月の王とかぐや姫   作:名無しのマスター

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第11話 New Life

 窓の外から微かにキジバトの鳴く声がする。それを聞きながら私は少し前に買っておいた姿鏡の前に立って首を傾げていた。

 

(これで、いいのかな?)

 

 そこには『東京都立武蔵川高等学校』の制服に着られている『岸波白野』が映っていた。うん、明らかに慣れていない。月の聖杯戦争の時に着用していた月海原学園の制服はブレザーだったが『東京都立武蔵川高等学校』はセーラー服。そのせいかもしれない。

 

 

 

 

 ――そんなこと言って、先輩もセーラー服、着たことあるじゃないですかー?

 

 

 

 

「?」

 

 何か言われたような気がするが気のせいだろう。とにかく、身だしなみは大丈夫そうだ。後はこの制服に体が慣れていくのを願うしかない。

 

「白野ー? 起きてるー?」

 

 準備もバッチリ、というところでインターホンが鳴り、玄関の向こうから女の子の声が聞こえた。通学鞄を掴んで靴を履き、玄関を開ける。

 

「おはよー……うん、大丈夫そうだね」

 

 そこには私の頭の上からつま先までさっと見た後、小さく微笑む『酒寄彩葉』がいた。彼女は私が記憶喪失だと知っているため、ちゃんと準備できているか心配だったのだろう。

 

 彩葉とはあれからちょくちょく顔を合わせる機会があった――というより、彩葉の方が私の部屋を訪れることが多かった。どうやら、私の思っている以上に感謝しているらしく、困ったことはないかと尋ねてくるのである。ついでに私の部屋にある非常食を持っていく。いや、明らかにお腹を空かせているので私が勝手に渡しているのだが。

 

 私も特に問題ない、と答えられたらよかったのだが、入学する前の準備が予想以上に多く、記憶喪失のせいでわからないことが多かったため、何かとお世話になった。非常食はそのお駄賃替わりである。

 

 そのため、私と彼女の間柄は友人、というよりも戦友。一人暮らしする女子高校生同士支え合っているような形に落ち着いた。

 

「おはよう。制服、似合ってるね」

「え? あ、うん。ありがとう。白野は……うん、大丈夫そうだね」

「なんで繰り返した?」

 

 そんなに似合っていないだろうか? そもそも、私の年齢は十八歳。普通であれば大学に通っているか就職している年齢だ。もしかして、コスプレっぽく見える?

 

「どっちかというと白野はクールな容姿だからもう少し着崩してもいいかもね」

「……まぁ、それはおいおい」

 

 人間初心者の私にはオシャレはまだ早い。そんな私を見てジト目を向けていた彼女だったがもたもたしていると遅刻してしまうため、それ以上はツッコんで来なかった。

 

(うん、大丈夫そう)

 

 少し前まで目の下に浮かんでいたクマは僅かにだが、薄くなっている。母親に対するトラウマで不眠症を患っているらしいのだが、最近は少しだけ眠れているらしい。それだけでも私が行動した甲斐があったというものだ。

 

「それじゃ、行こうか」

「そうだね」

 

 心の中で安堵のため息を吐いていると彩葉は肩に掛けた通学鞄を持ち直して笑う。私もそれに頷いて私たちは学校に向かって歩き出した。少しドキドキしているのは気のせいではない。果たして、これからどんな学校生活が待っているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はぁ」

 

 学校が始まって早一か月。私はお昼休みになったばかりで騒がしい教室で机に倒れ込んだ。

 

「お疲れー。白野、どうしたの?」

 

 そんな私に声をかけてきたのはお弁当箱を持った彩葉。運よく私たちは同じクラスに属することとなり、お昼休みは一緒にご飯を食べていた。

 

「いや、えっと……」

 

 今抱えている悩み事を彩葉にだけは言うわけにはいかず、言葉を詰まらせる。そんな私を彼女は目を細めた。

 

「……まぁ、いいけど。何かあったらいつでもいってね」

「うん、ありがとう」

 

 そんな優しい彼女の言葉に頷く。しかし、申し訳ないがそこまで深刻な悩みではない。本当なら言ってしまいたいのだが、彼女にだけは――。

 

