あんなことがあった後だというのに昨日はぐっすりと眠ることができた。布団を片付け、着替えて下に降りる。
「おはようお母さん、お父さん」
「おはよう」
「おはよう誠司。」
「お父さんまだ家出てないってことは今日はリモート?」
「ああ、そうだ。」
「そか。」
「トーストもう焼けてるから、自分で取って食べて」
「分かった」
両親と軽く会話をしながら朝食をとる。
「そういえば、昨日は学校楽しかったか?」
「うん、いろいろあったけど楽しかった。」
「ならよかった。」
朝食を取り終え、ふろに入り歯を磨く。朝の準備はもう終わった。
「じゃあ行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」「気をつけてな。」
両親の声を背に受けながら手を振って家をでる。するとそこには
「…」
目を丸くして僕を見ている紗夜がいた。
「おはよう、紗夜。今日もいたのか。」
「あ、天海君…おはよう。」
昨日あんなことがあったからか、紗夜を見ると少し安心する。
「昨日も朝は一緒だったな。」
「うん、家を出る時間が近いのかな?」
「そうなのかもしれないな。」
二人で歩き始める。
「今年こそは天海君と同じクラスになりたかったな。」
「ああ、でもあと一息だったんじゃないか?」
「でも、上がった子もいるらしいし。」
「僕は自分を卑下しすぎるものではないと思うよ、紗夜。」
「そういえば天海君、今日からまた部活あるよね。今日の美術部は全部来れるって前チャットで言ってたよね。」
「ああ、それについてなんだけれど、多分30分ほど遅れる。」
「え、そ、そうなんだ。」
「でも、今年は去年より参加できるようにするつもりだ。」
「そ、そうなの?じゃあ、今年は去年よりも一緒にいられるかも。」
「そうかもしれないな。」
「えっ!うん!聞こえてたのー!」
いつも通り紗夜は小さな体をアワアワさせながら顔を赤くしている。昨日あんなことがあったからか余計に安心感を感じてしまう。
「紗夜を見てると安心感があるな。」
「ど、どうしたの急に!」
「いや、思ったことが口から出ただけだ。」
「うーん…」
うなっている紗夜とともに駅へと向かう。
***
「じゃあ、また美術部で会おう。」
「うん、またあとでね。」
校舎に入ったところで紗夜と別れて自分の教室のもとへと向かう。少しいつもよりも足が重く感じられるがこの時間ならまだ誰も教室内にいないはずなので教室に入り、いつも通り箒を持って教室を掃除する。1年生から始めたことだが結局習慣になってしまっているな。
「おはよう、天海君」
30分ほど掃除をしていると、登校してきた直弘に話しかけられた。
「おはよう、直弘。」
「うん、今日も掃除かい?」
「ああ、もうほとんど終わっているけどな」
「そうなんだね。黒板ももうやったのかな?」
「いいや、まだだ。」
「じゃあ二人でやろう」
「ありがとう、たすかる。」
二人で黙々と黒板を掃除していく中で、直弘が口を開いた。
「そういえば、今日はなんだか表情が暗くないかな?」
「そう見えるか?」
「うん。」
「そうか。」
「何かあったの?昨日学校で見たときは何ともなかったけど。」
「いろいろあったんだ。愚痴を言いたい気分だけれど、こればっかりは僕個人の都合で人に話すことはできないからな。また落ち着いたらおいおいな。」
「天海君がそこまで言うだなんて相当な出来事だったんだろうね。」
「ある意味女難と言えるかもしれない」
「ああぁ~~…。」
苦笑いしながら直弘は黒板けしをきれいにしている。
「まあ、そうなる素養はあったということで、頑張れ」
「今回の件については詳細を話すことはできない。」
「本当に何があったのさ…。」
そんな会話をしていると少しずつ人が増えてきた。
「おはよー!」
掃除も終わって席に戻ろうとしたタイミングで陽菜が教室に現れた。
「お、誠司!おはよー!」
僕を見るなりこっちに駆け寄ってくる。
「ああ、おはよう。」
「あれ?いつもよりなんか暗いよ?」
原因の一つはお前だ。
「昨日いろいろあったからな。」
「昨日と言えば、デートの約束したよね!」
「デートではない。昨日の会話を覚えていないのか?」
「もうー、つんけんしないでよー。」
昨日ああいったのは失敗だったかもしれない。
「まあいい。それより今日の昼は空き教室で一緒に食べないか?」
「いつも直弘君たちか生徒会で食べてるのに珍しーね。」
「ああ、昨日のことについて話そうと思ってな。」
「なーんだそれならそうと言ってよ~。いいに決まってるじゃん!」
