## 【シーン1:博麗神社・翌日】
昼の博麗神社は、初夏の気配が混ざり始めた風が心地よかった。
タカは縁側に座って、ぼんやりと庭を眺めていた。頭の中では、昨日の白玉楼の一日を思い返している。
庭掃除。白玉楼の仕事。剣術稽古。そして、夕方に聞いた妖夢の過去。
師匠の言葉。何年経っても帰って来ないという話。あの時の妖夢の涙が、まだ頭から離れなかった。
「なに難しい顔してるのよ」
「あ、霊夢さん」
霊夢が湯呑みを片手に隣へ座った。少し遅れて魔理沙も団子の皿を持ってやってくる。
「昨日は白玉楼だったんだろ? どうだった」と魔理沙が団子をかじった。
「どう、と言われると難しいんですけど……楽しかったです」タカは少し笑った。「でも、思ったより忙しかったです。ずっと掃除して、幽々子様の食事を用意して、屋敷の管理をして、また掃除して。その後に稽古です」
「妖夢の一日に付き合ったんでしょ? そりゃそうなるわよ」と霊夢。
「相変わらず働くなぁ、あいつは」と魔理沙。
「真面目すぎるのよ」
「でも、すごいと思いました」とタカが言った。「毎日あれを一人でやってるんですよね。僕には真似できません」
「お前なら途中で倒れるだろうな」と魔理沙。
「否定できません」
霊夢が小さく笑った。
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## 【シーン2:二人の来訪】
その時、鳥居の方から声がした。
「来たわよ。タカ」
続いてもう一つ。
「お邪魔します」
レミリアと妖夢。今日は珍しく、言い合いをせずに並んで歩いてきた。
「今日も揃って来たわね」と霊夢。
「もうお前ら完全に仲良しだな」と魔理沙。
レミリアは当然のように縁側の定位置へ向かった。妖夢は少し緊張した様子で、タカの前に立った。
「昨日は……ありがとうございました」
「こちらこそ。楽しかったです」
その言葉を聞いた瞬間、レミリアが身を乗り出した。
「それで? 白玉楼はどうだったの? 詳しく聞かせてもらうわよ」
「む、無理に答えなくても大丈夫です」と妖夢が慌てて言った。
「あら、でもあなたも気になるでしょ」
「それは……私も気になりますが」
「気になるんですね、妖夢さんも」
「……少しだけです」
「妖夢ー、顔が赤いぜ」と魔理沙。
「赤くないです!」
「顔が真っ赤よ」と霊夢。
「霊夢さんまでやめてください!」
レミリアが腕を組んで、審査員のような顔をした。
「さあ、感想を聞かせてもらおうかしら」
「なんで審査みたいになってるんですか」
「大事なことだからよ。私の明日がかかっているの」
「確かに大事ではあります」と妖夢まで頷いた。
「妖夢さんまで……」
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## 【シーン3:白玉楼の感想】
タカは少し考えた。昨日見たものを、一つずつ思い出しながら話し始めた。
「白玉楼は、静かでした」
「静か……ですか」と妖夢が少し不安そうに繰り返した。
「はい。でも、何もない静かさじゃなくて、妖夢さんが毎日守ってる静かさなんだなって思いました。庭も、屋敷も、幽霊たちも、幽々子様も、全部妖夢さんが見てるんですよね」
妖夢が目を丸くした。レミリアも少しだけ黙った。
「私は、ただ仕事をしているだけです」
「それがすごいんです。当たり前みたいにやってますけど、あの広さを毎日ですよ」
妖夢は何か言い返そうとして、言えなかった。
「それと、剣術の稽古」
「ああ、あれはどうだった?」と魔理沙が身を乗り出した。
「いつもより強かったです。明らかに」
「でしょうね」と霊夢がにやりとした。
「そ、そんなことは」
「ありました。木刀が重かったです」
「……少しだけです」
「かなりでした」
妖夢が顔を逸らした。
「でも、厳しいだけじゃなくて、ちゃんと僕を見てくれてる感じがしました。どこが悪いか、どう直せばいいか、全部。だから、嬉しかったです」
妖夢は顔だけじゃなく耳まで赤くなった。
「おー!良いじゃねえか」と魔理沙。
「可愛い反応ね」と霊夢。
「恥ずかしいです!」
レミリアが少し面白くなさそうな顔で、タカを見た。
「……タカ、随分褒めるのね」
「本当にすごかったので」
「面白くないわね……」
その声には、ほんの少しだけ棘があった。
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## 【シーン4:妖夢の過去】
タカは、そこで少し迷った。
昨日聞いた妖夢の過去。師匠の話。あれを、この場で勝手に話していいのか。
その迷いに、妖夢が気付いた。
「……話しても、大丈夫です」
「いいんですか?」
「はい。隠すことでもありませんから」
妖夢は静かに頷いた。霊夢と魔理沙の表情が変わった。
タカはゆっくり話した。
「妖夢さんには、昔、師匠がいたそうです。剣を教えてくれた人で……その師匠に、足りないものがあると言われたことがあると」
「……」と魔理沙が団子を持つ手を止めた。
