シスの亡霊と共和国軍人がいがみ合ったり助け合ったりする話   作:ひらつー

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第2話

 

 ろくに動かないドアを無理矢理こじ開け、アングはどうにか船から脱出することに成功していた。汗ばむ肌を、この惑星の大気が撫でて冷ましてくれる。

 

 背後を振り返れば、アングの乗っていた艦の損壊具合は酷い有様だった。亀裂、剥離、圧壊。無事である箇所はひとつもない。

 

 それでも何となく原型を保っているのは、やはりブリッジの連中は優秀だったということなのだろう。ブースターを噴かした痕跡が地面に残っていた。何とか落下速度を殺して、不時着させようとしたことが、木々の倒れ方から読み取れる。彼らは最後まで艦の制御を行おうとしていたのだ。

 

 その努力がなければ、墜落の衝撃でリアクターが吹き飛んでいたかも知れない。アングの肉体も蒸発してしまっていただろう。さしもの暗黒卿も、ばらばらになった肉体を元通りにすることは出来ないらしい。

 

 アングは自分を救ってくれた仲間達に、僅かな時間、目を瞑って冥福を祈った。

 

『……なにやら俺様の時と態度が随分違うようだが』

 

 口を尖らせて、アングに取り憑いているシスの亡霊が不服そうに漏らす。

 

「あんたは取り憑く為の体が目当てで、彼らは軍人としての責務を果たした。私欲と義務。果たした時、他者に尊敬されるのがどちらかなんて、子供でも分かるだろ?」

 

『下らん価値観だ……まあ、俺様の依り代が無事であったことには感謝してやるが』

 

「おい、僕の身体は渡さないぞ」

 

『分かっておる、分かっておる。俺様は貴様に取り憑き、自らの意思で肉体を差し出す者を探そう……とはいえ、心変わりはいつでも歓迎するぞ?』

 

 にやにやと笑いながらアービアスがそう宣う。相変わらず顔はフードの奥に隠れていたが、どういう表情を浮かべているかは雰囲気で分かった。アービアスが分かりやすい奴なのか、それとも取り憑かれている影響なのかは不明だ。

 

 祈りを終えたアングはうるさそうに手を払う仕草をしながら、アービアスに向き直った。

 

「それより、あんたの船とやらに案内してくれよ。脱出の計画を立てないと」

 

『良かろう。ついてくるが良い』

 

 アービアスは鷹揚に頷くと、前に立って歩き出した。この亡霊はアングに取り憑いているのだが、ある程度なら離れて行動できるらしい。

 

 噂に聞くキャッシークほどではないだろうが、周囲には植物が野放図に生い茂っていた。アングの乗ってきた艦は森の中に不時着したようだが、この分ならどこに墜落しようが森の中であることに変わりは無かっただろう。

 

「緑が豊かな星だな」

 

『俺様が眠りに就く前はこうではなかったのだがな。どうやらかなり長い間眠っていたようだ』

 

 先を行くアービアスが、律儀に木の根を飛び越えながら呟く。霊体が枝にぶつかる筈もないので、癖なのだろうが。

 

『惑星エバーラスト。俺様が支配していた星だ』

 

「あんた、王様だったのか?」

 

『そう言っても差し支えはあるまい』

 

 自慢げに胸を張ってアービアスが続ける。

 

『数百人のシス種族と共にこの星へ降り立ち、都市を築きあげた――下らぬ政は連中に任せていたがな』

 

「? あんたが差配をしていたんじゃないのか」

 

『俺様の目的は深遠なる暗黒面のフォースの解明だ。この星を開拓したのも、完結した環境で研究に打ち込まんがため。共同体を作ったのは手段であって目的ではない』

 

 つまり好き勝手するために国を作ったということらしい。おまけに面倒な部分は丸投げして。アービアスがふんぞり返ってあれこれと命令している姿は容易く想像できた。

 

「よく反逆されなかったな」

 

『偉大な支配者とはそういうものだ。連中は俺様のことを神の如く崇拝していた。依り代に選ばれた者など、誉れの極みと感極まってむせび泣いていたものだ……貴様とは違ってな』

