灰まみれの迷宮で青春ラブコメは拾えない 作:銀髪教団
「俺たちとも遊んでくれよぉ~~」
チンピラたちは武器をそれぞれ手に取り威嚇する。
アシュレーはというと怯えることもなく、槍を片手に構えた。
「アンタたち、私たちと戦うつもり?」
「それはあんたらの態度次第だな……」
睨み合う俺たち。別にアイテムぐらいなら渡したって良いのだが。
向こうは三人、人数で勝る。とはいえ装備の脆弱さを見るに人を狩るのは初めてだろう。
大方、食うに困って衝動的に俺達を狙ってきたチンピラといったところだ。
で、あれば……。
俺はナイフを構え、戦闘体制をとった。
「アシュレー、やるぞ」
「そうこなくっちゃ!!」
バッ、とアシュレーが疾走し、爆発槍を振り払う。
その加速には小さな爆発がブースターのように発生しており、単なる筋力の振りでないことが見てとれた。それを防ごうとしたモヒカンだが、みしみしと腕が嫌な音を立て、吹き飛ばされた。
「テメェ!!」
ようやく戦闘が始まったことに気づいた残り二人。
俺は瞬時に回収していた毒針を投げ、彼らの二の腕や太ももに突き刺した。
「がぁ……!?」
「ぐあっ……!?」
化け蜂の毒針は即効性のある麻痺毒である。
食らっただけですぐに体が硬直化していく。
急いで毒消しを飲まなければ、迷宮内で身動き一つできなくなるのだ。
さらに、俺の攻撃には”呪印”が発生する。
毒針が刺さった箇所から”呪印”が広がり、毒という攻撃への耐性を下げる。
普通に食らうよりもはるかに早く毒が回るのだ。
いわゆるコンボってやつだな。
「らぁっ!!」
動けなくなった二人に対し、アシュレーはぐるりと槍を回転させて叩きつけた。
ちょうど”呪印”が広がっている部位の骨が折れる音がする。
あれではもう立ち上がることも出来まい。
「アシュレー、もういい。ほっとけば後は魔物に食われるだろ」
「そう? それはそれで可哀想ね……」
「おまえが吹き飛ばしたもう一人が戻ってくりゃあ、生き延びられるんじゃないか」
アシュレーが吹き飛ばした男。
あれから音沙汰がない。仲間を置いて逃げ出したのだろう。
逃げるぐらいなら始めから襲ってこなければよかったのだ。
「こいつら、大したものも持ってそうにないし……ほっといて先に進みましょうか」
「だな……」
そう決めて、俺たちが花畑を後にしようとしたときだった。
「うわぁああああああああああああ!?」
逃げたはずのチンピラが、こちらに向かって走ってくる。
いや、なにかしらから逃げているのか……!!
次の瞬間、雑木林から巨大な蠍が飛び出してきた。
アシュレーが驚いて、叫び声を上げる。
「な、なによこいつ!?」
「大化け蠍……!」
一階層ではめったに見ないFOE――階層の主とも呼ばれる危険な魔物だ!
まともに戦うのは少々厄介だぞ……!
大化け蠍の尻尾が、逃げていたチンピラを串刺しにする。
やつの毒は腐食性、仮に尻尾で突き刺されれば、一撃で死に至る!!
そのままチンピラの胴体はとろけて、ぐずぐずの肉塊になってしまった。
「あ……ああ……」
「た、たすけ……」
動けなくなった二人のチンピラが声を漏らしたその瞬間、大化け蠍の鋏が二人を挟み込み――。
そして両断した。助ける暇もない、一瞬の出来事だった。
当然、次のターゲットは俺たちだ。
俺は残っていた毒針を、蠍に向けて投擲する。
ガギィイン、と鈍い音がして防がれてしまうものの……”呪印”の効果は発生する。
当たった箇所を中心に黒い紋様が広がり始めた。
「アシュレー!! 尻尾に気をつけつつ、あの箇所を狙え!!」
「って言ったってねぇ……!!」
アシュレーに向かって、鋏が襲いかかる。
それを爆裂槍で防ぐが……鋏に力が入り、槍の柄にヒビが入った。
「え!? あ、ちょっと!!」
アシュレーはとっさに短剣を引き抜き、蠍の甲殻、その間に突き入れる。
その甲斐あってか、鋏は外れたが……今度は尻尾がアシュレーを襲う。
俺はとっさに走り出し、アシュレーを突き飛ばした。
「ぐああああああああああああ!?」
「あ、アンタ……!!」
――――俺に尻尾が突き刺さる。
灼き割かれるような痛みだが、あのチンピラのようにはならなかった。
バッグを盾にしたからだ。
中に入っていた毒消しの瓶が割れ、腐食性の毒を中和したのだろう。
そのままナイフで尻尾を傷つける。”呪印”が尻尾に広がっていく。
それに気づいたアシュレーが槍を振るって、尻尾を打ち砕いた。
衝撃で下がる蠍。
とっさに俺はバッグから転がってきたポーションを拾い、飲み干す。
念のために色々持ってきていて良かった……!!
