【シーン1:人里】
春になった人里は、別の場所みたいだった。
通りに人が増えて、店先ににぎやかな声が戻っている。八百屋には色とりどりの野菜が並んで、和菓子屋の前には団子の匂いが漂っていた。あれだけ寒くて、桜も咲かなかった日々が嘘みたいだ。
歩向タカは霊夢から渡されたメモを片手に、人の流れに乗って歩いていた。
「卵、味噌、油揚げ……あと団子だ」
団子のところだけ霊夢の字が妙に気合い入っていた。私物なのか神社の消耗品なのか、聞いたら怒られそうで聞けていない。
ため息をついて顔を上げると、少し先の八百屋の前に見覚えのある白い髪があった。
「あっ!」
妖夢だった。両腕に野菜の入った籠を抱えて、足元には米袋まで置いてある。どこからどう見ても一人で持ち帰る量ではない。
「妖夢さん!こんにちは」
「タカさん?」
振り返った妖夢が、少し驚いた顔をした。
「妖夢さんも、買い物ですか?」
「はい。本日の白玉楼の幽々子様と私の分です」
タカは妖夢の荷物を見回した。野菜に米、調味料に乾物。どれも量がある。
「えっ!?それ、全部ですか?」
「はい。いつも通りですよ」
「いつも通りなんですか……本当にお疲れ様です」
「慣れていますので、大丈夫ですよ」
「手伝いますよ。絶対に大変ですもん」
「いえ、大丈夫です。タカさんは心配し過ぎですよ」
「手伝いますって」
「本当に大丈夫ですから」
「手伝わして下さい」
「……」
妖夢が少し困った顔をした。タカは引く気がない。
「では、この米袋をお願いします」
「任せてください!」
タカは米袋を両手で持ち上げようとした。
「えっ!?重っ……!」
「無理しなくても大丈夫ですよ」
「大丈夫です……多分……」
「顔が大丈夫ではありませんよ」
「気合いでなんとか……します!」
「霊夢さんみたいなことを言いますね」
「霊夢さん……それは少し……やめてください」
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## 【シーン2:白玉楼への道】
人里を抜けると、通りの喧騒が遠ざかって静かになった。
春風が吹いている。道の両脇の草が柔らかく揺れて、どこかで鳥が鳴いている。白玉楼へ続く道は木が多くて日陰になっていて、歩いていると気持ちいい。ただしタカの腕の中の米袋は、まったく気持ちよくなかった。
「白玉楼って……買い物も大変なんですね」
「距離はありますが、慣れれば問題ありませんよ。毎日なので」
「僕はもう問題だらけです……僕はもう、手が千切れそうです」
「まだ半分も来ていませんけど……」
「今の言葉、聞かなかったことにします……」
「本当のことなので諦めて下さいね」
「僕は途中で腕がなくなるかもしれないです」
妖夢がほんの少しだけ笑った気がした。タカは見逃さなかった。
「妖夢さん、笑顔になるのは良いことですね」
「笑っていません!」
「隠さなくて良いんですよ。良いことじゃないですか」
「本当に笑っていません!」
「絶対笑ってましたよ」
「荷物、全部持たせますよ」
「すみません……」
「謝っても許しませんよ」
「本当にすみませんでした!」
「今回だけですからね」
木々の間から空が見えてきた頃、白玉楼へ続く長い石段が現れた。タカはそれを見上げて、足が止まった。
「……これ、登るんですか?!階段の先が見えませんよ」
「毎日登ってるので私は平気です」
「この荷物で?本当に!?」
「何も重くないですし」
「妖夢さん、本当に毎日これを?」
「はい。問題ありません」
「凄すぎません?本当に言ってます?」
「普通に歩くのと同じです」
「普通の基準がおかしいです」
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## 【シーン3:白玉楼】
ようやく白玉楼に着いた頃、タカは縁側の手前で膝をついていた。
「着いた……僕の手、まだ付いてます?」
「付いてますよ。お疲れ様です」
妖夢は息一つ乱れていない。籠も軽々と持っている。タカはそれを見て、いろんな意味で打ちのめされた。
