なんでも相談屋 始めました   作:黒犬51

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人と人外のコミュニケーションについて

 私は人ではない。ただ、そんなことはこの幻想郷では別に珍しいことでもない。私は八雲紫という妖怪によってこの世界に迎えられた。彼女曰く、外の世界にいると私は消えてしまうらしい。真偽は定かでなかったものの、確かに衰えを感じていた私はその誘いを了承して、幻想郷に来た。正直なところ、不安もあった。ただ、ここの人たちは皆良い人、初めて会った私を避けることもなく迎えてくれた。

 ただ、なぜだろうか。私の心は、なぜか満たされない。いや、正確には満足している。ただ、漠然とまるで心に空洞が開いたような不足感。

 そんな時だった、里に一つの張り紙を見つけた。相談屋、そして住所が書かれている。それ以上の情報はない。せめて人相くらい描いてほしいと思ったが、なんとなく、訪れる事にした。

 そして、今に至る。目の前には男。彼が相談屋で間違いない。初めてみた感想は、普通のだった。特にこれといった身体的特徴はない。だが、人間ではなく、妖怪でも神でもない。

 

「では、聞かせてください。あなたのお悩みは?」

 

「悩み。とまで言えるかはわからない。だから相談するのもどうなのかなと思っています」

 

 男はそれを聞くと優しく微笑む。それはまるで慈母のようで。全てを曝け出しても問題ないと本能が囁いている。

 

「構いませんよ。そのような場合、まずは一旦言葉にしてみるのが重要だと思っています。そこから見えてくるものもあるかもしれません。ただ、突然本題に入っても面白くありません。少しお話ししませんか」

 

「私は構いませんよ。時間は本当に沢山あるので」

 

 それを聞いた男は満足そうに笑う。彼女が男を人間ではないと気付いたように、男もまた、彼女が人間ではないということには気づいていた。

 ただ、彼はどうやら神ではなく、妖怪でもない。

 

「ですね。我々人外にとって時の流れは永遠にも感じる。例えるならば、そうですね。砂漠の砂の全てを砂時計で落とすような物です。一方、人の時の流れは早い。意識しなければ我々が一眠りしただけのような時間で居なくなる」

 

「その通りですね。腰ほどの背丈が気づけば私を超えて、また私よりも低くなる」

 

 彼と彼女、その思考には同じような景色が広がっている。時折人間が来て、軽くお辞儀をしていく。見たことのない人間もいれば毎日のようにくる人間もいる。ただ、彼らに我々は見えず。くるたびに彼らは老いて、去って、消えて、また静寂が始まる。その繰り返し。

 

「ところで、私はまだ人里に向かったことがなく。ここの人間は我々を見れるのでしょうか」

 

「えぇ、それはもう」

 

 それを聞いた男は少し楽しそうに笑う。見た目はすでに成人、歳は私と同じような存在であれば人間に老人など遥かに凌ぐ高齢だろう。しかし、それでも彼は子供のように無邪気に笑う。

 

「それは良い。私は、昔から人々としっかり交流してみたかった。ずっと見ているだけ、たまに声が聞こえる者に危険を伝えるだけ、これではつまらないと思っていたのです。彼らは愚かではありますが、美しくもある」

 

「ただ、難しいですよ。我々とは全てが異なります。考えも、生活も、命も」

 

 ここの人々はよくしてくれている。私は人里の一角で居を構えているが、毎日のように子供が遊びに来る。特段拒否することもなく迎え入れてはいるものの、交流はできていない。私の方から壁を築いてしまっている。

 その根底にあるのは...ぼんやりと思考を巡らせていると男が話し始める。その表情に先ほどの無邪気さはない。

 

「ええ、難しいでしょう。我々とは全てが異なります。ですが、それは人間も同じです。信仰も、育ちも、考え方も、好みも、命の長さも同じ人間は居ません。だからこそ交流をするのです。その中でより深くお互いを知って、友人になる」

 

「しかし、彼らは先に居なくなる。それは...」

 

 私が言葉に詰まると男はまるで見透かしたかのようにその先を口にする。

 

「悲しいことです。我々にとっても、願わくば彼らにとっても。深い交流を持てば持つほどその時が来た時の辛さも酷くなるでしょう。確かに、友人にならなければそんな気持ちは味合わなくて済む。だから友人を作らない。私はその意見を否定するつもりはありませんよ」

 

 男はそこで一度言葉を区切る。何を想起しているのか、おそらくそれは彼女と同様のものではない。

 

「ただ、彼らと友人になれるチャンスは永遠ではありません。我々が悩んでしまっているうちに老いて会えなくなるかもしれない。突然死んでしまうかもしれない。もし、貴方の目の前にチャンスがあるならば拾ってみればどうでしょうか」

 

 今になって気づく、この男の話は。明確に私の悩みについて話している。

 毎日くる子供達、私は友人になりたくないわけではない。ただ、いつか必ずくる別れ。それが怖い。その時、私は彼らに送られる立場になることはない。

 

「もしかして、心が読めるのですか」

 

 その問いに男は苦笑する。まるで私のこの発言もわかっていたかのように。

 

「いえ、読めませんよ。そんな妖怪がいるというお話を聞いたことがありますが、私は違います。完全な推察で当てたとそう言えれば格好がつくのですが、正直なところは違います。貴方の手のそれがヒントになりました」

 

 机の上で組んでいた手を見るとそこには一輪の桜のような絵が描かれている。その拙い線から、大人の作成したものではないことは容易に想像がつく。

 頬が少し熱くなるのを感じた。その様子を見てか、男は愉快そうに笑っていた。

 

「これで外れていたら恥ずかしいので私からは言えませんでしたがね。でも少なくとも貴方は嫌われてはいないはず。あとは貴方次第だと思いますよ。それに、そんないたずらっ子に注意をしなくては」

 

 戯けたように大袈裟な素振りをする。それを見て笑ってしまう。急に自分の悩みが馬鹿馬鹿しくなった気がした。

 人は我々よりも早く死ぬ。別れはいつかくる。ただ別れなど、どう生きていても他者と関係を持てば訪れる確定事象。避けることは叶わない。

 

「そうですね。注意をしなければ」

 

「うん。いい笑顔になりました。一旦は解決できたようで何より。何もなくても気軽にきてください。私も暇だと思うので」

 

 男は満足そうに笑うと立ち上がる。感謝を述べようとして気づく、私は彼の名前すら知らない。

 

「今更ですが、貴方。お名前は」

 

「それがまだ無いんですよね。八雲紫から後で決めると言われているんですが」

 

 やれやれと言いたたげにため息をつきながら男は扉を開く。

 

「そうなんですね。なら次会った時には決まっていることを願います」

 

「流石にその時には決まっていると信じたいものです」

 

 男に案内されるままに家から外に出る。私だけが住むには大きいと言う愚痴をこぼしていたが、まぁ、幻想郷にはもっと大きな屋敷に住んでいる者もいると話すと信じられないと笑っていた。

 男はそのまま家から出ると、博麗神社に行くとの事ですぐに別れた。帰路には私だけ、ただ帰り道の方が足取りが軽かった。

 

 

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