## 【シーン1:屋上】
月が少しだけ傾いていた。
レミリアの話は続いていた。タカは口を挟まずに、隣でずっと聞いていた。美鈴との出会い。ハンターだった彼女が自分の正義に疑問を持ち、傷だらけになって仲間になった話。
聞き終えて、タカは小さく息を吐いた。
「……美鈴さんらしいですね。迷って、悩んで、それでも自分で答えを出したところが」
「そうね。あの子は最初から優しかった。だから迷えたのよ。迷えたから、こちら側に来られた」
夜風が吹いて、レミリアの髪が揺れた。
「でも——次に来た相手は、違った」
「……咲夜さん、ですか」
「ええ」
レミリアの声が、少しだけ低くなった。
「あの子は迷わなかった。迷うことすら、許されていなかったの。感情を削られて、言葉も奪われて、ただ吸血鬼を殺すためだけに育てられた。人間の形をした、殺戮兵器だったわ」
タカは今の咲夜を思い浮かべた。静かで、礼儀正しくて、紅魔館を支える完璧なメイド。その姿と、レミリアの言葉が、どうしても結びつかなかった。
「信じられないでしょう?」
「……はい。正直」
「私も、初めて会った時はそう思ったわ」レミリアは目を細めた。「美鈴とは違う。あの子は本当に——私たちを、殺しに来たの」
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## 【シーン2:束の間の休息】
パチュリーの小さな家は、以前より少しだけ賑やかになっていた。
美鈴は外で薪を割っていた。規則正しい音が窓越しに聞こえてくる。パチュリーは本を読みながら、片手間に家の周りの結界を維持していた。レミリアは椅子で体を休めていて、フランはその隣にぴったりくっついていた。
「お姉様、今日は痛くない?」
「痛くないわ」
「お姉様いなくなったら嫌だからね!」
「フランの前からはいなくならないわ」
「絶対だよ?」
「絶対に、嘘は言わないわ」
フランは少しだけ安心した顔で頷いた。でも、レミリアから離れようとはしなかった。処刑場の一件以来、フランは片時もレミリアのそばを離れなくなっていた。
「少しは離れたら? 邪魔でしょう」とパチュリーが本から目を上げずに言った。
「やだ!」
「即答ね」
「お姉様のそばにいるの!」
「好きにさせてあげなさい、パチェ」
「妹には甘いわね」
「大切な妹だもの」
パチュリーはそれ以上言わなかった。ただ、口元だけが少し緩んでいた。
その時だった。
カン。
外で、乾いた音がした。何かが結界に当たった音。
パチュリーの目が細くなった。
カン。
また同じ音。同じ場所。
カン。
「……嫌な音ね」
「何? 石でも当たったの?」とレミリア。
カン。今度は少し強い。
「ナイフよ」パチュリーが本を閉じた。「それも、数ミリのズレもなく、まったく同じ場所を打ち続けている。このまま続けられたら、結界は割れるわ」
レミリアが立ち上がった。外から美鈴が駆け込んでくる。その顔は青ざめていた。
「美鈴。何か知っているのね?」
美鈴は喉を鳴らした。
「……話でしか、聞いたことはありません。ハンターの組織に、吸血鬼を殺すためだけに育てられた者がいると。人間ですが、放たれれば必ず仕留めると言われていました。感情も、痛みも、恐怖も、全部殺されている——殺戮のための兵器のような存在だと」
フランがレミリアの服を掴んだ。
「お姉様……」
レミリアはフランに向き直った。
「あなたは中にいなさい!」
「やだ!」
「フラン!言うこと聞きなさい!」
声が少しだけ強くなった。フランがびくっと肩を震わせた。レミリアはすぐに屈んで、フランの頭を撫でた。
「ここから出ては駄目。いい? 大丈夫だから」
「……うん」
「レミリアさん、本当に大丈夫なんですか」と美鈴が言った。
レミリアは笑った。
「大丈夫よ。私、前とは違うもの。今は全快なんだから」
そう言って、扉へ向かった。
