。でも、何もない静かさじゃなくて、妖夢さんが毎日守ってる静かさなんだなって思いました。庭も、屋敷も、幽霊たちも、幽々子様も、全部妖夢さんが見てるんですよね」

 

妖夢が目を丸くした。レミリアも少しだけ黙った。

 

「私は、ただ仕事をしているだけです」

 

「それがすごいんです。当たり前みたいにやってますけど、あの広さを毎日ですよ」

 

妖夢は何か言い返そうとして、言えなかった。

 

「それと、剣術の稽古」

 

「ああ、あれはどうだった?」と魔理沙が身を乗り出した。

 

「いつもより強かったです。明らかに」

 

「でしょうね」と霊夢がにやりとした。

 

「そ、そんなことは」

 

「ありました。木刀が重かったです」

 

「……少しだけです」

 

「かなりでした」

 

妖夢が顔を逸らした。

 

「でも、厳しいだけじゃなくて、ちゃんと僕を見てくれてる感じがしました。どこが悪いか、どう直せばいいか、全部。だから、嬉しかったです」

 

妖夢は顔だけじゃなく耳まで赤くなった。

 

「おー!良いじゃねえか」と魔理沙。

 

「可愛い反応ね」と霊夢。

 

「恥ずかしいです!」

 

レミリアが少し面白くなさそうな顔で、タカを見た。

 

「……タカ、随分褒めるのね」

 

「本当にすごかったので」

 

「面白くないわね……」

 

その声には、ほんの少しだけ棘があった。

 

---

 

## 【シーン4:妖夢の過去】

 

タカは、そこで少し迷った。

 

昨日聞いた妖夢の過去。師匠の話。あれを、この場で勝手に話していいのか。

 

その迷いに、妖夢が気付いた。

 

「……話しても、大丈夫です」

 

「いいんですか?」

 

「はい。隠すことでもありませんから」

 

妖夢は静かに頷いた。霊夢と魔理沙の表情が変わった。

 

タカはゆっくり話した。

 

「妖夢さんには、昔、師匠がいたそうです。剣を教えてくれた人で……その師匠に、足りないものがあると言われたことがあると」

 

「……」と魔理沙が団子を持つ手を止めた。

 

霊夢は何も言わずに聞いていた。

 

「でも、一人前になったら帰ってくると言い残して、師匠は白玉楼を出て行った。それから何年も、妖夢さんはずっと剣を振ってきたんです。白玉楼を守りながら、幽々子様に仕えながら、ずっと……ずーっと」

 

妖夢は俯いていた。

 

霊夢が静かに湯呑みを置いた。レミリアも、何も言わなかった。

 

「だから僕は、妖夢さんをすごいと思います」タカは続けた。「僕には同じことはできません。何年も待って、それでも腐らずに続けて、誰かのために毎日働いて、剣も振り続ける。本当に、すごい人です」

 

妖夢は顔を上げられなかった。頬が赤い。でも、ただ照れているだけじゃない。少し、泣きそうでもあった。

 

「……ありがとうございます……嬉しいです」

 

小さな声だった。

 

霊夢が少しだけ笑った。

 

「良かったじゃない、妖夢!」

 

「はい……」

 

「タカにここまで言わせたなら大したもんだぜ」と魔理沙。

 

「僕、そんなに褒めない人ですか?」

 

「たまに変なところで真面目になるんだよ、お前は」

 

「変なところ?」

 

「もともと変な人だしね」と霊夢も頷いた。

 

「ひどいですよ〜霊夢さんも」

 

---

 

## 【シーン5:始まる言い合い】

 

しんみりした空気は、長くは続かなかった。

 

レミリアが小さく咳払いをした。

 

「なるほどね。白玉楼は確かに良かったみたいね」

 

「はい!一緒に暮らす以上は日常を見せないといけませんから」と妖夢。

 

