灰まみれの迷宮で青春ラブコメは拾えない 作:銀髪教団
前世の俺はうだつの上がらない男だった。
体力がなく、やる気がない、頭も良くない、つまるところ何をするにしたって、大した人間ではなく、日々の生活費を得るのに適当に働いているような男であった。唯一の趣味がゲームで、睡眠時間まで削ってゲームしていたものだから早死してしまった……というわけである。
ゲームじゃ運が良いと言われたが、そんなことを実感したことはない。
しかし不思議と、楽しめたのは確かである。
だから来世があるとするならば、やり込んだゲームに転生したい!!
……なんて思っていたなぁ、当時は。
実際、こうして転生してみると苦労なんてもんじゃないんだが。
少し先でこちらを振り向きながら待っているアシュレーを見つつ、思う。
「どこの武器屋が良いかしら!」
迷宮から出てきた俺たちはさっそく爆裂槍を修理するため、武器屋を探していた。
ゲーム原作では悩むこともなく、”イエヤーティの武器工房”を選んでいる。
俺が消耗品を買うときも、基本的にそこで買っているので……。
「というわけで”イエヤーティの武器工房”に行こう」
「そこは何が良いの?」
「店員が可愛い」
「はぁ!?」
いや、本当になかなか可愛いんだこれが。
なによりいっぱいサービスしてくれるからな……。
「なによそれ。アンタ、そいつを狙ってたりするわけ? エッチ! ヘンタイ!」
「いや別にそういうわけじゃないが……」
「じゃあなんなのよ!!」
「うるせぇな。さっさといくぞ!!」
……などと、アシュレーはぶつぶつ言っていたが、金を払うのは結局俺だ。
わがままは聞いてもらうことにした。
”イエヤーティの武器工房”。
鍛冶屋も兼任しており、店は相応に広い。
とはいえ客前ではハンマーを金床に振り回している姿は、客を選ぶのもわかるが。
「む、また安いナイフでも買いに来たのかのぅ? それとも素材を売りに?」
赤髪ポニテの鍛冶師、ヤーティさん。
熱した鉄に打ち付けていたハンマーを止めた。
ちょうど一段落終わったらしい。
チューブトップに半脱ぎの作業服。
工房が暑いせいだろうが、相変わらず際どい姿だ。
これでアシュレー以上のデカパイなんだから拝みに来ないやつは馬鹿だね。
「いや、今日は仲間の武具を修理してもらいたくてね」
そう言っておれは風呂敷に包んでいた爆裂槍を見せる。
真っ二つに砕け散ったそれを見て、ふん、とヤーティさんは鼻を鳴らした。
「こんなの柄を入れ替えるだけじゃ。すぐ終わる。使い手は?」
「わ、私だけど……」
「手を見せろ」
そう言って、半ば強引にアシュレーの右手を掴み、まじまじと見つめる。
それが終わるとなにやら腕をモミモミと揉み始めた。
「魔力による強化がメイン。筋肉自体は少なめ。女戦士特有じゃな」
「わ、わかるんだ!?」
「おぬしのような者には多少短くカスタムしたほうがいいな……任せておけ」
そう言ってヤーティさんが槍を掴んで、工具で弄り始める。
テキパキと折れた柄を外していった。アシュレーはそれをほほぅ、と眺めている。
さすがは職人技だな……しかし、俺にはもっと気になることがあった。
「え~~っと、お値段はいかほどになります?」
「爆裂槍じゃろう? かなり強固なものにしておきたいから。そこそこ高いぞ」
「……了解」
ここでケチって、また折れても困るからな。
まぁ、必要経費ってやつだ。
しばらくヤーティさんは作業に夢中だったが……。
「おい、女、鎧も脱げ。いやコートもだ。全部だ、全部脱げ」
「え? なんで?」
「それら、しばらく手入れしていないじゃろ!! ふざけているのかァアアアッ!!」
「ひゃあああああああああああああ!?」
アシュレーに飛びつき、鎧を剥ぎ取ろうとするヤーティさん。
これはちょっと……それなりの額が必要そうだな……。
あ、サーコートをはぎ取られた。さらに鎧もだ。
ぼろん、と服の上から乳が揺れる。ヤーティさんの乳も揺れる。おっぱい祭りである。
俺は紳士的にしばらく店を出ることにした。
しばらくして帰ってくると、アシュレーは可愛らしいジャケットとシャツに着替えていた。
ヤーティさんの持ち物だろうか。
「まったく、酷い目にあったわよ」
「おい、簒奪者。これが支払いじゃ。明後日の朝頃には出来ておるぞ」
「げっ」
領収書を渡され、俺は項垂れてしまった。
金貨五枚。これで残りの財産はちょうど五枚である。
「それよりおまえさんたちは付き合っておるのか?」
「え? 別に」
「付き合ってない男に金を出させておるのかぇ」
「そ、それを言われると弱いけど……」
アシュレーにとって痛いところをついてくるヤーティさん。
別に金で関係を迫る気はないが、たしかにおかしな話かもしれない。
「まぁ、同じパーティだからさ。借金のカタも貰ってるし」
「それならよいが……」
そのエメラルドのようなじぃ、とした目でアシュレーを睨むヤーティさん。
アシュレーは少し恥ずかしがってか、両手をいじいじと触っていた。
「そういえばおまえさんたち、腹減っているじゃろ。これでも食っていけ」
……と言って、ヤーティさんがカウンターの奥から出してきたのは、珈琲とパンケーキだった。
この島には様々な国の船が屯留する。珈琲豆だってかなり安価に手に入るのだった。
