月の王とかぐや姫   作:ホッシー@VTuber

125 / 125
第124話 転機

『でね、彩葉が先生の質問に対して完璧に答えてね』

『うんうん』

『でも、その質問ってまだ教えてないところだって先生が気づいて彩葉に謝ったの! そしたら、クラスメイトたちは教えてもらってない問題に答えられた彩葉に尊敬の眼差しを向けてね!』

『えー、いいなー! ヤッチョも見たかったー!』

『いいでしょー! 今度、同期する時、楽しみにしててね!』

 

 校門に辿り着くとかぐやのスマホからそんな声が聞こえる。なお、スマホの持ち主のかぐやはそれを見て面倒くさそうに顔を歪ませていた。

 

「かぐや」

「あ、彩葉! ねー、ヤチヨうっさいんだけど!」

『うるさくないよー! 情報共有は大事だよ!』

『そうだそうだー! 彩葉情報もっと寄越せー!』

 

 私にスマホを見せつけるかぐやとその画面の中で抗議する二人のヤチヨ。うん、ものすごくはっちゃけているぞ、この歌姫。楽しそうなのはいいのだが、校門前なのでもう少し静かにしてほしい。

 

「はいはい、じゃあ、大家さんのところに行くよ。かぐや、合鍵は持ってきた?」

「持ってきたけど……やっぱり、返さなきゃダメ?」

「駄目」

「えーん、いけずぅ!」

「ほら、行くよ」

 

 未だに合鍵のことを諦めきれないかぐやの手を掴んで大家さんの家を目指す。あのアパートの近くなので帰りに見に行ってもいいかもしれない。

 

 それから私たちは久しぶりの通学路を進み、大家さんの家へ向かう。かぐやもさすがに諦めがついたのか合鍵のことには触れなくなり、昼間にあった出来事を話してくれた。しかし、その話の中にツクヨミや配信の類のものはない。まだ配信する元気はないようだ。

 

「――では、失礼します」

 

 大家さんの家に着き、合鍵を渡して任務完了。最後まで名残惜しそうにしていたかぐやを見て大家さんも色々と事情があったのだろうと察してくれたのか、返すのが遅れたのを許してくれた。

 

「かぐや、買い物する前にアパート見に行く?」

「行く!」

 

 落ち込んでいたかぐやを見かねて考えていた案を言えばすぐに元気になった。やっぱり、かぐやは元気が一番。ヤチヨも久しぶりにアパートの外観を見たいだろうし、記念に写真を撮ってもいいかもしれない。

 

「おー、やっぱり、ボロっちいなー」

 

 かぐやの言うとおり、一週間ぶりに見るアパートは相変わらず頼りなかった。前は夜も遅かったし、ここに住み始めた頃も色々と忙しかったのでこうやって改めて見上げるのは久しぶりだ。

 

(ここに住んでたんだよね……)

 

 今考えればこんなセキュリティも何もないアパートに女子高生が住んでいたとはなかなか無謀だった気がする。私は白野がいたから協力できたけど、白野に出会わなかった私はかぐやが来るまでどのようにして生き長らえていたのだろうか。

 

「ヤチヨも見る?」

『見せて見せてー』

 

 ヤチヨに声をかけ、スマホをアパートの方へ向ける。おそらく、スマホのカメラ機能で見えたのか、彼女も『おー』と感心していた。

 

「あーあ、本当なら1か月後くらいには白野もあのタワマンに住んでたのになー」

 

 その時、どこかつまらなさそうに言葉を紡ぐかぐや。そういえば白野と一緒に住む約束をしていた。まぁ、彼女がロンドンに行く前はほぼ毎日のように泊まっていたので同居していたも同然なのだが。

 

『勝手にいなくならないって約束も破ってるんだよ、白野ってば』

 

 かぐやに同調するようにヤチヨも愚痴を零す。白野は自身がサーヴァントであることを忘れ、普通の人間として生きていた。そして、コラボライブの日に全てを思い出し、やるべきことをやるためにロンドンへと飛んだ。きっと、時間がなかったのだろう。

 

 それでも彼女は全てをやり遂げて座へと還った。誇らしげに、満足げに。ただ、やり切ったという顔をしながら私たちに最後の言葉を残して。

 

(ありがとう、白野)

 

 白野がいなければかぐやは月に帰り、また輪廻を繰り返していただろう。そして、八千年の孤独に苦しむことになっていた。まさに彼女は私たちにとって英雄だった。

 

 白野はいなくなってしまったが私たちはここにいる。もしかしたら喧嘩をするかもしれない。泣くこともあるだろう。それでも、今、ここに私たちが立っている白野のためにも生きていく。あなたのいないハッピーエンドを迎え、前へ進む。それが私たちを救ってくれたあなたに報いる唯一の方法なのだから。

 

 そんなことを考えながら私は白野が遺した言葉を思い返していく。

 

 そういえば、託された物をヤチヨに相談していない。家に帰ったらパスを見せてみよう。

 

 今日の晩ご飯は何にしようか。かぐやと相談して決めよう。

 

 ヤチヨの手伝いもした方がいいだろうか。もしくは彼女のために曲を作るのもいいかもしれない。

 

 あ、そうだ。まだヤチヨに完成した曲を聞かせていなかった。今日の夜、みんなで聞こう。

 

 白野は他にどんなことを言っていたっけ? お母さんとの関係を案じてくれていたし、かぐやにはもっと色々なことを楽しんでほしい、とか言っていたような気がする。それから、ヤチヨには――。

 

 

 

 

 

 

 

 ――またね、かぐや。私をお願いね。

 

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

 待って。おかしくないか?

