シスの亡霊と共和国軍人がいがみ合ったり助け合ったりする話   作:ひらつー

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第1話

遠い昔 はるかかなたの銀河系で……

 

エクセゴルの戦いから約100年後。新共和国は再興の道を歩んでいたが、それは決して平和的なものとは言えなかった。

 

二度と共和国を失わせまいと拡大路線を取り続ける軍部。議会を超えた力を持ち始める新通商連合。武力放棄を呼び掛ける分離主義者達。

 

これら派閥の対立は、レイ・スカイウォーカーの没後、さらに加速し、共和国の内部分裂は時間の問題かと思われた。

 

そんな中、アウター・リムにて哨戒任務中であった新共和国の小規模艦隊戦力が、ファイナルオーダーの残党に奇襲を受けるという事件が発生していた。

 

 

 若き新共和国軍人、アング・スノウ軍曹は沈没寸前の強襲揚陸艦の自室でチョコチップクッキーを頬張り、それをコーヒーで流し込むという作業に没頭していた。

 

 クッキーは私物として持ち込んでいたものだ。長期任務の際には、ちょっとだけ奮発してグレードの高いものを用意する。何もミスせずに一日を過ごせたら1枚食べて良いことにしているのだが、いまの暴食振りは、ファイター単機でスター・デストロイヤーを撃墜でもしていない限り許されるものではないだろう。

 

 それを証明するように、ノックもなしに部屋の扉が開き、非難めいた――というのはアングの被害妄想だろうが――声が飛び込んでくる。

 

「スノウ軍曹。非常事態デス」

 

「知ってる」

 

 部屋に入ってきたのはアングの、正確に言えばアングの所属している陸戦隊の秘書官であるドロイドだ。かつて使用されていたB1ドロイドの後継機ということだが、外見はほとんど変わっていない。細長いフレームで構成されたその頭部が間抜けな鳥のように見えたので、アングは彼のことをダックスと呼んでいた。

 

 アングは椅子に座ったまま振り返ると、コーヒーをさらに一口啜ってからうんざりだという風に肩を竦めて見せる。先ほどから断続的に船体が揺れていた。敵のターボレーザーが、アングの乗る艦の偏向シールドを削り取っているのだ。

 

 戦局は絶望的だった。まず、戦力が倍も違う。こちらは旗艦であるスター・クルーザーが1隻、アングの乗っている強襲揚陸艦が1隻。他はコルベット艦が何隻か。対して敵は、少なくともリサージェント級スター・デストロイヤーが3隻はいた。

 

「では、何故こんなところでお食事ヲ?」

 

「他に出来ることがあるか?」

 

 アングの自嘲にも似た呟きに、ダックスは真面目にいくつか提案を返してきた。

 

「スター・ファイターで出撃なさってハ?」

 

「名案だ。使えるファイターが残ってればね」

 

 現在、この船の艦載機は全て使い物にならなかった。ハイパードライブでこのアウター・リムに跳んだ直後、待ち伏せていた敵艦隊の攻撃を受けた際、よりにもよってその初撃が艦載機の発進口に直撃したからだ。気密が破れ、多くの整備用ドロイドとファイターが宇宙空間に放り出された。

 

 そもそも定例の哨戒任務だった為、大した数を積んでいなかったというのもある。オーダーの残党やその他帝国の軍閥が、密かに拠点を作りそうな条件を満たす惑星を探査するだけの予定だったのだ。

 

「デハ砲座について敵のファイターを墜としてくだサイ」

 

「優秀な専門の砲撃手がもうやってる。多勢に無勢、焼け石に水って感じだけど」

 

「司令部に救援を求めてハ?」

 

「ブリッジの連中がもう試した。敵さんはしっかり通信妨害を準備してたよ」

 

「家族に手紙を遺しておくトカ」

 

「僕は天涯孤独だ。知ってるだろ?」

 

「……どうにもなりませンカ?」

 

「ならないね。やけ食いでもするしかないよ」

 

 困ったように小首をかしげるダックスをよそに、アングは机に置いてあるクッキーの箱を指先で探った。感触は軽い。残りはそう多くはないだろう。

 

「そもそも僕は陸戦隊なんだ。敵拠点に降下して、君たちドロイドを指揮して戦うのが仕事。そりゃファイターも操縦できるけど専門のパイロットには劣るし、ブリッジに詰めてるのはきちんとした士官教育を受けた最精鋭だ。この状況で僕にやれることはあんまりないよ」

 

 100年余り昔のエクセゴルの戦いからこちら、新共和国が軍備を整える上で、特に問題になったのが人材不足だったという。ホズニアン事変で共和国軍は多大な犠牲を出した。レジスタンスが劇的な勝利を収めたとはいえ、そんなところに子供が就職させる親は少なかったというわけだ。徴兵制も検討されたが、少し前までは銀河中で帝国残党による人攫いが横行していたことを考えれば、それはあまりにもイメージが悪すぎた。

