柔らかなベッドの上で、今日朝を含めて三度目の目覚めを僕は迎えた。路地裏で陽菜の声を聴いた直後に意識が途絶えたことは覚えている。
(拘束はされていない。最後に聞いた言葉は陽菜の「ちょっと私の家に来てほしいな♡」という言葉だ。もし陽菜が一連の行為を行った犯人ならば、ここは陽菜の家のどこかなのだろう。)
彼女の家に来たことはあるが、このような部屋があるとは知らなかった。かなり大きな家であるから、僕が知らない部屋があるというのも無理はない。ふとした時に左腕を見てみると、陽菜が僕の腕に抱きついて寝ていた。事実確認はするべきだが状況証拠から考えると、彼女が僕の後頭部を殴り、ここに誘拐した犯人なのだろう。
「んぅ、、あれぇ?誠司、もう起きたの?」
寝起きの彼女は僕の疑念のことなどつゆ知らず、いつもの様子で僕に話しかけてくる。
「僕を殴ってここに連れ込んだのは君か?」
「そうだよ!家に来てほしかったから。」
あっさりと彼女は自身が犯人であることを白状した。
「だって、誠司、なぜか莉乃の家に行っているんだもん。わたしの誠司なのに勝手に私以外の女の子の家に行くなんて許せないじゃん。」
「僕が莉乃の家にいたことをなぜ君が知っているんだ?」
「ずっと後をつけてたんだよ?」
「ずっと、というのは今日だけの話か?それとも以前からなのか?」
「前からだよ。」
「…なるほど、ではいつごろから後を付け回していたんだ?」
「ええっと、去年の秋くらいから!」
「随分と長く後を付け回していたようだな。」
「えへへ~。誠司も莉乃ちゃんじゃなくてわたしと一緒に居られてうれしいでしょ?」
彼女との会話からおおよそ何が起こったのかは分かった。
「一つ確認したい。」
「いいよ、何でも聞いて!」
「君は僕に好意があってこの行為を行ったのか?」
「もう、恥ずかしいこと言わせないでよ。わたしがあなたのこと大好きだなんて、あたりまえじゃん!」
ここまでの会話から改めて、頭の中で彼女に言うべきことを整理する。そして言葉を切り出した。
「君の一連の行いはストーカー規制法、刑法225条、刑法204条、刑法220条に抵触しており、併合罪が成立する可能性がある。」
陽菜は少しぽかんとした様子でこちらを見ている。
「まず、ストーカー規制法についてだが、」
「待って待って待って!」
陽菜が声を荒らげる。
「わたしの一世一代の告白への返事は!?」
「今はストーカー規制法及び、その他君が犯した罪について話している。」
「それならその話の後に、わたしの告白の返事してくれるの!?」
「君の感情は理解したと答えただろう。だが今僕がしている話はそれとは別の問題だ。」
「そういうことじゃなくってぇ…」
「今は僕の話を聞いてもらおう」
陽菜は渋々といった感じで口をつぐんだ。
「君はせっかちな人だから端的に伝えよう。まず君は去年の秋頃から僕を付け回していた。」
「うん、一緒にいたいもん」
「これはストーカー行為に当たる」
「次に君は僕を殴り気絶させた。」
「うんこれが一番早いし誠司なら何ともないでしょって思ったから。」
「これは傷害罪に当たる。」
「次に君は恋愛感情を理由として僕を連れ去った。」
「えへへぇ、うん!」
「これは略取罪に当たる。」
「最後に君は僕をここに同意なしに軟禁している。」
「だって帰したらまた莉乃ちゃんのところに行くかもしれないじゃん?」
「これは監禁罪に当たる。」
「つまり、、どういうこと?」
「これらは併合罪として扱われる」
「そっかぁ」
「理解したか?」
「うん!」
「そうか。」
「それよりもちゃんと告白の返事してよー!」
「今は告白の返事よりも重要な話がある。」
「ええー?そんなのある?」
「まず、僕の自由を戻すこと、そして次が、君自身の行動を正すことだ。」
「ふふん、誠司とわたしがここでずっといられるようにこの部屋の扉は合金製で私の網膜認証でしか開かないようになってるんだから。告白の返事をするまでは絶対出さないよ!」
なるほど。なぜそんな部屋が家にあるのかはさておき、扉自体は開くのだな。
「君が出さないというのならば自分の力で脱出するまでだ。」
僕はそう言って腕にくっついたままの陽菜を持ち上げながら起き上がり、扉のもとへ向かう。