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## 【シーン3:結界破壊】
外の森は、静まり返っていた。
風の音すら消えたようだった。パチュリー、美鈴、レミリアの三人が家の前に並んだ。結界の一点に、銀のナイフが突き刺さっては弾かれ続けている。同じ場所。同じ角度。同じ速度。まるで機械のような正確さだった。
カン。カン。カン。
「本当に嫌な精度ね」とパチュリーが呟いた。
「……来ます」と美鈴が構えた。
次の瞬間、結界に亀裂が走った。
ピシッ、と音が伸びて——結界が、砕けた。
砕けた瞬間、銀のナイフが正面から一斉にレミリアへ降り注いだ。
でもレミリアは動じなかった。腕を振って爪で弾き、足をずらし、翼を広げて風ごと払う。飛来したナイフは、一本残らず地面に落ちた。
「さあ」レミリアは森の奥へ向かって笑った。「出てきなさい」
返事はなかった。
代わりに、空中に数百本のナイフが現れた。月明かりを受けて、銀色に光っている。
「多すぎる……」と美鈴が息を呑んだ。
「これ、本当に人間なの?」とパチュリー。
次の瞬間、レミリアの背後に銀髪の少女が立っていた。
音もなかった。気配もなかった。少女は無言のまま、レミリアの背中へ蹴りを放った。レミリアは半身をずらしてかわす。同時に正面から数百本のナイフが迫った。レミリアはさらに身をひねって、ナイフの雨を布のようにすり抜けた。
銀髪の少女は、表情を変えなかった。声も出さなかった。ただ、また消えた。
時間が、止まった。
そして動き出した時、レミリアの周囲にはナイフが並んでいた。上、下、横、背後。逃げ場はないはずだった。
でも、レミリアは笑った。そして次の瞬間、全てをかわしていた。
「……嘘でしょ」とパチュリーが呟いた。
「あれが見えてるんですか?」と美鈴。
「今は全快だもの。このくらいは余裕よ」
レミリアは銀髪の少女を見た。少女は答えなかった。ただ無言で、また殺しに来た。
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## 【シーン4:無言の狩人】
銀髪の少女は、一言も喋らなかった。
怒らない。驚かない。焦らない。ただ、殺すために動く。ナイフ。蹴り。銃。時間停止。またナイフ。手数だけが淡々と積み重なっていく。
レミリアは全部かわし続けた。美鈴とパチュリーは、手を出す隙すら見つけられなかった。
「殺戮兵器……」
美鈴が口にした。目の前の吸血鬼を殺す。それ以外の全てが、この少女には存在していなかった。
「なるほどね……」
レミリアは一撃をかわしながら呟いた。
「本当に、何もないのね。感情も」ナイフを弾く。「言葉も」蹴りをかわす。「自分の意思も」
少女の瞳は、空っぽだった。
「……中身がない……可哀想に」
その瞬間、少女の動きがわずかに変わった。感情ではない。反応でもない。ただ、次の手に移っただけだった。
少女がレミリアの正面へ飛び込んだ。レミリアも前へ出た。二人の影が重なった。
その瞬間——銃声が、響いた。
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## 【シーン5:銀の銃弾】
乾いた音だった。
森の奥から放たれた弾丸は、銀髪の少女の体を貫通し、そのまま重なっていたレミリアの胸を撃ち抜いた。
レミリアの目が見開かれた。銀髪の少女が、その場に崩れ落ちた。
「レミリアさん!」と美鈴が叫んだ。
「レミィ!」とパチュリー。
レミリアの体が大きく揺れた。胸を押さえる。指の間から血が溢れ、口元からも赤い雫がこぼれ落ちた。
「……油断したわ……そう来たのね」
レミリアは森の奥を睨んだ。そこに隠れているハンターたち。仲間の少女ごと、平気で撃ち抜いた者たち。
「最悪ね……仲間を犠牲にって……しかも……銀」
もう一度、血を吐いた。
