今回は、『BanG_Dream!×ポケモン』の短編(因みにムジカメインてす)。
若し御時間がありましたら、お手柔らかに御願い致します。
今だけは、素顔の儘で
『如何なさったんですか? 御父様?』
『祥子、誕生日おめでとう。 それは私からお前へのプレゼントだよ』
10歳の誕生日の日、私が御父様から渡されたのは、1つのモンスターボール。
『開けて御覧なさい』
『はい……』
御母様に促され、私はモンスターボールを機能させた。
『ニャア~!』
すると中から出て来たのは、緑色の猫の様な姿のポケモンーーニャオハでした。
『わぁぁ……! ニャオハですわ! ……あら?』
私は直ぐにそのニャオハを見て、ある事に気付く。
私自身の知る限り、通常のニャオハは耳と顔の模様、首回りの毛並みが明るい緑色をしていた筈なのに、今目の前にいる子はその部分が深緑色をおり、更に瞳の色も紫色をしていた。
『驚いただろう? その子は珍しい『色違い』でね、知り合いにお前の事を話したら、その子を渡してくれたんだ』
『貴女ももうポケモンを持てる歳になる頃だから、御父様とは『貴女の10歳の誕生日には、ポケモンにしましょう』って決めていたのよ』
私は両親の話を聞きながらも、視線をチラチラとニャオハの方へ向けている。
『嫌だったかしら?』
『内緒にしていた事は謝るよ。 若し気に入らなかったら、改めてお前の気持ちを聞いた上で決めるけど……』
申し訳無さそうな様子の両親でしたけど、私はそんな事一才気になどしてませんでした。
『いいえ。 御父様、御母様。 有り難う御座います! 寧ろ、この様な可愛い贈り物を前にして、『気に入らない』何て事など、ある訳がありませんわ!』
私は色違いのニャオハに向き合い、改めて語り掛ける。
『初めまして! 私、豊川祥子と申しますわ。 今日から私が貴女のトレーナーです。 宜しく御願い致しますね、ニャオハ!』
『……! ニャア!』
ニャオハは私の挨拶に、元気で朗らかな鳴き声と笑顔で返し、私は抱きしめる。
その年の誕生日は、生涯忘れる事の無い日となった。
☆☆
「……懐かしい夢ですね」
目を覚ました私は、ふと先程見ていた夢に対して小さく呟く。
あれから5年。
あの頃の暖かくて優しかった家族の姿は、もう何処にも無い。
優しかった御父様は、今や酒浸りの日々を送るだけの『堕落したクソ親父』と化し、御母様はもういなくなってしまった。
今住んでいるこの家は、私にとって『あの頃の楽しかった時間はもう無い。 お前達は社会のゴミにすら劣る存在だ』と言われている様に感じられて嫌いだった。
「ニャ……」
声の方に振り向くと、其処にはニャオハーー否、今は進化してマスカーニャとなったパートナーの姿があった。
「マスカーニャ、あのクソ親父は?」
私の問い掛けに、マスカーニャは無言で首を横に振る。
「そう……」
私は一言だけ言って、机の上に置かれた『ステージ用の仮面』を手に取って暫し眺める。
その時、スマホが鳴っているのに気付き、確認して見ると、初華からのメッセージで、内容を読んだ私は即決で彼女のメッセージに返信して、立ち上がる。
「行きますわよ。 マスカーニャ」
私の呼び掛けに、マスカーニャは近付く。
何時もならモンスターボールに戻す所だが、今日はそんな気持ちにはなれず、言葉を続ける。
「マスカーニャ。 今日は久し振りに、外の空気を吸いながら一緒に行きましょうか?」
「……ニャア!」
マスカーニャは初めて出会った頃の様な笑みを浮かべて、私の申し出に応じた。
そして身支度を済ませ、私はマスカーニャと共に外へ出る。
道中脳裏に過ったのは、この前見た『あの人達』ーー『MyGO!!!!!』の皆さんの先日のライブの一件。
ライブの最中に、柄の悪い高校生が自身のポケモンと共に彼女達に突っかかり、それをボーカル担当で私と嘗てバンドをした少女ーー燈さんが自身のポケモンであるポッチャマと共に立ち向かった。
相手のポケモンであるトロッゴンの猛攻と相手からの罵倒に、両者は折れそうになるも仲間の声を受けて立ち上がり、それに応える様に燈さんのポッチャマはポッタイシへと進化しました。
「ポッタイシ! バブル光線!」
「ポッーターイ!」
「トロオオーー!?」
「トロッゴン!」
そして見事に逆転勝ちをし、ライブの方も成功させた。
あの様子を見た私の心中には、安堵と嫉妬の感情が入り混じった状態だった。
私はそんな自身の惨めさを振り払う様に、ライブ終了と同時に去った。
「ニャア?」
ふと我に戻って隣を見ると、其処には心配そうな様子で此方を見るマスカーニャがいた。
「……情け無い所を見せてしまったわね」
私は振り払う様に、ムジカのメンバー達のいるライブハウスへ早足で向かって言った。
☆☆
「マスカーニャ。 トリックフラワーですわ」
「ニャアアアーー!」
「グマァ……!」
「タチフサグマ!」
マスカーニャの放った止めの一撃が炸裂し、相手のタチフサグマはそのまま崩れ落ちた。
「タチフサグマ、戦闘不能! マスカーニャの勝ち! よって勝者、豊川祥子!」
「スッゴ~い! マスカーニャ1体で3タテだよ!」
他のムジカのメンバーと共に私の試合を観戦していたアモーリス事にゃむさんが、軽口を叩く。
「……オブリビオニス、お疲れ」
「ええ……」
ドロリス事初華が労いの言葉を掛け、其れに軽く受け答えをして控え室の方に向かった私は、緊張が解けた事もあって一息付く。
「ニャア……」
「……マスカーニャ、私はこんな所で満足する気は無いわ。 唯我武者羅に叶えたい願いの為しか進む事しか出来ない……こんな不器用な私に、これからも付いて来てくれるかしら?」
「……ニャア」
マスカーニャは迷う事無く私に寄り添い、肯定の意志を示した。
「……有り難う、マスカーニャ」
私は、取り外した仮面を見つめる。
そう。
私も結局、自分の為にしか行動出来ない不器用で愚かな『大人に成り切れない子供』。
でも嫌われ、傷付く覚悟はもう出来ている。
その為に、私は足掻きながら突き進んで行く。
でも今だけは、
素顔の儘でいさせて。
溢れそうな想いを抑える事を放棄した私は、気の済むまで静かに泣いたのだった。
此処まで読んでくれて、誠に有難う御座いました。