月の王とかぐや姫   作:名無しのマスター

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恥ずかしながらFGOを五年前に引退しておりまして
この小説を投稿した頃に復帰いたしました。
第二部第六章、第七章をクリアしてちょっとよくはありませんが
今日から奏章Ⅲの攻略に入りました。
はくのん、もう少し待っててね……。



あと、評価バーが赤になりました。皆様、高評価本当にありがとうございました。
これからも本作品をよろしくお願いいたします。


第13話 VSBlack oxyXⅠ

 新モード『RENKEI』。二対二のタッグ戦。HPは個別で管理され、片方が撃破されたとしても戦いは続く。フレンドリーファイアあり。一本先取、というルールだ。

 

「……」

 

 四人で戦う関係上、『SETSUNA』のフィールドでは手狭だったため、ヤチヨが拡張した。この場には私とヤチヨ、黒鬼の帝と乃依がいる。雷は人数の都合上、今回は解説役に回ってくれた。

 

「ヤチヨちゃん、ザビ子ちゃん、準備はいいかい?」

「オッケー! こっちはいつでもいけるよん!」

「はぁ……」

 

 金棒型の武器を手にした帝が私たちに声をかけてくる。ヤチヨとは先ほど軽く打ち合わせをしただけ。ほぼノープランだ。それでもヤチヨは勝つ自信があるようで番傘型の武器を振り回していた。因みに乃依は弓を手にしており、いつでも戦えるご様子。やる気がないのは私だけのようである。

 

(それに……)

 

 私に向ける帝たちの視線は『興味』。あのヤチヨが勝てなかった相手がどれほどの実力を持っているのか気になっているのだろう。

 

 しかし、ヤチヨの言葉には語弊がある。確かに私がツクヨミに慣れるために魔術(コードキャスト)ありで『SETSUNA』のルールで戦ったのだが、お互いにHP満タンのまま時間切れで終わっただけだ。なので、正確には『ヤチヨ相手に引き分けた』。ただそれだけ。

 

「白野」

 

 その時、回線をプライベートに切り替えたヤチヨがこちらを振り返ることなく、私の名前を呼んだ。華奢な体なのにどこか頼もしく見える背中。

 

「私、白野の指示に従って戦うね。思う存分、ヤッチョを使って!」

「ッ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――存分に奏でるがよい!

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「ッ……へぇ?」

 

 胸の奥で何かが灯るのを感じた。そして、意識を切り替える。それを感じ取ったのだろうか、帝は目を見開いた後、感心したように笑みを浮かべた。

 

(さて、どうするか)

 

 この企画をヤチヨから聞いてから帝と乃依の戦い方はアーカイブで何度か見た。隠し玉を持っている可能性はあるがこんなところで使ってこないだろう。

 

 そして、問題は魔術(コードキャスト)の仕様。さすがに何の制限もなく、魔術(コードキャスト)を使えたらバランスが崩壊するため、いくつかルールを追加した。

 

 一つ、魔術(コードキャスト)にはMPを消費し、強力な効果のものほどその消費量が多くなる。これは私の魔力ではなく、ゲームシステム上のものだ。今回の場合、ヤチヨがサッと作ったMP数値管理ツールを使って現在のMPの保有量と使用可能魔術(コードキャスト)が視界内に表示されるようにした。

 

 二つ、使用できる魔術(コードキャスト)の制限。特に相手にダメージを与える系の魔術(コードキャスト)は禁止にした。一般ユーザーに対して使った場合、ヤチヨのように痛みを感じてしまう可能性があるからである。つまり、使用できるのは回復(ヒール)強化(バフ)弱化(デバフ)補助(サポート)無敵(ガード)のみ。しかし、無敵(ガード)は魔力消費量が桁違いに多いため、ほとんど使えないだろう。弱化(デバフ)も危険性のありそうなものは省くため、一部しか使わない予定だ。

 

 三つ、MPの溜め方。これは主に三種類。時間経過で少しずつMPが溜まる。ダメージを与えた時と受けた時。そして、特定の構えを取るとリチャージが速くなる。しかし、リチャージ中は隙だらけになるため、使いどころは考えなければならない。

 

 四つ、礼装の付け替え。全ての魔術(コードキャスト)を装備することは無理なため、使用したい礼装をその都度、装備し直す必要がある。戦況を把握しつつ、最適な魔術(コードキャスト)を使用するため、手早くウィンドウを操作することも重要だ。

 

 なお、帝たちにはゲームシステム上に関するものだけ共有済み。魔術(コードキャスト)の仕様を聞いて面白そうだと笑っていた。

 

(主に使うのは回復(ヒール)強化(バフ)か)

 

 補助(サポート)の中で今回、使えそうのは二つだけ。その片方は一回発動すればいいので主に一つだ。つまり、強化(バフ)を掛けつつ、たまに回復(ヒール)して戦況をコントロールする。それが私の仕事だ。

 

「それじゃ、よーい……はじめっ!」

 

