これは、僕がまだイーブイだった時の話だ。
僕は、人の姿をしたイーブイとして生まれた。
野生のポケモンは僕を仲間と認めず、 人間は僕を化け物のような目で見た。
僕には帰る場所がなかった。 名前を呼んでくれる誰かもいなかった。
そうやってーー。
ずっと1人で生きていた。
その日も僕は森を一人で歩いていた。
すると突然。
「ギシャアア!!」
フシデの群れが現れた。
人の姿をした僕を縄張りに入り込んだ敵だと思ったのだろう。
「はぁっ……!はぁっ……!」
必死に逃げる。
でも僕は足が速くないから。
怒らせてしまったフシデたちは、 どんどん距離を詰めてくる。
「ぁ……」
もう、無理だ。
そう思ったーー。
その時だった。
「リオ!"メタルクロー"!!」
木々をかき分けて、
僕と同じ背丈の2人の少年と少女が立っていた。
少女がフシデの群れへ突撃して、
迫る群れを抑え込んだ。
「......!!」
「君、立てる?」
僕は思わず後ずさる。
「ひっ……」
人間は怖い存在だと、
そう思っていたから。
少年は何も言わず、 差し出した手をゆっくり下ろした。
「ごめん。」
「怖がらせちゃったね。」
彼は僕に優しく微笑んだ。
「もう、大丈夫だから。」
振り向き。少女の隣へ並び立つ。
「リオ!フシデの群れを、払い除けるよ!」
「もちろんです!主!!」
呼応するように少女も構えた。
「....あ....。」
その後ろ姿は。そしてその並び立つ姿が。
言葉を失うほどかっこよかった。
それが僕とご主人たちとの出会いだった。
僕はこの出会いを手放したくなくて、
彼らについて行くことにした。
居場所のなかった僕を、2人は快く受け入れてくれた。
「主の言うことは、きちんと守ってくださいね。」
「.....どうして、リオちゃんは主って呼んでるの?」
「....彼が。私にとってのご主人だからです。」
「ご主人?」
「そうです。私の命に変えても守りたい。
そんな大切な人....。」
「!!!」
命に代えても守る。
そんな人なんだ。
……いいなぁ。
僕も。
そんな人が欲しかったから。
「そ、それじゃあ!僕も....。」
「ご主人って呼ぶよ!!」
「!!そうですか.....。」
「では、一緒に主を守りましょう。」
そうしてご主人と過ごすようになったある日。
僕は、ご主人の部屋にあった「ポケモン進化図鑑」と書かれた本に目が止まった。
「ご主人!この本、読んでもいい?」
「あー。大丈夫だよ。でも、その本は借り物だから汚さないでよー?」
「わかった!!」
本はあまり読まんだことのない僕だけど。
なぜか無性にその本が気になった。
本を捲ると書かれていたのは、色々なポケモンと"そのポケモンの進化"についてだった。
そしてページを巡って行く中でふと、目が止まる。
「.....イーブイの....進化!」
そこにはイーブイから進化する多彩なポケモンのイラストや説明が書かれていた。
ふと、後ろから声をかけられる。
「んー?もしかしてイーブイ、自分の進化に興味あるの?」
振り返ると、本を覗くご主人がいた。
「!!そ、そうなの!これって僕の進化形だよね!」
「そうだね。いつかイーブイも進化すると思うよ。」
「うわー!どれになれるのかなぁ!ご主人!この進化とかどう!エーフィだって!」
本に書かれた桃色のポケモン。
エーフィを指さして、ご主人の顔を見た。
「エーフィか、いいね!」
ご主人が本を指差す。
「ここに書いてあるけど。」
「エーフィとブラッキーは、トレーナーとの絆が深まると進化するんだよ。」
「!!!」
"絆が深まると進化する"
その一文だけが、 何度も頭の中で繰り返された。
本へと向き直る。
先ほどよりも、エーフィとブラッキーが輝いて見えた。
「じゃあ!僕はご主人と、もっともーっと仲良くなって!エーフィかブラッキーに進化する!!」
「だから....その時は僕の側にずっといてね!」
「わかったよ。楽しみにしてる!」
ご主人の手が僕の頭を撫でる。
ずっとひとりぼっちだった僕は。
この時初めてーーー。
なりたいものを見つけた。
それから少しだけ日が経ち冬。
その日僕とご主人は2人で山へ遊びに出掛けていた。
子供達だけで山へ行くのは危険かもしれない。
けれど、その時すでに僕たちはそこら辺の
野生のポケモンには負けないほど強くなっていた。
だから、山へ行くのも怖くはなかった。
ご主人と山へ行き探索すると色々なものが見れたり、採れたりする。
「ご主人見て!!これ、オボンの実だよ!
