月の王とかぐや姫   作:ホッシー@VTuber

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第100話 Anchor

「ぐぅッ!?」

 

 ムーンセルから放たれた事象光がツクヨミのフィールドを穿つ。その際に発生した爆風がここまで飛んできたため、誰かの呻き声が耳に届いた。

 

「……」

 

 それでも私は目を逸らさない。ああ、久しぶり。こんなに時間がかかっちゃってごめんね。ちゃんと役目は果たすから安心して。

 

「っ……」

 

 宝具を放ったことにより、魔力が急激に減ってその場で片膝を突いてしまう。バックアップなしに宝具の使用はやはりきつかった。

 

「白野!」

 

 そんな私に彩葉とかぐやが慌てた様子で駆け寄ってくる。そのまま私に寄り添うように肩を支えてくれた。

 

「ありがとう」

「今のなに!? めっちゃかっこいい詠唱した後にビームがドーンって! 月人たちも吹き飛んでった!」

 

 興奮したように矢継ぎ早に質問してくるかぐや。宝具――『跳躍せよ、語り手なき月の柩(ヴォイドレコード・ムーンアンカー)』。私の世界にあるムーンセル・オートマトンを虚数空間を介して繋ぎ、記録固定に使用するエネルギーを対象に向けて放つ事象兵器。私のとっておきだ。

 

「でも、やれたのは先頭集団だけ。後ろにいる月人たちと幹部クラスの個体は残ってる。白野、あれはまだ撃てる?」

「さすがにもう無理……だけど、もう必要ないよ」

「え?」

 

 彩葉の言葉に苦笑を浮かべながら首を横に振った後、フラフラと立ち上がる。私は月の王。かぐやを守るための軍勢のトップに立つ王様だ。なら、ここに集まってくれた彼らの士気を上げるのも私の役目である。

 

「かぐやを守るために集まってくれた同志たちよ!」

 

 彩葉とかぐやに支えながらステージの前方へ移動してフィールドに立つツクヨミユーザーへ語りかける。魔力不足で今にも倒れてしまいそうだが、それを隠すために背筋を伸ばして前を向く。

 

「敵の戦力は文字通り、無限! 戦うだけ無駄だ!」

 

 それでも事実は伝える。幹部クラスはともかく雑兵たちは倒してもすぐに補充される。きっと、まともに戦うのは不可能だ。

 

「でも、安心してほしい! 私が何とかする! 時間さえ稼いでくれれば私が月人を追い払ってみせる!」

「白野……」

「だから、お願い! 一緒にかぐやを守って! あなたたちの推しを……私たちのかぐや姫は絶対に月には行かせない! さぁ、同志たちよ! 戦いの火ぶたは我が宝具によって切って落とされた! 全員、突撃ー!」

 

 

 

 

 

「うおおおおおおお! かぐやちゃあああああん!」

「ザビ子様の仰せのままにー!」

 

 

 

 

 

 いきなりの演説にほとんどのユーザーが困惑する中、二つの人影が我先にと戦場へ突撃した。一人は先ほどまでMCを担当していたはずの忠犬オタ公。そして、もう一人は何故か私を推してくれている人気ライバーの女の子だ。うん、推しを守るその姿、まさにオタクの鑑である。でも、オタ公さん、MCの仕事はいいのかな。

 

「ッ! 続け! 俺たちでかぐやちゃんを守るんだ!」

「おおおおおおおお!」

「月人なんか怖くねーぞ!」

「よくわかんないけどお祭りか!? 暴れてやるぜ!」

「盛大に盛り上げて行こー!」

「リスナーのみなさーん! 一緒にかぐやさんを守りませんかー! 参加する方は花びらに当たって下さーい!」

 

 そんな二人に触発され、月人へ攻撃を仕掛けるかぐやのファン、花びらに当たってしまい混乱したまま、ノリで武器を構えて突っ込む人、この騒ぎに乗じて配信し始めるライバー。もう何もかもが滅茶苦茶だった。でも、その誰もが――自分のしたいことをやっていた。

 

「あはは……もう、わけわかんない」

 

 その光景を見ていたかぐやは涙交じりの笑い声を漏らす。そして、私と彩葉に視線を向けていつもの笑みを浮かべた。

 

「あー、もう我慢できない! 彩葉、かぐやも行く!」

「は!? いや、駄目でしょ! あんたが捕まったら駄目なんだからお姫様はここで待機!」

「えー、やだやだぁ! かぐやも戦いたい!」

「なら、もう少しだけ待って」

 