 ヤチヨの掛け声と同時にシステムが戦闘の開始を知らせるゴングが鳴った。試合開始時にMPはある程度、保持した状態で始まるため、私は魔術回路に魔力を注いで魔術(コードキャスト)を発動させる。

 

 

 

 

 

 ――【view_map();】

 

 

 

 

 

「ヤチヨ、走って」

「あいあいさー!」

 

 魔術(コードキャスト)の発動と同時に右手を握りしめると私の目の前にこのフィールドのマップが表示され、そのままヤチヨへ指示を出す。彼女が全速力で帝と乃依に突貫する中、マップに自身とヤチヨを示す青い点が赤い点である彼らに向かって動いているのを確認した。

 

「お? さっそく何か使ったか?」

「まぁ、関係ないっしょ。じゃあ、さよなら」

 

 ヤチヨが二人に辿り着く前に乃依が弓に矢を番え、照準を私に合わせる。MP残量を確認。そして、リチャージ用の構え――右手を前に突き出し、それを支えるように左手で右腕を掴む、振りをした。

 

「避ける気なしとか。あまり舐めないでよね」

 

 それを見た乃依は僅かに目を細め、躊躇いなく矢を放った。狙いは私の頭(クリティカル)。もちろん、リチャージの構えを取った振りをしていた私は動けるため、即座に右へ跳んでそれを回避。そのまま、片膝を付いた状態でリチャージに入る。

 

「え!?」

「リチャージの振りか! ちっ」

 

 矢を回避されて驚く乃依とヤチヨの接近に舌打ちをして迎え撃とうとする帝。弓兵は近づかれるとその真価を発揮できないため、ヤチヨの足を止めるつもりなのだろう。乃依もその動きを見てサッと後ろに下がっていく。

 

 しかし、それすらも私の読み通りの動きだ。

 

「突っ切って!」

 

 

 

 

 

 ――【move_speed();】

 

 

 

 

 

「何ッ!?」

 

 短いリチャージを終え、私は右手を握りしめてヤチヨに速度アップの魔術(コードキャスト)を使用する。一気に加速した彼女は向かってくる帝をひらりと避けて乃依へと向かっていく。

 

「マジ?」

 

 まさか帝を無視して向かってくるとは思わなかったのだろう。乃依は苦笑を浮かべ、即座に矢で牽制しながら距離を取ろうとするがヤチヨは傘で矢を弾く。追いつかれるのは時間の問題だ。

 

「くっ……なら!」

 

 帝は慌ててヤチヨを追いかけようとしたが今からでは追いつけないと判断したらしく、動揺している隙にしれっとリチャージをしていた私を視界に捉えた。乃依の援護、もしくは乃依がやられた時にヤチヨと一対一で戦うために私を先に潰すつもりなのだろう。

 

「……」

 

 リチャージの構えを取りながらタイミングを計算する。ここから先、リチャージをする隙はない。魔術(コードキャスト)の使用回数が限られるため、少しでもMPを貯めておきたかった。

 

「余裕かよ!」

 

 だが、動く必要がないと見られたらしく、帝は全力で金棒を振り下ろしてくる。リチャージの構えを解き、着ぐるみの当たり判定ギリギリのところでそれを回避。ヤチヨからもらった着ぐるみ系のアバターは普通よりも当たり判定が大きく、それを考慮した読みをしなくてはならない。ヤチヨと戦った時はなかなかそれに慣れずに何度も攻撃を掠ってしまった。

 

「当たり判定に関してはバッチリってか!」

 

 攻撃をかわされた帝は叫びながら金棒の先端を掴んで引っ張り、剣を露出させる。更に金棒の方も銃へと変形させた。もう少し遊んでくれていてもよかったが乃依ではヤチヨに勝てないと考えているのか、私を早めに撃破したいようだ。

 

(でも、残念)

 

 相手がサーヴァントなら私のようなへっぽこ魔術師(ウィザード)は一瞬でやられていただろう。しかし、ここはアバターを操作する仮想空間。肉体的格差は存在しない。それならばいくらでもやりようはある。

 

 

 

 

 

 ――【move_speed();】

 

 

 

 

 

 私を対象に右手を握りしめて速度アップの魔術(コードキャスト)を行使する。そして、帝が振るった剣の軌道を読み、あえて右肩を掠るようにして避けた。その瞬間、私のHPバーが僅かに削れる。

 

 それを皮切りに帝は連続で剣を振るい、連続攻撃を仕掛けてきた。攻撃が当たるのであればいつかは倒せる。今はとにかく私を倒すことを優先にしているのだろう。

 

 もちろん、私もただではやられない。剣の嵐を掠りながらやり過ごし、視界のUIに映る魔術(コードキャスト)の一覧を見て片手でウィンドウを操作。そして、装備していた二つの礼装を切り替える。

 

 

 

 

 

 

 ――【gain_str(32);】

 ――【gain_con(32);】

 

 

 

 

 

 