一緒に別けよう!」
美味しい木の実や
「これ!確か僕がブースターに進化する炎の石だよね!思ってたより綺麗だね!」
綺麗な石も。
「ご主人!あそこまで競走しよ!」
ご主人の背中を追いかける。
それだけで、胸が弾んだ。
こうやって笑い合えているのが嬉しくて仕方なかった。だから気づかなかった....。
空が、雲が暗くなっていくことに。
僕たちは油断していた。
山で危険なのはポケモンだけじゃないってことを。
「.....はぁ、はぁ...!」
「ご主人!大丈夫!?」
それは突然起こった。
突然の豪雨。
それも、冬の山に。
僕たちは近くにあった洞窟へ逃げ込んだ。
だけど....それまでに雨に打たれすぎた。
僕たちはびしょびしょに濡れていた。
雨の次に僕たちを襲ったのは、
凍てつくような寒さだった。
元がポケモンの僕の体は普通の人より頑丈だ。
だけど....人間のご主人には、その寒さが致命的だった。
ご主人は見るからに震えていて。
今まで見たことがないほど弱っていた。
「ご主人......。よ、洋服脱いで!」
冬の洋服だ。当然長袖。
脱がせるのに苦労しながらも、
なんとか濡れた上着を脱がせた。
それでも、ご主人の震えが止まらない。
「イー....ブイ。大丈夫....だから....。」
大丈夫なわけないのに...
「ご主人!!」
僕がくっついて暖を取ろうとする。
でも、濡れた僕の体では体温を奪うばかりだった。
途方に暮れた。
もうわからない。
僕にはどうすることも。
ふと、
ご主人の鞄が見えた。
....そうだ。
無我夢中で鞄を開け、中から引っ張り出したのは....
炎の石。
僕は知っている。
僕の進化形。
これを使えば僕はブースターに....。
炎タイプのブースターなら....。
気づくと。
炎の石を握る手が震えていた。
....違う。
僕は......ご主人と、もっと仲良くなって.....。
エーフィやブラッキーに.....。
そうすれば.....。
ご主人の隣にずっといられる....。
でも、この石を使えば、
エーフィにもブラッキーにもなれない。
ご主人の方を見た。
唇が少し青ざめ。
もはや体の震えも静まりつつあった。
頭の中を巡る。
今日、いや、今日だけじゃない。
いつも一緒に遊んでくれた。笑ってくれた。
そして.....僕を救ってくれたご主人。
「そっか......。」
エーフィになれなくてもいい。
ブラッキーになれなくてもいい。
僕が本当に怖いのは.....。
ご主人を失うことなんだ。
だったら僕は....。
ご主人を救えるのならーーー。
僕はブースターになる。
炎の石が眩く輝いた。
温かな光が、僕の体を包み込む。
冷え切っていた体が、 まるで炎そのものになったように熱を帯びていく。
これが——。
僕の答えだった。
ーーーーーーーーーーー
ほのかな灯りに照らされて。
ご主人が徐々に目を覚ました。
「ご主人....起きた?」
「....?」
パチパチと目の前で"火"が燃えている景色を見て。ご主人が慌てて僕の顔を見る。
目を見開いている。そんなに見つめられると。恥ずかしいのに。
「イー.....ブイ....なの?」
「ぼ、ぼく。そんなに変わったかなぁ、、、?
」
一瞬の間があった。
そして。すぐに状況を理解したご主人が。
「!!!」
僕を抱きしめた。
「あはは。ご主人に抱きしめられるの。
僕好きだなぁ....」
「イーブイ。......ごめん。」
「謝らないで。僕が選んだんだ。」
「ご主人を失いたくない僕が。」
「ご主人が僕の隣で笑っていてくれるなら、それだけで良い!」
ご主人が隣で笑っていてくれるなら、 それだけでいい。
エーフィになる夢も。 ブラッキーになる夢も。
もう、いらない。
ご主人の体を抱き返す。
それは、
僕は夢よりも大切なものに気づたい日。
そしてーー。
僕がホムラになった日だ。