「わぁ、ありがとうございます!! 金欠で……」
そう言って、アシュレーは一目散にパンケーキにがっつぐ。
俺もテーブルに座りながら、レシートを眺めているとアシュレーが両手を揉んできた。
「へへへ、だ、旦那ァ……この金は必ず返しますんで……」
「金貨四十五枚かな」
「四十五……修理やら何やらに金貨五枚分もかかったの!?」
驚くのも無理はない。
女が娼館に売られるにも十分過ぎる額だ。
「まぁ、毒のナイフ分おまけして四十枚に戻しておこうか」
「うううう~~~…………」
それを聞いていたヤーティがふん、とせせら笑った。
「別に焦らなくても、一~二年、迷宮探索してりゃあそれぐらい払えるわい。
「そ、そう……?」
ぐっすり涙目になり、こちらを見上げてくるアシュレー。
その金色の目に、ちょっとぐらい可愛いな……と思わなくもない。
「まぁしばらくは俺と嫌でもパーティ暮らしだけどな」
「それは別にいいけど……相性も良かったしね」
「こっちも優秀な前衛がいると助かる。大化け蠍は一人じゃ絶対に倒せなかったろうし」
その分、増える気苦労もありそうだが……。
しかしふんわりとした俺の肉体から来る「迷宮を攻略したい」という衝動を叶えるためには仕方あるまい。キャラエピソードっていうか今世の記憶も興味あるしな。
「ふふん、それじゃあよろしくお願いするわね!!」
「ああ、とはいえ数日は休みか」
しばらくは暇になる。どうしたものかと悩んでいると……。
ポン、とアシュレーが手を叩いた。
「それならばかつての我が一族の屋敷に行ってみましょうよ!!」
「屋敷?」
というと、アシュレーがちょいちょいとこちらに手招きしてきた。
なにやら小耳に入れたいことがあるらしい。
「ええ、魔法で封じられているはずだから」
「どうやって開くんだよ」
「アンタに渡した指輪で……開くんだけど……」
……なるほど、俺に渡した指輪は一族の証明なのか。
そんな大事なものを金貨四十枚のカタとはいえ渡すんじゃないよ。
何はともあれ、屋敷か。けっこう楽しみだ。
そういうところにはけっこうお宝とか眠ってたりするんだよな。
「それじゃあこれ食ったらさっそく行ってみようぜ」
「ええ!!」
そう言うと、アシュレーは引き続きパンケーキをほうばり始めた。
「ふふ、元気じゃのぅ」
それ言って、ヤーティはにんまりと笑い、そのまま仕事を続けた。
館は街の郊外、ちょっとした丘の上にあるらしい。
食事を終えた俺達は早速向かうことにした。
門が閉まっており、石ころを試しに放り込んでみると、入る前にバリリッと音がする。
なるほど、結界が張ってるな。
試しに指輪をして、門に触れてみると、それは独りでに開いた。
「魔物とか……出ないよな……」
「わからないわ。一応短剣を持ってきたけど」
アシュレーは完全に村人然とした服を着ている。
なるべくなら魔物とは戦いたくないが……まぁ行ってみるか。
「俺が先導する。おまえは後からついてこい」
「了解!!」
生い茂った庭を歩いていくと、大きな屋敷が見えた。
特に鍵などはかかっておらず、普通にドアノブを捻るだけで開いた。
「妙だな……」
「なにが?」
「見てみろ、埃すら無い」
生い茂った庭とは違い、屋敷の内部は綺麗そのもの。
塵一つ無いエントランスホールだった。
「誰かが住んでいるってことだよな」
「まさか!! 庭は誰も入った形跡がなかったわよ」
「つまり、例えば、アンデッド系の魔物が……」
ぎしっ、ぎしっ、と誰かが階段を降りてきた。
それは青色の髪をしたメイドだった。
やけに人間味と生気のない表情をしており、宝石のような目でこちらを見つめてくる。
俺たちは警戒し、武器を構えるが……。
「…………おや、家主様がお帰りになるとは………………」
ぺこり、とこちらに向けてお辞儀をしてきた。
どうやら敵対の意思はない、のか?
「え、ええと、貴方は?」
アシュレーが驚いて、メイドに尋ねる。
メイドは頭を上げると、自分の胸に手を当てた。
「わたくしはドロシー。貴方たちの一族が作り上げた自動人形でございます」
「自動人形……!?」
アシュレーが驚いて目を丸くする。しかし俺は別のことに気づいた。こいつ、アシュレーのキャラエピソードが進行すると使えるようになる追加キャラクターだ。本来ならアシュレーの指輪は最初の騎士に奪われ、アシュレーは水路から命からがら脱出する、というエピソードなのだ。
つまり、俺がそれを短縮してしまったから、このタイミングで出てきた……!!
「それでお二人方、何か命令はございませんか? 何なりと申し付けくださいまし」
たしかこの追加キャラは神官戦士の性質を持つ。
見た目に反して圧倒的な筋力と、神秘を保有していたはずだ。
最強キャラの姫騎士と、追加キャラの神官メイド。
こいつらがいれば、かなり強力なパーティになるんじゃないか……!?
…………しかし女ばかりだな。
おかしい。原作はもっと硬派なゲームだったはずなのに。
鍛冶師(ヤーティ) 赤髪/チューブトップ/作業服
”イエヤーティの武器工房”の店長。赤髪ポニテで露出が高く、乳がでかい。
なお背はアシュレーよりも10cmは低い。若干のじゃロリかもしれない。
青髪メイド
このメイドの正体とは……!?