月の王とかぐや姫   作:ホッシー@VTuber

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第102話 作戦開始

「ッ――」

 

 正直な話、白野が来てくれてから色々なことが起こりすぎて理解することを止めていた部分はあった。

 

 ハッキングに強いと言われているツクヨミを簡単に掌握して視界と聴覚をジャックしたBB。

 

 詠唱して凄まじいビームを放ったかと思ったら変な立方体を出現させた白野。

 

 そして、サーヴァントとして呼ばれた三人。

 

 少し不思議な花嫁衣装に身を包んだセイバー。

 

 カジュアルな格好でニヒルな笑みを浮かべるアーチャー。

 

 荘厳な風格を持ちつつもどこか軽い印象を受ける狐耳のキャスター。

 

 しかし、彼らはかぐやを守るため、尽力しようとしてくれていることはわかった。だって、あの白野が素直に頼ろうとする人たちだ。きっと、味方なのだろうとすぐに信じることができた。

 

「ふん、我(オレ)の力に頼ろうとは……その言葉の重さを理解しているのだろうな、雑種(マスター)」

 

 でも、この男は違う。黄金に輝く鎧を着こみ、白野を睨みつけている金髪の男。仮想空間のため、視覚、聴覚以外の五感に対応していないはずなのに彼が現れた瞬間、私は彼から放たれる威圧に思わずその場で座り込んでしまいそうになってしまった。あのかぐやでさえ、言葉を失い、息を殺している。そう、この金髪の男は――関わってはならない人だ。

 

「あ、王様は戦わなくていいよ。でも、黄金帆船(ヴィマーナ)でボサツ型のところまで運んでほしいな」

 

 しかし、そんな彼を前にしても白野は普段通り――まるで旧友と話すように気さくに答えた。これほどの威圧を放つ相手に普通に接した彼女を見て私は息を呑んでしまう。案の定、金髪の男――ギルガメッシュはピクリと眉を動かす。

 

「……聞き間違えか? この我(オレ)を足代わりにするだと?」

「だって、今の王様が戦ったらテンション上がってエアる(・・・)でしょ。駄目だよ、ツクヨミが壊れちゃうから」

 

 悪いことをする子供を叱るように腰に手を当ててため息交じりに窘めた。多分、私以外のみんなも心の中で悲鳴を上げていることだろう。もしかしたら、彼はこのまま白野を殺してしまうかもしれない。HPバーを全損されたところで本当に死ぬわけではないのに何故か、私は本気で白野の死を覚悟していた。

 

「……そもそも、我(オレ)は様子を見に来ただけだ。戦う意思は最初からない」

 

 しかし、私の予想とは裏腹に彼は白野に何もせず、少し拗ねたように低い声で言い返す。

 

「呼んでもいないのに自分から来る時点でやる気十分でしょ。そんなに魔力溢れさせて……みんな、怯えてるよ」

「……ふん。仕方あるまい、二年もの間、一人で頑張った褒美だ。今回は特別に船を貸してやる」

「わーい、ありがとう。ね、大丈夫だったでしょ?」

 

 何故かギルガメッシュの許可が下り、誇らしげに笑う白野。こっちは気が気でなかったため、未だ五体満足な彼女の姿にホッと安堵のため息を吐いてしまう。

 

「……」

「ぇ、あ……えっと……」

 

 その時、理由は不明だがギルガメッシュが私へ視線を向ける。全てを見透かすような赤い瞳に背筋が凍りつき、震えた声を漏らしてしまった。

 

「白野(・・)、気づいているか?」

「うん、もちろん。だから、託したんだよ」

「……なら、我(オレ)から言うことはない。乗れ、こんな茶番、さっさと終わらせてくれる」

 

 ガチャリ、と金属が擦れる音を立てながらギルガメッシュはステージの端に移動し――彼の背後に巨大な黄金の渦が現れた。それだけでも驚いたのにその渦から目が眩むような黄金の乗り物がゆっくりと姿を見せ、言葉を失ってしまう。

 

(これは……船?)