「なに? 白野、悩み事?」

「珍しいね~」

 

 更に声が重なる。彩葉から視線を外すと高校で知り合った『綾紬芦花』と『諌山真実』が彩葉と同じようにお弁当片手にそこに立っていた。

 

「ううん、そんなに深刻な話じゃないよ」

「でも、白野がため息を吐くなんて珍しいじゃん? ほら、言っちゃいなよ」

 

 誤魔化そうとする私だったが芦花はニヒルに笑って先を促す。しかし、その言葉の裏には私を心配する色が見て取れた。背が高くて顔も美人だし、オシャレだし、気遣いもできる。彼女はさぞモテるだろう。

 

「そうそう、お昼ご飯食べながら聞かせてよー」

 

 そんな芦花の言葉に続いたのは真実。可愛らしい容姿と小柄な体型に反してよく食べる女の子。更にノリもよく、放課後にカフェにも誘ってくれる子だ。彼女もまたさぞモテるだろう。

 

「じゃあ、机くっつけるよ」

 

 私の悩み事に興味があるのか、彩葉がすぐに行動に移った。最初は餓死寸前だったため、学校生活も心配していたのだが、あまりに杞憂だった。

 

 そう、彼女は文武両道、才色兼備、その姿はまさに『超人』と呼べるほど才能に溢れた少女。更にピアノも弾けるという神様は一体、彼女にどれほどの才を渡したのかわからないほど『酒寄彩葉』という少女はやばかった。

 

 容姿もいいし、面倒見もいい。入学してたった一か月だというのにすでに学校の噂になっているレベル。ヤチヨがポロッと言っていたが更に作曲もできるらしいので非の打ちどころがないとはまさにこのこと。どうして、彼女の母親は彩葉のことを認めていないのかわからないほどである。いや、本当にどうして?

 

 もちろん、これほどの超人かつ美人な子がいたら男たちは黙っていない。すでに告白もされているようだし、文句なしにモテている。

 

 因みに最初の頃、敬語を使っていたのは京都弁を隠すためだったらしい。今もまだ標準語に慣れていないのか、たまに出てくる。それがなんと可愛らしいことか。ヤチヨが夢中になるのもわかる。いとかわゆし。

 

「さ、話してもらおうじゃん」

「……」

 

 机の移動も完了し、全員がお弁当箱を広げたところで彩葉が代表して私の顔を覗き込んでくる。そんな感じで私は心優しい友人に囲まれながら学校生活を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか彩葉たちからの追求を免れた私は家に帰り、部屋着に着替えた。今の時刻は午後六時。晩ご飯は打ち合わせが終わってからでいいだろう。そう判断した後、スマコンを装着してツクヨミにログインする。

 

「……」

 

 いつものアシスタントの控室。ちょくちょくヤチヨが遊びにきて小物を増やしていくため、一か月前に比べて随分と賑やかになった。しかし、私が着る予定の着ぐるみ(犬)グッズが多いのは何故だろう。気になっているのだが、話題に出すと藪蛇になりそうで今もなお聞けずにいる。

 

 ワープポータルで普段から使っているミーティングルームへ行こうと思ったのだが、ウィンドウを操作する指が止まった。そして、ため息を吐いた後、意を決して実行ボタンを押す。

 

「時間ピッタリだね、白野!」

 

 ミーティングルームへ入るとそこにはやる気十分といった様子のヤチヨが立っていた。衣装も動きやすそうな軽装であり、まさに準備万端。それに引き換え、私のテンションはガクッと下がった。

 

「ん? あれあれ? 白野、具合悪い?」

「いや、そういうわけじゃないけど……本当にやるの?」

「モチのロン! ずっと楽しみにしてたんだから! 今日はよろしくね、魔術師(マスター)!」

「……はぁ」

 

 そう言ってぴょんぴょんと飛び跳ねるヤチヨ。そんな彼女を見て私は小さくため息を吐いた。そう、私の悩みの種、それは今日から始まるヤチヨの犬(アシスタント)業だった。







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