電車の中を、歩いていた。
JR東海の電車だったと思う。
車両と車両のあいだのドアは開いたままで、
先の方まで、同じ構造の車内がずっと続いているのが見えた。
どこまで行っても終わらないように見えた。
人の姿はなかった。
昼間で、明るいはずなのに、妙に静かだった。
足音だけが、やけに響いていた。
進行方向と逆に、通路を歩いていた。
理由は分からない。
ただ、そうしなければいけない気がしていた。
しばらく歩いていると、
電車がわずかに揺れた。
次の瞬間、傾いた。
急だった。
体が横に持っていかれる。
踏ん張る間もなく、足が滑った。
そのまま、下へ引っ張られる。
車両の床が、壁に変わっていく。
いや、自分の位置が変わっているのかもしれなかった。
気づいたときには、電車は縦になっていた。
足から、落ちていた。
滑り落ちる。
床だったはずの場所が、
長く続いていた通路が、そのまま高い壁に変わってしまった。
止まれない。
足が離され流されるように下へ落ちていく。
次第に速度が上がる。
手を伸ばしても、何もつかめない。
そのまま、完全に宙に投げ出された。
落ちている。
はっきりと分かった。
まっすぐ下へ。
スピードが速い。
風が顔に当たる。
声を出していた。
自分でも分かるほどの叫び声だった。
それでも、何も変わらない。
ずっと、落ちている。
その途中で、景色が変わった。
電車の内装が、消えた。
白い壁だけが残った。
継ぎ目もなく、どこまでも続く白。
つるつるとした、何もない空間。
上の方だけが、ぼんやりと明るい。
下は、暗かった。
まだ落ちている。
止まる気配はない。
上下の感覚だけは、はっきりとしていた。
上が光で、下が闇だった。
その中を、落ち続けている。
しばらくして、何かが降ってきた。
白い紙だった。
一枚ではない。
無数にあった。
ゆっくりと、上から落ちてくる。
自分の上からシャワーのように落ちていく。
紙は、すべて白紙だった。
何も書かれていない。
ただの白い面だけが、いくつもいくつも。
一枚が、肩に当たった。
思ったよりも、強かった。
軽いはずなのに、痛みがあった。
何枚もぶつかってくる。
視界が埋まっていく。
白い紙と、白い壁と、その向こうの闇。
全部が同じに見えた。
どこまで落ちるのか、分からなかった。
終わりがあるのかも、分からなかった。
ただ、落ちているという感覚だけが残っている。
浮いているような、
支えが完全になくなったような感覚。
それが一番、怖かった。
このままずっと続く気がした。
どこにも着かないまま、終わらないまま。
下の闇が、近づいているのかすら分からなかった。
落ちるしかなかった。
どうすることもできなかった。
そのまま――
目が覚めた。
しばらくの間、起き上がれなかった。
体は布団の上にあるのに、
まだ落ちている気がした。
しばらくして闇に飲まれて無いか確認するように部屋の電気をつけた。
電球の白さがあの白さと重なり憂鬱となった。
しばらくの間、その白さから目を逸らした。