 

 飛行船、というものだろうか。渦から現れたそれは宙に浮き、持ち主であるギルガメッシュはさっさと乗り込み、設置されている玉座へドカリと座った。更に小さな渦からワインと黄金の盃を取り出して退屈そうに飲み始める。その姿はまさに王様。いや、暴君と言ってもいいかもしれない。

 

「じゃあ、私も行ってくる。みんな、頑張ろうね。もし、やばそうになったらBBに報告。一応、私も援護はできるから」

「ま、待って!」

 

 彼の後に続き、黄金の船に乗り込もうとした白野を引き留める。何だろうと不思議そうにこちらを振り返った。

 

「ヤチヨは……どうなったの?」

 

 白野が来ても姿を現さないヤチヨ。それだけはどうしても彼女に直接、確認したかった。BBがツクヨミの管理者権限を所持しているということはヤチヨから借りたか、奪ったことになる。もし、BBがヤチヨになにか危害を加えたのなら私は白野の知り合いだったとしても許せないだろう。

 

「……とりあえず、無事だよ。でも、無茶しようとしてたからちょっとだけ動けなくした」

「え?」

 

 無事だと言ったのに白野は僅かに顔を歪めて視線を外した。予想外の反応に私は言葉を詰まらせ――詳細を聞こうと一歩前に出る。

 

「時間もないので質問はそれぐらいで! 先輩、行きましょ?」

「……じゃあ、行ってきます」

 

 しかし、私と白野の間に割り込んだBBのせいで何も聞けなかった。止める間もなく、二人を乗せた黄金の船は静かに高度を上げ始めてしまう。

 

「おい、貴様の乗船は許した覚えはないぞ。さっさと降りろ」

「えー、わたし、先輩のお手伝いをしなければなりませんし……あなたが召喚に割り込んできた時、弾くこともできたんですよ? つ・ま・り、この場にいるのはわたしのおかげってことです」

「……余計なことはするな。貴様は良かれと思ってやったことが裏目に出るタイプだ」

「えー、ひっどーい! 先輩、ギルガメッシュさんが虐めるー♪」

「BB、ごめん。今、ムーンセルに接続して仕事BOTの設計図を――」

 

 それを最後に白野たちの声は聞こえなくなった。これで作戦決行の準備は整った、ということだろうか。

 

「あの金ぴかめ、しれっと奏者の傍にいることになったぞ、許せん……が、今はこちらが優先だ。さて、奏者の友人たちよ。これから余たちは戦場へ赴く。準備はいいか?」

 

 黄金の船を見送った後、セイバーが私たちを試すような視線を向けつつ、問いかけてきた。そうだ、白野の交渉が上手く行くように私たちはこれから幹部クラスの敵と戦う。ちゃんと自分に与えられた役目をこなさないと。

 

「もちろん、いつでも行けるぜ」

「うむ、では、奏者が伝えたチームに分かれて出陣だ! 乃依、真実、余に続け!」

「帝、芦花は私だ。弓兵の身だから前衛を任せたい」

「はーい、残りは私と一緒にフィールドの真ん中へ向かいます! 他の二人とは違い、雑兵や弾幕の流れ弾も飛んできますのでご注意くださいませ☆」

 

 セイバーたちはまるで修学旅行を引率する先生のように私たちへ声をかけ、ほぼ同時にステージを飛び降りた――って、待って! さすがに追いつけないってば!