 

 アービアスの当て擦るような台詞を、アングは無視した。別の話題にすり替える。

 

「死んでも次の身体に乗り移れて、反乱も起きなかったって言うなら、なんでそんな状態になってるんだ?」

 

『うむ、忘れもしない。あれは……何度目かは忘れたが、俺様が次の依り代に魂を移そうとした時のことだ』

 

 アービアスが蕩々と説明を始める。

 

 曰く、この星において、アービアスが次の依り代に魂を移すというのは一大イベントだったそうだ。酒食が振る舞われ、音楽が鳴り響く。巨大な儀式場に集まった民の熱狂は最高潮に達し、その中心で今まさに儀式が行われるというその時――軌道上からの砲撃で全滅したらしい。

 

『――おそらくは他のシスどもだろう……俺様が着々と"完全なる不死"に近づいていることを察し、それを阻もうとしたわけだ』

 

「シス同士で争っていたのか?」

 

『不思議か?』

 

「……いや、そもそもシスなんてパルパティーンくらいしか知らなかったからな」

 

 アングはあまり歴史に詳しくなかった。ストリートで生きていた頃は、学びの機会など当然存在しない。軍に入隊した後は座学もあったが、ブラスターの撃ち方などに比べれば、割かれた時間は極短いものだ。ジェダイ・オーダーの出資で作られたという、旧共和国の衰退からファイナル・オーダー崩壊までを描いたという連作ホロ・ムービーも見たことがない。

 

 銀河帝国最初にして最後の皇帝であったパルパティーンが"シス"と呼ばれるジェダイの敵であったことは知っているが、それだけだ。シスの性質や教義などについては興味を持ったことすらなかった。

 

「しかし、衛星軌道から惑星表面を焼き払ったのか……どのくらい昔の話かは分からないけど、ジストン級のスーパーレーザーみたいなものが当時から既にあったんだな」

 

『ジストン級とやらは知らぬが、シスの力をもってすれば星を焼き払うなど容易いことよ』

 

「焼かれた側が言う台詞か?」

 

『ふん。こうして生き残っている以上、俺様の勝ちだ。どうやら現代において、シスの知名度はかなり小さくなっているようだからな……俺様を焼いた連中も、あの後没したのであろう』

 

 そう言いながらも、アービアスの声音にはやや苛立ちが混じっていた。歩みを早めた暗黒卿に、アングもまた歩調を合わせる。

 

 そうして森の中を15分も歩いただろうか。

 

「……行き止まりだぞ」

 

 目の間に現れたのは、そびえたつ断崖だった。あるいは巨大な岩だろうか。表面は完全に苔に覆われ、他にもツタやシダなどが生い茂っている。

 

 迂回する様子もなかった為、まっすぐ目的地に向かっていると思っていたのだが。

 

『いや、目的地はここだ。おお、麗しき我が居城……当時の面影はあまり残っていないが、それでも懐かしいものよ』

 

 両手を掲げ、芝居がかった声を上げるアービアス。

 

 試しに爪先で壁面のコケを削り落とすと、成形された石の肌が顔を見せる。周りを覆う植物のせいで形は分かりづらいが、窓のような形状の穴(あるいはその痕跡)も認められた。

 

「随分と大きな家に住んでいたんだな」

 

『支配者に相応しき住まいよ。貴様のような小人物には一生縁は無かろうがな。どうだ、羨ましかろう』

 

「今の官舎で十分だよ。それより、地下ドックとやらはこの中か? ……どうやって入るんだ?」

 

『そこに入り口があるだろう』

 

「……入り口っていうのは普通、ツタで塞がれてないんだよ」

 

 ため息をつきながら、アングは軍支給のナイフを抜いた。

 

 

「これは……凄いな」

 

 アングは目の前に広がる光景を見て素直にそう呟いた。

 

 地下へ続く階段は瓦礫で埋まっていたため、またも肉体労働をすることになったが、そのかいあってどうにか地下ドックにたどり着くことが出来ていた。

 

