〜東方外来録〜   作:歩向タカ

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第二十二話「紅い姉妹」

## 【シーン1:屋上】

 

紅魔館の屋上には、夜風が静かに吹いていた。

 

大広間の騒ぎ声はもう聞こえない。フランは眠り、咲夜は片付けをして、美鈴は門へ、パチュリーは図書館へ戻った。昼間あれだけ賑やかだった館が、今は月明かりの下で静かに息をしている。

 

レミリアは手すりに近づいて、月を見上げた。タカは少し後ろに立っていた。

 

「ここ、見晴らし良いですね。湖まで全部見えますよ」

 

「紅魔館で一番空に近い場所よ。気に入っているの」

 

レミリアはそう言って、少しだけ笑った。いつもの余裕のある笑み。でも、どこか静かだった。

 

「話って……フランさんのことですか?」

 

「そうね……」

 

「今日、すごく楽しそうでした。フランさん」

 

「そうでしょう?」レミリアの声が柔らかくなった。「あの子があんなふうに笑っているのを見るのは、悪くないわ。咲夜も美鈴もパチェも、なんだかんだ付き合ってくれるし」

 

「みんな、本当に優しかったです」

 

レミリアは月を見たまま、少し黙った。それから、ゆっくり口を開いた。

 

「……でも、昔は違ったのよ」

 

タカは黙って続きを待った。

 

「今のフランだけを見ていたら、信じられないでしょうね。あの子があんなふうに笑えるようになるまで、随分、時間がかかったのよ」

 

「昔の話、ですか」

 

「ええ。長い話になるわ。それでも聞く?」

 

「聞きます。聞かせて下さい」

 

レミリアは少しだけ目を細めた。月の光が、その横顔を白く照らしていた。

 

「なら、聞きなさい」

 

---

 

## 【シーン2:追われる日々】

 

昔。まだ紅魔館が幻想郷に来る、ずっと前の話。

 

夜の森を、二つの小さな影が走っていた。

 

雨が降っていた。泥が跳ねる。冷たい風が濡れた服から体温を奪っていく。木の根に足を取られながら、レミリアはフランの手を引いて走り続けていた。

 

フランは今よりずっと大人しかった。髪も服も泥で汚れていて、足取りは弱い。それでも姉の手だけは離さなかった。

 

「お姉様……」

 

「走りなさい!」

 

「でも、足が……」

 

「止まったら死ぬわよ。あと少しだけ……頑張って頂戴」

 

遠くから声が聞こえる。男たちの声。犬の鳴き声。金属が擦れる音。

 

吸血鬼ハンターたちだった。彼らは毎日のように姉妹を追ってきた。昼は物陰に隠れて、夜は逃げる。食事もまともに取れない。安心して眠れる夜など、いつからなかったのかも思い出せなかった。

 

「お姉様、眠い……」

 

「少しだけ我慢して」

 

「お腹すいた……」

 

「……私もよ」

 

レミリアは前だけを見た。本当は、レミリアも限界だった。足は震えていたし、目の前が何度も暗くなった。でも、姉だった。この手を離すわけにはいかない。立ち止まれば終わる。それだけは、はっきり分かっていた。

 

---

 

## 【シーン3:見えた運命】

 

その頃から、レミリアには時折、運命のようなものが見えていた。

 

はっきりした未来ではない。ただ、避けられない流れのようなもの。匂い。音。痛み。ばらばらの断片が、眠りの中に流れ込んでくる。

 

ある夜、レミリアはそれを見た。

 

暗い部屋。鎖。杭。泣いているフラン。そして——フランの胸に、杭が打ち込まれる光景。

 

「……っ!本当に嫌な夢だわ」

 

跳ね起きた。心臓が激しく鳴っていた。隣で眠っていたフランが、小さく身じろぎした。

 

「お姉様……? どうしたの」

 

レミリアは震える手で、フランを抱き寄せた。

 