 

「うおおおお! いきなり置いてくとかあり!?」

「セイバーとアーチャーについてく人は急げ! 分断するってことは傍にいないと一緒に戦えなくなるぞ!」

「もー、わけわかんない!」

 

 そんな彼らを見てかぐや、帝、真実は慌てた様子で階段を駆け下りる。私もその後に続いて地上を目指すがセイバーはすでに豆粒ほどにまで小さくなっていた。因みにアーチャーとキャスターは階段下でちゃんと待ってくれている。

 

「BB、セイバーが先行しすぎてる!」

『あちゃー、先輩に頼られてテンション上がってしまったんでしょうね。先輩、セイバーさんに念話をしてスピードを落としてもらってください』

 

 急いでBBに状況を説明すると彼女経由で白野に伝えてもらう。すると、月人をばっさばっさと斬りながら走っていた彼女はピタリと動きを止め、こちらに向かって反転した。どうやら、ちゃんと伝わったらしい。

 

「白野の知り合いっぽいけど……色々と滅茶苦茶だね」

 

 私の隣にいた芦花もそれを見ていたのだろう。こんな状況なのに苦笑を浮かべていた。

 

「うん、そうだね」

 

 そして、多分、私も一緒だ。白野が来てから空気が変わった。敗戦覚悟だったのに今は絶対に勝てると自信を持って言える。だって、あの白野が指揮を執っているのだ。負けるビジョンが浮かぶわけがなかった。

 

「すまぬ、ちょっと先走ってしまった!」

「全然、大丈夫♡」

「うぅ……私、役に立てるのかなぁ」

 

 私たちが階段を降り切ったところでセイバーも戻ってきて真実と乃依に謝罪する。しかし、ケロッとしている乃依はともかく真実は自信なさげにそう呟いた。月人との戦いで手酷くやられていたのでまともに戦えるか不安なのだろう。

 

「安心せよ! 皇帝たる余がついているからな!」

 

 しかし、そんな彼女を見てセイバーは自信満々といった様子で笑った。どこかかぐやを彷彿とさせるドヤ顔に私は思わず思考を停止してしまう。

 

「では、各々、やるべきことをやろう。帝、芦花、行くぞ」

「おう!」

「は、はい!」

 

 最初に目的地へ向かったのはアーチャーチーム。帝と芦花は私たちへ軽く手を振り、彼の後を追った。

 

「では、気を取り直して余たちも向かうぞ! ついて来い!」

「今度は置いてかないでねー」

「もー、どうにでもなれー!」

 

 次はセイバーチームだった。大きな剣を持っているとは思えないほどの速度で駆け出したセイバーに続くように余裕そうな乃依とほぼ自棄になっている真実。

 

「……さて、我々はゆっくりと向かいましょう」

 

 そんな彼らを見送った後、キャスターがこちらを振り返り――何故か、ジッと私を見た後、中央のフィールドに向かって歩き始める。

 

「えー、走らないの?」

「早く着いてしまったら幹部クラスがこちらに向かって来てしまうかもしれません。まずはセイバーさんとアーチャーさんたちがリョウサン型の月人相手に大暴れしていただき、幹部クラスをおびき寄せます。そして、分断。その後、残った幹部へアタック。それが作戦です☆」

 

 戦いたくてうずうずしているかぐやの言葉にキャスターは冷静に作戦を伝えた。しかし、それはあくまでセイバーとアーチャーがリョウサン型の月人相手では太刀打ちできないと判断された場合だ。

 

「……本当におびき寄せられるのか?」

 

 私と同じ疑問を持ったのだろう。雷が周囲を警戒しながらもキャスターへ問いかける。私たちは彼女たちの実力を知らない。そもそも、彼女たちは誰なのだろう。英霊、とか言っていたような気がする。

 

「おや、ご主人様のご友人なため、そちらにも精通しているとばかり……BBさん、彼らに私たちの説明が必要かもしれません」

『元々、そのつもりでしたよ。そのための回線ですので』

 

 戦場とは思えないのんびりとしたスピードでフィールドを歩くキャスター。そして、回線の向こうからBBの声が響いた。

 

『時間がなくて置いてけぼりにしてしまい、申し訳ございません。では、必要最低限ではございますがご説明させていただきます。質問は全て話し終わった後に受付しますのでよろしくお願いしますね』

 

 それからBBは説明する。きっと、私たちが普通に生きていれば知る機会などなかった神秘の話を。

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