月の王とかぐや姫   作:名無しのマスター

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第12話 Debut

「ヤオヨロー! 神々のみんな、元気してるぅ? 月見ヤチヨです!」

 

 軽い打ち合わせをした後、時は過ぎて配信時間となった。ヤチヨが元気よくいつもの挨拶をしているのを死んだ目で眺めている私。うん、色々と大丈夫だろうか。

 

「さて、今回はー……なんとなんとコラボ&新要素盛沢山スペシャル! ずっとこの日のために準備してきたからすっごく楽しみなの!」

 

『ヤチヨ、いつも以上にテンション高いな』

『新要素楽しみー!』

『コラボ相手誰?』

 

「うんうん、コメント欄も大盛り上がりだね! じゃあ、まずはコラボ相手から紹介! どうぞー!」

 

 コメントが表示されるウィンドウを見て満足そうに頷いた彼女は私がいる方とは逆を向いて叫んだ。すると、いきなりその場所が爆破して煙幕が巻き上がる。

 

『爆発した!?』

『このド派手な演出はまさか!?』

『え、マジで!』

 

「よう、子ウサギども。お前らの帝様が来たぜ」

「新要素、楽しみだな」

「最初に体験させてくれるってうれしーな♡ 今日はよろしく♡」

 

 その煙幕が晴れると三人の鬼が立っていた。何度か動画で見た『Black onyX』である。おお、本物だ。こんな形で出会うとは思わなかった。

 

『黒鬼だ!?』

『帝様ー!』

『黒鬼とコラボするのに告知なしとかやばすぎ!』

『これは一気に視聴者増えるぞ!』

 

 彼らの登場にコメント欄は先ほど以上に盛り上がっている。さすが大人気ライバー。そして、SNSで拡散されたのか、ただでさえ多かった視聴者数がどんどん増えていく。うわぁ、すごー。

 

「帝様御一行! 今日はよろしくね☆」

「おう、ヤチヨちゃん、よろしく! 新要素の発表ってことだけど俺たちを呼んだってことは戦い、だろ?」

「ご名答! 『SETSUNA』を改良した『RENKEI』! 二対二のタッグ戦だよ!」

 

『タッグ戦!』

『確かに新要素!』

『新しいルールか』

 

「おー、それは面白そうだ! じゃあ、仲間分けはどうする? とりあえず、俺とヤチヨちゃんVS雷、乃依にするか?」

「……ふふっ」

 

 帝が話を進めようとするがヤチヨは扇子で口元を隠し、含み笑いを漏らす。その姿はまさに何かを企てるラスボスそのもの。そんな彼女を見て帝たちも様子がおかしいと眉をひそめた。

 

「ヤチヨちゃん?」

「ふっふっふ……まさか新要素がこれだけだとお思いで?」

「なんかいきなり寸劇始まっちゃったけど……付き合った方がいい?」

「さぁな」

 

『これは何か仕組んでるヤチヨ』

『リスナーとかコラボ相手を驚かせる前に見せるヤチヨ』

『何を企んでやがる!(わくわく)』

 

「はーっはっはっは! まさかこのヤチヨが『Black onyX』と楽しくコラボるだけで終わるとでも!」

「いや、何回もあっただろ」

「さぁ! 今日のメインコンテンツ!! 出てきなさい、我がアシスタントよ!」

「え?」

 

 扇子をパチンと閉じ、大きな声で私の方を振り返った。帝たちもこちらを見て目を見開く。ヤチヨの仕掛けで私の姿を隠していたから今になって気づいたのだろう。

 

(この空気で出るの?)

 

 帰ったら駄目だろうか。駄目だろうな。駄目だよね。お金も貰っているし、ヤチヨと何度も打ち合わせした。そして、ここで逃げ出したらこんなにお膳立てしてくれたヤチヨに申し訳ない。

 

「……」

 

 犬の着ぐるみの中でため息を吐いた後、私は配信に映るように前に出た。さぁ、気張っていけ、『岸波白野』。この配信が今後のアシスタント生活の行く末を決める。絶対に失敗できない。

 

『え、アシスタント?』

『なんか出て来たぞ』

『そこはかとなくダサい犬』

『ちょっとかわいいかも』

 

「そう、実は少し前からヤチヨ専属のアシスタントを用意してたのです! じゃあ、アシスタントさん、自己紹介をどうぞ」

 

 ヤチヨに促され、口を開き――ふと考えた。普通に自己紹介するのなら問題ない。『今日からヤチヨのアシスタントを務めます、はくのんです。よろしくお願いします』。そう言えばいい。

 

 だが、それでいいのか? ヤチヨや黒鬼がいる中、普通の自己紹介では何も印象に残らない。ここは――全力で行かなければ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん、初めまして。今日からヤチヨのアシスタントを務めます。フランシスコ・ザビ――」