「……何でもないわ」

 

「怖い夢見た?」

 

「違うわ」

 

「じゃあ、なに?」

 

「何でもないの。寝なさい……私の大切な家族なんだから」

 

嘘だった。言えるはずがなかった。あなたが殺される未来が見えた、なんて。

 

その夜から、レミリアは何度も運命を変えようとした。進む道を変えた。隠れる場所を変えた。追手を撒く方法をいくつも試した。

 

でも、どうしても逃げ切れなかった。見える未来は少しずつ形を変えながら、最後には必ず同じ場所へ向かっていく。捕まる。鎖に繋がれる。そして、フランが殺される。

 

「そんなこと、絶対にさせない」

 

夜の闇に向かって、レミリアは何度もそう呟いた。

 

けれど、言葉だけでは、運命は変わらなかった。

 

---

 

## 【シーン4:捕縛】

 

数日後、二人は追い詰められた。

 

廃れた教会の跡だった。崩れた壁、割れたステンドグラス、夜明け前の薄い光。逃げ道は全部塞がれていた。ハンターたちが松明と武器を手に、じりじりと輪を狭めてくる。

 

レミリアはフランを背に隠して立った。

 

「近づかないで!」

 

「随分逃げ回ってくれたな、吸血鬼のお嬢さん」と男の一人が言った。

 

「生け捕りだ。傷物にするなよ。高く売れるからな」と別の男が笑った。

 

「お姉様……」

 

「大丈夫!私があなたを守るわ」

 

大丈夫なわけがなかった。レミリアの足は震えていた。空腹と疲労と眠気。何日も続いた逃走で、戦う力はほとんど残っていない。それでも、レミリアはフランの前から動かなかった。

 

ハンターが踏み込んできた。レミリアは飛びかかろうとした。

 

体が、動かなかった。

 

銀の鎖。魔除けの札。放たれた矢。それらが一斉に二人を絡め取った。

 

「お姉様!」

 

「フラン!」

 

二人は地面に叩き伏せられた。手首に鎖。足にも鎖。首にも冷たい金属がはめられていく。

 

「フランに触るな!擦り傷1つでもつけたら殺すわよ!」

 

「黙れ!クズが!」

 

鈍い衝撃が頭に走って、レミリアの意識は途切れた。

 

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## 【シーン5:運命の日】

 

暗い部屋だった。

 

石の床。湿った空気。壁の高いところに小さな窓が一つあるだけで、昼か夜かも分からない。レミリアとフランは、壁に繋がれた鎖の先で座り込んでいた。

 

何日も、まともな食事は与えられなかった。二人とも衰弱しきっていた。フランはレミリアの隣で、小さく震えていた。今のような明るさは欠片もない。大人しくて、弱々しくて、ただ姉のそばに身を寄せているだけの小さな子だった。

 

「お姉様……」

 

「何?」

 

「私たち……助かるよね……?」フランは不安そうにレミリアの顔を見つめた。

 

レミリアはすぐに答えられなかった。

 

見えていたからだ。この後に来るものが。扉が開く。フランが連れて行かれる。杭。叫び声。血。

 

本当は今すぐ動きたかった。鎖を引きちぎって、ここにいる全員を殺してでも、フランを逃がしたかった。でも体は動かない。魔力は底をついていた。喉はからからで、立つ力すら残っていない。

 

「……助かるわ……絶対に助けるわ」

 

フランにだけは、そう言った。

 

「本当?」

 

「ええ。心配はいらないわ」

 

嘘だった。でも、そう言うしかなかった。

 

---

 

## 【シーン6:処刑場へ】

 

扉が開いた。

 

ハンターたちが入ってきた。その中の一人が、フランを見て顎をしゃくった。

 

「まずはその金髪のチビからだな」

 

レミリアの中で、何かが燃え上がった。

 

「やるなら私からにしなさい!」

 

「あ?」

 

「フランに触るな!お前!」

 

