『彩葉へ』
かぐやと一緒にリビングルームへ降り、四人で自分に宛てられた白野の手紙を読み始めたのだが、出だしはそんなありきたりなものだった。
『あなたがこれを読んでいるということはもう私はこの世にいないでしょう、と遺書のテンプレのようなことを書いてみましたが多分、ふざけんなと言われるでしょう』
(ふざけんな!)
「ふざけんな!」
私が手紙に書いているとおり、白野に対して心の中で罵倒すると同時にかぐやも目を吊り上げて叫んだ。きっと、芦花も真実も同じことを思っていたのだろう。驚いたように顔を上げ、自然と目が合った。そして、思わず吹き出してしまう。
「もしかして、みんなにも同じこと書いてるの?」
「そうかも」
「こういうところノンデリだよねー」
私の言葉に芦花と真実はうんうんと頷く。いや、マジで止めてほしい。この先にこんな悪ふざけがないことを祈るばかりだ。
『さて、冗談はさておき。まずは何も相談せずに消えちゃってごめんなさい。かぐやとヤチヨを助けるために色々と準備が必要で説明する時間がありませんでした。この手紙も日本に向かう飛行機の中で書いています』
(ヤチヨも?)
白野の使命は『かぐやを月に行かせないこと』。しかし、何故、ヤチヨの名前が出てくるのだろう。そう思いながら続きを読み進める。
『かぐやはそこにいるのかな? そうだといいな。もし、私が失敗してかぐやが月に行ってしまったとしても私は消える運命です。つまり、かぐやを助けても助けられなくても私は消えていました。もし、かぐやが自分のせいだって責めていたらそう言って慰めてあげてください』
チラッと手紙から視線を上げてかぐやを見やる。彼女は真剣な表情で手紙を読んでいた。今のところ、自分を責めている様子はないが内心、どのように考えているかわからない。きっと、白野のことだ。かぐやの方にも同じようなことを書いているだろうけど私もしばらくは注意深く見ておこう。
『あと、ヤチヨはそこにいるかな。弱虫なあの子は私が消えたら塞ぎこんでプライベートルームに引きこもってるかも。その時は彩葉が連れ出してあげてね』
白野はヤチヨのことも心配していた。でも、どうして私? 強引に連れ出すのならかぐやの方が適任だ。白野だってそれはわかっているはず。つまり、かぐやよりも私の方がその役目にふさわしい理由がある?
『あまり長くなっても仕方ないから彩葉には二つのお願い事をします』
「ッ……」
思わず、息を呑んでしまう。てっきり、思い出話や白野の秘密が書いていると思っていたので手紙で頼み事をしてくるのは予想外だった。
『一つ目のお願い。卒業ライブで彩葉が作曲した曲を最後まで完成させてほしい。そして、それをかぐやとヤチヨに聞かせてあげて。もし、私が失敗してかぐやが月に帰ってしまったとしても彩葉ならきっと届けられる。私が保証する』
卒業ライブで作曲した曲――お父さんとの共作だ。確かに時間がなく、ワンコーラス分しか作れなかった。でも、どうして、それを白野が知っているのだろう? だって、この手紙は飛行機の中で書いている。卒業ライブで初めて発表した曲を知っているわけがない。かぐやがメールで伝えたとか? それにかぐやだけじゃなくてヤチヨにも聞かせてあげてほしいというのはどういうことなのだろう。
『二つ目。彩葉にあるものを託します。それをどうするかは彩葉に任せます。詳細は二枚目に書いておくね』
その文字を読んで今更、二枚目があることに気づき、チラリとそれを見てしまう。だが、すぐに首を傾げた。そこに書かれていたのは数字とアルファベットと記号の羅列。何百文字もの英数字+記号が綴られており、パッと見ても法則性はなさそうだった。
『本当はもっと色々と書きたかったけど用意した便せんに限りがあるのでこの辺にしておきます。彩葉、今まで本当にありがとう。これからたくさん迷惑かけちゃうと思うけどよろしくね。きっと、彩葉なら大丈夫。頑張ってね、私の戦友』
私に宛てられた手紙はそこで終わった。色々と気になる点は多い。でも、今はみんなが読み終わるのを待とう。
「……終わった?」
それから数分ほどしてみんなも顔を上げたので声をかける。すると、三人はどこか悲しげな表情のまま、頷く。
「共有できそうなことってある?」
「……私の方は勝手にいなくなってごめんってことと思い出話をいくつかって感じ」
「こっちもー」
最初に答えたのは芦花と真実だった。おや、私の方には思い出話はなかったぞ。白野、書き忘れちゃったのかな?