「――ストップ! ストップうううう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渾身の自己紹介をヤチヨに遮られてしまった。ヤチヨ、何故止める。配信は最初の印象が大切。ここで強烈な自己紹介をしてリスナーたちに覚えてもらわなければ。

 

「そういうのはいいの! 君の真価(・・)はそこじゃないでしょ!?」

「でも、ただでさえダサい犬の着ぐるみを着てるのに……なにか爪痕を残さないとこの世界(ツクヨミ)では生きていけない」

「なんでそんな覚悟決めてるの!?」

 

『おい、なんかとんでもないのが出て来たぞ』

『おお、ザビエルよ。犬になってしまうとは情けない』

『結局、名前聞けてないな』

『声からして女の子だよな? じゃあ、ザビ子で』

『ザビ子、よろしくね!』

 

「ああ!? 取り返しのつかない愛称が付いちゃった!?」

「改めまして、ザビ子です。よろしくお願いします」

「ザビ子じゃないでしょ! もう、段取りが全部パーだよ!!」

 

 いや、正直、『はくのん』だと身バレする可能性があるから少し怖かったのだ。アシスタント権限でアカウント名を一時的に『ザビ子』に改名。これでよし。

 

「あっはっはっは!! こりゃ、とんでもねー隠し玉だな!」

「ふっ、面白い」

「ザビ子ちゃん、よろしくねー♡」

「よろしくね、乃依」

「馴染むな! 名前も変えないで!」

 

『あの、ヤチヨがツッコミ役に?』

『これはとんでもないニューフェイス(犬)ですね』

『ヤチヨのアシスタントってことは今後も配信に出るってことだよな?』

『ダサい犬の着ぐるみを着た女の子が淡々とボケる……これは推せる!!』

 

 よし、最初の掴みは完璧だ。これも全て計画通り。コメント欄は大騒ぎ。黒鬼たちも私を歓迎してくれている。ぎゃあぎゃあ言っているのはヤチヨだけだ。

 

「ヤチヨ、話の続き」

「……本当にその名前で行くの? あ、うん……じゃあ、そういうことでこの子は『ザビ子』! 今日から私のアシスタントになります! 神々のみんな、仲良くしてね!」

 

 話が進まないため、彼女に先を促すとヤチヨは投げやりに私の肩に手を置いて叫んだ。そして、ぱんぱかぱーんとファンファーレが鳴る。あらかじめ用意していたのだろう。

 

「これは確かに新要素だな! じゃあ、ヤチヨちゃんとザビ子ちゃんVS俺たちってことだな」

「イエス! 今日はザビ子の初お披露目&タッグ戦でヤッチョとの絆の深さを神々のみんなに知らしめちゃうよ!」

「なるほどねぇ……でも、いいの? 俺たちはプロゲーマー。ヤチヨちゃんはともかくザビ子ちゃんには荷が重いんじゃない?」

 

 そう言って帝は私に視線を向ける。どこか値踏みするそれだが、犬の着ぐるみのおかげで私には効かない。

 

「……」

 

 しかし、ヤチヨから一瞬だけ何かが膨れ上がるのを感じた。チラリと彼女の方を見ると口元がピクピクと震えている。もしかして、怒っている?

 

「え? 何言ってるの?」

 

 私がそれを指摘する前にそのまま私の背中に回り込んで抱き着いてきた。いきなりのことだったのでビクッと肩を震わせる。

 

「ザビ子はすごいよぉ? だって、魔術師(ウィザード)なんだから」

「ウィザード? 魔法使い?」

「そう! まだ開発中だけどこの子は今のツクヨミでただ一人の魔法使い! それが今回のメインだよ!」

 

 これはあらかじめ話していた内容だ。私が魔術(コードキャスト)を使えることを公表する。だが、あくまでシステムの一つとして、だ。実は魔術(コードキャスト)の解析をしてわかったのだが、意外と礼装の量産ができそうなのである。しかし、魔術(コードキャスト)は魔術回路が必須。それでは使い物にならないため、私は魔術(コードキャスト)を一般ユーザーにも使えるように調整している最中なのだ。

 

『つまり、開発が上手くいけば俺たちも魔法が使えるってこと?』

『やば、めっちゃ楽しみ!』

『じゃあ、今日は魔法のテストか!』

『タッグ戦、面白アシスタント、魔法……配信タイトルに恥じぬ新要素てんこ盛り!』

 

「魔法使いが相手か……面白い!」

「うんうん……でも、この子はそれだけじゃないよ」

 

 おや、段取りではここで戦いになるはずなのにヤチヨは言葉を続けた。その声にはどこか怒りの色が含まれている。もしかして、私の実力を疑われたことに怒っているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ザビ子はね、魔法なしでも強いよ。だって、ヤッチョ、『SETSUNA』で勝てなかったもん」







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