灰まみれの迷宮で青春ラブコメは拾えない 作:銀髪教団
今日はアシュレーとともに迷宮へと挑むこととなった。本人たっての希望である。
前世でやっていた原作ゲームでは、基本的に三人で挑むのが常となっており、オンラインでランダムな野良と繋がることができたが……現実にそんな便利なものはない。
よって、二人で迷宮に挑むことになった。
「おまえ、知り合いとかいないの?」
「全員死んだか引退したわ」
むすっ、とした顔をして俺の後をついてくる。
まぁ、騎士に守られてたお姫様にパーティを組んでくれる知り合いなんているわけないわな。
さて、迷宮と言っているが、その実態は巨大な象牙の塔である。
と言っても、その横幅も高さも非常に遠大な上、内部構造はまるで外見と一致しない。
原作ゲームでは全部で七層存在し、DLCでは追加で他に一本、続編で一本追加されたんだったかな。続編にもDLCがあった気がするがそこまで追ってない。どちらにせよ、俺たちは目の前の塔を攻略するのが目的であり、それ以外の情報は現状必要はないのだ。
塔の入り口はちょっとした城壁に囲われている。それは魔物が這い出てくるのを抑えるためなのだが、魔物どもは地下から通じる通路を伝って這い出てくるので基本的に無駄である。多少なりとも関所として機能しているかと言われると、それも賄賂を支払えばほとんど素通りだし……。
ザルそのものでありまったく機能してきないことを迷宮の門、と呼ぶことわざがあるぐらいだ。
「さて、どうしよう? アンタ、何階の鍵まで持ってるの?」
冒険者ギルドで認められれば最大五層までの鍵が貰える。
それを使えばエレベーターで一気に移動することができるのだが……。
「いや今日は一階から地道に攻略しよう」
「へぇ、それはどうして?」
「俺一人なら大抵の魔物から走って逃げられるが、おまえを連れ立ってちゃあそうもいかない。まずは、お互いの戦術や出来ることを擦り合わせる事が必要だ。だから一階からだ」
「なるほど、確かに口で言ってもわかんないものね」
そう言って、アシュレーはびしっと手持ちの槍を構えてみせた。
アシュレーの武具は二種。まずは爆裂槍。これがメインウェポンである。
そして狭い場所で振り回すための短剣。腰に差しっぱなしのものがそれだ。
もっとも、迷宮内は基本的に槍を振り回せる程度には広い。
短剣の出番はほぼほぼ無いとと言ってよかった。少なくともゲームではない。
「ああ、期待しているぜ」
「ふふん! 任せなさい!!」
そう言って、通行料を払い、迷宮を通る。
この通行料も意外と馬鹿にならないんだよな……。
少なくとも一階の安全地帯で、素材を集めるだけじゃあ相殺が関の山だ。
地下から通っても良いのだが、地下は結構強い魔物がうろちょろしている。
今回のプランとは相性が悪い。
「しかし塔の中だってのに、草木が生い茂ってるのは不思議よねぇ」
迷宮一階層は、森林地帯となっている。
巨大な虫や草木のような魔物が頻繁に出没する。
大して強くはないものの数が多いし、毒を食らうと結構厄介だ。
状態異常対策をしていない初心者パーティなんかはしょっちゅうそれで死んでる。
「毒消しとかもってきてる?」
「もちろんだ。おまえは?」
「……………………」
……まぁ、金欠の相手に言うべきことじゃなかったな。
幸い、余裕を持って用意してきている。アシュレーが毒を受けたとしても大丈夫だろう。
「それじゃあ進むぞ」
一階の出入口付近には噴水があり、そこに冒険者が溜まっている。
なんなら寝泊まりしていたり、商売をしていることすらある。
もっと悪ければ、貞操を売ったり──なんてこともやっていたりするぐらいだ。アシュレーはそう言ったバザーを興味深そうに眺めていたが、俺が先に進むと、とたとたと後をついてきた。
「お金がないんじゃ、こんなところで買い物も出来ないわね」
「ガラクタばかりさ。まともなアイテムは鑑定屋で売るだろうからな」
あるいは鑑定費用も払えない連中が、未鑑定の品を売っていることもあるが……。
まぁ、今回はいい。ここで冒険する必要もないからな。
少しばかり奥に進むと、さっそく魔物が現れた。
化け蜘蛛。まぁただのデカい蜘蛛だ。と言っても、成人男性の半分ぐらいの身長はある。
蜘蛛糸に絡め取られるとまずいが、大して速度のない攻撃だから避けるのは容易い。
こんな魔物にやられるのは本当に初心者ぐらいのものである。
…………もっとも、俺は普段なら極力戦わないが。
「うへぇ、化け蜘蛛。コイツら嫌いなのよね」
「まぁ、お互いの戦術を確認するのにちょうどいい」
そう言うと、俺は懐から投げナイフを取り出し、連中にぶん投げた。
「ぐぎゃっ!」
見事にナイフが刺さる……が別に死にはしない。
代わりに黒くて禍々しい紋様が、刺さったナイフを中心に現れた。
「あれは……!?」
「俺の”呪印”だ。あの紋様が出ている箇所はあらゆる攻撃に弱くなる」
「それだけ? 一発で倒したら良いんじゃないの?」
「…………この呪いの影響か、筋力が低くてね。大した武器が持てないんだ」
なんなら弓すら引くことが出来ない。
さすがに担ぐぐらいは出来るので、多少のアイテムは持ち運べるが……。
それだって制限がある。