 

 白野はヤチヨから彼女の事情を聞いていたから『かぐや』と呼んでも不思議ではない。そう、そっちじゃなくて最後の方。どうして、白野は消える自分のことをヤチヨに頼んだのだろう?

 

「……」

 

 そうだ、おかしい。白野が意味のないことを言うわけがない。つまり、あの言葉にもちゃんと意味があるはずだ。でも、その先がわからない。他に、何か言っていなかったか? 白野だけじゃない。かぐやが、ヤチヨが、芦花が、真実が、お兄ちゃんが、雷が、乃依が――そして、白野に手を貸した英霊たち。彼らの言葉の中に何か、重要なことはなかったか?

 

 

 

 

 

 

 

 ――あとは相性のいい人間を依り代にして召喚されたりとか、世界の滅亡を食い止めるために守護者(ガーディアン)として召喚されることもあったり、と結構、例外は多いです。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――」

 

 そんなことが、ありえるのだろうか? ううん、違う。そうじゃない。そうでなければ辻褄が合わない。でも、まだ確信はない。だから、調べなきゃ。

 

「ヤチヨ」

『ん? なに?』

 

 ヤチヨの名前を呼ぶと彼女は不思議そうに首を傾げた。かぐやも雰囲気の変わった私に気づき、どうしたのだろうと顔を覗き込んでくる。

 

「調べてほしいことがあるの」

『うん、わかった。何を調べればいい?』

「2025年の2月と3月のネットニュース。その中でも立川市周辺で起きた事故関係のものをピックアップして」

『……まさか。わかった、分身を総動員させて調べてくる!』

「お願い」

 

 さすがにヤチヨも気づいたのだろう。私の言葉を聞いて声を震わせた後、慌ててスマホから姿を消した。よし、調査はヤチヨに任せて私たちも情報を集めよう。

 

「かぐや、ついてきて」

「え? あ、うん……えっと?」

 

 混乱するかぐやを引き連れ、私はアパートの階段を昇る。そして、私が住んでいた部屋の前を通り過ぎ、その隣の部屋の前で立ち止まり、インターホンを鳴らした。

 

「ここって……」

「すみません、隣に住んでいた酒寄ですが……聞きたいことがあります」

 

 扉越しに声をかけるとその人――お隣さんが顔を覗かせる。そして、いきなり訪ねてきた私たちを見て不思議そうな顔をした。しかし、最初から説明している暇はない。私は単刀直入に問いかける。

 

 

 

 

「白野……右の部屋に住んでいた女子高生っていつ引っ越しましたか? それと部屋から変な音や見たことない人が来たとか。気になったこと、全部教えてほしいんです」




さぁ、ハッピーエンドを始めよう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

かぐや姫だって月の姫(作者:すっごい性癖)(原作:超かぐや姫!)

【超かぐや姫!×月姫のクロスオーバー作品です】▼ 怪生物ことネコアルクの手で別世界へと飛ばされてしまった遠野志貴。▼ 彼の住む世界よりも少し、いやだいぶ未来の技術にあふれ、電脳空間ツクヨミなるものが大人気なそこは、何を隠そう超かぐや姫!の世界。▼ ネコアルクの置き書きに記された「この世界での役目」とやらを終えるまで元の世界には戻れない志貴は、しょうがないな、…


総合評価:741/評価:8.87/連載:34話/更新日時:2026年10月23日(金) 17:49 小説情報

藤の代にて月を思ふ(作者:藤代)(原作:超かぐや姫!)

『超かぐや姫!』オタクの主人公は、ある日、綾紬芦花の姿で八千年前の地球に目覚める。▼理由も分からないまま出会ったのは、地球に帰る途中で事故に遭い、孤独に震えるかぐやだった。▼本来の物語には存在しない彼女に、かぐやは新しい名前を贈る。▼これは、とある少女と歪んだ存在の、ハッピーエンドまでの物語。


総合評価:2315/評価:8.91/連載:6話/更新日時:2026年08月12日(水) 15:58 小説情報

かぐや「かぐやがいない間に、彩葉がかぐやと浮気したー!」 あの子ちゃん「蛇足っす」(作者:超かぐや姫!に脳を焼かれた人)(原作:超かぐや姫!)

▼※注意▼本作は、『かぐや「かぐやがいない間に、彩葉がかぐやと浮気したー!」』本編完結後の外伝・後日談集です。▼本編最終話までのネタバレを含むため、本編読了後にお読みいただくことを推奨いたします。▼彩葉・かぐや・ヤチヨたちの後日談やイチャイチャ、月の変わり者「あの子ちゃん」による補足、ifめいた小話、別世界線の長編などを扱います。▼話ごとに視点・作風・糖度が…


総合評価:1790/評価:8.72/短編:9話/更新日時:2026年06月21日(日) 20:00 小説情報

カスのかぐや姫(作者:上条@そぉい!)(原作:超かぐや姫!)

頭空っぽにして読める超かぐや姫の二次創作が読みたい、しかし見つからない。ならば書くしかねぇ!と思い立ちました。一発ネタです.▼本編完結!外伝的な小話に移行!


総合評価:2519/評価:8.92/完結:13話/更新日時:2026年10月22日(木) 16:28 小説情報

元不死人と愉快な仲間たちによるハッピーエンド検討会(作者:コネコネさん)(原作:超かぐや姫!)

ダークソウルの世界から抜け出せた主人公が掲示板を使って愉快な仲間たちと共にハッピーエンドのため奮闘する話。▼


総合評価:1780/評価:8.19/連載:13話/更新日時:2026年10月16日(金) 07:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>