「ぐぅッ!?」
ムーンセルから放たれた事象光がツクヨミのフィールドを穿つ。その際に発生した爆風がここまで飛んできたため、誰かの呻き声が耳に届いた。
「……」
それでも私は目を逸らさない。ああ、久しぶり。こんなに時間がかかっちゃってごめんね。ちゃんと役目は果たすから安心して。
「っ……」
宝具を放ったことにより、魔力が急激に減ってその場で片膝を突いてしまう。バックアップなしに宝具の使用はやはりきつかった。
「白野!」
そんな私に彩葉とかぐやが慌てた様子で駆け寄ってくる。そのまま私に寄り添うように肩を支えてくれた。
「ありがとう」
「今のなに!? めっちゃかっこいい詠唱した後にビームがドーンって! 月人たちも吹き飛んでった!」
興奮したように矢継ぎ早に質問してくるかぐや。宝具――『
「でも、やれたのは先頭集団だけ。後ろにいる月人たちと幹部クラスの個体は残ってる。白野、あれはまだ撃てる?」
「さすがにもう無理……だけど、もう必要ないよ」
「え?」
彩葉の言葉に苦笑を浮かべながら首を横に振った後、フラフラと立ち上がる。私は月の王。かぐやを守るための軍勢のトップに立つ王様だ。なら、ここに集まってくれた彼らの士気を上げるのも私の役目である。
「かぐやを守るために集まってくれた同志たちよ!」
彩葉とかぐやに支えながらステージの前方へ移動してフィールドに立つツクヨミユーザーへ語りかける。魔力不足で今にも倒れてしまいそうだが、それを隠すために背筋を伸ばして前を向く。
「敵の戦力は文字通り、無限! 戦うだけ無駄だ!」
それでも事実は伝える。幹部クラスはともかく雑兵たちは倒してもすぐに補充される。きっと、まともに戦うのは不可能だ。
「でも、安心してほしい! 私が何とかする! 時間さえ稼いでくれれば私が月人を追い払ってみせる!」
「白野……」
「だから、お願い! 一緒にかぐやを守って! あなたたちの推しを……私たちのかぐや姫は絶対に月には行かせない! さぁ、同志たちよ! 戦いの火ぶたは我が宝具によって切って落とされた! 全員、突撃ー!」
「うおおおおおおお! かぐやちゃあああああん!」
「ザビ子様の仰せのままにー!」
いきなりの演説にほとんどのユーザーが困惑する中、二つの人影が我先にと戦場へ突撃した。一人は先ほどまでMCを担当していたはずの忠犬オタ公。そして、もう一人は何故か私を推してくれている人気ライバーの女の子だ。うん、推しを守るその姿、まさにオタクの鑑である。でも、オタ公さん、MCの仕事はいいのかな。
「ッ! 続け! 俺たちでかぐやちゃんを守るんだ!」
「おおおおおおおお!」
「月人なんか怖くねーぞ!」
「よくわかんないけどお祭りか!? 暴れてやるぜ!」
「盛大に盛り上げて行こー!」
「リスナーのみなさーん! 一緒にかぐやさんを守りませんかー! 参加する方は花びらに当たって下さーい!」
そんな二人に触発され、月人へ攻撃を仕掛けるかぐやのファン、花びらに当たってしまい混乱したまま、ノリで武器を構えて突っ込む人、この騒ぎに乗じて配信し始めるライバー。もう何もかもが滅茶苦茶だった。でも、その誰もが――自分のしたいことをやっていた。
「あはは……もう、わけわかんない」
その光景を見ていたかぐやは涙交じりの笑い声を漏らす。そして、私と彩葉に視線を向けていつもの笑みを浮かべた。
「あー、もう我慢できない! 彩葉、かぐやも行く!」
「は!? いや、駄目でしょ! あんたが捕まったら駄目なんだからお姫様はここで待機!」
「えー、やだやだぁ! かぐやも戦いたい!」
「なら、もう少しだけ待って」
きっと、かぐやならそう言うと思っていた。だから、開幕に宝具を使ったのだ。
