「あら、アーチャーさんったら随分と派手に暴れてますね」
セイバー、アーチャーから戦闘が始まったと知らせがあった後、凄まじい爆音が鳴り響き、思わず肩を震わせてしまう。しかし、キャスターは平然とした様子でアーチャーが戦っているであろう方向を見てそう呟いた。
『セイバーチーム、二体のコンゴウ型を引き連れて少しずつ移動を開始。アーチャーチームの準備ができ次第、分断に入ります』
『了解した。こちらも二体のテンニョ型を視認。ちょっかいをかけて引き付ける。セイバー、宝具はいつでも使用できるようにしておけ』
『すでに準備は済んでいる! タイミングはそっちに任せるぞ!』
通信ではBB、アーチャー、セイバーが慣れた様子で連絡を取り合い、作戦は着実に進んでいる。しかし、その間、私たちは何もできないため、少しだけ後ろめたい気持ちを抱えていた。
「残ってるのはズイジュウ型ですね。なんか金魚みたいな見た目の」
『そいつ、口からでかいやつ出してきたぞ。上半身は男で下半身が龍っぽい感じの。めっちゃ強かったわー』
キャスターの言葉に帝が答える。私もその個体とは対面したが、ほとんど何もできずに逃げるように戦闘から離脱した。帝もチートモードを使って互角レベルだったので幹部の中でも相当な戦闘力を持っているだろう。
「……え? もしかして、それが私たちの担当ですか?」
『必然的にそうなるな』
『よかったな、キャスター!』
「よくねぇですよ! 私、この中で一番弱い自信ありますよ!? アーチャーさん、今からホテイ型と入れ替えませんか!?」
あのでかい月人と戦うことが確定したキャスターは涙声で必死に訴える。彼女も英雄のはずなのにどうしてそこまで弱腰なのだろうか。
『セイバー、そろそろ宝具を使用する』
『うむ、心得た!』
「無視すんじゃねー! ご主人様、ヘルプ! ヘルプです! か弱い狐が龍を相手にできるわけ……いや、キャスターならいけるじゃねぇんですよ!」
「なんか一気に頼りなくなってね?」
「俺たちで何とかするしかないかもな」
白野にすら見捨てられ、頭を抱えてしまうキャスター。そんな彼女を見てかぐやと雷も呆れた様子で肩を竦めていた。
(大丈夫なのかな……)
そういう私もこれから始まる戦いに少しだけ不安を覚えながら顔を上げ――ズイジュウ型の月人がこちらに向かっているのに気付いた。
「キャスター、来てる!」
「え? 流れが? まぁ、完全に悪い方の流れは来てますけど」
「違う、ズイジュウ型!」
「は? わぁ、口からでっかいのが出て――って、本当ですね!? 分断も終わってないのに早くないですか!? まだ何も準備できてないんですけどぉ!」
帝と戦った巨大なズイジュウ型が私たちの前に降り立ち、咆哮。ズイジュウ型の視線は先頭に立っているキャスターに向いている。まずい、このままじゃ――。
「どりゃあっ!」
――そんな思考を遮るようにキャスターはどこからともなく取り出した鏡でズイジュウ型の顔面を思い切りぶん殴った。意識外からの攻撃だったからか、殴られた彼はたたらを踏み、明らかに怯んでいる。
(あの鏡って……)
「さぁ、皆さん! 今のうちです! 袋叩きにしちゃいましょう!」
「よっしゃー! ボッコボコにしてやる!」
見覚えのある鏡に気を取られている間に完全に不意打ちを決めたキャスターに続くようにかぐやもズイジュウ型へと攻撃を仕掛けた。ハンマーを横腹にフルスイングされ、彼の体がくの字に折れ曲がる。
「かぐやさん、いいですよぉ! ついでに強化もあげましょう! 私、これでも後衛職なもので」