「でも……」レミリアがにやりと笑った。「掃除と仕事ばかりだったのでしょう? デートなのに」

 

「掃除も仕事も大切です。それに、デートではありません!」

 

「あれ、違ったの?」と霊夢。

 

「違うらしいぜ」と魔理沙。

 

「デートは、恋人同志のすることです!」

 

「へぇ。必死なのね。庭師さん」

 

「普通です!絶対に普通です!」

 

「妖夢ー赤くなってるわよ」

 

「やめてください!赤くなってません!」

 

「赤いですよ」とタカがつい正直に言った。

 

「タカさんまで!切りますよ!」

 

「すみません!」

 

レミリアは楽しそうに笑ってから、宣戦布告のように言った。

 

「紅魔館なら、もっと楽しい一日にできるわ。遊びがあるもの」

 

「白玉楼には落ち着きがあります!」と妖夢がすかさず応じた。

 

「紅魔館には咲夜の料理がある」

 

「私も料理できます!」

 

「フランもいるわ」

 

「幽々子様は優しいです!」

 

「図書館もある」

 

「桜があります!」

 

「遊びよ」

 

「修行です!」

 

「絶対に遊びよ」

 

「絶対に修行です!」

 

「……また始まりましたね」とタカがため息をついた。

 

「2人の漫才面白いわ」と霊夢がお茶をすすった。

 

「良いコンビだな」と魔理沙。

 

「この状態を漫才って呼ぶの、この神社だけだと思います」

 

---

 

## 【シーン6:次は紅魔館】

 

言い合いが一段落すると、レミリアが改めてタカに向き直った。

 

「次は私の番よ。明日、紅魔館に来なさい」

 

「明日ですか?」

 

「まだ決まったわけではありませんから!」と妖夢が釘を刺した。

 

「分かっているわよ。だからこそ、次は紅魔館を見せるの」レミリアは胸を張った。「今度は怖い場所じゃなくて、私たちが暮らす場所としてね」

 

その言葉に、タカは少しだけ黙った。

 

紅魔館。最初に入った時は、恐怖しかなかった。結界に引き込まれて、美鈴と戦って、咲夜に追われて、レミリアとフランに死にかけた場所。

 

でも今は違う。完治祝いの宴会を開いてくれた場所でもある。美鈴が「ごゆっくり〜」と見送ってくれる場所でもある。

 

「覚悟しなさいね!タカ!」とレミリアが言った。

 

「何のですか」

 

「楽しいが待ってるわ!」

 

「それ、覚悟が要るものじゃないはずなんですけど」

 

「怖がってもいいわよ?」

 

「タカさん、無理はしないでください」と妖夢が心配そうに言った。

 

「別に取って食べたりしないわよ。失礼ね」

 

「前科はあるわね」と霊夢。

 

「助けた時、吸血されてたしな」と魔理沙。

 

「それはもう終わった話よ!」

 

「終わってますかね」

 

「終わってるわ!……終わってるのよ」

 

「一応、私も同行して確認します!」と妖夢。

 

「来なくていいわ。デートにならないでしょう」

 

「デートではありません!」

 

「じゃあ尚更来なくていいじゃない」

 

「絶対に行きます!」

 

二人がまた睨み合った。タカはため息をついた。でも、その口元は少しだけ笑っていた。

 

「まあ……楽しみにしてます」

 

レミリアの表情がぱっと明るくなった。妖夢はそれを見て、少し複雑そうな顔をした。

 

霊夢がお茶を飲みながら、ぽつりと言った。

 

「本当に、退屈しないわね、最近」

 

「タカが来てからここも賑やかになったよな」と魔理沙。

 

初夏の風が境内を抜けて、軒の鈴がちりんと鳴った。二人の言い合いはまだ続いている。タカはその真ん中で、明日のことを少しだけ考えていた。




お読みいただきありがとうございます
感想や評価は励みになります
誤字脱字とかの報告も助かります
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。