パチュリーが駆け寄って、すぐに治癒魔法をかけた。でも、光が弾かれた。
「効かないわ……」
「どうして!」
「呪いを宿した銀の銃弾よ。吸血鬼の弱点そのもの。しかも心臓のすぐ近くに残ってる」
レミリアが膝をついた。
その光景を——フランが、扉の隙間から見ていた。
お姉様が血を流している。倒れそうになっている。また。また、お姉様が壊される。
「お……おね……え、さま……」
声が震えていた。
レミリアがフランに気付いた。
「大丈夫よ……私は……ごほっ……死なないわ……」
笑おうとして、血がこぼれた。
フランの瞳が、揺れた。
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## 【シーン6:美鈴の怒り】
その時、二発目の銃声が響いた。
狙いはパチュリーだった。治療を止めるために。
でも、その弾はパチュリーに届かなかった。
美鈴が、間に入っていた。指先で——銀の弾丸を、受け止めていた。弾が指の間で細かく震えている。
美鈴の顔から、いつもの穏やかさが完全に消えていた。
「あの人たち……許さない……」
声が低かった。
「仲間だった子を、盾ごと撃って。治療してる人まで撃とうとして……絶対に許さない!」
「……助かったわ」とパチュリーが短く言った。
「治療を続けてください。あちらは、私が見ています」
美鈴は森を睨んだ。怒り。悲しみ。裏切られた痛み。かつて自分がいた場所、正義だと信じていた場所の人間たちは、仲間だった少女ごと撃った。
美鈴の中で、最後に残っていた迷いが、完全に消えた。
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## 【シーン7:狂気】
パチュリーは倒れた銀髪の少女の治療に回った。レミリアはまだ血を流している。美鈴は森を警戒している。
そしてフランは——扉の前に、立っていた。
小さな手が震えている。歯が鳴っている。息が乱れている。
「また……」
レミリアがフランを見た。
「フラン……」
「またなの……?」
フランの目から涙が落ちた。
「なんで……なんでお姉様ばっかり……また血が出てる! また痛そう! また、死んじゃう!」
「大丈夫よ……」
「大丈夫じゃない!」
それは、幼い悲鳴だった。
「フラン、やめなさい……」
レミリアの声は、弱かった。届かなかった。
フランの瞳が、変わっていく。涙が止まる。震えていた口元が、ゆっくりと吊り上がる。笑っていた。
今のフランの笑顔ではなかった。
そこに浮かんだのは、笑顔だった。でも、今のフランの笑顔じゃない。処刑場で見た、あの——壊れた笑みだった。
「もう、許さない!」
「フランさん……?」と美鈴が振り返った。
「あのおもちゃ」フランは森を見た。「全部、壊して良いよね?アハハハ!」
「フラン……やめ……ごほっ……やめなさい……」
レミリアが手を伸ばした。声は掠れて、小さくて、届かなかった。
フランが一歩踏み出した。美鈴が慌てて前に出た。
「待ってください、フランさん!」
次の瞬間、美鈴の体が吹き飛ばされた。
フランは見てもいなかった。視界に入ったものを、ただ邪魔だから弾いた。それだけだった。美鈴が木に叩きつけられる。
フランはそのまま、森へ向かった。ハンターたちの気配がする方へ。楽しそうに。歌うように。
「あは……アハハハ!壊す!全部!全部!壊してあげる!」
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## 【シーン8:壊れた妹】
森の奥で、悲鳴が上がった。
銃声。怒号。逃げる足音。それら全部が、あっという間に消えていった。代わりに聞こえてくるのは、フランの笑い声だけだった。
「アハハハ! もっと! もっと壊して遊ぶ!」
ハンターたちには、何が起きたのか理解する時間すらなかった。自分たちは狩る側だと思っていた。違った。目の前に現れたのは、恐怖そのものだった。
