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『セイバーさん、宝具展開! 予定通り、二体の幹部クラスの月人を閉じ込めました!』
「あとはご主人様がどうにかするまで耐えるだけですね! かぐやさん、後ろからリョウサン型が来てます!」
「もー、邪魔ー!」
「私がリョウサン型の処理をする! かぐや、雷はキャスターと一緒にズイジュウ型をお願い!」
作戦は順調だ。しかし、問題はどれだけの時間、月人相手に耐えればいいか、ということ。
(白野を乗せた船はまだボサツ型に辿り着いてない)
リョウサン型を斬った後、上を見上げれば黄金の船はまだ目的地に向かっている最中だった。その速度はあまりに遅く、地上を走った方が速いのでは、と考えてしまうほど。
(でも、多分、あれはわざとだ)
白野は言っていた。ボサツ型と交渉するために準備をする、と。その準備をしている最中だからあえて船は速度を上げず、私たちの援護ができるようにしている。さっき、コンゴウ型に追いつかれそうになっていた真実を助けるためにあの光を撃ったように。
しかし、白野が援護をするということはその分だけ作業が遅れることと同じ。私たちは彼女の手を借りずに戦った方がいい。
『な、にこれ……劇場が建っちゃった……』
『こっちは剣が突き刺さった丘だ!? 別の世界に来たみたいだぞ!?』
その時、セイバーチームの真実とアーチャーチームの帝が驚いたような声を漏らした。セイバーとアーチャーが宝具というものを使い、幹部クラスの月人を分断したはずだが予想以上のことが起きているらしい。
「BB、宝具って何!?」
『おや、戦いながらも説明を求めますか。いろPさんは勤勉ですね。いいでしょう。戦いながら聞いてください』
私の質問にコホン、と咳払いをした彼女は静かに語り出した。
『宝具。それはサーヴァントが持つ最強の切り札であり、物質化した奇跡。例えば、戦車を操るライダー。彼らは生前に乗っていた戦車を召喚することができることが多いです』
『じゃあ、セイバーが出した黄金の劇場も?』
「黄金の、劇場……」
どこかで見た覚えがある単語が出てきて自動的に思考が巡る。そういえば、セイバーは自分のことを『皇帝』と呼んでいた。黄金劇場で有名な皇帝はたった一人しかいない。
「……第五代ローマ皇帝、ネロ・クラウディウス」
『あはっ!
『余が有名なのが悪い! 乃依、真実、余の劇場内では敵の動きが鈍る! いい感じに戦え!』
『はーい♡』
『これならいける!』
BBの言葉にセイバー――ネロ・クラウディウスはどこか嬉しそうに笑った後、乃依たちに指示を出す。私の予想は当たっていたようだが……でも、皇帝ネロは男性。どうして、あんな少女の姿で召喚されたのだろう。
(でも、何となく英霊についてわかってきた)
つまり、宝具はその英霊の伝承を形作ったもの。じゃあ、ズイジュウ型に鏡を叩き込んでいるキャスターの方もわかる。彼女の鏡は何度も見ているからだ。
「玉藻の前」
「みこんっ!? 何故、私の真名を!? もしかして、この世界ではとっても有名だったりとか?」
キャスター『玉藻の前』は私の声に驚いた様子でこちらを振り返る。彼女が手足のように使っている鏡は細部は違うがツクヨミに実装されている『
『じゃあ、歯車が宙に浮いてる剣の丘は!? 本人は双剣を持って戦ってる!』
「……いや、ごめん。さすがにわかんない。アーチャーなのに剣を持って戦うの?」
私が立て続けにセイバーとキャスターの正体を見破ったからか、帝がアーチャーのことも聞いていたが少なくとも私の知っている中にそんな偉人はいなかった。
『あーっはっはっはっは!! アーチャーさん、言われてますよー! ひー、お腹痛ーい!』
『……私はちょっとばかり事情があってね。出来損ないの英霊なのさ。む、マスター。事実なのだからそんなに怒るな。君は君のやるべきことをやりたまえ』
爆笑するBBにどこか諦めた様子で言葉を零すアーチャーだったが、白野に何か言われたのだろう。そう、少しだけ嬉しそうに窘めた。
「ここぞとばかりに宝具を使って驚かせようと思いましたがバレてるのなら仕方ありませんね! 宝具を使用します! 少しの間、お任せしますね!」
キャスター――玉藻の前の言葉に私たちは急いで彼女の傍に寄る。そして、それを確認した後、白野と同じように彼女も詠唱を始めた。
「ここは我が国、神の国、水は潤い、実り豊かな中津国」
玉藻の前が言葉を紡ぐと彼女の鏡が少しずつ輝きを増していく。白野が使っていた時はただの鈍器だったのだが、持ち主である彼女が使用すればその真価を発揮する。
「国がうつほに水注ぎ、高天巡り、黄泉巡り、巡り巡りて水天日光」
(でも、それを黙って見逃す相手じゃない!)
「雷、玉藻の前を守って! かぐや、私と一緒に牽制!」
「わかった」
「オッケー!」
私の指示に従い、雷は目を閉じて詠唱する玉藻の前の傍へ移動。私とかぐやは並んでズイジュウ型へと突貫する。
「我が照らす。豊葦原瑞穂国、八尋の輪に輪をかけて」
ズイジュウ型の剣を双剣で弾き飛ばしながら背後で高まるエネルギーに肝を冷やす。後衛職だと言っていた彼女の宝具はどのようなものなのだろう。もしかして、白野のようにビームを撃つのだろうか。
「これぞ九重、天照……
「これ!?」
彼女の宝具が完成した途端、足元に幾何学的な模様が刻まれた陣が広がる。そして、それと同時にまだ溜まり切っていなかった
「さぁ、これでみなさんの必殺技が撃ち放題! あ、私を中心に広がった陣の中であれば効果は続きますので周囲にいる方もぜひ、ご利用くださいませ」
チラリと振り返ると玉藻の前はポーズを決めながら完璧なウインクを披露する。ネロやアーチャーとは違う、完全なサポート宝具。そのようなものもあるのかと思いながら気になったことを彼女に問いかける。
「宝具発動中って動けるの?」
「動けはしますが長時間、効果を発揮するのなら動かない方がいいですね」
「……雷はそのまま玉藻の前の護衛! なんとしてでも守って!」
「あれ、もしかして今、お荷物扱いしました? 必殺技撃ち放題ですよ!? すごくないですか!?」
確かにすごいのだが、今回の目的はズイジュウ型の足止め。
「かぐや、
「うおおおおお! オタクども、かぐやについてこーい!」
(なにより、私も
指示を出している間にズイジュウ型に近づかれ、巨大な剣が迫る。それに気づいた瞬間、私は
「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」
「―――――!」
超加速。これが連発できるのならひたすら回避。回避。回避。回避。精密なアバター操作と集中力が必要だが、かぐやを守るためなら絶対にやり遂げられる。そんな根拠のない自信があった。
「キャー☆ やっぱ、イケ魂の持ち主は違いますねぇ! イケ魂はイケ魂を呼び寄せるのでしょうか。つまり、ご主人様はこれからもイケ魂を集めまくるということ!? あわわ、私、心臓が持ちますかね? どう思います、雷さん?」
「……わかり、かねる」
うん、雷には申し訳ないがもう少しだけ玉藻の前の相手をしていてもらおう。多分、彼女の言動にツッコミを入れていたらアバター操作を誤る自信がある。
(あとはお願いね、白野)
作戦はここに完遂した。あとは白野次第だ。でも、あまり心配はしていない。だって、彼女は私の戦友である『岸波白野』なのだから。