「息切れしてない……妖夢さんはすごいです!」
「荷物を運んだだけですから、疲れることはないです」
「僕にはきつい修行でした」
「では、良い修行になりましたね。それは良かったです」
「そういう前向きな解釈は霊夢さんと魔理沙さんだけで十分です」
そこへ屋敷の奥から声が響いた。
「おかえり〜妖夢ちゃ〜ん」
「ただいま幽々子様」
「妖夢ちゃん大変よ〜私、お腹空いたわ〜」
妖夢はため息をつくでもなく、普通の顔で返事をした。
「はい、今すぐに準備しますね」
「ありがとうね〜妖夢ちゃん」
「帰ってきてすぐに、いつもこんな感じなんですか?」とタカ。
「はい、いつもの事です」
「お疲れ様です」とタカは妖夢に頭を下げる
「慣れていますので、気にしなくて良いですよ」
「妖夢さん、何でも慣れで片付けてません?」
「タカさんは気にし過ぎです」
妖夢は食材を抱えて台所へ向かった。タカも後を追う。
「待ってください、僕も手伝います」
「座っていてください」
「いえ、妖夢さんを手伝います」
「怪我は治ったばかりでしょ!あんまり無理しないで下さい」
「もう治ってるので問題ないです」
妖夢がタカを見た。少し心配そうな顔だった。
「では、野菜を洗うだけお願いしますね」
「はい!やらせて頂きます!」
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## 【シーン4:昼食】
昼になって、縁側に料理が並んだ。
春の日差しが庭に降りていて、桜の花びらがたまに風に乗って飛んでくる。白玉楼の庭はこれだけ広いのに、縁側から見ると不思議と落ち着く眺めだった。
幽々子が嬉しそうに箸を持った。
「妖夢ちゃんありがとう、いただきます」
「いただきます」
タカは一口食べた。
「えっ!美味しい!」
「ありがとうございます、お世辞でも嬉しいです」と妖夢がわずかに目を細める。
「いや、本当です。すごく美味しいです!これも食べます!これも美味しい!」
「妖夢ちゃんの料理は美味しいのよ〜私の分は譲らないわよ〜」と幽々子が言った。
「幽々子様、食べ過ぎないでくださいね」
「大丈夫よ〜私、少食だからね〜」
「幽々子様のその言葉を信じません」
「妖夢ちゃんは心配性なのよ」
「幽々子様が自由すぎるんです!」
タカはそのやり取りを見て、思わず笑った。昨日まで異変の中心だったこの場所が、今はただの広いお屋敷みたいに見えた。怖くない。静かで、広くて、少し不思議で。でもちゃんと、ここに生活がある。
「あの〜妖夢さん」
「はい」
「今日は手伝わせてくれてありがとうございました」
「こちらこそ助かりました、ほんの少しだけ楽になりました」
「あとで、お願いがあるんですが、良いですか?」
「お願いですか?私でできる事なら……」
妖夢の箸が止まった。
「僕に剣術を教えてください!」
しばらく間があった。幽々子がにこにこしながら二人を見ている。
「えっ?私が、ですか?」
「はい。この前、分かりました。僕はまだ弱いんです。でも、強くなって皆を、助けれるようになりたいんです。だから、教えてください!」
妖夢は黙って聞いていた。それから箸を置いた。
「分かりました」
「本当ですか?」
「はい。ですが、私は厳しいですよ」
「はい!お願いします!」
「あらあら〜妖夢先生ね〜」と幽々子。
「幽々子様、やめて下さい」
「妖夢先生〜」
「やめてください……恥ずかしいです……」
「妖夢先生よろしくお願いします!」とタカも続けた。
「タカさんまでやめて下さい」
幽々子が楽しそうに笑っている。白玉楼の庭に、桜がのんびり舞っていた。
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## 【シーン5:剣術修行】
昼食後、白玉楼の庭に二人が向かい合った。
春の日差しの中、桜の花びらが時々ふわりと落ちてくる。庭の石畳は広くて平らで、修行の場としては悪くない。ただし妖夢が相手というのは、どう考えても悪条件だった。
「まず確認しますね」
「はい!先生!」
