あの道は、よく知っているはずだった。
前に住んでいた家と、祖母の家をつなぐ道。
左右には小さな林と、竹林が続いている。
空は青く、ところどころに白い雲が浮かんでいた。
春だったのか、夏だったのかは分からない。
ただ、空気は明るく、静かだった。
人の姿はなかった。
一人で、その道を歩いていた。
いつも通りのはずだった。
一歩、前に踏み出すまでは。
その瞬間、体が浮いた。
跳んでいた。
自分の意思とは関係なく、体が上に引き上げられる。
林が、下に見えた。
見下ろしていると理解した瞬間、背筋が冷えた。
高すぎる。
遠くの畑では焼畑の煙が見える。
自分場所は電柱より、もっと上だった。
倍くらいの高さに、簡単に来てしまっていた。
落ちる。と思った。
次の瞬間、急激に体が引き戻される。
風が一気に耳元を抜ける。
地面に叩きつけられると思った。
でも、着地はできた。
何事もなかったみたいに、足は地面についている。
痛みもない。
ただ、分かってしまった。
普通じゃない。
怖くなって、止まろうとした。
でも、体は止まらなかった。
次の一歩を踏み出してしまう。
また、跳んだ。
同じように、空へ持ち上げられる。
また、同じ高さまで。
林と竹林が、小さく見える。
木に体が刺されるのでは無いかと考える。
着地しても、止まれない。
また一歩。
また跳ぶ。
力加減ができない。
歩くことができない。
一歩踏み出せば、必ず跳んでしまう。
止まれない。
次にどれくらい跳ぶのか、分からない。
もしもっと高くなったら。
もし着地できなかったら。
その考えが、頭から離れなかった。
また跳ぶ。
空に引きずり上げられるたびに、
地面が遠ざかる。
落ちるとき、体が一瞬軽くなる。
支えがなくなる。
泣きそうになる。
次の瞬間、急激に引き戻される。
その繰り返し。
制御できない。
自分の体なのに、自分のものじゃないみたいだった。
足を前に出したら、終わりだと思った。
それでも、止まらない。
三歩目を踏み出した瞬間、
また体が浮いた。
青空が、すぐ近くにある気がした。
怖かった。
どうしようもなく、怖かった。
このままどこまで跳ぶのか、分からなかった。
どこに落ちるのかも、分からなかった。
そのまま――
目が覚めた。
しばらくの間、布団の上でうずくまり動けなかった。
元々高所恐怖症だったので余計に足を動かすのが怖かった。
もし本当に、同じことが起きたらどうするのか。
そう考えるだけで、心臓が痛く息が苦しくなった。
目を閉じても、あの高さからの落下が頭から離れなかった。