「もう少しだけって……まだ何かやるの?」
「うん、ほら見て。来るよ」
私はそっと空に浮かぶミラーボールを指さす。クルクルと常にツクヨミを照らしていたそれは不意にパキリ、と小さな音を立てて割れた。
「え?」
割れたミラーボールは少しずつ崩れていく。そして、その奥から何かが顔を出した。巨大な立方体。そう、あれこそ月の聖杯――ムーンセル・オートマトンである。
「あれってビーム出したやつ?」
「そう。私の宝具で観測できるようになったから来てくれたの」
この世界にムーンセル・オートマトンは存在していない。そのため、『ムーンセル・オートマトンが存在しない世界の観測』にはそれ相応のエネルギーが必要となる。
しかし、かぐやの輪廻を破壊するというミッションはムーンセルの中では優先順位が低く、必要なエネルギーを捻出してくれなかったのだ。
そこで私が考えたのは宝具をビーコン代わりにすること。ムーンセル・オートマトンの事象光を『ツクヨミ』に撃ち込んで観測させ、この世界に顕現する道筋を作る。文字通り、この世界にムーンセルの錨を下ろしたのだ。
「お願い。力を貸して……うおっ」
私がムーンセルへ語りかける。すると、宝具の使用によって消費された魔力が一気に回復。それだけでなく、初期化されてボロボロだった霊基までブーストしてくれた。多分、処理の途中で
「わっ!? 白野、早着替え!?」
「そんな服も持ってたの?」
霊基がブーストされたことにより、私の服が黒とオレンジを基調としたセーラー服に変わる。羽織っている短ランを着直し、学生帽子の位置も調整。うん、バッチリだ。
「BB」
「はぁい、呼ばれて出てきましたBBちゃんです! わぁ、先輩、やっぱりその姿、とってもカッコいいですね!」
「ありがとう」
「あ、出やがったな! 小松菜!」
「お野菜系後輩ではありませーん。時間もないことですし、さっさと最終フェーズに入りましょうか。サポートはお任せください♡」
そう言いつつ、BBは仮想キーボートを叩き始める。さて、私も準備をしようか。目を閉じてパスが繋がっているムーンセル・オートマトンにアクセス。必要な情報を取得して小さく笑みを浮かべた。
「うん、大丈夫そう。BBの方は?」
「そうですね。わたしを媒介にしますので制限はかかりますが十分でしょう。最大で
「わかった」
魔力は満タン。ムーンセル・オートマトンのバックアップとBBのサポート。なにより、ここは電脳空間『SE.RA.PH』に似た仮想空間『ツクヨミ』。条件は揃っていた。
「彩葉、かぐや。みんなのところに行ってて。ちょっと危ないから」
「何かするの?」
「うん、とっても心強い助っ人を呼ぶの」
「それってさっき、かぐやを助けてくれた男の人みたいな?」
かぐやの疑問にコクリと頷いた。しかし、あれはあくまで簡易召喚。一分にも満たない召喚となるため、集団戦となるこの戦いには向かない。
「では、英霊召喚シークエンス開始。ムーンセル・オートマトンへ許可を申請。受領。サーヴァント『BB』を媒介とし、三騎の英霊を召喚いたします」
カタカタとキーボードを凄まじい勢いで叩きながらBBがオペレーションを開始した。その間に私はステージの真ん中へ移動して目を閉じる。魔力回路が起動して私の体が僅かに熱を帯びた。
「召喚可能英霊は『
「わっ、白野の足元に魔法陣が!?」
かぐやの驚いた声を聞きながら彼らの姿を思い浮かべる。うん、大丈夫。きっと、応えてくれる。だって、私の自慢のサーヴァントたちなのだから!
「――来て、セイバー! アーチャー! キャスター!」
魔力を全力で注ぎながら彼らに呼びかける。そして、