「なんのっ!」
黄金に輝く劇場で金属同士がぶつかる音が響き渡る。コンゴウ型の得物をセイバーが剣で弾いた音だ。そこへ乃依の矢が飛翔し、コンゴウ型の肩を穿つ。威力は最低限に抑えられているが衝撃はあるため、彼はその場でひっくり返ってしまった。
「うむ、見惚れるほどの精密射撃! 引き続き頼む!」
「はーい♡」
セイバーの技量があればコンゴウ型など一瞬で倒してしまうだろう。しかし、今回の目的はあくまで分断。コンゴウ型の攻撃をセイバーが弾き、乃依がちょっかいをかける。それの繰り返しだった。
「おりゃー!」
一方、真実は時間稼ぎ目的だと知っていながら全力で戦っていた。セイバーの宝具によって動きを制限されているとはいえ、ゲームの腕は人並みな彼女にとって今のコンゴウ型でも十分に脅威だ。乃依の援護射撃も飛んでくるが気が抜けない戦いなのは間違いない。
戦っているのは彼らだけではない。宝具の範囲内にいたユーザーたちも黄金劇場に引き込まれ、ほとんど動けなくなったリョウサン型を倒し回っている。
この場にいる全員が自分にできることをしていた。もちろん、本来の目的はかぐやを守ることだ。しかし、BBのプログラムによって意図せずここに連れて来られた人もいる。
かぐやを守るため。周囲の熱に浮かされたため。お祭り騒ぎに乗じてファンを獲得するため。きっと、その理由は色々あるが、それでもここにいる人々は自由に動いていた。かつて、かぐやが外の世界を映す窓から見た人間たちのように。
どれくらい時間が経っただろう。
(白野は大丈夫なのかな)
少し前、ボサツ型へ向かう彼女たちの上空に無数の幹部たちが召喚されたのが見えた。そいつらは白野の攻撃によって一掃されたがいつ、追加で召喚されるかわからない。
でも、だからといって私たちにできることがないのも確かだ。とにかく、ズイジュウ型の足止めをする。そのことに集中しなければならない。ここにはかぐやがいる。私たちが負けたらかぐやはズイジュウ型によって連れ去られてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けなければならないことだった。
「うりゃっ! どーん! バーン! どっかーん!」
そして、狙われているお姫様は玉藻の前のおかげで
「へー、雷さんは旅行がお好きなんですね。因みに今まで行ったところで特によかったところはどこですか? ご主人様との新婚旅行の参考にさせていただきたく」
「そうだな……新婚旅行に向いているかわからないが――」
そんな中、宝具を維持している玉藻の前は雷と何故か雑談していた。たまに襲ってくるリョウサン型を錫杖で殴って吹っ飛ばしている彼はまだいいのだが、守られている玉藻の前はその場で正座してどこからか取り出したお茶を飲んでまったりしている。私はこんなに頑張ってズイジュウ型の相手をしているのにあそこだけ妙に平和なのが少しだけ腹が立つ。
(いや、今はとにかくズイジュウ型の――ッ!)
周囲の様子を確かめていたせいで迫る剣に気づくのが一瞬だけ遅れた。即座に
(真正面からやり合うな! とにかく、逃げる! 逃げて、逃げて逃げて逃げて! 時間を――白野を待つ!)
私はズイジュウ型とほとんど剣を交えず、逃げ続けた。かぐやがいる方に行きそうになって慌てて進路を変えた時もあった。玉藻の前の宝具の範囲から外れてしまい、
逃げて、逃げて、逃げて、逃げて――その時は来た。
『おめでとうございます。ボサツ型との交渉の末、見事にかぐやさんを勝ち取りました。みなさん、お疲れ様でした』
BBからの通信。それは私たちの勝利を知らせるものだった。でも、何故だろう。勝ったというのにBBの声はどこか冷たく、淡々としたものだった。
ボサツ型にかぐやの代わりに仕事をしてくれるBOTが格納されたデータを転送する。彼はジッとその中身を解析し、満足のいくものだったのか静かに頷いた。
「ごめんね。君たちはただ自分の仕事をしただけなのに……譲歩してくれてありがとう。少しの間、ムーンセルと通信できるようにするから何か問題があったら教えて」
「――――」
私の言葉に彼はもう一度だけ頷き、ゆっくりと浮上していく。セイバーたちには宝具を解除するように伝えたので他の幹部たちもボサツ型の傍に寄ってきた。そして、何故か私に敬意を表するように深々と頭を下げる。確かに私は月の王だが、それは別の世界のこと。彼らが私を敬う理由はないのに律儀なものだ。
「……」
月人たちが帰っていくのを見送りながら小さく息を吐く。これでかぐやは月に行かずに済み、彼女を中心とした輪廻は壊れた。
「随分とあっさりとした幕引きよな」
その時、玉座に座っていたはずのギルガメッシュが私の隣に来た。彼を見上げれば腕を組みながら月人たちを見上げている。
「そうだね。ここまで運んでくれてありがとう」
「ふん。ただの気まぐれだ。茶番も終わったことだ、
「そっか……じゃあ、またね」
手を振って別れの言葉を述べると彼は一度だけ私の頭に手を置き、そのまま座へと還った。よくやった、と言われたような気がして少しだけ口元が緩んでしまう。
「じゃあ、みんなと合流しよっか」
「……そうですね」
船に残された私はBBに声をかける。しかし、彼女は悲しそうな顔を私に向け、静かに頷いた。最初から覚悟していたことだ、BBが気に病む必要はない。
「ですが……かぐやさんの気持ちもわかるんです。先輩には……平和に過ごしてほしいって」
「……大丈夫。それはもう、貰ってるから」
そう言ってもう一度、空を見上げる。すでに月人たちはおらず、ミラーボールが浮かんでいた場所に私が呼んだムーンセルが浮かんでいるだけだった。
「ありがとう。もう少しだけ待っててね」
輪廻を壊したのに消える様子のないそれを見て呟く。残された時間は僅か。きっと、彼女たちは傷つくだろう。それでも、この運命は変えられない。だから、最後に――託す。それが、私にできる最後の恩返し。
黄金の船は静かに進み、かぐやがライブしたステージが少しずつ近づいていく。終わりの時はもうすぐそこまで迫っていた。