ひとまず、話が落ち着くまで掲示板回はなしとさせていただきました。
これからも『月の王とかぐや姫』をよろしくお願いいたします。
「はー、やっぱ美味っ」
ボロボロだった体を清潔にしてかぐやが作ったご飯を食べる。すでに日付は変わっており、こんな時間にご飯を食べるのは健康に良くないのはわかっているが作業を終えた体が栄養を求めていた。
「へへ、でっしょー?」
ご飯を食べ終え、自然と口から出た感想にかぐやは嬉しそうに笑う。そして、慣れた手つきで食器を集めてキッチンに持っていき、洗い始めた。
「……すっかり片付けもできるようになったね」
「白野に仕込まれましたからねー」
最初の頃は片付けが苦手だったのに白野に何度も言われていつからか自主的にやるようになり、今ではどこか楽しそうにやるようになっていた。うん、大丈夫。白野がいなくなっても私たちの中に残っているものはある。
「それにしてはかぐやの部屋、ぐちゃぐちゃだよね」
「え!? あー、ほら! 配信に使うからすぐ取れる場所に出してるだけ!」
「あんなのいつ使ってんの?」
私の指摘に慌てて言い訳する彼女だったが、全く説得力がない内容だったので怒るどころか呆れてしまう。白野でもかぐやのガラクタ集めは止められなかったからなぁ。
「……それで、FUSHIが言ってたことは本当なの?」
お腹も膨れ、思考もすっきりしたところでもう一度、かぐやに確認する。私が作曲している間、かぐやたちは協力してツクヨミを駆け回り、FUSHIを見つけたらしい。かぐや曰く、見つけたというよりかぐやたちがFUSHIを探していると噂が流れ、彼の方から会いに来てくれたそうだ。
「うん、ヤチヨの場所を教えてって聞いたら『彩葉にしか教えない』ってさー」
食器を洗いながら愚痴を零すようにかぐやに苦笑を浮かべる。でも、どうして私なのだろう。FUSHIもそうだが、白野も私がヤチヨを連れ出すように書いていた。確かに私はヤチヨガチオタだけどコラボライブとかぐやを月に行かせないために一緒に作戦を考えたぐらいの関係しかない。
「……」
「彩葉?」
「あ、ごめん。何でもない」
急に黙り込んだ私を心配そうに見るかぐやに笑ってみせる。でも、この胸の中で燻る違和感の正体がわからず、すぐに俯いてしまった。
(何か、引っかかる……)
もう少しで答えに行きつきそうなのにどうしても繋がらないもどかしさ。必要な情報はすでに入っているのにあと一歩、届かない。何か見落としている? ううん、違う。多分、そういうことじゃない。無意識にその道を見ないようにしている。
ありえない。そんなわけない。冗談じゃない。だって、それが本当なら――。
「……」
答えは未だに出ない。それでも、私はヤチヨに会いに行かなければならない。これは白野に言われたからではなく、私がそうしたいから。理由は……わからないことにした。
「じゃあ、明日のために寝るね。集合は午前十時だっけ?」
「うん、なんか迎えに来るとか言ってたよ」
「迎え?」
「スマコン着けて待っててだって……やっぱり、かぐやも一緒に行った方がいいかな?」
ツクヨミから出られないFUSHIが迎えに来るとはどういうことなのだろう、と首を傾げていると食器を洗い終えたかぐやは不安そうな顔でこちらへ歩み寄る。その足取りは重く、こちらに近づいているのに今にもどこかへ行ってしまいそうだった。
「大丈夫だよ。私に任せて」
「でも……」
「何かあったら連絡する。芦花と真実も明日、家に来てくれるって言ってたしみんなで待ってて」
「……わかった」
励まそうと笑ったのにかぐやの表情は晴れない。白野のように私もいなくなってしまうのでは、と不安になっているのだろうか。そんな愛らしい彼女に苦笑を浮かべながら立ち上がった私は腕を伸ばし、その小さな体を抱き寄せる。
「約束する。かぐやを置いてどこにも行かないよ」
「……約束だからね」
「もちろん、あのくそボケとは違うから」
「えー、彩葉も白野に似たところあるよー」
「え、マジ? さすがに信じたくないんだけど」
典型的な朴念仁と同類にされそうになって顔を引きつらせた。そんな私にかぐやは小さく笑い声を漏らす。
「美味しいごはん作って待ってるね。芦花と真実と一緒に食べよ」
「うん、わかった」
少しは安心してくれただろうか。そうだといいな。
この日、私はいつものようにかぐやと一緒に寝た。その時、お互いの存在を確かめ合うように手を握っていたのは多分、私も彼女と同じように不安だったのかもしれない。
次の日、三連休最終日。私はいつもの時間に起きてかぐやと一緒に朝食を作り、身支度を終えてリビングルームのソファに座っていた。
