レッドウィンターの商人   作:あいう

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怨嗟

アリウス分校に侵入することはできない。それは何度も試みた。しかし、あそこは迷路のようになっていて、生きているかのようにルートが日々変動している。それを記録に取り、あと1ヶ月あれば解読できそうなのだが、そんな時間はなかった。

 

 

だが、絞り込むことには成功した。3〜7日の周期で定期的に変わり、それも幾つかのパターンがある。その種類も数多であるが、ここまで来てしまえば勘でも行ける。楽観的な思考でいざ挑んでみる。まずここで私はミスをした。食料をあまり持ってきていなかったことだ。

携帯型の食料とスポーツドリンクを何十本かぐらいだった。

 

 

 

 

だから、そう、ここまで書けばわかるだろう。アリウスに入ることができてしまったのだ。ひどく荒廃したここに、ホームレスは存在しなかった。代わりに朽ち果てた骨を犬が喰らいついていた。

 

ヒュー、と思わず口笛を吹いてしまう。

 

野犬に気づかれかけたので、すぐに身を隠した。大人しくしていればよかったが、あれを見ずに何も行動をしない人間は人間ではない。

 

そうして路地裏を右往左往していると、脱ぎ捨てられた衣服と腐りかけたチーズが落ちていた。……この格好では目立つだろう。この衣服と交換して薄汚い衣姿になる。着替えている最中、誰かの声が聞こえ始めた。

 

「エデン条約の……」

 

「明日の……」

 

「……ならば!」

 

何を話しているのかわからない。途切れ途切れの単語で推測するにしても、如何せんキーワードが少なすぎる。少し近づいてみるか……

 

「明日のエデン条約では、スクワッドの皆さんが先陣を切っていくんだったよな?まったく覚えてないんだよね」

 

「ばっかおまえ、それマダムに聞かれたら殺されるぞっ!」

 

「大丈夫だよ……あの人は私のような者には興味も示さないから……まぁ、そっちの方がいいけどな!」

 

「……agree」

 

 

マダム……ベアトリーチェだろうな。アリウスの生徒であるのに、あそこまでポジティブに育ったのは凄いと感心しながら、腐ったチーズを齧る。おっえぇ……不味い。これを食べることもあるのだろう。アリウスは。これが格差、これが現実、これがリアル。憎しむべき対象をトリニティに向けてしまうのも納得だ。

 

そうして口の中にあるこれをネズミの近くに吐き捨てた。

 

不味い不味いといいながら、更に奥へと進んだ。吐瀉物だろうか、べちゃべちゃとする乳白色の固形物を踏んでしまった。そして、……はぁ……そしてこれはまだ新しいことに気がついてしまう。

 

 

辺り一帯を見回すと、膝をついて口元を押さえつけている少女がいた。高身長で座高だけでも、チェリノを越しているのではないかと思った。

 

まだこちらに気がついていなかった。銃はしっかりと持っていた。下手に近づくと撃たれるかもしれない。だが、話しかけてみたかった。ここの住民の精神状況を知りたい。

 

「おい……」

そう高圧的にいいながら、リボルバーを彼女の方に転がした。あえて無防備になった風に見せかけて警戒を解こうとした。

 

「……アリウスの生徒ではない……なんの真似ですか」

そう言って銃口をこちらに向けてくる。

 

「いやなに……ただ君が心配だっただけさ……」

ミスったかな。アリウス生は警戒を緩める様子はない。しかし短髪の少女は体調が悪いのか、立っているのもやっとなのか知らないが、もう片方の手を支えにして二足歩行を成立している。

 

「そうですか……死んでください」

そう言って引き金を引いてきたので、仕方なく取り押さえた。

 

 

叫ばれる可能性と誰かに連絡される危険性と誰かに目撃される確実性から人目のつかない場所へと運び出した。タオルのようにした服を口に噛ませた。

 

叫ばせないようにした後、ボディチェックをすると無線機などがあった、それを没収し連絡手段を取れなくした。その時に学生証を発見したので、中身を確認すると『悌スバル』と書かれていた。

これを写真に収めたあと、身包みを剥がし裸体も収めようとした時、目を覚ましてしまう。

 

 

「……ん……んんんんんっっ!」

遺憾の意を表明しようと、体を激しく揺らし始めた。ブレて映ろうとする狙いもあったのだろうが、ミレニアム製なので無駄なことなのだ。

 

 

 

\\\///

 

 

 

やっと落ち着きを取り戻したので、噛ませている服を外して会話をした。何をするのですかっ、!と怒られたが、絶対的優位性を保っているので消してやろうなどとは思わなかった。

そして、裸体のまま真面目な話をするのは気が散ってしまうので、一部が唾液でまみれた服で隠してあげた。

 

「……ちっ!……それで何の用ですか。見たところ……トリニティの生徒では無さそうですが。」

 

「羽付きだけがトリニティって訳じゃないからね。ま、私トリニティじゃないけど。」

 

「……そうですか、それで何の用ですかと聞いたのです!」

 

「視察……ってとこかな。なんでも君たちはエデン条約をめちゃくちゃにするつもりじゃないか。其れは良くないなと思ってね……」

 

「私を止めたところで意味ないですよ。もうスクワッドは出発しているので……」

 

「いやいや、止めるつもりなんてサラサラない。私はビジネスの視察に来た。私もそれに1枚噛んどきたいってだけなんだ。」

 

「………それは難しいのでは?」

 

「そうだね、ベアトリーチェは部外者を、不確定要素を加えたくないはずだ。……別に私は稼げればそれでいいんだ。本来の目的も解消したしね」

 

「……それで、どう稼ぐと?」

 

「いい質問だね、それはね……コウモリ外交だ。」

 

「……………」

 

「君にはベアトリーチェへの撹乱を頼むよ……断ったら分かるよね、君になら。」

 

 

\\\///

 

 

 

最悪だ、どうして私がこんなことをしなくてはならない!