レミリアは必死に立とうとしていた。膝が震える。銀の弾が体の中で焼けるように痛む。
「動かないで!」とパチュリーが叫んだ。
「フランを……止めないと……」
「その状態で動いたら死ぬわよ!」
「死なないって……言ったでしょう……」
レミリアは、立った。血を流しながら、それでも立った。
森から、フランが戻ってきた。
笑っていた。手には血がついていた。目は赤く光っていた。そこに、いつものフランはいなかった。
「終わったよ、お姉様。……でも、まだある」
フランの目が、パチュリーのそばに倒れている銀髪の少女へ向いた。
「こいつも!お姉様を傷付けたよね!壊していいよね?」
「駄目よ!」
フランが振り返った。
「どうして? お姉様を撃ったんだよ? 壊していいよね?」
「駄目!絶対にダメよ!……フランはあいつらと違うの」
「なんで? なんでお姉様はいつも止めるの? 壊せばいいのに!お姉様を傷付けるもの、全部!全部、壊せばいい!」
フランの手が動いた。銀髪の少女へ向かって。
その瞬間、レミリアは前に出た。
フランの一撃を、自分の体で受け止めた。
鈍い衝撃。レミリアの体が跳ねた。その衝撃で——胸の中に残っていた銀の銃弾が、血と一緒に体の外へ弾き出された。小さな銀色の弾が、からん、と地面に落ちた。
レミリアはふらつきながら、フランを見た。そして、笑った。弱々しく。それでも、姉として。
「私は……死なないって……言ったでしょう」
そのまま、倒れた。
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## 【シーン9:泣き声】
フランの目から、赤い光がゆっくり消えていった。
「……お姉様?」
レミリアは動かない。
フランはその場に膝をついた。
「お姉様!ねえ!起きて!」
声が震えていた。フランはレミリアを抱きしめた。
「お姉様……なんで……なんでお姉様……お姉様ぁ……!」
その声は、もう狂気ではなかった。ただの、泣き声だった。
フランはレミリアにすがって泣いた。何度も名前を呼んだ。何度も抱きしめた。
パチュリーは銀髪の少女の治療を終えると、すぐにレミリアに駆け寄った。
「弾は出たわ!今なら……今なら治せる!」
治癒の光がレミリアを包んだ。今度は、拒絶されなかった。傷が少しずつ塞がっていく。
でも、胸には痕が残った。深く、消えない痕が。
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## 【シーン10:目覚めた少女】
銀髪の少女が目を開けた。
咄嗟に跳ね起きて、ナイフを探した。ない。銃もない。体の痛みも消えている。少女は自分の体を見下ろした。撃たれたはずの場所が、治療されていた。
理解が、追いつかなかった。
「起きたかしら?」
パチュリーが隣に立っていた。少女は無言のまま身構えた。
「ナイフはないわよ。探しても無駄よ」
少女は黙っている。
「あなたは、吸血鬼に生かされたのよ」
少女が、わずかに首を傾げた。言葉の意味が繋がらない、という顔だった。
「……しゃべれないの? はぁ、面倒ね」
パチュリーは魔法陣を展開した。
「声帯と言語野を無理やり起こすわ。少し痺れるけど我慢なさい」
少女の喉元に、淡い光が宿った。次の瞬間、少女の口が動いた。
「私は……吸血鬼によって、生かされた……?」
少女自身が、一番驚いていた。声が出たことに。言葉が、自分の中から出てきたことに。
「そうよ」パチュリーはレミリアの方を見た。レミリアはまだ眠っていて、フランはその横で泣き疲れて丸くなっている。「あそこで寝ている小さな吸血鬼にね。あなたを貫いた銀の弾で重傷を負って、それでも、あなたを助けろと言ったわ」
「……なぜ、私を助けた!」
「私に聞かれても困るわ」
「殺せ」少女の声は平坦だった。「道具が敵に救われるなど……屈辱だ」