 右手を握りしめて魔術(コードキャスト)を連続で使用。すると、私の体を淡い光が包み込む。その直後、剣で削れるHPバーの減りが明らかに減った。

 

「耐久アップか! なかなか厄介だな!」

 

 剣では倒すのに時間がかかると判断したのか、帝は一歩だけ後ろに下がる。そのまま、左手に持っていた銃を持ち上げようとして――一気に懐に潜り込んだ私を見て目を見開いた。その隙に右手で彼の左手首を掴み、下に押し付けるように力を込める。

 

「銃を使わせない気か? だが、剣の方も忘れんなよ!」

「忘れてないよ」

 

 私へ剣を突き立てようとした帝のお腹へ蹴りを一つ。HPバーを僅かに削ったそれは彼の体を後ろへ押し込む。そして、右手を引っ張りつつ、空いている左手でウィンドウを操作。その間、後ろへ仰け反りそうになった彼は無意識に私が引いた右手へ重心を傾け――パッと彼の左手首を離した。

 

「ぐっ」

 

 体のバランスを崩されたのがわかったのか、帝は悔しげに顔を歪めて銃口をこちらへ向ける。転倒してでも私のHPを減らしにきたか。切り替えようとしていた礼装を変更。MPも十分。さぁ、やってやろうか。

 

(――ここ)

 

 

 

 

 

 

 ――【heal(64);】

 ――【gain_lck(32);】

 

 

 

 

 

 帝が銃弾の雨を叩きつけてくると同時に右手を握りしめて魔術(コードキャスト)を使った。HPバーがゴリゴリと削れていき――攻撃が止んだ頃には私のHPバーは全快していた。

 

「……は?」

 

 銃弾をいくつも受けたはずだ。しかし、終わってみればダメージを受けていないどころか回復している。何が起こったかわからないと言わんばかりに彼はポカンと口を開けていた。

 

(リチャージしちゃおう)

 

 惚けてくれるのなら好都合。私はリチャージの構えを取ってMPを回復する。ちょっと驚かせるためとはいえ、【heal(64);】を使ったのは少し早計だっただろうか。

 

「っ! そうか、回復魔法か!」

「そうだよ」

 

 はい、リチャージ完了。短い時間のリチャージだったが、消費量の少ない魔術(コードキャスト)一回分さえ確保できていればいい。ささっと礼装も切り替えて次に備えよう。

 

「いや、でもMPは? それだけの回復量なら絶対に足りないだろ」

「常に回復してたから」

「常に……ああ、そうか! だから、わざと剣を掠らせてたのか!!」

 

 ご名答。私はMP回復のために最低限の攻撃を受けていた。そして、最後の銃弾の雨で【heal(64);】と【gain_lck(32);】を同時に使用できるほどまで回復したため、実行。その結果は御覧の通り。私のHPは満タンかつバフも乗っている状態で振り出しへ。

 

 いや、振り出しではないか。そう思いながら私は最後の魔術(コードキャスト)を使用した。

 

 

 

 

 

 ――【move_speed();】

 

 

 

 

 

 私が魔術(コードキャスト)を使ったのを見て身構える帝。しかし、何も変化がないため、眉をひそめた。

 

「魔法を使ったのにエフェクトがない? まさか――」

「――そのまさかだよー☆」

「ごっ、な、んだこれ……」

 

 咄嗟に振り返った彼は振るわれた傘を受け止め、そのあまりの重さにうめき声を漏らす。多分、これで終わりだろうけど一応、リチャージしておこう。

 

「乃依がやられたのか!? どうやって、強化(バフ)を受けた!?」

「いやぁ、ザビ子がすごいのは知ってたけどさー。帝様相手にしながら的確に私に強化(バフ)投げるとかやばいよね☆」

 

 そう、ヤチヨの言うとおり、私は自分に魔術(コードキャスト)を使いながらヤチヨに【gain_str(32);】と【gain_lck(32);】を投げていた。つまり、今の彼女は先ほど掛け直した速度アップと筋力強化、幸運値アップの強化を受けている。さすがに帝でも今のヤチヨには勝てまい。因みに乃依も【gain_lck(32);】を投げた頃にはすでに満身創痍だった。

 

「マ、ジで……おっも」

「あー! 女の子に重いと言っちゃいけないんだよ!」

「攻撃だっつーの! いや、ほんと、無理……ぐえぇ」

 

 ガンガンと八つ当たりをするように振るわれる番傘を金棒で受け止めていた帝だったが、耐えきれずにその場で倒れ伏す。そんな彼の頭に何の躊躇いもなく、番傘を叩き込むヤチヨ。さすがに一撃では終わらなかったが釘を打つように番傘で殴られた彼のHPバーは全損した。

 

「と、いうことでウィナー、ヤチヨ&ザビ子~! やっぱ、アシスタントがいるってサイコー!」

「いえーい」

 

 こうして、VS黒鬼は見事、私たちの初見殺しによる勝利で幕を閉じたのだった。








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