「きゃっ♡お姫様抱っこ~♡」
扉は確かに固く閉ざされており、隙間も中心部にわずかにしかない。僕はその隙間に指をねじ込んだ。
「どう?こんな扉さすがに無理やり開けるだなんて」
ビキビキ
「え」
扉が変形していく。
「ふん!」
僕は目の前の扉を捻じ曲げて、無理やり脱出口を作り出した。
「えぇーーー!」
腕の中の陽菜が叫び声をあげる。
「どういうことどういうこと!?あんなの開けられるわけないのにー!」
「だが今僕は実際に扉を破壊して脱出している。」
ようやく本題に入ることができそうだ。
***
「さて、僕はもう君に軟禁されている状態ではない。僕の話を聞いてくれる気になったかな?」
「ううーん、なんか釈然としないけど、仕方ないから聞いてあげる!」
「ではまず、僕のことをストーカーしていた原因について詳しく聞こう。」
歩きながら腕の中にいる陽菜に質問する。
「誠司と一緒にいたかったから!後ろで歩いてたら一緒にいるって感じがするでしょ?」
「では次にそもそも誘拐という手段をとった理由を聞こう。」
「だってそれは誠司と一緒にいたかったし、誠司が莉乃ちゃんのところに行ってたから」
「そこではない。君が自分からこのようなことを思いつくわけがないだろう。」
「ああ、そういうことね。それは、莉乃ちゃんが誠司のこと監禁してたでしょ?それやっていいんだって思ったからわたしもした!」
「…なるほど。」
なかなかに頭の痛い内容であるが、まとめよう。
「つまり君は僕の自由よりも君の感情を優先した結果、このような違法行為をしたのだな?」
「うん、そうだよ!」
これは、なかなかに骨が折れそうだな。
「ねえ誠司。」
「なんだ?」
「ちゃんと質問に答えたんだからさっきの告白の返事してよ~!」
「君はまだ自分がした行為の意味を理解していないようだな。」
すでに陽菜の家のリビングに到着している。広い家であるからここまで来るのになかなか苦労させられた。陽菜をソファに座らせる。
「意味って何さ~」
クッションを抱きながら足をプラプラさせる彼女に面と向かって言う。
「君は僕をストーキングし、殴り、誘拐し、軟禁した。なぜ問題だと思わない。」
「だって好きだもん。」
ここまでの会話で彼女の問題点はかなりわかってきた。ならば僕がすべきことは何か。
「君に話す必要があることがある。」
「告白の返事!?」
「違う」
「ぶぅーー!」
「僕は君が悪意があってこのようなことをする人間だとは考えていない。だから、君がこういう選択肢をとってしまう可能性があると気付けなかったことについて責任をとる必要がある。」
「だから、僕は君が衝動的にこのような行いをしないよう君の倫理を社会と折り合わせるために力を尽くそう。」
陽菜が難しそうな顔をする。
「ええっとつまりどういうこと?」
「明日から君について君の価値観について改めて向き合うということだ。もしこれを拒否するなら残念だが、、」
「つまりどういうこと?」
「君につきっきりで」
「てことはずっと一緒にいられるってこと!?やったあーーー!するに決まってるじゃん!明日から?今からでもいいのにー!」
「ああ、君がそう選択してくれてうれしく思うよ。だが、もうそろそろ夕方だろう。もう家に帰らなくてはならない。」
「えへへーじゃあ送ってくよ。」
「わかった。」
陽菜の反応的に反省はしていなさそうだ。だがそうだとしても僕には彼女が反省できるような人になるために彼女と向き合う必要がある。
***
いろいろあったが、ようやく家に帰れるなという安堵感と明日、陽菜と莉乃とどういったことを話すべきなのかを頭の中で考えながら、陽菜とともに夕焼け空のもと帰途につく。「ああー!また今他の女の子のこと考えてたでしょ!」「なぜそう考えた」「だって誠司が私じゃない人のこと考えているときの顔してるもん!そんなの絶対ほかの女の子のことに決まってるじゃない!」そんな根拠はないだろうと思いながら会話をしているうちにようやく家に着いた。「じゃあまた明日から毎日デートねー!」まだ何かを誤解している陽菜と別れのあいさつを交わし僕は家に入った。
誠司君の怪力については桃太郎の桃から生まれたというのと同じようなものだと思ってくれて問題ないです。