「うおおおおお! なんか力が漲ってきたー!」
「周囲にいるかぐやさんファンの皆さーん! 大きいのは私たちに任せてリョウサン型をこちらに近づけないようにお願いしまーす、よっ!」
ハンマーで殴られて仰け反り、何とかかぐやに攻撃を仕掛けようとしても鏡を叩きこまれ、動きを阻害されるズイジュウ型。ついでに周囲にいる味方へ声をかけるキャスターに『余裕そうじゃん』とジト目を向けてしまう。
「……俺たちも行こう。今は一方的に殴れているがおそらくそろそろ――」
「―――――――ッ!!!」
「ぎゃああああ、反撃してきたー!」
「かぐやさん、逃げて! いや、だからってこっちに逃げて来ないでください!」
「……行ってくる」
雷の予想通り、激昂状態に入ったズイジュウ型の反撃にかぐやとキャスターが慌てて逃げ惑う。そんな彼女たちの前に出た雷はズイジュウ型の剣を大盾で受け止めた。
「くっ、重い」
「そんなあなたへキャス狐印の強化をどうぞ!」
ズイジュウ型の攻撃は重く、雷が顔を顰める。そして、そんな彼の背中にキャスターがお札らしきものを投げた。
「ッ! これは……」
強化が施された雷は一瞬、驚いた表情を浮かべた後、ズイジュウ型の剣を押し返す。たった一枚のお札でこれほどまでの強化が入るとは思わず、目を丸くしてしまった。彼女自身も言っていたが本来、後衛職なのだろう。
「さ、みなさん、この調子で行きますよ! やばくなったらこちらも宝具を使いますので!」
そう言ってキャスターは鏡で牽制しながらお札を投げまくる。その戦い方は少しだけ白野と似ていた。
「では、宝具を使用する。すまないが数秒間、無防備になるから護衛を頼みたい」
ホテイ型と二体のテンニョ型の相手をしながらアーチャーは近くで戦っている帝と芦花に声をかけた。アーチャーを脅威だと判断したのか、幹部クラスの月人以外にも大量のリョウサン型が集まってきているため、二人は彼に視線を向けることすらできない。
「ああ、なんとかする。えっと、芦花ちゃんだっけ? 悪いけど、リョウサン型を近づけないようにしてくれ! 俺が幹部クラスの相手をする!」
「わ、わかりました!」
帝の指示に従い、芦花はネイル型の武器の特性を活かしてリョウサン型を牽制。帝も歯を食いしばりながらホテイ型に銃を放ちつつ、テンニョ型の猛攻を剣でやり過ごしていた。
「マスター、魔力を回してくれ。宝具を使用する」
『うん、わかった。二人をよろしくね』
アーチャーは念話で白野に声をかけると全身を満たすように魔力が注がれたのを自覚する。
「――
そして、目を閉じて静かに詠唱を始めた。彼の周囲に漏れ出た魔力が紫電となって走る。
「――
帝は強いが幹部クラス三体相手では数分と持たない。芦花も遠隔操作可能なネイル型の特性のおかげでリョウサン型を近づけないようにできているが、それも時間の問題だろう。
(それでも信じられるのはマスターの友人だからだろうな)
「――
心の中で苦笑しながらも詠唱は止めない。彼は――英雄『無銘』はこれしか持っていない英霊だ。ただ、彼は自分の心を形にするだけ。生前も、英霊となった今でもそれは変わらない。
「――
きっと、自分はこんな風に呼ばれるほどの英霊ではない。もっと、適した英霊がいるはずだ。だって、彼は無銘。名前のない英雄。そんな彼を誰が呼ぼうと思うだろうか。
「――
でも、たった一人だけ、同じアーチャークラスのギルガメッシュよりも適任だと判断した馬鹿なマスターがいた。
「――
そう、だからこそ、彼女の期待に応えたい。そう考えるのが必然。そんな彼女だったからこそ、あの月の聖杯戦争で共に勝ち残った。