「タカさんは剣を見すぎです」
「えっ?剣を見ちゃ駄目なんですか?」
「そんなのは最後でいいです!」
「最後ですか?」
「最初に見るのは相手の足です」妖夢が自分の足元を示した。「攻撃する前、人は必ず重心を動かします。足の向き、踏み込み、膝の沈み。それで進む方向がすぐに分かります」
「足で……そんなに情報が……」
「そして次に目です。視線には狙いが出ます。肩や手より、足と目の方が先に動きます」
「一瞬でそんなに見ないといけないんですか?」
「見てます。私は」
「妖夢先生は達人ですね」
「それは普通です」
「普通じゃないですよ!僕はできないですもん」
「では、始めます」
「はい!先生お願いします!」
妖夢が一歩踏み込んだ。タカは足を見た。見たつもりだった。でも次の瞬間、肩に木刀が当たっていた。
「早い……」
「立ってください!まだ始まったばかりですよ!」
「早すぎて追いつきません……」
「私の足は見ましたか?」
「見てました!」
「いえ、私の刀を見ていました」
「ばれてる……全部見られてる」
「嘘は許しません!もう一度!」
再開。妖夢の右足が動く。タカはそこを見る。でも目が追いつかない。木刀が脇腹に入った。
「いたっ!全然追いつけない!」
「そこは致命傷です、あなたは刀なら死にましたよ」
「ふぅ……木刀で良かったです」
「本当にそうですね……もうあなたは切りたくないので」
また再開。また倒れる。また立つ。何度繰り返してもタカは当たり続けた。
「まだお願いします……」
「何故ですか?なんで避けれないんですか?」と妖夢が言った。
「えっ?」
「あの時は致命傷を避けていたでしょ?なんで今できないんですか?」
「致命傷避けてました?必死で覚えてないです……」
「あの時、私は本気でした。迷いはありましたが」
「僕はあの時、無我夢中で食らいついてたので本当に、覚えてないです」
妖夢が固まった。
「覚えていない?」
「とにかく必死でした僕は」
「あれは、必死で出来るものではありません」
「僕にはわかりません」
「……」
妖夢は少し本気で、乱撃を繰り出した。木刀はすべて、致命傷になり得る場所へ正確に打ち込まれた。
「もう何故ですか……あの時は私の刀を何度も外していました。致命傷だけは避けていました。なのに今は、全部当たります」
「はぁはぁ……すみません……」
「もう何故謝るんですか!」
「すみません…はぁはぁ……癖ですね……」
「タカさんのダメなところですよ……」
妖夢は深く息を吐いた。
「さぁ、もう少しだけ続けましょう」
「は…はい!……はぁはぁ……」
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## 【シーン6:能力発動】
妖夢が木刀を構え直した。
さっきまでと空気が変わった。庭の静けさが一段深くなった感じがした。花びらが一枚、石畳に落ちる。タカはそれをなんとなく目で追ってから、妖夢に視線を戻した。
「じゃあ次は、少しだけ速度を上げますね」
「は…はい!少しだけ……ですよね?」
「安心して下さい……少しだけです」
「妖夢さんの少しだけは信用していいんですよね?」
「……多分」と妖夢は真剣な表情になった。
「多分……」とタカは息を呑む
「いきます!」
妖夢が踏み込んだ。タカは足を見た。膝。重心。目線。今度こそ見る。
でも、妖夢の動きは速かった。木刀が迫ってくる。
「っ……!」
防ごうとした瞬間、タカの体が勝手に前へ出た。避けるのでもなく、守るのでもなく、前へ。
「!」
妖夢の目が開いた。
さっきまでとまるで違う踏み込みだった。迷いがない。速い。木刀が真っ直ぐ妖夢へ向かう。
「私より速い……!」
妖夢は紙一重で体をずらした。タカの木刀が空を切る。
「えっ……消え…た……」
次の瞬間、妖夢の木刀がタカの胴に入った。鈍い音がした。
「がっ……!」
体が崩れた。木刀が石畳に落ちた。そのままタカは膝から崩れ落ちて、倒れた。
「少し本気でやり過ぎました。タカさん!大丈夫ですか!」
妖夢が木刀を捨てて駆け寄る。