 実際の所、緊急脱出用の隠し通路と船だったのだろう。ドックと言うには狭すぎるし、船も一隻しか存在しなかった。

 

 そこにあったのはアングの知らない様式の小型艦艇だ。スターファイターより一回りほど大きい。恒星の存在しない宇宙空間のような、光を飲み込む漆黒の装甲。流線型のフォルムは流麗な仕上がりで、その機動性の高さを言外に訴えてくるような出来映えだ。

 

 おそらく数百年、あるいは数千年前はそんな素晴らしい船だったのだろう。

 

「あんたに相応しい船だよ、アービアス」

 

『無礼だぞ。卿を付けろ!』

 

「あんたの魔法でこのガラクタを飛べるようにしてくれたらな」

 

『……黙れ』

 

 苛立ち混じりの声で、目の前の"船だった物体"の持ち主が短く呟く。

 

 船はボロボロだった。ボディはあちこち腐食しており、接地用の脚がへし折れて機体が大きく傾いでいる。リアクターについては完全に死んでおり、宇宙に飛び出すどころか大気圏内を移動することも難しいだろう。

 

 マグライト片手に、苦労して真っ暗な階段と通路を進んできた先にあったものがこれだ――ただし、今は視界に困ることはない。船が飛び立つ時に開くようになっていた隔壁が壊れ、外の光が差し込んでいるからだ。

 

 ドック自体も経年劣化であちこち壊れていた。壁際に並べられたワークベンチの上には、修理用の工具であったらしい物体が錆に覆われた状態で転がっている。

 

 ここまでの苦労が水の泡になったアングは、汚れた服をこれ見よがしに払いながら暗黒卿を問い詰めた。

 

「自分の船がこんな状態だって知らなかったのか?」

 

『……俺様が眠りにつく前はこうではなかった』

 

「何百年寝てたんだよ」

 

『肉体を失ってからひとりで数十年もいたのだぞ。才ある者が来るまで意識を凍結させることを選択したのも当然だろう!』

 

 アービアスの叫びを余所に、アングは思考を巡らした。正直な話、上の建物の荒れ具合から、本当に船が無事なのかという懸念は抱いていたのだ。

 

 この船を修理できるか――ノーだ。装甲の穴を塞ぐ程度ならともかく、リアクターが死んでいてはどうにもならない。

 

 アングの乗ってきた強襲揚陸艦はどうか――これもノー。船の規模が大きすぎる。点検だけでも数年掛かり。修理に至ってはアングの寿命が尽きる前に終わるかどうかと言うところだ。

 

「救援を待つか……? いや、本来の哨戒ルートから外れている以上、救援が来る確率は……」

 

『救難信号は出せんのか?』

 

「難しいな。連中が通信妨害をしていた以上、信号を送っても先にそれを拾うのは――」

 

 思考を纏めるための独り言に割り込んできたアービアスの言葉に、アングが否定を被せようとして。

 

「……いや、そうか。その手があったな」

 

『何か思いついたのか?』

 

 問いかけられて、アングはもう一度頭の中で算盤を弾いてから頷いて見せた。

 

「ああ。僕たちを撃墜した連中を呼び寄せて、船を奪う」

 

『ほう?』

 

 興が乗ったとでも言うように、アービアスの言葉尻が跳ねた。

 

『なかなか無謀なプランだが、成立する目はあるのか?』

 

「連中は海賊の類いじゃなかった。あの攻撃は綿密に計画されたものだろう。けど、僕たちはただの哨戒任務で、貴重な物資や人物を運んでいたわけじゃない」

 

『損害を与えることが目的だったという訳か』

 

「ああ。だからこそ、逃げた僕らのことも可能なら叩きたい筈だ。救難信号を飛ばして、連中がそれをキャッチすれば追撃の為の戦力を送ってくるはず」

 

『敵が救難信号を拾ってくれる可能性は?』

 