霊夢は何も言わずに聞いていた。
「でも、一人前になったら帰ってくると言い残して、師匠は白玉楼を出て行った。それから何年も、妖夢さんはずっと剣を振ってきたんです。白玉楼を守りながら、幽々子様に仕えながら、ずっと……ずーっと」
妖夢は俯いていた。
霊夢が静かに湯呑みを置いた。レミリアも、何も言わなかった。
「だから僕は、妖夢さんをすごいと思います」タカは続けた。「僕には同じことはできません。何年も待って、それでも腐らずに続けて、誰かのために毎日働いて、剣も振り続ける。本当に、すごい人です」
妖夢は顔を上げられなかった。頬が赤い。でも、ただ照れているだけじゃない。少し、泣きそうでもあった。
「……ありがとうございます……嬉しいです」
小さな声だった。
霊夢が少しだけ笑った。
「良かったじゃない、妖夢!」
「はい……」
「タカにここまで言わせたなら大したもんだぜ」と魔理沙。
「僕、そんなに褒めない人ですか?」
「たまに変なところで真面目になるんだよ、お前は」
「変なところ?」
「もともと変な人だしね」と霊夢も頷いた。
「ひどいですよ〜霊夢さんも」
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## 【シーン5:始まる言い合い】
しんみりした空気は、長くは続かなかった。
レミリアが小さく咳払いをした。
「なるほどね。白玉楼は確かに良かったみたいね」
「はい!一緒に暮らす以上は日常を見せないといけませんから」と妖夢。
「でも……」レミリアがにやりと笑った。「掃除と仕事ばかりだったのでしょう? デートなのに」
「掃除も仕事も大切です。それに、デートではありません!」
「あれ、違ったの?」と霊夢。
「違うらしいぜ」と魔理沙。
「デートは、恋人同志のすることです!」
「へぇ。必死なのね。庭師さん」
「普通です!絶対に普通です!」
「妖夢ー赤くなってるわよ」
「やめてください!赤くなってません!」
「赤いですよ」とタカがつい正直に言った。
「タカさんまで!切りますよ!」
「すみません!」
レミリアは楽しそうに笑ってから、宣戦布告のように言った。
「紅魔館なら、もっと楽しい一日にできるわ。遊びがあるもの」
「白玉楼には落ち着きがあります!」と妖夢がすかさず応じた。
「紅魔館には咲夜の料理がある」
「私も料理できます!」
「フランもいるわ」
「幽々子様は優しいです!」
「図書館もある」
「桜があります!」
「遊びよ」
「修行です!」
「絶対に遊びよ」
「絶対に修行です!」
「……また始まりましたね」とタカがため息をついた。
「2人の漫才面白いわ」と霊夢がお茶をすすった。
「良いコンビだな」と魔理沙。
「この状態を漫才って呼ぶの、この神社だけだと思います」
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## 【シーン6:次は紅魔館】
言い合いが一段落すると、レミリアが改めてタカに向き直った。
「次は私の番よ。明日、紅魔館に来なさい」
「明日ですか?」
「まだ決まったわけではありませんから!」と妖夢が釘を刺した。
「分かっているわよ。だからこそ、次は紅魔館を見せるの」レミリアは胸を張った。「今度は怖い場所じゃなくて、私たちが暮らす場所としてね」
その言葉に、タカは少しだけ黙った。
紅魔館。最初に入った時は、恐怖しかなかった。結界に引き込まれて、美鈴と戦って、咲夜に追われて、レミリアとフランに死にかけた場所。
でも今は違う。完治祝いの宴会を開いてくれた場所でもある。美鈴が「ごゆっくり〜」と見送ってくれる場所でもある。
「覚悟しなさいね!タカ!」とレミリアが言った。
「何のですか」
「楽しいが待ってるわ!」
「それ、覚悟が要るものじゃないはずなんですけど」
「怖がってもいいわよ?」
「タカさん、無理はしないでください」と妖夢が心配そうに言った。
「別に取って食べたりしないわよ。失礼ね」
「前科はあるわね」と霊夢。
「助けた時、吸血されてたしな」と魔理沙。
「それはもう終わった話よ!」
「終わってますかね」
「終わってるわ!……終わってるのよ」
「一応、私も同行して確認します!」と妖夢。
「来なくていいわ。デートにならないでしょう」
「デートではありません!」
「じゃあ尚更来なくていいじゃない」
「絶対に行きます!」
二人がまた睨み合った。タカはため息をついた。でも、その口元は少しだけ笑っていた。
「まあ……楽しみにしてます」
レミリアの表情がぱっと明るくなった。妖夢はそれを見て、少し複雑そうな顔をした。
霊夢がお茶を飲みながら、ぽつりと言った。
「本当に、退屈しないわね、最近」
「タカが来てからここも賑やかになったよな」と魔理沙。
初夏の風が境内を抜けて、軒の鈴がちりんと鳴った。二人の言い合いはまだ続いている。タカはその真ん中で、明日のことを少しだけ考えていた。
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