 

 そんなわけで、再編された共和国軍はドロイド偏重の構成となった。現在の共和国軍の基本ドクトリンは、少数の人間が多数のドロイドを指揮して戦闘を行うというものだ。この艦にしてみても、乗っているのは人間よりドロイドの方が多い。叩き上げの下士官に過ぎないアングに個室が与えられているのも、その恩恵のひとつだった。

 

「デモ、ドロイドの私はどうしたラ?」

 

 物を食べられないダックスが、狼狽えたように呟く。現在共和国軍で使用されているドロイドは個別に思考と判断が出来る仕様だが、それがたまにこうした人間臭さを生むことがあった。

 

「掃除でもしてたら? 身の回りの整理は大事だよ」

 

「分かりましタ。ピカピカにしてきマス」

 

 ウオオオと雄たけびを上げて退室していくダックスを見つめながら、アングは最後のチョコチップクッキーを口の中に放り込んだ。それをかみ砕きつつ、視線を机上の端末に向ける。

 

 そこに表示されているのは、アングの権限で閲覧できる様々な情報だった。この強襲艦について、この宙域について、敵の艦について。やけ食いしかできないと判断するまでに、アングが様々な思考を巡らせた痕跡である。

 

(まあ、起死回生の手段なんて、そうそう思いつくものでもないんだろうけどね……)

 

 諦念と共にコーヒーを飲み干す。あとはブリッジの連中に賭けるしかなかった。

 

 それと同時、緊迫した声音の艦内アナウンスが流れる。ブリッジに詰めている艦長の声だ。

 

『これより本艦は緊急ハイパードライブを行う。各員、衝撃に備えよ。繰り返す、これより本艦は――』 

 

「……駄目だったか」

 

 無理やりハイパードライブを行い、この場から脱出するというのはアングも考えた手だ。だが安全な経路の演算を行なわずにハイパスペースに突入するのは自殺行為だ。何もやらないよりはまし、という程度の策でしかない。

 

 優秀なブリッジの連中までもがそれを選択したということは、どうやら本当に救いようがない状況なのだろう。

 

 アングはため息を吐きながら、空になったマグカップをデスクの引き出しに入れて鍵をかけ、自らも固縛できるベッドに潜り込んだ。

 

 こうなっては、じたばた騒いでも仕方ない。それは軍に入隊するまで、ストリート・キッズとして人生の大半を生きてきたアングの人生哲学だった。即ち、現実を受け入れること。

 

 強襲艦がハイパードライブを起動する。生き残るよりも、艦が大破する確率の方がよっぽど高い。ハイパースペース中の『質量の影』による潮汐力で粉々になるか、弾き出されてそれをもたらす天体に直撃して粉々になるか。助かる確率は億にひとつもないだろう。

 

 そして数秒後、アングが考えていた通り、強襲揚陸艦『デクスターキッド』はとある惑星の地表に激突して大破し、その乗員は全員が死亡したのである。

 

 

『起きろ、マヌケめ』

 

 くぐもった声が、耳朶から侵入し、脳髄に染みわたってくる。

 

 そうしてアング・スノウは目を覚ました。

 

 初めに目に入ってきたのは、ボロボロになった私室の天井だ。パネルが外れ、亀裂の入った配管や千切れた配線がむき出しになっている。

 

 それを見て、アングは意識を失う直前の状況を思い出した。ファイナルオーダーの残党による待ち伏せと奇襲。そこから無茶なハイパードライブに突入し――

 

(助かった……のか?)

 

『助けてやったのだ。この俺様がな』

 

 再び声。

 

 アングはベッドから飛び起きようとした。だが上半身を起こしたところで耐えがたい頭痛に襲われ、呻きながら頭を抑える。そうしていないと、脳みそが爆発しそうな気がしたのだ。

 

 だが謎の声は、そんなアングの現状を慮るということはしないようだった。

 

『おい……感謝のひとつもしてみたらどうだ?』

 

「少し……黙ってくれ……」

 

『この俺様に何という言い草だ。命の恩人だぞ』 

 

 明確に苛立ちのようなものを見せながら、しかし一応はそこで声が途絶える。

 

 ベッドに腰かけた体勢で何度か深呼吸を繰り返し、どうにか頭痛がましになるのを待ってから、アングは目を開き、そろりと前を見た。

 

 果たして、荒れ果てた部屋の中、謎の声の主はアングを見下ろすようにしてそこにいた。フード付きの黒いローブを身に纏った、見覚えのない人物。少なくとも、この船のクルーではなかった。フードを目深に被り、ローブの前を閉じている為、どこかてるてる坊主のような印象を受ける。