パチュリーの目が細くなった。
「なら、勝手に死ねば?」
少女が固まった。
「私は面倒なことが嫌いなの。あなたを助けたくなんてなかったわ。面倒だもの。でも、あの子は殺さなかった。それどころか、あそこの金髪の子があなたを壊そうとした時、レミィは体を張って庇ったのよ。……そのおかげで銀の弾が体から抜けて、結果的にレミィも助かった」
パチュリーは少しだけ笑った。
「つまり、あなたは吸血鬼を助けたの。形は、随分ひねくれていたけれどね」
少女は、言葉を失っていた。
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## 【シーン11:行き場】
しばらくして、少女が口を開いた。
「私は……ハンターの組織に、戻ります」
「戻る?」パチュリーが顔をしかめた。「残念だけど、戻る場所なんてもうないわよ。あの後、フランちゃんが上層部ごと壊したもの。あなたの後ろに控えていた連中の中に、幹部がいたのでしょう。持ち物で分かったわ。組織はもう、機能していない」
少女は黙った。
「それで、どうするの?」
「私は……」
少女の顔が、初めて迷いを見せた。
命令がない。戻る場所がない。名前もない。感情も分からない。存在する理由が、全部消えた。
「私は……どうすれば、良いのでしょうか」
その時、弱い声が聞こえた。
「なら……」
全員が振り返った。レミリアが目を開けていた。まだ横になったままで、顔色も悪い。それでも、笑っていた。
「私に着いてきなさい」
少女はレミリアを見た。
「……なぜ」
「その前に。名前は?」
少女は黙った。やがて、ぽつりと言った。
「ない。名前は……ない」
レミリアは目を細めた。月のない夜に、それでも何かを見つけたような目だった。
「そう。なら——私が授けるわ」
少女は動かなかった。
「あなたは、今日から」
レミリアは静かに、はっきりと言った。
「十六夜咲夜よ」
十六夜咲夜。初めて与えられた、自分だけの名前。
少女はその響きを、口の中でゆっくり確かめた。
「十六夜……咲夜?」
「ええ。よろしくね、咲夜」
咲夜は何も言えなかった。ただ、もう一度だけ、深く頷いた。
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## 【シーン12:現在】
屋上に、夜風が吹いていた。
レミリアが話を終えても、タカは長い間黙っていた。
咲夜。美鈴。パチュリー。フラン。今の紅魔館にいる人たち全員が、傷だらけの過去の先に集まっていた。あの賑やかな館は、そういう場所の上に建っていた。
「……それで、今の皆さんが揃ったんですね」
「ええ」
レミリアは胸元に手を当てた。
「あの日の銀弾の痕はね、完全には消えなかったの」
そう言って、レミリアはほんの少しだけ胸元の襟を開いた。
「だ、駄目ですよ!」
「今さら何を言っているの。減るものじゃないでしょう?」
「いや、駄目なものは駄目です」
「いいから、見なさい!」
タカは困りながらも、ゆっくり視線を戻した。
月明かりの下、レミリアの胸元には、古い銃痕が残っていた。銀の弾が貫いた痕。長い年月が経っても、消えなかった傷。
「咲夜にも、同じ場所にあるわ。同じ弾に貫かれたから」レミリアは襟を戻した。「あの子も私も、あの日死んでいておかしくなかった。でも、生き残った。だから、今の紅魔館があるの」
「レミリアさん……」
レミリアは少しだけ笑った。それから、その笑みがゆっくり消えていった。
「けれど……フランの心は、もう限界だったの」
夜風が吹いた。月に雲がかかって、屋上が暗くなった。
「次に話すのは——あの子を、地下に閉じ込めた時の話よ」
タカは何も言えなかった。ただ、静かに頷いた。
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