「スマコンは付けたけど……これでいいのかな?」
「そうなんじゃない? あ、芦花と真実、もうすぐ着くって」
「はいよー」
FUSHIが来る時間が迫る中、私たちはいつも通りに会話をする。いや、いつも通りの振りをしているだけかもしれない。これからヤチヨに会いに行く。そして、彼女の状況次第で私が連れ出さなければならない。そんな役目、私に務まるだろうか。
『来たぞ』
「……え?」
「彩葉?」
その時、いきなりFUSHIの声が聞こえて立ち上がってしまう。そんな私を見て不思議そうにするかぐや。かぐやには聞こえていない。つまり、スマコンを付けている私だけに聞こえているのだろう。
『こっちだ』
「あ……」
その声に導かれるように視線を動かすとリビングルームの床に小さな白いモコモコがいた。ヤチヨの肩が定位置のツクヨミのマスコット、FUSHI。そんな彼が不機嫌そうに私を見上げていた。
(そうか、スマコンのAR)
迎えに来るというのはスマコンのARモードを利用して現実世界の私に会いに来るということだったのだ。勝手にARモードになっていることはツッコまない方がいい気がする。
『今からヤチヨのところに案内する。昨日も言ったけど行くのは彩葉だけだ』
「それはかぐやから聞いてるけど……あ、ちょっと!」
彼の言葉に戸惑っているとそのままFUSHIはするすると床を滑るように移動して玄関の方へ行ってしまう。まずい、このままだと見失う。
「かぐや、ごめん! 行ってきます!」
「え、ちょっと、彩葉!?」
予定よりも少し早いが仕方ない。私は困惑しているかぐやを置いて家を飛び出した。待って、FUSHIってあんなに速いの!? これでも足は速い方なのにほぼ全速力じゃないと置いていかれる!
「あれ、彩葉?」
「どこ行くのー?」
「FUSHI、追いかけてるの! かぐやのこと、お願い!」
マンションを出たところで芦花と真実に遭遇。説明している暇はないので重要なことだけ伝えて二人の横を走り抜けた。
それから私はFUSHIを追いかけ、野を超え山を越え――ということもなく、駅に到着して彼に言われるまま、電車に乗り込み、ガタンゴトンと揺られ、目的の駅で降りた。
『ここだ』
「ここって……」
移動を始めてしばらくして辿り着いたのは何の変哲もないただのアパートだった。もちろん、私と白野が住んでいたところよりも立派なアパートだが、ヤチヨに会うためにここに連れて来られた理由がわからない。
そのまま、FUSHIの後を追いかけて階段を昇り、廊下を歩いて一つの扉の前で彼は止まった。
『……彩葉』
「っ……何?」
『今のヤチヨを救えるのはお前だけだ……お前が駄目ならもう……』
「それってどういう……」
『部屋の中に入ったらツクヨミにログインしろ。そこにヤチヨはいる』
そう言ってFUSHIは扉の向こうへ消えてしまう。そして、それと同時にガチャリと鍵の開く音が響いた。
「……」
私は静かにドアノブを握りしめ、ゆっくりと扉を開ける。中はいたって普通のアパートの一室。しかし、中は灯りがほとんどなくおそるおそる部屋の中へと入って――その光景に目を見開いた。
「これって……」
部屋の中はあまりに異様だった。無数のケーブルが床を埋め尽くし、壁や天井にまで張り巡らされ、複数のパソコンがチカチカと光を瞬かせて動いている。そして、なにより部屋の中にある二つの水槽。一つは普通に見えるアクアリウム。中にはFUSHIに似たウミウシがぐてっと岩の上で寛いでいた。
だが、問題はもう一つの水槽。それに入っていたのは大きな竹の子だった。その竹の子に心電図を取る時に着けるような吸盤とケーブルが繋がれており、何かのデータを取っているようだ。
(この、部屋は……)
あまりに現実味のない部屋に私は息を呑んでしまった。しかし、それも数秒のことですぐにFUSHIの言葉を思い出して私は目を閉じ、ツクヨミにログインする。
「……」
ツクヨミにログインして最初に見えたのは木の床。初期スポーン地点じゃない。明らかに私の知らない場所だ。
そう思いながら顔を上げて周囲を見渡す。大きな障子。淡い光を放つライト。そして、三角座りをして顔を埋めている白銀の女の子。髪を下ろしているので一瞬わからなかったが彼女こそずっと探していたヤチヨだ。
「……かぐや?」
でも、どうしてだろう。その弱々しい姿を見て私の口から出たのは太陽のように輝く月のお姫様の名前だった。
第113話のあとがきに記載した掲示板回について
-
掲示板回入れよう
-
掲示板回なしで最後まで行こう
-
掲示板回ほしいけど終わってからにしよう