(三連休か……)
三連休の始まりである土曜日。お昼過ぎに起きた時、全員が死んだように適当なところで眠っていた。それからノロノロとそれぞれが起床して身支度を済ませ、リビングに集まる。なお、遅めのお昼ご飯は昨日、自棄になって頼みすぎた料理の残り。食べ過ぎた私たちは軽めに、真実だけは普通に食べている。あんなに食べたのにもう消化したの?
「……」
しかし、私たちの間に会話はない。何とか持ち直したとはいえ、白野がいなくなってしまった喪失感は簡単に消えるものではなかった。
「……手紙」
食べていたオムライスが半分ほどになったところでポツリと呟く。全員の視線がこちらに向いたのを確認してから意を決して続きを話した。
「白野からの手紙。みんなで読もう。もちろん、最初は自分だけで読んでその後、可能な限り、内容を共有する、みたいな感じで」
「……うん」
私の提案にかぐやは静かに頷く。芦花と真実も異論はないようでご飯を食べる手を止めた。白野の手紙を読むとなり、食欲がなくなってしまったのだろう。
「じゃあ――ん?」
芦花と真実宛ての手紙は私の部屋にあるため、取りに行こうとしたところでスマホが震えた。なんだろうとそれを取り出して画面を見れば『お兄ちゃん』と表示されている。
「……ごめん。ちょっと電話出てくる」
みんなにそう言って私は自分の部屋に向かった。その途中で通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。
「……もしもし」
『もしもし、彩葉! 大丈夫か!?』
電話の向こうにいるお兄ちゃんは思いのほか慌てていた。たった一日、音信不通になったからといってここまで焦る必要はないのに。
「うん、大丈夫」
『そうか、よかった……それで、はくのんちゃんは?』
「……駄目だった」
『っ……そうか』
私の言葉に彼は息を詰まらせ、僅かに震えた声で頷いた。それから少しの間、沈黙が続き、不意にお兄ちゃんが話し始める。
『ヤチヨちゃんなんだけど』
「っ! ヤチヨがどうしたの!?」
『彩葉たちがログアウトした後も泣き続けてて見かねたFUSHIが彼女を眠らせてどこかへ消えた。あれ以降、ヤチヨちゃんは公の場に出てない』
「……そう、なんだ」
無理もない。白野と一番交流していたのはヤチヨだ。彼女の悲しみは私たち以上だろう。今はそっとしておいた方がいいかもしれない。
「……ヤチヨに会う機会があったら白野から手紙を預かってるって伝えて」
『手紙? やっぱ、消えるってわかってたのかよ……』
「私たちもこれから手紙を読むつもり。重要なことが書いてたら共有するね」
『わかった……彩葉、無理するなよ。何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ』
「ッ……うん、ありがとう」
昔、まだお兄ちゃんが家を出る前に聞いた懐かしい彼の優しい声音に思わず涙腺が緩んでしまう。今ならわかる。きっと、あの頃のお兄ちゃんにも色々あったのだろう。でも、私は気づけなかった。お兄ちゃんの事情を考えられるほど余裕がなかった。
「じゃあ、また……ツクヨミでもいいからキョーダイ会議しよ」
だから、今度は自分から歩み寄る。一緒にゲームをしながら話せば大丈夫。だって、私とお兄ちゃんはそうやって何度も話していたのだから。きっと、私たちに必要なのはお互いに心に秘めていた気持ちを共有すること。もう、気持ちを伝えずにすれ違うのは嫌だから。
『……ああ、もちろん。久しぶりにやろう。落ち着いたら連絡くれ。じゃあ、またな』
どこか嬉しそうに頷いた後、お兄ちゃんは電話を切った。多分、最初からこうするべきだったのだろう。お兄ちゃんが家を出た時にその理由を聞けばよかったのだ。
でも、私はそうしなかった。見捨てられたと勝手に決めつけて、お兄ちゃんの事情を考えようともせず、ただ不貞腐れただけ。白野の言うとおり、言葉にしなければ何も始まらないのにその最初の一歩を踏み出すことすらしなかった。
もしかしたら、お母さんもそうなのかもしれない。何かする度に小言を言われ、その真意を――何故、そこまでして私に厳しく接するのか聞くことすらせずに鵜呑みにした。お母さんが何を考えているかわからないのなら聞けばよかったのだ。まぁ、聞いたところで『それすらわからんとか、将来やっていけへんよ』とか言われていたかもしれないけれど。
「ほんと、今更だけどね」