男は笑った。

 

「順番はこっちが決めるんだよ!残念だったな吸血鬼さんよ」

 

フランの鎖が引かれた。

 

「お姉様!助けてお姉様!」

 

「やるなら私からにしなさい! じゃないと——お前たちを全員殺してやる!」

 

誰も聞いていなかった。フランが引きずられていく。

 

その時、レミリアのそばに一人のハンターが近づいた。鎖の確認をするためだった。ほんの一瞬、男の首元が、レミリアの目の前に来た。

 

考えていなかった。運命を変えようという計算もなかった。

 

フランに触るな。

 

ただ、それだけだった。

 

近くに寄って来たハンターがいた。

 

レミリアはその首元に、噛みついた。

 

肉が裂けて、血が飛んだ。

 

「ぎゃあああああ!!」

 

部屋が騒然となった。レミリアは血に濡れた口のまま、男たちを睨みつけた。

 

「フランに触るなと、言ったでしょ!全員、皆殺ししてあげる」

 

ハンターたちの顔色が変わった。怒り。恐怖。屈辱。

 

「……こいつからだ。こいつから殺る!」

 

レミリアはもう動けなかった。でも、運命はずれた。

 

本来、先に殺されるのはフランだった。それが——レミリアに変わった。

 

---

 

## 【シーン7:壊れる音】

 

処刑場に、レミリアは鎖で固定されていた。

 

フランも近くに引き据えられていた。見せしめのためだった。

 

「お姉様!お姉様!お姉様!」

 

「見るな! フラン、目を閉じてなさい!」

 

男が笑いながら杭を手に取った。

 

「まずはこの生意気なこいつからだ」

 

レミリアの手に、杭が打ち込まれた。

 

「ああああああっ!!アハハハ!!」

 

叫びが石の壁に反響した。フランの目が大きく見開かれる。

 

「お姉様……?」

 

レミリアは歯を食いしばった。でも次の瞬間、鉈が振り下ろされて——腕が、落ちた。

 

レミリアの絶叫が処刑場を裂いた。視界が真っ白になる。それでも、口だけは止まらなかった。

 

「殺してやる……! アハハハ!お前たちを、殺してやる!」

 

血が床に広がっていく。

 

「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!一族全てを殺してやる!」

 

その声を、フランは聞いていた。

 

震えていたフランの表情が、ゆっくりと変わっていった。恐怖。悲しみ。怒り。それらが混ざり合って、やがて——何かが、壊れた。

 

フランの小さな手が、鎖を掴んだ。

 

ぎしり。

 

金属が軋んだ。

 

「おい、ガキが何を——」

 

ぎしり。ぎしり。

 

次の瞬間、鎖が引きちぎれた。

 

フランはゆっくりと顔を上げた。そこにあったのは涙ではなかった。壊れた何かから溢れ出す、狂気に満ちた笑みだった。

 

「このおもちゃたち……全部壊して、いいんだよね?」

 

男たちが武器を構えた。でも、遅かった。

 

フランが動いた。

 

悲鳴が上がった。何が起きているのか、薄れていくレミリアの意識では、もう捉えられなかった。痛み。血の匂い。叫び声。何かが壊れる音。そして——フランの、笑い声。

 

レミリアの意識は、そこで途切れた。

 

---

 

## 【シーン8:逃走】

 

次にレミリアが微かに感じたのは、誰かに抱えられている感覚だった。

 

体が揺れている。夜風。血の匂い。遠ざかっていく炎の光。

 

フランが、レミリアを抱えて歩いていた。

 

ハンターたちのアジトは、燃えながら後ろに遠ざかっていく。追ってくる者は、もう誰もいなかった。フランはレミリアの鎖を全て外して、片腕を失った姉を抱えるようにして、夜の森を必死に歩いていた。

 

「お姉様」

 

返事はない。

 

「……フランを『ひとり』にしないで」

 

返事はない。

 