「――
彼女が、マスターが望むのであれば何度だって心を形にしよう。だって、彼は結局のところ、それしかできない英雄なのだから。
「――
そして、世界は彼の心へと引きずり込まれた。歯車が浮く、無限の剣の丘へ。
『アーチャーさん、宝具を使用! 三体の幹部クラスを引き込みました!』
「うむ、では、こちらもやるとしよう!」
BBの通信を受け取り、セイバーはシンバルのような武器を剣で弾きながら叫ぶ。彼女の周囲にはコンゴウ型とリョウサン型の月人しかいない。乃依と真実はもう一体のコンゴウ型を釣りに行っている。
『来てる! 来てるよぉ!』
『頑張れー』
『やだぁ! 助けてぇ!』
そして、通信では涙交じりの声で喚く真実とそんな彼女を応援する乃依の声。乃依は後衛。自然とコンゴウ型の前に出てセイバーの元へおびき寄せる役目は真実になった。
「むぅ、このままでは真実がやられてしまうな。マスター、援護は可能か?」
『わかった。ちょっと待ってね』
コンゴウ型を釣ってこいと言ったのは自分だからか、少し責任感を抱いたのだろう。念話越しにマスターである白野へ相談する。白野は作業に集中するため、BBの回線には参加していない。そのため、白野と直接、やり取りできるのは彼女が召喚したサーヴァントたちだけだった。
『BB、真実に左へ向かうように伝えて』
『はーい。真実さーん、先輩からの援護射撃が来ますよー。左側へ向かってくださーい』
『わ、わかった、けど! もう無理ぃ!』
ぎゃあぎゃあと騒ぐ真実だったがその次の瞬間、少し離れた場所で凄まじい爆音が鳴り響く。そちらを見ればムーンセルの事象光が再び、ツクヨミに撃ち込まれていた。
「我がマスターながら容赦がないな。ムーンセルが顕現している今、詠唱なくあれが撃てるのか」
『さすがに撃ち放題ってわけじゃないけどね。これで真実とコンゴウ型の間に距離ができた。ついでに周囲にいたリョウサン型も殲滅したよ』
『セイバーさん、あと数十秒ほどで真実さんがそちらへ到着します。宝具の準備はよろしいですか?』
「うむ、任せよ! 乃依、こやつの足止めを頼む!」
『りょーかい』
準備は整った。少し離れた場所でセイバーや真実の援護、リョウサン型を処理していた乃依がコンゴウ型へ精密な射撃を開始する。
「因みに奏者よ。劇場と教会、どっちがよい?」
『んー、今回は劇場で。教会はまた今度ね』
「その時は二人っきりだからな! 約束だぞ!」
こっそり白野と約束を交わしたセイバーは白い剣を地面に突き刺す。そして、白野から注がれた魔力を練りながら詠唱を開始した。
「我が才を見よ! 万雷の喝采を聞け!」
コンゴウ型の動きを阻害する乃依はセイバーの周囲に真っ赤な薔薇の花びらが舞ったのを見た。そのためか、世紀の竹取合戦の時に自身のリーダーを
(ああ、そっか。だから、少し見覚えがあったのか)
「インペリウムの誉れをここに!」
セイバーが戦う姿をどこかで見たような気がしていた。そして、やっと合点がいく。あの時、はくのんはセイバーの剣筋を真似たのだ、と。
「英雄たちを味方に付けてたのなら勝てないのも無理はないかー」
「咲き誇る花の如く――」
セイバーの詠唱が終わりに差し掛かった時、真実がコンゴウ型を連れてやってきた。そのまま、セイバーの宝具の射程範囲内に入る。
「――開け!
今ここにセイバー――英雄『ネロ・クラウディウス』が建築した黄金劇場が再建された。
「……綺麗」
いつの間にかその劇場内に立っていた真実は後ろから迫るコンゴウ型のことを忘れ、場内を見渡しながらそうポツリと呟くのだった。