月の王とかぐや姫   作:名無しのマスター

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第13話 VSBlack onyXⅡ

『いや、なに?』

『わー、魔法すごーい』

『目を逸らすな』

『【悲報】芸人枠だと思ってたザビ子、化け物だと判明』

 

「?」

 

 帝、乃依との戦いが終わり、感想戦をしようとコメント欄を表示させるとそこには私を化け物扱いするリスナーたちがいた。何故だ。私はただ帝の相手をしながら魔術(コードキャスト)を使ってヤチヨを援護していただけなのに。

 

「おい、コメント見て不思議そうな顔してるぞ」

「あれ、絶対に自分がとんでもないことしてるって気づいてないよねー?」

「恐ろしいな」

 

 そんな私を見て『Black onyX』たちがひそひそと内緒話をしていた。次の戦いに向けて作戦会議でもしているのだろうか。

 

「これでみんなにもザビ子の実力を証明できたかな! ね、私のアシスタントすごいでしょ!」

 

『すごいけど……』

『想像してたすごさじゃなかったと言いますか』

『なんでヤチヨに強化投げられたの? 帝の体が邪魔でヤチヨたちの様子とか見えないよね?』

 

「最初に使った魔術(コードキャスト)で見えてたから」

 

 何気なく目に入ったコメントの質問に答える。【view_map();】によってフィールドを俯瞰した状態で全員の立ち位置が見えていた。もちろん、それぞれ点でしか表示されないため、はっきりと戦況が見えたわけではないが点の動きでヤチヨが攻めているか、避けているかぐらいの判断はできる。それを見ながら帝の動きを誘導してヤチヨに強化を投げられる位置まで移動し、礼装を切り替えてその時に適した魔術(コードキャスト)を使っただけだ。

 

「……」

 

『……』

『……』

『……』

 

 そんな私の説明を聞いたヤチヨや黒鬼たちは無言で私を見つめ、コメント欄も『……』の弾幕が流れていく。はて、どうしたのだろうか。想像していた反応とは違うのだが。

 

「おい、ヤチヨちゃん。とんでもないアシスタントを雇ってくれたな」

「あー、いやー、ヤッチョもここまでとは思わなくて……私と引き分けた時も魔術(コードキャスト)で時間を稼がれちゃって……時間切れ一秒前に回復使ってそのまま引き分けに持っていかれちゃったんだよねー」

 

 帝がヤチヨにジト目を向けると彼女は苦笑を浮かべた。以前、試しに戦ってみようみたいな話になったのだが、何故か負けた方が勝った方の言うことを何でも一つ聞くというルールにされてしまったのである。負けても面倒だったし、勝っても特にお願いすることがなかったため、引き分けに持ち込んだ。

 

魔術(コードキャスト)だけじゃねーな。ザビ子ちゃんって何者?」

「ただのアシスタントです」

「……よし、二戦目やろうぜ! 今度は俺と雷で行く」

「お、いいよー! ザビ子、いける?」

 

 私の返答に何を感じ取ったのか帝は雷と肩を組んで笑う。先ほどの戦いではあまり魔術(コードキャスト)を使わなかったので魔力にはまだ余裕がある。あと一戦くらいならいけるだろう。

 

 ヤチヨにコクリと頷いてみせてもう一戦やることになった。そして、それぞれの持ち場へ移動する際、回線をプライベートに切り替えて彼女に話しかける。

 

「ん? はくのん、どうしたのん?」

「次の戦いなんだけど……大暴れしたくない?」

「……いいねぇ。やっちゃおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、はじめー!」

 

 そんな気の抜けたヤチヨの合図と共に帝と雷が並んで突っ込んでくる。先ほどの戦いで私を相手にしてもヤチヨに強化(バフ)を投げられるとわかったため、分断する意味がない。ならば、二人でヤチヨと戦い、撃破してから私と戦うつもりなのだろう。

 

「ヤチヨ!」

「お任せあれ~!」

 

 リチャージの構えを取り、MPを回復させながらヤチヨに指示を出す。帝の戦い方はだいたい把握した。問題は雷。アーカイブではタンク兼サポートという戦い方をしていたが、何かと油断ならない相手だ。

 

 再び、回線をプライベートに変更。これで小さな声でもヤチヨに声が届く。ん? 何故か、ヤチヨはチラリとこちらを見てニンマリと笑みを浮かべた。何か企んでいる? 味方である私に?