「タカさん!タカさん!起きて下さい!ねぇタカさん!」
返事がない。
妖夢の顔が青くなった。震える手でタカの肩に触れる。呼吸はある。でも目を覚まさない。
「また……また私が……やっちゃいました……」
声が震えた。
「タカさん……!起きて……下さい……」
縁側にいた幽々子が立ち上がった。
「どうしたの?妖夢ちゃん?」
「幽々子様……!」妖夢が振り返った。「タカさんが……起きません……!」
幽々子の顔から笑みが消えた。
「早く永遠亭に連絡よ!妖夢ちゃん!」
「はい……!」
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## 【シーン7:永琳の診察】
しばらくして、永琳が白玉楼にやってきた。鈴仙も一緒だ。
庭に通されるなり、永琳はタカの横にしゃがんで手早く確認した。脈、呼吸、瞳孔、胸の動き。手つきに無駄がない。妖夢はその隣で正座していた。顔が真っ青だった。
「永琳様……タカさんは……大丈夫なのでしょうか?」
「とりあえず、命に別状はないわ」
「本当ですか……?」
「ええ、安心して本当よ」
妖夢がほっと息を吐きかけた。でも永琳の顔が完全には緩まなかった。
「ただ、肋骨が3本折れているわね」
「っ……!」
「また私が……」
「問題ないわよ。致命傷ではないわ」
「でも……私が……」
「とにかく大丈夫よ」
妖夢は唇を噛んだ。永琳はタカの額に手を当てた。
「ただ問題は、こっちね」
「この方は眠っているだけですか?」と鈴仙。
「そうにしか見えないわ」
「そうにしか?」
「骨折だけなら、ここまで深く眠る理由にならない。体の中で想定以上の負担がかかったのかもしれないわ」
「負担……私のせい……」と妖夢が繰り返した。
「今は寝かせるしかないわ」
妖夢は眠るタカをじっと見た。
「また……やってしまいました……」
「あなたが全部背負う話じゃないわ、妖夢」と永琳。
「でも……私が……」
「それに」永琳が少し呆れた顔でタカを見た。「もう約束を破ったのね。もう私にお世話にならないって、昨日言ったばかりよ」
「本当に早いですね……初めてです」と鈴仙が苦笑いした。
「早すぎて呆れるわ」
妖夢は少しだけ力が抜けた顔をした。
「……本当に、変な方なんです」
でも目は潤んでいた。
「タカさん……早く起きてください……」
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## 【シーン8:翌朝】
翌朝、白玉楼の一室に朝の光が差し込んでいた。
庭の桜が障子に薄い影を作っていて、風が吹くたびにゆらゆら揺れる。静かな部屋に、タカの穏やかな寝息だけが聞こえていた。
その横で妖夢が正座している。目の下に少し疲れが出ていた。
「ねぇねぇ妖夢ちゃん、少し休んだら?」と幽々子が少し離れた場所からお茶を飲みながら言った。
「いえ、タカさんが起きるまでは」
「昨日からずっとそこにいるわよ〜私の相手もしてよ〜妖夢ちゃん」
「すみません幽々子様。タカさんが目を覚ますまでは」
「本当に真面目ねぇ〜タカちゃんは幸せ者ね〜」
その時、布団の中でタカの指がぴくりと動いた。
「!」
「ん……」
ゆっくりと目が開く。
「……あれ?僕は……何してたんだっけ?」
「よかった!タカさん!」
「妖夢さん……?どうしました?」
起き上がろうとした瞬間、
「動かないでください!安静にして下さい!」
「えっ?」
妖夢の勢いに驚いて、タカはそのまま固まった。
「えっと……何かありました?」
「何かありました、ではありません!」
「え?よく覚えてないんです。妖夢さんの木刀が当たる所から」
「そのまま意識を失ってたんです!」
「えっ?僕がですか?」
「タカさん以外に、他に誰がいるんですか!」
「すみません!そうですよね剣術の稽古中でしたもんね」
「謝らないでください!私が悪いんですから!」
「すみません!」
「だから謝らないでください!」
幽々子が楽しそうに笑っている。
「あらあら〜妖夢ちゃんったら〜」
「あの……僕、また何かしましたか?」
