Re : ゼロから始まる原神生活 作:JT
第四話 初依頼と、少しだけズレた身体
「冒険者登録、ですね。承りました」
受付の女性――キャサリンは、いつも通り機械的な丁寧さでそう言った。
淡い金属音みたいな声やった。
ナギは少しだけカードを受け取りながら頷く。
「これで、冒険者……か」
実感は薄い。
紙一枚で身分が決まる感じが、まだ腑に落ちていない。
隣ではノエルが静かに立っていた。
「登録、お疲れ様でした」
「いや、ほんま助かったわ」
ナギがそう返すと、ノエルは軽く首を振る。
「いえ。これが一番安全な方法ですから」
その言い方はいつも通り真面目で、そこに余計な感情はない。
ただ事実だけを積み重ねている感じだった。
キャサリンが淡々と続ける。
「では、初回の依頼を受けられますか?」
「もう来るんかい」
ナギは思わず小さく笑った。
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依頼内容は単純だった。
「モンド郊外での魔物の調査および素材回収」
ノエルは紙を見てから言う。
「危険度は低めですが、油断は禁物です」
「それ毎回聞くやつやな」
ナギは肩を回した。
まだ身体は固い。
でも、昨日よりは動ける気がしている。
理由は分からない。
ただ“重さ”が少し違う。
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街を出ると、空気が変わる。
風の音が強くなる。
草が擦れる音がやけに耳に残る。
ナギは歩きながら、自分の手を見た。
(……ちょっとだけ、動きやすい気はする)
それ以上でも以下でもない。
劇的な変化ではない。
ただ“少しマシ”なだけや。
ノエルが後ろから言う。
「この先に痕跡があります」
「了解」
短く返す。
⸻
森に入ると、すぐにそれは見つかった。
折れた枝。
荒れた地面。
浅い足跡。
ナギは剣の柄に手を置く。
(これが初仕事か)
心臓の音が少しだけ早くなる。
その時だった。
草が揺れた。
三体のヒルチャール。
ナギは一瞬だけ息を止める。
「来るで」
ノエルが少しだけ前に出る。
「支援します」
その言葉の直後、ヒルチャールが動いた。
ナギは反射的に一歩下がる。
(速い……いや、俺が遅いだけか)
一体目が突っ込んでくる。
ナギは剣を構えたまま、ぎりぎりで横にずれる。
踏み込みはぎこちない。
さっきの“軽さ”はない。
普通に怖い。
「っ……!」
剣を振る。
浅い。
当たったが致命傷ではない。
二体目が横から来る。
ナギは咄嗟に足を蹴り上げて距離を取る。
うまくはない。
でも、なんとか崩れずに立っている。
ノエルが静かに言う。
「ナギさん、そのまま距離を保ってください」
声は落ち着いている。
焦りはない。
ナギは頷く余裕もなく動く。
(落ち着け……落ち着け……)
三体目が回り込む。
囲まれる形。
普通なら詰み。
ナギは一瞬だけ呼吸を整えた。
その瞬間――
身体が“ほんの少しだけ”軽くなる。
(……今の感じ)
ほんの一瞬。
ほんの数歩分だけ。
ナギは踏み込んだ。
剣を振る。
ヒルチャールの動きが“少し遅く見える”。
いや、正確には違う。
「見える」というより「予測できる」に近い。
次の動きを読んで、そこに合わせる。
ぎりぎりのタイミング。
一体が倒れる。
残り二体。
ナギは息を吐く。
(いける……か?)
もう一体が来る。
ナギは避けるのではなく、あえて踏み込んだ。
距離を潰す。
剣が当たる。
浅い。
でも動きは止まった。
最後の一体が横から来る。
ナギは体をひねって避ける。
少し遅い。
肩をかすめる。
「っ……!」
痛みが走る。
でも致命傷じゃない。
そのまま、反射で剣を振った。
最後の一体が倒れる。
静寂。
森に音が戻る。
ナギはその場に立ち尽くしたまま息を整えた。
「……なんとか、なったな」
ノエルが少しだけ近づく。
「お見事です。初めてにしては十分です」
淡々とした声。
そこに驚きはない。
ただ事実としての評価だけ。
ナギは苦笑した。
「褒めてんのかそれ」
「はい」
即答だった。
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帰り道。
ナギは自分の肩を軽く回しながら歩く。
(さっきのは……なんやったんや)
一瞬だけ、身体が軽くなった感覚。
でも、すぐ消えた。
意識して出せるものじゃない。
ナギは空を見上げる。
雲が流れている。
(気のせい……ってことにしとくか)
そう言い聞かせるには、少しだけ引っかかりが残った。
ただ一つ確かなのは、
この世界で生きるための“何か”が、自分の中でまだ定まっていないということだった。
そしてそれは、まだ始まったばかりだった。
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