「お姉様……」

 

フランの声は、また小さくなっていた。さっきまでの狂気は消えていた。そこにいるのは、姉を失うことだけが怖い、小さな妹だった。

 

しばらく歩いたところで、レミリアの意識がわずかに浮上した。

 

「……フラン……」

 

「お姉様!よかった!」

 

「あなた……大丈夫、なの……?」

 

「お姉様の方こそ! 私が助けるから!安心して!」

 

レミリアは何か言おうとした。でも声が出なかった。意識がまた沈んでいく。

 

フランは泣きそうな顔のまま、それでも足を止めずに歩き続けた。

 

---

 

## 【シーン9:小さな家】

 

夜の森を抜けた先に、小さな家があった。

 

窓に明かりが灯っている。フランはレミリアを抱えたまま、その扉の前に立った。震える手を伸ばして、弱々しくノックした。

 

しばらくして、扉が開いた。

 

そこにいたのは、一人の少女だった。紫の髪。眠そうな目。本を片手に持っている。

 

パチュリーだった。もちろん、この時はまだ、名前も知らない他人だった。

 

「……何?」

 

フランは何も言えずに、腕の中のレミリアを見せた。片腕を失い、血まみれで、今にも死にそうな吸血鬼。

 

パチュリーは一瞬で状況を理解した。そして、眉をひそめた。

 

「面倒事はごめんよ」

 

扉が閉まりかけた。フランがそこに手をかけた。

 

「待って!」

 

「離しなさい」

 

「お願い!」

 

「他を当たって」

 

「お姉様を助けて!助けてよ!」

 

パチュリーの手が、止まった。

 

フランは泣いていた。大粒の涙が、泥だらけの頬を伝っていた。

 

「お願いします。私……一人ぼっちになっちゃう。お姉様は、誰よりも大切な人なの。だから、助けて。お願い……!」

 

フランの声は震えていた。パチュリーはしばらく黙っていた。

 

本当に、面倒事は嫌いだった。吸血鬼に関わるなんて、厄介以外の何物でもない。追手が来るかもしれない。この家ごと巻き込まれるかもしれない。理屈で言えば、断る理由しかなかった。

 

それでも。

 

目の前で泣いている子供を前に、扉を閉めることは、できなかった。

 

「……入りなさい」

 

フランの目が見開かれた。

 

「助けて、くれるの?」

 

「早くしなさい。死ぬわよ、その子」

 

「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

 

フランは何度も、何度も頷いた。

 

---

 

## 【シーン10:治癒】

 

小さな家の中で、パチュリーはレミリアを寝台に寝かせた。

 

すぐに床へ魔法陣を広げていく。手際に迷いがなかった。フランはそのそばで、祈るように両手を握って見ていた。

 

「静かにしていなさい」

 

「はい!」

 

「泣くのも後にして、気が散るから」

 

「はい……!」

 

パチュリーは治癒の魔法を紡いだ。淡い光がレミリアの体を包んでいく。失われた腕。裂けた傷。焼けるような杭の痕。時間を巻き戻すように、少しずつ、少しずつ修復されていく。

 

長い時間がかかった。窓の外が白み始めても、パチュリーは手を止めなかった。フランは一歩も動かなかった。

 

やがて、レミリアの呼吸が安定した。腕も、戻っていた。

 

パチュリーが深く息を吐いた。額に汗が浮いていた。

 

「……命は、助かったわ」

 

フランはその場にへたり込んだ。

 

「よかった……よかったぁ!」

 

フランは泣いた。今度は、安心して泣いた。

 

---

 

## 【シーン11:パチュリーの問い】

 

レミリアが目を覚ましたのは、それから少し後だった。

 

知らない天井。知らない部屋。薬草の匂い。隣にはフランが眠っていて、椅子には本を持った少女が座っていた。

 

「起きたわね?」

 

「……誰?……あんた誰よ!」

 