 

 だが一番気にかかるのは、その人影がどうも半透明のように見えることだった。ホロ通信に用いられる立体映像のような、質量を感じない存在。

 

 幽霊。最初に思い浮かんだのはそんな単語だった。思わず本当に自分は生きているのか疑念が湧く。

 

「僕は……助かったのか?」

 

『繰り返すが、俺様が助けてやったのだ。偉大なる暗黒面の御業をもちいてな』

 

 尊大な態度で、謎の半透明ローブが胸を張って見せる。

 

「……君は?」

 

 アングの誰何に、半透明ローブはふっ、と鼻を鳴らすと、クイズを出す子供のように楽し気な声音で返してきた。

 

『最も偉大なシスの暗黒卿……そう言えば名乗らずとも分かろう』

 

「シーヴ・パルパティーン?」

 

『シー……誰だ?』

 

「パルパティーンだよ。帝国の皇帝で、ファイナルオーダーを率いた」

 

『知らん。俺様の知る帝国の皇帝で有名どころと言えばラグノスやサドウだが……』

 

「帝国の皇帝はパルパティーンだけだよ。彼一代限りで滅んだんだから」

 

『なんだと? そんな筈あるまい。我らシス帝国の歴史は――』

 

「ちょっと待って。シス帝国だって? 銀河帝国じゃなくて?」

 

 アングの制止を受けて、半透明ローブは少しの間、考え込んだ。

 

『……どうやら俺様はかなり長く眠っていたようだな。ならば我が名を知らずとも仕方あるまい』

 

 そんな風に納得すると、ばさりとローブを翻し、何やらポーズのようなものを取って見せた。

 

『しかと刻むがいい。我が名はダース・アービアス。偉大なるシスの暗黒卿の中でも最強のひとりだ』

 

 ふははは、と高笑いが響く。

 

 気持ちよさそうに相手――アービアスとやらが笑っている間に、アングは頭の中で情報を整理した。

 

 シス――その単語は知っている。といっても、アングの中では"悪い魔法使い"程度の意味合いだ。再興した新共和国に設立されたニュー・ジェダイ・オーダーは、英雄レイ・スカイウォーカーの功績や、パルパティーンの悪辣さなどを喧伝しているが、あまり真面目に聞いたことはなかった。

 

 そしてどうやら、かなりの長生きらしい。いや、長生きとは違うのだろうか。アングはアービアスの足元を見る。相変わらずその存在はホロのように半透明だったが、立体映像の出力装置のようなものは見当たらない。

 

 そして、最も大切なことは、

 

「……あんたが僕を助けてくれたって?」

 

『その通りだ。この船が墜落した時、確かに貴様は一度死んだ。他の連中と同じようにな。だが貴様だけはその肉体が完全な死を迎える寸前に、俺様が魂を引き戻してやったのだ』

 

「そうなのか、ありがとう」

 

『……貴様、死んだのを蘇らせたと聞いて、よくもまあそうすんなりと信じられるな』

 

「この状況で僕だけ偶然助かりました、なんて言われた方が信じられないよ」

 

 やはり船はハイパードライブに失敗して、どこかの惑星に墜落したのだろう。よくよく見れば、部屋の壁に酷い亀裂が走り、そこから日の光が差し込んでいる。恒星間航行に堪える軍用艦がこうも無残になるほどの衝撃だったのなら、乗組員は誰一人として助からない筈だ。

 

『……しかしなあ、魂に干渉するのは凄まじい高等技術なのだぞ。多少は驚いて貰わんと張り合いというものが……』

 

 ぶつぶつと何やら不貞腐れたように呟いているアービアスに、アングは構わず質問をぶつけた。

 

「それで、アービアス卿。僕だけ助けて貰えた理由は?」

 

『ん? ああ、まあ最低限の才能があったのが貴様だけだったというのもあるが……それとは別に、助けた理由はもちろんあるとも』

 

 ローブの奥の表情は相変わらず見えなかったが、にやりと笑みを浮かべたのが雰囲気で分かった。

 

『見ての通り、俺様は肉体を失っていてな。この状態では大した力も使えんのだ』

 

「人間を生き返らせるのは"大した"ことだと思うけど」

 

『それは一時的に貴様の体を使ったからだ。フォースと通じるにはミディ=クロリアンが必要である以上、いかな俺様といえども肉体が無ければ無力に等しい……』

 

 幽霊みたいだとは思っていたが、本当に死んでいたらしい。アービアスが口惜しそうに半透明の手を握りしめる――だがそれも一瞬のことだった。握りしめていた手をゆっくりと開くと、握手でも求めるかのようにこちらに差し出してくる。