 

怒りが私を支配する。しかし、冷静さまでなくした訳では無い。だが、このまま行くと、あいつに殺される。あいつらは人を道具としか見ない目をしていた。

私だけの被害だったら目を瞑っていられた。だが、あの眼は目標のためなら全てを殺すことができる目だった。他の皆に被害を与える訳にはいかない。マダムに殺される可能性があろうとだ。

 

私にマダムの伝達を頼んだ。内容はこうだ。

 

『3日後のエデン条約でのアリウス襲撃をバラされたくなければ、1人の生徒をトリニティ南部にある教会に捨ておけ。指定をするのなら、伝達役のその人がいい。』

 

との事だ。こんなモノ、マダムが呑むわけがない。そう思っていたのに何故か、私が、どうしてなのか、捨てられた!

 

「ふははッッッッ!面白いぞ、実に面白いぞ!悌スバルぅ!」

 

「……す、絶対。」

一通り笑い終わったあと、要件を伝えてくる、

 

「お前に新たな司令をさずける。トリニティはこっちで何とかしとくからさ、ゲヘナに行って羽沼マコトにこう伝えてこい。

『お前がアリウスと共謀しているのなら、裏切ってドストの方につけ。そうすれば、アリウスの甘い蜜と空崎ヒナを貶めるという2つの甘い蜜を吸えるぞ』……と。」

 

「……そんなので、ゲヘナのトップが裏切りますか?もっとこう、賄賂などで交渉するべきなのではないでしょうか?」

ゲヘナの交渉方法があまりにお粗末だったので、苦言を呈する。怪しまれて獄中に入れられたり、銃を乱射されたりしたら嫌だからだ。

 

「ふっ、安心しろ悌スバル。あれはソレで大丈夫だ。」

そんなわけが無い。そう思ったので、念の為にトリニティで高いお菓子をドストに買って貰ったあと、アポイントメントをとり向かった。

 

 

\\\///

 

 

嘘だと言って欲しかった。ゲヘナとトリニティの両方を恨むように育てられた私は、こんな姿を見たくなかった。ゲヘナ議長の羽沼マコトのこんな姿を診たく……なかった。

 

「なぁにぃ!イブキのプリンが食べられただとォ!」

 

「ふっ、それに関しては我らも把握している……え、今の話嘘?ふっ、存じている……キシシッ……」

 

「キキキッ!これで風紀委員の信用は……堕ちる!」

 

万魔殿の生徒に盗聴器を仕掛けたあと、窓ごしにスコープで覗いていたら、羽沼マコトの……痴態が視えた。

 

これがゲヘナ……これが宿敵?

 

信じたくない、幻想が崩れ去った。ゲヘナへの怒りが消えゆく。それに伴ってトリニティへの怒りも無くなってしまう。

どんな顔して交渉すればいいのだろう……あ、そうだ。そういえば、買ってもらったお菓子の中にはプリンもあった気がする。

 

憂鬱だ、久しぶりに教義が頭に浮かんだ。あぁ虚しい。こんなものを恨んでいた私が……虚しい。そう思いながら、窓から突撃した。割れた破片が床に散らばり、歩き出すたびにパリンと音がする。一斉に銃口を向けられ、マコトにも警戒されてしまった。が、錠前サオリの名を出すと、マコト以外の席が外された。

 

「キキキッ……それでアリウスが何の用だ。もう"アレ"は済んだはずだが……?」

 

そう言ってきたので、ドストに伝えるように言われたことばを一言一句違わずに話した。

 

「……キシシッ!それをアリウスであるお前が言うのか……愉快極まりないぞ!……だがいいだろう、私もアリウスとの契約は元々裏切るつもりだったからな……キキキッ!ドストに伝えろ、その提案に乗ってやる……と。だが次からは契約書を持ってこいとも伝えろ。」

 

話は終わった。帰れという目を向けられるが、そこで思い出したことがあった。

 

「あ、そうでしたそうでした。これいります?」

そう言いながら、プリンの上側を持ちながらゆらゆらと揺らした。

 

「?これとはなんだ……そ、それは」

目を瞑っていたマコトは、面倒くさそうに目を開けると、驚きの表情を浮かべた。

 

「これ……要ります?」

 

「ふっ……どうやら私達は仲良くなれそうだ」

 

なんて単純なんだろう、先程まで感じていた尊敬の念が吹き飛んだ。

 

 

 

 





マコトは……合ってるよな、これで?
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