「それはこちらの台詞よ。人の家に転がり込んできておいて」

 

レミリアは起き上がろうとして、痛みに顔を歪めた。

 

「動かないの。まだ治りきっていないわ」

 

「フランは……フラン!」

 

「ここにいるよお姉様!」

 

フランが飛び起きて、寝台に駆け寄ってきた。無事だった。その顔を見た瞬間、レミリアの体から少しだけ力が抜けた。

 

パチュリーは椅子に座り直した。

 

「説明してもらうわよ。全部」

 

レミリアは少し黙ってから、分かる範囲で話した。

 

吸血鬼ハンターに追われていたこと。何日も逃げ続けたこと。捕まったこと。食事も与えられなかったこと。そして、ハンターたちが吸血鬼を狙う理由——吸血鬼の肉を食えば不死になれるという、馬鹿げた噂。

 

パチュリーは眉をひそめた。

 

「くだらないわね」

 

「ええ。心底くだらないわ。でも、そのくだらない話を本気で信じる者たちがいるのよ」

 

「……それで、どうやってあそこから逃げたの? その状態で」

 

レミリアは少し黙った。

 

「覚えていないわ。私は途中で意識を失ったから」

 

レミリアはフランを見た。フランは、少しだけ視線を逸らした。

 

「……フランが、助けてくれた。それだけは確かよ」

 

パチュリーはフランを見た。フランは小さく頷いた。

 

パチュリーは、それ以上、その夜のことは聞かなかった。

 

---

 

## 【シーン12:始まり】

 

数日が経った。

 

レミリアの体は少しずつ回復して、フランも落ち着きを取り戻していった。パチュリーは「いつまでいる気なの」と文句を言いながらも、二人を追い出さなかった。食事は三人分用意されていたし、フランの服はいつの間にか繕われていた。

 

ある日、レミリアが聞いた。

 

「ねえ。どうして助けたの?」

 

「さあ」

 

「理由もなく?」

 

「面倒だったからよ」

 

「助ける方がよほど面倒でしょう」

 

パチュリーは本から目を上げずに答えた。

 

「見捨てるのも、後味が悪いわ。どちらの面倒を取るかの問題よ」

 

レミリアは少しだけ笑った。

 

「……変な魔法使いね」

 

「変な吸血鬼に言われたくないわ」

 

フランはそのやり取りを見て、小さく笑った。この家に来てから、初めての笑顔だった。

 

それが、レミリアとパチュリーの出会いだった。

 

後に紅魔館と呼ばれる場所の始まりは、豪華な館でも、宴会でも、誇りでもなかった。

 

逃げて、傷付いて、助けを求めて——それでも生き残った。

 

そこから、紅魔館への道を歩み始めた。

 

---

 

## 【シーン13:屋上へ戻る】

 

夜風が、屋上を通り抜けた。

 

レミリアの話が終わっても、タカはしばらく何も言えなかった。月は同じ場所にあったけど、さっきまでと違って見えた。

 

「……パチュリーさんは、最初から紅魔館にいたわけじゃなかったんですね」

 

「ええ。フランが泣いて頼み込んだから、渋々ね」

 

「渋々、ですか」

 

「本人はそう言うわ。今でもね」レミリアは少し笑った。「でも、パチェがいなければ私は死んでいた。そして、フランは一人になっていた」

 

その言葉は静かだった。でも、とても重かった。

 

「……そこから、今の紅魔館が始まったんですね。咲夜さんも、美鈴さんも」

 

「ええ。少しずつ増えていったの」

 

レミリアはもう一度、月を見上げた。その横顔から、いつもの余裕のある笑みが消えていた。

 

「でもね……」

 

「はい」

 

「本当に大変だったのは……この後よ」

 

タカはレミリアを見た。

 

「フランの力が、少しずつ、制御できなくなっていったの」

 

夜の紅魔館に、風が吹いた。眼下の湖が、月の光を静かに揺らしていた。




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