「アシュレー、糸玉を投げろ!!」
「え? ああ……!!」
言われて、アシュレーが渡しておいた糸玉を投げる。
それを蠍は鋏で防ぐが、粘着性のある糸玉だ。鋏がくっつき、片方が開かなくなった。
更にそれをもう片方でなんとかしようとするものだから、両方の鋏がくっついた状態に。
これで、もうあいつに攻撃手段はない!!
「やぁあああああああああああああ!!」
アシュレーが飛び上がり、呪印が広がっている腹部に向けて、爆発槍を突き刺す。
見事、槍の先端が爆発。大化け蠍は臓物を撒き散らし、そのまま力尽きた。
――だが同時に、爆発槍がへし折れる。
さきほど柄にヒビが入っていたため、爆発の衝撃に耐えきれなかったのだ。
「わ、私の槍が……!!」
塵になっていく大化け蠍。案の定、光がドロップした。俺はダメージを受けて立ち上がれない状態だが、じわじわとポーションが効いてきたようで、傷口が異常に痒くなっていた。
「やったな、アシュレー……」
なんとか木に腰掛け、体制を整える。
アシュレーはしばらくへし折れた槍を眺めていたが、光に気づいてそれを回収した。
「な、なにかしらこれ……」
「蠍のナイフだな」
「知ってるの?」
「知ってるどころじゃない。この階層じゃあ、一番のレアアイテムだ」
「おお……!」
腐食性の毒を撒き散らす大きなナイフ。
ゲーム原作の時は持っていたけれど、こっちに転生してからは手に入れてなかった。
一人であれに立ち向かうのは危険すぎると判断していたからだ。
「って……それより、アンタ大丈夫!?」
「ああ、ポーションが効いてきた。バッグに穴が空いたけどな」
中の瓶類がほとんど割れてしまっている上、腐食性の毒を吸ってしまったようでまともなアイテムが残っていない。これで今度こそ、俺が常用できるようなアイテムはゼロだ。
今日回収した素材も半分は壊れて、使い物にならなくなっていた。
となると、今日の戦利品はアシュレーに渡した素材ぐらいになるのか……?
いやまぁ、レアアイテムが手に入ったけれど。
「ともあれ、槍が壊れたんだろ? チンピラどもの武器を奪って、なんとか階段へ行こう」
「入口から戻るっていうのは?」
「多分、階段のほうが近い」
「わかったわ。肩を貸してあげる」
アシュレーの肩を借り、よろよろと階段に向かって歩いていく。
特に魔物に遭遇することもなく、なんとか辿り着くことが出来た。
「ところで、アンタ……アンタじゃ面倒ね。なんか呼び名でも考えましょ」
「簒奪者じゃダメなのかよ」
一応、ギルドが決めた二つ名だぞ。
そう思いながらも、階段を登っていく。
ここでまたさっきのチンピラみたいなのに遭遇したら、終わりだな……。
などと考えつつ。
「少なくとも仲間を呼ぶ名前じゃないわね」
うう~~ん、としばらくアシュレーは唸っていたが、やがてパチン、と指を鳴らした。
「私の従者ってことはアンタも騎士ってことよね!」
「従者になった覚えはないが……」
「かの有名な騎士から何文字か借りて……ライってのはどう?」
「
偽名としては洒落ている。
そうこうしている内に二階層の入口へとたどり着く。
噴水があるその広場の横に、エレベーターが見える。
幸いにしてそれなりに人混みがあり、ならず者に襲われるようなことは無くなった。
ひとまず、噴水の近くに横にしてもらった。
「で、ライ。この槍どうしよ……」
「直すしかないだろうな」
「修理代は……」
「俺から借金するってわけだ」
「ご、ごめんね……?」
そう言いつつ、アシュレーは人混みの中から神官を連れてきてくれた。
俺は神官に金貨袋を渡して、治癒術をかけてもらうことになった。
体に残ったわずかな毒や、それによる損傷も治されていく……。
ひとまず、再起不能にならずに済みそうだ。
「はぁ、とんだ災難だったな。ありがとう、あんた」
「どういたしまして」
赤髪の神官はにこりと微笑むと、再び仲間の元へと戻っていった。
なんとも可憐な女性だったな……。
「しかし、今日の儲けはマイナスよね、これじゃあ。このナイフ、売っちゃう?」
「いや、俺にくれよ」
多分、俺と相性抜群だし。
そう言うと、アシュレーは蠍のナイフを俺に渡してくれた。
まぁ、多少は金銭に余裕がある。
消耗品やバッグを買い直して、また今度挑んでみるか。
「帰ったら、まずはおまえの槍の修理だな」
「お世話になります……」
結論として毒のナイフを手に入れ、アシュレーの借金が増えた。
いやナイフは俺が貰うんだから、その分おまけしたっていいんだけどさ。
何はともあれ、まずは武器屋だな。