陽菜と話していると直弘が歩いてきた。
「今日はいつにもましてにぎやかだね、天宮さん。」
「えへへー、昨日いいことあったんだ~」
「なるほどなるほど」
そういいながら直弘はこっちを見てくる。にやにやするな。
「仲のいいお二人の邪魔をするわけにはいかないから僕はここで退散するよ。」
「ああ、またあとでな。」
直弘が席に戻ったのを見て、すでに後ろの席に座っている陽菜へと向かう
「陽菜、一応確認しておこう。君はしっかりと昨日の言葉の意味を理解しているんだよな」
「もう、それはわかってるよ。わたしの価値観を正す、だっけ。やっぱり誠司って面白いこと言うよね!」
「分かっているならいい。」
そういって僕は席から立ち上がる。
「あれ、どこ行くの?」
「お手洗いだ。」
「そっかー、行ってらっしゃーい。」
陽菜の言葉を背に教室を出る。するとそこには扉の前で前髪をいじっている美月がいた。
「おはよう、美月。教室に入らないのか?」
「ひゃい!?誠司君!?」
「そうだ、誠司だ」
僕に話しかけられて取り乱したようだ。
「ゴホンッ!誠司君、おはようございます。」
もとより短く済ます予定だったんだ。用件だけ伝えて朝練をしているであろう莉乃のところへ向かおう。
「そうだ、今日の昼に昨日の件で話したいことがある。空き教室で一緒にご飯を食べないか?」
「誠司君と一緒…!」
美月の顔がパァッと明るくなる。
「は、はいもちろんです!」
「ありがとう、用件はそれだけだ。ちょっと用事があるからあとで教室で会おう。」
「え、ちょ、ちょっと待ってください!」
「どうしたんだ?」
「それだけですか?」
「それだけだ」
「え?昨日あんなことがあったんですよ?なんでそんな普通なんですか?」
「君のやらかしが僕にばれた後と大して変わってないだろう。」
「でも、一晩経ってもう少し心境の変化とか…。自分でも怖がらせてしまったと思っている部分はありますし…。」
「昨日言う必要があることはすでに行っただろう。この続きは昼に話すべきだ。君の所業が周囲に広まることは僕としても望ましくない。」
「そ、そうですか。そういう風に考えるんですね…。あとでメモしておきましょう。」
何か不穏なことを言っていたような気がするが気にしないことにしよう。
***
グラウンドへ出るといくつかの運動部が朝練を終えて用具の片づけをしてた。
「おう、誠司!」
同じクラスの友人が話しかけてくる。
「おはよう、恵三」
「どうしたんだ、しばらく陸上部の手伝いはしないって言ってなかったか?もしかして陸上部に入りたいのか?お前なら大歓迎だ。」
「そうじゃない。少し莉乃に用事があってな。もう更衣室に行ってしまったか?」
「桜宮か、あいつなら多分今体育倉庫にコーンを戻しに行っているんじゃないか?」
「ありがとう。」
「なんだ、昨日なんかあったのか?部活もないからお前と直弘と一緒に帰ろうと思ってたんだけど。」
「まあ、あったと言えばあったがこの件については個人のプライバシーにかかわることだから詮索しないでほしい。」
「まあお前がそういうなら詮索しないけど、なんかあったら相談しろよ。」
「そうさせてもらうよ。どうせ僕も今から体育倉庫に向かうつもりだから、何か運ぶものはないか?」
「じゃあ、砲丸を持ってくの手伝ってくれ。一人では運びきれない。」
「分かった。」
恵三と会話しながら体育倉庫に向かう。ちょうどそこにはコーンを戻し終えた莉乃がいた。
「あっ、誠司くん…。」
「おはよう、莉乃。」
「お、おはよう。」
僕と莉乃が挨拶をしていた所、恵三が小声で話しかけてきた。
「なあ、なんか桜宮のやつ普段よりぎこちなくないか?」
「昨日、いろいろあったんだ。」
僕がそう言うと、恵三は僕をジトっとした目で見てくる。
「お前、女遊びはほどほどにしろよ。」
「そんなことをしたことはない。」
恵三はそそくさと砲丸を片付けて
「それじゃ俺はこれで、後は仲のいいお二人さんで~」
などと言って出て行った。
「そうだ、君に話があるんだ。」
ぽかんとしている莉乃に話しかける。
「えっ、うん!話って?」
「今日の昼に時間をとれるか?昨日の件について昼食の時に話したい。君が時間をとれるかを確認したくてな。昼練もあるだろう?」
「大丈夫だよ。昼錬は自由参加だし。」
「じゃあ、昼は空き教室で集合しよう。」
それだけ言って僕は教室へと戻る。
「うん。え?…それだけ?」
その場にはぽかんとした莉乃だけが残されていた。
今更ですがこの小説は会話文がほとんどなのでその点はご了承ください。