「かぐやは?」
「えーっと……白野が消えたのはかぐやのせいじゃないよってこと。あとは……うーん……」
かぐやはそこで腕を組んで唸ってしまった。私と同じように不可解なことが書かれていたのかもしれない。
「なんかヤチヨのことがやたらと書いてた気がする。仲良くしろよーとか。ヤチヨは臆病だからかぐやの強引さが必要、とか。思い出話もちょっとしかなかった」
「……」
かぐやにも思い出話があったらしい。おい、白野。私は? よくわからない頼み事の他に書くべきことがあったのでは? おーい。
「彩葉の方は? 手紙、二枚あるみたいだけど」
「あー……」
芦花の質問に私は言い淀みながらも手短に伝える。かぐやが自分を責めていたら慰めてあげてほしいこと。ヤチヨが引きこもっていたら連れ出してあげてほしいこと。卒業ライブの曲を完成させること。そして、何かを託されたこと。
「これが託した物の詳細らしいんだけど」
「うわ、なにこれ」
「数字とアルファベット。あと、記号もある?」
「なんかの暗号かな?」
私が二枚目の手紙をみんなに見せたがこれが何を示しているのか、誰もピンと来ていない様子。しかし、ジッと文字の羅列を見ていたかぐやが唐突に『あ』と声を漏らした。
「これ、パスじゃない?」
「パス?」
「ほら、パソコンのフォルダに格納したファイルってどこに置かれたものなのかわかるようにパスが付くっしょ? これ、どっかのパソコンに保存したファイルのパスの一部なんじゃないかな」
つまり、白野は私に託すものをどこかに隠した? でも、どこに? 白野のパソコンはあのアパートになかった。あと、考えられるとしたら――。
「――ツクヨミ?」
白野はヤチヨからアシスタント権限を貰っていたし、彼女が召喚したサーヴァント『BB』はツクヨミをハッキングしていた。ツクヨミのどこかに隠した可能性は十分にある。
「でも、私たちじゃツクヨミの中にアクセスできないよ?」
そう、問題は真実が言ったようにツクヨミの内部にアクセスする方法がないこと。きっと、この世界のどこかにあるツクヨミサーバーにパソコンを繋ぐか、ヤチヨに協力してもらうしかない。
(またヤチヨか)
白野は私とかぐや宛の手紙にヤチヨの名前を何度も書いている。ヤチヨに宛てた手紙があるにも関わらずに、だ。きっと、これには意味がある。
「……」
さて、どうする。私は何をするべきだ。いや、何からやるべきだ? 気になること、頼まれたこと、託されたこと。色々とある中で優先順位を付けるとしたらどれを優先する?
ジッと考え込んでいる私をかぐやたちは息を潜めて待ってくれている。正直、ありがたい。手紙を読んで余計に混乱しているのだが、白野は私にやるべきことを示してくれた。まだやることがあると教えてくれた。それだけで――私が顔を上げる理由になる。
「……まずは曲を完成させたい」
私の出した答えは曲の完成を優先することだった。白野はかぐやだけでなく、ヤチヨにも聞かせてほしいと言っていた。だから、ヤチヨに会いに行く前にまずは曲を完成させる。
「その間、かぐやたちにはヤチヨの居場所を探してほしい。白野が言うにはプライベートルームに引きこもってる可能性があるみたいなんだけど」
「ヤチヨのプライベートルーム? そんなのあるの?」
「聞いたことないなー」
私のお願いに芦花と真実は顔を見合わせる。私も聞いたことがない。でも、ヤチヨの傍にいた白野が言うのだ。彼女のプライベートルームはツクヨミのどこかに必ずある。
「オッケー! かぐやたちに任せて!」
そんな中、かぐやだけはやる気十分といった様子で笑った。そうだ、かぐやはいつもそうだった。何も知らないのにそれに臆することなく、全力で取り組む。その結果がどんなことであろうと自分の糧にして成長していく。それが目の前で笑う私たちのかぐや姫だ。
「じゃあ、お願い。私もこの三連休で何とか完成させる」
その言葉にかぐやたちはコクリと頷く。方針は決まった。あとは行動するだけ。この先に何がまっているかわからないけど、白野を信じて動こう。
(任されたよ、白野)
ここにはいない戦友に告げ、私は立ち上がる。向かう先は自室。お父さんと一緒に作ったあの曲を完成させる。それは――お父さんと再び、向き合うということ。お兄ちゃんともわかり合えたのだ。きっと、この行為にも意味はある。いや、意味のあるものにしてみせる。それが今の私にできることだから。
このまま最後まで行くべきか。
コラボライブ~ヤチヨ捜索までのネット民たちの反応掲示板回を追加するか悩んでおります。
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第113話のあとがきに記載した掲示板回について
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