過去は変えられない。そして、後悔はずっと心の中に残る。きっと、白野はそれを知っていたのだろう。だから、自分にできることを全力でやっていた。悔いが残らないように懸命に生きていた。その結果が――かぐやを助けてやるべきことをやったと言って消えた。
「……」
白野は本当に満足していたのだろうか。本当に彼女の人生はあんな形で終わってよかったのだろう。そもそも、英霊とか聖杯とか簡単に聞いただけで消えてしまった白野がどうなったのかわからない。今もどこかで誰かを助けているのだろうか。
「……」
そこまで考えて私の視線は机の上に置かれた手紙に吸い寄せられる。私たちに宛てた手紙。あそこにその答えは書かれているかもしれない。
そうだ、まだ私は白野が何を考えて、どんな気持ちであの場に立っていたのか知らなかった。だから、知りたい。知った後は――わからないけど、とにかく今は彼女のことが知りたくてたまらなかった。
ヤチヨ宛ての手紙以外を手に取って私は自室を後にする。そして、みんなが待つリビングルームに戻った。三人はテーブルを片付けてくれていたようで食べ残していた料理はなくなっている。
「はい、これが芦花。こっちは真実ね。かぐやのは渡してあったっけ?」
「あ、そうだった! 取ってくる!」
芦花と真実に手紙を渡したところで手元に私宛のものしか残っておらず、かぐやに聞くと彼女はドタドタと足音を立てて自分の部屋に手紙を取りに向かう。そして、しばらく経っても帰ってこなかった。
「どうしたんだろ?」
「……様子見てくる」
かぐやの部屋はガラクタでいっぱいなので手紙を失くしてしまったか。最悪の場合、月人がかぐやのことを諦められずに連れ去ってしまったか。私は嫌な予感を意図的に無視してかぐやの部屋へ。
「かぐやー?」
彼女の部屋をノック。しかし、応答はない。だが、何故か、私の部屋の方から物音が聞こえた。もしかして、私の部屋にいる?
「かぐや、いるの?」
「ぁ、彩葉」
やはり、私の部屋にいたかぐやは私のノートパソコンを使っていた。しかし、こちらに気づくと泣いていたのか、目元を袖で乱暴に拭った後、何かを隠すようにマウスを何度かクリックしてパタンと天板を閉じてしまう。何をやっていたのだろうか。
「ごめんごめん! さー、手紙を読もー!」
「え、あ、ちょっと」
しかし、問い詰める前にかぐやは私の背中を押して部屋を出てしまう。明らかに何かを誤魔化している。なんでも話す彼女が隠そうとする何か。聞かないべきだろうか。
「……かぐや、何かあったの?」
結局、部屋を出たところで私は聞いてみることにした。変に気を使ってまたすれ違いが起こるかもしれない。気になったことは聞く。嫌だと思ったことは言う。かぐやの反応を気にする前にまずは伝える。それは白野が教えてくれたことだ。
「……ごめんね、彩葉」
しかし、かぐやの反応は白状することでも、誤魔化すことでもなく、謝罪だった。もしかして、予想以上にやばい隠し事なのだろうか。
「それって、危険なこと?」
「え? あ、ううん! 全然! そんなんじゃないよー!」
私の問いにかぐやはキョトンとした後、慌てて否定する。どうやら、考えすぎだったようだ。なら、何を隠したのだろう。
「いつか見せるから……もうちょっとだけ
「……わかった。いつか見せてね」
「もちろん!」
そう笑顔で頷くかぐやに少しほっとする。隠しているものは結局わからなかったが良くないものではなさそう。多分、白野関係の何かなのだが、動画とかだろうか。彼女たちの動画は一応、全部見ているがお蔵入りになったものも少なからずある。さすがにそこまでは把握していないので今から少しだけ楽しみだ。
酒寄彩葉のマテリアルが更新されます。
SG3:『
↓
SG3:『
あの日、私たちはすれ違ってしまった。
きっと、すれ違っていた間の時間は戻ってこない。
あの時の気持ちは嘘ではないし、彼に抱いた怒りも消えたわけじゃない。
でも、私たちは生きている。言葉を交わせる。一緒にゲームだってできる。
なら、きっと大丈夫。
伝わらなくてもいい。わからなくてもいい。勘違いしてもいい。
それでも、自分の気持ちを伝えよう。
『寂しかった』
『辛かった』
『腹が立った』
その気持ちをぶつけて、ぶつけられて。
それを繰り返してやっとお互いを理解できる。
そう、彼女が教えてくれたから。
だから、お兄ちゃん、一緒にゲームをやろう。
今度は負けないからね。