 

 そしてダース・アービアスは、アングを助けた目的を明かした。

 

『そういうわけで、俺様にその肉体を明け渡すがいい』

 

「嫌だよ」

 

 沈黙。

 

 時間が静止したかのように、しばらくの間、二人が動きを失う。

 

『……なんで?』

 

「むしろどうしてそんな簡単に承諾を得られると思ったわけ?」

 

 アングの問いに、アービアスは激高した。地団駄を踏みながら――なんの振動も起きなかったが――絶叫する。

 

『俺様の次の肉体として選ばれるのはとても栄誉なことなのだぞ! 今までに断ってくれた奴などいなかったわ!』

 

「そんなこと言われてもな……あんたの信奉者はそうだったのかもしれないけど」

 

『なあ、良いではないか。この偉大な暗黒卿が貴様の体を使ってやろうというのだ。貴様の名は――いや、名前は俺様のものを使うから――貴様の顔は必ずや銀河を席巻しよう』

 

「惹かれないなぁ」

 

 猫なで声で説得しようとしてくるアービアスをジト目で見ながら、アングはふと思ったことをそのまま口に出した。

 

「無理やり乗っ取るとかは出来ないわけだ」

 

『貴様の中に流れているフォースが防壁になるからな。本来、肉体が滅べば生けるフォースは宇宙のフォースと合流するが、俺様は暗黒面の力で宇宙のフォースの一部を屈服させ、生けるフォースの流れを保存し、それを転写することで――』

 

 何やら専門的な話をつらつらと語ってくるが、アングはそれを聞いてるふりをしながらすべて聞き流した。この手の人種は、気持ちよく喋り始めたら喋り終えるまで待っていた方が結果的に早く済む。

 

『――というわけで、俺様はこの星に次の依り代が来るのを待っていたというわけだ。理解したか?』

 

「無理やり乗っ取るのは無理だってことは理解したよ。でも、さっきは一時的に肉体を使ったって言ってなかった?」

 

『貴様のフォースが弱まっていたからな』

 

「そのまま死ぬまで待ってればよかったんじゃないの?」

 

『完全な死体では駄目なのだ。共生関係にあるミディ=クロリアンも死んでしまうだろう。だからまずは貴様の肉体を回復させたのだが、そうなるとフォースとの繋がりもまた回復する』

 

 長々と説明してくれた後(どうやら説教の類が好きなようだった)、アービアスは意気消沈したように肩を落とした。

 

『結論から言えば、貴様が自分の意思で肉体を明け渡してくれないとならんわけだ。なあ、本当に駄目か? 命の恩人の頼みだぞ?』

 

「助けてくれたことには感謝するけど、それで肉体を奪われるっていうんじゃな。悪いけど、他を当たってくれ。幽霊なら別の星にだっていけるんじゃないのか?」

 

『無理だ。俺様は死んだ場所からそう遠くは離れられん……いや、待てよ』

 

 そう言って、アービアスは無造作にアングの肩に手を置こうとした。少なくともアングにはそう見えたし、だから大した危機感も抱かなかったのだが――さすがにアービアスの手が肩を貫通して胸に突き刺さってはそうも言っていられなかった。

 

「おい!」

 

『……うむ。やはりな。一時とはいえ肉体を使ったことで、ミディ=クロリアンが俺様のフォースとも同調している……これなら貴様の赴くところに俺様も行くことが出来よう』

 

 胸からアービアスの腕が引き抜かれる。アングは何度も胸や肩を触って、異常が無いことを確かめながら、皮肉気に口元を歪ませた。

 

「地縛霊から背後霊にランクアップしたのか」

 

『その不遜な物言いも今は許そう……取引だ、小僧。俺様をここから連れていけ。広大な銀河の中には、未だシスの偉大さを知っている者もいよう。代わりの肉体が見つかるまで、俺様の足となるのだ』

 

「他の奴を犠牲にしろって?」

 

『そやつは自らの意思で俺様に肉体を譲るのだ。問題はあるまい?』

 

「……それはまあ、確かにそうかも」

 

『理解が早くて助かる。それに、貴様に断るという選択肢はないぞ。どうやってこの惑星から脱出するつもりだ?』

 

「それは――」

 

 言いよどむ。きちんと検分したわけではないが、自分の乗っているこの強襲揚陸艦が再び宇宙に飛び上がれるとは思えない。

 

「あんたには何かプランがあるのか、アービアス卿?」

 

『この惑星の地下に、俺様の船がある。貴様が頭を垂れて乞うのなら、起動キーを教えてやっても良いのだがな?』

 

「……オーケイ、分かった。取引成立だ」

 

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