「ブリッジの連中は跳躍距離を最小に設定した筈だ。短い距離を跳ぶ方が、何かにぶつかる確率は低くなるからね。敵もそれを知っているだろうから、予想範囲内にセンサーを向けていると思う」

 

「ふむ。理屈は通るようだが……最大の問題はその後だな」

 

 アービアスの言葉はもっともだ。

 

 敵の艦隊司令官が救難信号を感知した場合、どう動くか――そうそう大艦隊が送られてくると言うことはまず有り得ない。連中も戦力に余裕があるわけではない筈だからだ。

 

 そうなると、アングの搭乗していた強襲艦を叩きのめせるだけの戦力に加えて、捜索・掃討用の揚陸艦と地上戦力。

 

 敵がこの星の軌道上にまで来れば、そこから墜落した強襲艦の状態は分かる。まずは揚陸艦だけを大気圏内に降下させ索敵を行うはずだ。

 

 どの程度の兵力がそれを行うかは分からない。数百人規模だったら流石にどうにもならないだろう。だが数十人程度であればやりようはある。それでも勝率が高いとは決して言えないが。

 

「結局の所、やってみなくちゃ分からないさ。でも、やらなきゃこの星であんたと死ぬまで暮らす羽目になるだろ?」

 

『生意気な小僧め……だがその意気はよし。腰抜けではないようだな』

 

 うむうむと頷く暗黒卿。その様子を見て、アングはわざとらしく首を傾げて見せた。

 

「ところで、あんたの船があてにならなかったんだから、他の星に連れて行くって約束は御破算だよな?」

 

 アービアスの動きがぴたりと止まる。気づいていなかったわけではあるまい。なし崩し的に着いてくるつもりだったのだろう。

 

「まさか偉大なる暗黒卿殿が、約束も果たさずにただ乗りなんてことはしないだろう?」

 

『……まあ、待て。確かに船の状態に少々問題があったことは認めよう』

 

「少々ね」

 

『だが代わりに、そうさな……稀少な宝をくれてやろう』

 

 そう言ってアービアスは、壁際のワークベンチのひとつを指さした。基本的には工具ばかりが置かれているが、ひとつだけ、装飾の施された箱が紛れ込んでいる。留め金は腐食して動かなかったため、アングは再びナイフを取り出し、隙間に刃を入れてこじ開けた。

 

 中に入っていたのは金属製の筒だった。箱に入れられていたせいか、腐食は少ない。滑り止めをかねた網目状の装飾が施されていおり、おそらく振るわれることを想定しているのだろうが、棍棒にしては長さが物足りなかった。

 

『勿体なくも、俺様の予備のライトセーバーだ。これをくれてやろう』

 

「ライトセーバー……ジェダイの武器か」

 

 その武器のことはアングも知っていた。軍の式典などに招かれたジェダイ・マスターが、似たようなものを腰にぶら下げているのを見たことがある。とはいえ、

 

「さすがにこれだけの年月が経ってると、パワーセルも放電し切ってるだろ」

 

 アングが箱から取り出したライトセーバーの起動スイッチを押し込んでも、うんともすんとも言わない。動力切れか、配線の不備か、果てまたその複合か。ともかく武器としてはほとんど役立たずだった。

 

『仮に動作しても、フォースを持たぬ者にとってはさほど有用な武器ではないわ。だが武器としての価値はともかく、財としてはどうだ? 内蔵されたカイバー・クリスタルは稀少なものだぞ?』

 

「宇宙の果てで遭難してる時にクレジットを貰ってもな……」

 

『……ではどうしろと?』

 

 アービアスが不貞腐れたように呟く。

 

 実際の所、アングにお祓いの類いは出来ないので、この亡霊が着いてこようとしたらどうにも出来なかった。だが自ら"卿"などと名乗る自意識の高さである。他人に頭を下げるなどということは、そうそう出来ないだろう。

 

 だからアングは、逃げ道を用意してさしあげることにした。別に優しさや思いやりの類いではない。生存の確率を少しでも上げるための準備のひとつだ。

 

「そこで、だ。代わりに協力して欲しいことがあるんだけど……」

 

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