まったく、最弱キャラにふさわしいステータスである。
「そのくせ足は早いんだ」
「ああ、走るのには慣れていてね」
貧弱、ではあるが体力や敏捷性がないわけではない。
あくまで腕回り……筋力に関する呪いだと思ってくれれば良い感じだ。
「まぁいいでしょう。後は任せなさい!!」
そう言うと、アシュレーは爆撃槍で化け蜘蛛を突き刺した。
次の瞬間、化け蜘蛛が爆発する。体液が飛び散る余地もなく、存在そのものが消滅した。
「これが私の爆撃槍。刺した相手を爆発させられるの。連発はできないけどね」
「それだけか?」
「……このサーコートも、硬い繊維で作られてるから防御力も高いのよ! えへん!」
まぁ、知っているが……。
基本的に防御しつつ、時折爆破するだけで勝てる。
アシュレーは原作でもそういうキャラだったからな。
「……ともあれ、なにか光っているわね」
「ああ、ドロップアイテムだろう。どれどれ……」
倒した魔物は塵となって消えるが、ドロップアイテムを落とす。
これが通常の生物と魔物の違いだ。ゆえに、魔物を食べるにはドロップアイテムの素材を食べるしかない……まぁ食べようなんて奴は、そうそういないだろうが。
光を掴むと、それは形を成していき、一つの糸玉になった。
化け蜘蛛の糸玉……かなり硬い繊維で粘着力があり、そこそこの値段で売れる。
と言っても、俺が化け蜘蛛を倒せば、ほぼ確定で出てくる素材なのだが……。
「わあ、すごいじゃない!!」
「そうか? 普段は何が出るんだよ」
「そもそもドロップアイテムなんて滅多に出ないわよ。出ても大したアイテムじゃないし……」
…………妙なことを言う。魔物を倒せば、ほぼほぼドロップするのが常なのだが。
まさか、この女めちゃくちゃ不運だったりするのか?
いや、そうに違いない。実際、不運な出来事があったばかりだし。
俺はぽん、とアシュレーの肩を掴み、糸玉を渡した。
「それはおまえにやる」
「え!? いいの!?」
「ああ、倒したのはおまえだしな」
両手を上げて喜ぶアシュレー。
糸玉程度でそんなに喜ばなくてもいいのに……。
「じゃあ先に進もうか」
既に一階の採集ポイントは知っている。
迷宮の変生直後に情報屋が売っているからな。
まぁ、言ったように漁ったところで通行料ぐらいにしかならないんだが……。
今回は素材入手以外に別の目的があった。
「へぇ、ここは? きれいなお花畑だけど……」
向かった採集ポイントは、蜜蜂の花畑。
ここの花はポーションの素材になるのだが、危険な要素がある。
ブゥウウウウウウン、とそれは近づいてきた。
化け蜂の群れだ。しかも九体はいる。
一匹一匹が人の頭部ぐらいの大きさをしている。
「うわっ、蜂!!」
「気をつけろ、やつらの針には毒がある」
「わかってるわよ!!」
ナイフを構え、化け蜂へと向かっていく。
すれ違い際、ナイフで軽く傷をつけて、”呪印”を広げていく。
俺の速さに翻弄される中、囲まれたアシュレーがブゥン、と槍を振り回した。
それに小突かれた呪印付きの化け蜂はそのまま砕け散るように消滅。
付いていない蜂はまだ息があるものの、地面へと崩れ落ちた。
そんな蜂に投げナイフを投擲し、今度こそ討伐。
合計九点のドロップアイテムが出た。
「うわぁ!? お、おかしくない!? 流石におかしいわよ!!」
「何言ってんだ。魔物を倒せばほぼほぼドロップするだろうが」
「しないわよ!!??」
「それはおまえが不運だからだよ……」
まったく、と言いつつ光を集めていく。
化け蜂の毒針が三点、羽が三点、蜜が三点だ。
毒針は武器にも素材にもなるから結構便利なんだよな。
羽はガラスみたいになっていて……加工もしやすいから工芸品に使われる。
蜜は甘い。売れる。それだけ。まぁ非常食にはなるかもな。
「毒針は使うからもらうぞ。蜜も一点もらっておいて、後はやるよ」
「いいわよ。羽はけっこう高く売れたはずだし……今日大儲けね?」
そんなわけがない。これでようやく通行料に毛が生えた程度だ。
実際には実用するから、半分も持って帰れないし。
「一応採取ポイントで採取だけしておくか」
「任せるわ。私、そんな技能持ってないもの」
「ああ……」
採取とかの技能はサポート向けの簒奪者ゆえの技能なのか。
最弱キャラにもけっこう良い点があったんだな。
何はともあれ、金になりそうな花をいくつか採取しておいた。
「どうする? 私としてはもう少し進みたいけど……」
「二階からエレベーターで帰ろう。階段があるはずだ」
……というわけで採取も終わり、先に進もうとしたところで。
「よぉ、お二人さん。盛況みたいだな?」
あんまりよろしくないならずものたちが現れた。
モヒカン、アフロ、つるつるてん。
装備もたいしたものでなく、とても貧相である。
なんなら半裸に近いし、武器も大したことのないボロクズだ。
三人はアシュレーをじろりと睨み、厭らしい表情で舌なめずりをした。
「ずいぶんとまぁ、可愛らしいお嬢様をお連れで」
ふむ、これはあんまり予想していなかった事態かもな。
俺一人なら走って逃げられるんだが、今回はアシュレーがいる。
そもそも、こいつらアシュレーが目当てみたいだしな……。
やっぱり美人って悪目立ちするよなぁ。