 きっと、かぐやならそう言うと思っていた。だから、開幕に宝具を使ったのだ。

 

「もう少しだけって……まだ何かやるの?」

「うん、ほら見て。来るよ」

 

 私はそっと空に浮かぶミラーボールを指さす。クルクルと常にツクヨミを照らしていたそれは不意にパキリ、と小さな音を立てて割れた。

 

「え?」

 

 割れたミラーボールは少しずつ崩れていく。そして、その奥から何かが顔を出した。巨大な立方体。そう、あれこそ月の聖杯――ムーンセル・オートマトンである。

 

「あれってビーム出したやつ?」

「そう。私の宝具で観測できるようになったから来てくれたの」

 

 この世界にムーンセル・オートマトンは存在していない。そのため、『ムーンセル・オートマトンが存在しない世界の観測』にはそれ相応のエネルギーが必要となる。

 

 しかし、かぐやの輪廻を破壊するというミッションはムーンセルの中では優先順位が低く、必要なエネルギーを捻出してくれなかったのだ。

 

 そこで私が考えたのは宝具をビーコン代わりにすること。ムーンセル・オートマトンの事象光を『ツクヨミ』に撃ち込んで観測させ、この世界に顕現する道筋を作る。文字通り、この世界にムーンセルの錨を下ろしたのだ。

 

「お願い。力を貸して……うおっ」

 

 私がムーンセルへ語りかける。すると、宝具の使用によって消費された魔力が一気に回復。それだけでなく、初期化されてボロボロだった霊基までブーストしてくれた。多分、処理の途中で記憶(メモリー)に不具合が生じ、赤ん坊のような状態でこの世界に送り込んだお詫びだろう。暗示と英霊召喚用の令呪だけでも十分なのに随分と大盤振る舞いだ。

 

「わっ!? 白野、早着替え!?」

「そんな服も持ってたの?」

 

 霊基がブーストされたことにより、私の服が黒とオレンジを基調としたセーラー服に変わる。羽織っている短ランを着直し、学生帽子の位置も調整。うん、バッチリだ。

 

「BB」

「はぁい、呼ばれて出てきましたBBちゃんです! わぁ、先輩、やっぱりその姿、とってもカッコいいですね!」

「ありがとう」

「あ、出やがったな! 小松菜!」

「お野菜系後輩ではありませーん。時間もないことですし、さっさと最終フェーズに入りましょうか。サポートはお任せください♡」

 

 そう言いつつ、BBは仮想キーボートを叩き始める。さて、私も準備をしようか。目を閉じてパスが繋がっているムーンセル・オートマトンにアクセス。必要な情報を取得して小さく笑みを浮かべた。

 

「うん、大丈夫そう。BBの方は?」

「そうですね。わたしを媒介にしますので制限はかかりますが十分でしょう。最大で三騎(・・)です」

「わかった」

 

 魔力は満タン。ムーンセル・オートマトンのバックアップとBBのサポート。なにより、ここは電脳空間『SE.RA.PH』に似た仮想空間『ツクヨミ』。条件は揃っていた。

 

「彩葉、かぐや。みんなのところに行ってて。ちょっと危ないから」

「何かするの?」

「うん、とっても心強い助っ人を呼ぶの」

「それってさっき、かぐやを助けてくれた男の人みたいな?」

 

 かぐやの疑問にコクリと頷いた。しかし、あれはあくまで簡易召喚。一分にも満たない召喚となるため、集団戦となるこの戦いには向かない。

 

「では、英霊召喚シークエンス開始。ムーンセル・オートマトンへ許可を申請。受領。サーヴァント『BB』を媒介とし、三騎の英霊を召喚いたします」

 

 カタカタとキーボードを凄まじい勢いで叩きながらBBがオペレーションを開始した。その間に私はステージの真ん中へ移動して目を閉じる。魔術回路が起動して私の体が僅かに熱を帯びた。

 

「召喚可能英霊は『特殊事例(C.C.C.)』で先輩と契約した方々。先輩、いつでも行けます!」

「わっ、白野の足元に魔法陣が!?」

 

 かぐやの驚いた声を聞きながら彼らの姿を思い浮かべる。うん、大丈夫。きっと、応えてくれる。だって、私の自慢のサーヴァントたちなのだから!

 

 

 

 

 

「――来て、セイバー! アーチャー! キャスター!」

 

 

 

 

 

 魔力を全力で注ぎながら彼らに呼びかける。そして、四騎(・・)とパスが繋がった。

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