「何もしてません、私が少し本気になってしまいました」
「本気……?」
「タカさんの動きに驚いて、本気で打ってしまいました」
「でも僕は、覚えてないです……すみません……」
「またですか!」
「また……?」
妖夢の目に涙が溜まってきた。
「なんで……なんで、すぐ起きないんですか……!もう心配で…心配で……」
「すみません……」
「心配したんです……!また私が傷つけたって……!」
タカは言葉を失った。妖夢が布団をぎゅっと握る。
「私も気をつけます……」
「……はい」タカはゆっくり言った。「心配かけて、すみません」
「ずっと謝ってますねタカさん……私が悪いのに」
「すみません」
「もう……やめて下さい!」
「妖夢ちゃんったら〜もう2人とも仲良しねぇ〜」と幽々子。
「幽々子様やめて下さい!」
タカは困ったように笑った。
「でも、妖夢さん」
「はい」
「僕、まだ教えてほしいです。昨日、何が起きたのかも分かってません。だからこそちゃんと知りたいです。自分がどう動いたのか、どうして倒れたのか。それを知らないままだと、また誰かに心配かけると思うので」
妖夢はしばらく黙っていた。庭から桜の散る音が聞こえる気がした。
「分かりました」
「本当ですか?ありがとうございます」
「で!す!が!昨日より厳しくしますからね!」
「えっ!妖夢さん……」
「倒れた分も含めて本気で稽古しますからね!」
「それは少し違う気がします」
「何も!全然!違いません!」
「怖いです!どうか、御慈悲を下さい!妖夢先生!」
「先生と言うなら、ちゃんと従ってください!」
「はい……!」
「あら、立派な妖夢先生ね〜私も嬉しいわ〜」と幽々子が嬉しそうに言った。
「幽々子様まで、やめてください……」
タカが笑った。妖夢も、ほんの少しだけ笑った。春風が障子を揺らして、白玉楼の桜が静かに散っていった。
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## 【シーン9:博麗神社】
夕方、タカは博麗神社の石段を上っていた。
西の空が橙色に染まっていて、石段の端に桜の花びらが一枚引っかかっていた。体はくたくただ。肋骨はまだ少し違和感がある。でも足取りは悪くなかった。妖夢に剣を教えてもらえることになった。あの瞬間の動きの意味を、少しずつ知っていけるかもしれない。もっと強くなれるかもしれない。
そんなことを考えながら境内へ入ると、霊夢が腕を組んで立っていた。
「霊夢さん!ただいま帰りました!」
「おかえり〜」
声が妙に静かだった。タカは首を傾けた。
「で?」
「……で?なんですか?霊夢さん」
「私が頼んだものは、どうしたのかしら?」
「頼んだもの……?」
「卵」
「……」とタカは冷汗が一滴
「味噌」
「……」とタカは冷汗が2滴
「油揚げ」
「…………」とタカは冷汗が沢山
「団子」
「…………」とタカは表情がこわばり青ざめる
霊夢がにっこり笑った。さらにタカの顔から血の気が引いた。
「忘れました」
「へぇ〜良い度胸じゃない、居候の分際で〜」
「えぇ〜っとえ〜っと、妖夢さんと会って、そのまま白玉楼へ行って、修行して、倒れて、それで……」
「言い訳はいらないから!」
「全部、本当です」
「だからなに?」
「……霊夢さん……本当にすみませんでした!」
霊夢が大きくため息をついた。
「今晩の夕飯の材料と団子を買ってきなさ〜い!」
「……」
「早く!もう一回、人里!早く!」
「えぇっ!?今からですか?」
「走って行ってきなさい!10分以内ね!」
「は…はい!?」
「さっさとしなさいタカ!」
「はい!行ってきます!」
タカは慌てて石段を駆け下りていった。霊夢はその後ろ姿を見ながら、小さく笑った。
「まったく……タカは見てて飽きないわ」
夕日が境内を染めて、鈴がひとつ、風に揺れた。今日も博麗神社は、いつも通り騒がしかった。
いつもありがとうございます
ご感想や評価などして頂けたら幸いです
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