 

「雷が前に出てくるよ。様子見で傘で殴ってみて(アタック)

「りょ~」

 

 とりあえず、試合に集中。ヤチヨと接敵する直前で帝が速度を落とした。すると、自然に雷が前に出ることとなり、ヤチヨは彼に向かって傘を振るう。その傘は雷の持つ芭蕉扇を分離した鬼瓦型の盾で受け止められた。

 

「帝が左から来るよ。盾を蹴って後ろに下がって」

「よっと」

 

 帝が盾の陰から姿を現し、金棒を振り上げる。しかし、その時にはすでにヤチヨは鬼瓦型の盾を蹴って跳躍。くるりとバク宙しながら距離を取った。

 

 

 

 ――【gain_con(32);】

 ――【move_speed();】

 

 

 

「雷が盾を構えながら突っ込んでくる。二歩下がった後に強化入れるから右から通り抜けて」

 

 リチャージの構えを解き、ヤチヨが二歩下がったところで右手を握りしめて魔術(コードキャスト)を二つ、投げる。そのままウィンドウを操作して礼装を変更。その間に速度の上がったヤチヨは指示通りに雷の右を通り過ぎた。想像以上に速かったのだろう。反応に遅れた雷の背中がガラ空きだ。

 

「その場で傘を横薙ぎに。帝がそれを防ぐ」

「させっかよ!」

 

 雷の背中に向かって振るわれた傘は帝の金棒が受け止めた。だが、一戦目で受けた強化されたヤチヨを想定して構えていたのか、攻撃の軽さに驚いて手元が狂い、金棒の角度が変わってヤチヨの体が僅かに前へ出る。

 

(そこだ)

 

 

 

 ――【gain_str(32);】

 ――【view_map();】

 

 

 

「雷が助けに入るよ。離脱して」

「ぐおっ、いきなり、重く!?」

「っ」

 

 右手を握りしめて優先事項の低かったマップを展開。同時にヤチヨに筋力強化を施すと帝は顔を歪ませて重心を低くした。そんな彼をフォローするために雷が駆けつけるが、あっさりとヤチヨは二人から距離を取る。

 

「雷が追いかけてくる。追いつけないだろうからいい感じにおちょくって」

「はいはい鬼さ~ん、手の鳴る方へ~」

「くっ」

 

 速度の上がったヤチヨはおほほ、と高笑いしながら雷に向かって笑いかけ、彼は顔を歪ませた。挑発に乗ったわけではない。単純に重量級の武器を持つ彼ではヤチヨに追いつけず、悔しがっただけだ。

 

(だからこそ、彼は自分にできることをする)

 

 ヤチヨが二人の注意を引いてくれているおかげで私はリチャージし放題。魔術(コードキャスト)の使用時と礼装変更時以外は常にMPを回復している。そして、手早く礼装を切り替えた。

 

「雷に隙を作る。その後、全力で殴って(ブレイク)

「あいあいさー!」

「っ……待て、雷!」

「何っ!?」

 

 ヤチヨの表情を見て何かを察したのか、帝は雷を止めようとする。だが、もう遅い。雷も私もすでにそのコマンドを終了させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――【seal_skill();】

 

 

 

 

 

 

「なっ」

 

 右手を握りしめると雷の体にエフェクトが走り、驚いたように彼は声を漏らした。雷が何をしようとしていたか、それははっきりとはわからない。だが、サポート役である彼はアーカイブで様々なスキルを使っていた。

 

 だからこそ、それに頼る。この状況を打破するために自分にできることをしようとする。なら、それを使われる直前に蓋――スキル封印を施せばいい。タイミングはドンピシャ。彼はスキルの発動に失敗し、体を硬直させる。しかし、さすがはプロゲーマー。瞬時に状況を把握して態勢を立て直そうと後ろへ下がった。

 

「せいやー!」

「ごっ……」

 

 でも、その小さな隙はヤチヨにとって絶好のチャンス。速度の上がった彼女にはそのバックステップは無意味。番傘の突きは的確に雷の腹部へ直撃し、後ろへ吹き飛ばす。そのまま地面を転がり、転倒(スタン)状態に入った。

 

「チャンス!」

「駄目、帝がカバーに入る。傘を開いて防いで(ガード)

「おっとっと」

 

 前に出ようとしたヤチヨを止める。その直後、帝が倒れている雷の前に立ちはだかり、銃を乱射してきた。もちろん、すでに傘を開いていたヤチヨはそれを盾にしてやり過ごす。

 

「そりゃ、弱化(デバフ)もあるよな! 雷、スキルは使えるか?」

「ああ、効果自体は短いから問題ない。だが……」

 

 雷は自身に掛けられた弱化(スキル封印)はすでに効果が切れている。だが、彼は信じられないものを見るような目で私を見ていた。

 

「効果が短いということは相手がスキルを使うタイミングで魔法を使わなければならない」

「つまり、ザビ子ちゃんは的確に雷の手を読んでたってことか」

 

 おや、二人は打ち合わせでもしているのか、こちらの様子をうかがっている。それなら遠慮なくその時間を使わせてもらおう。礼装を切り替えて、右手を握りしめて魔術(コードキャスト)実行。

 

 

 

 ――【gain_lck(32);】

 ――【add_invalid();】

 

 

 

「ヤチヨ、一回だけ相手の攻撃を無効化できる魔術(コードキャスト)を使った。それでも可能な限り、攻撃は避けるか傘で受け止めて」

「至れり尽くせリサイタル☆ これでヤッチョは無敵なのです!」

 

 掛けられる強化(バフ)は全て終えた。あとは効果時間が切れたものから掛け直すだけ。攻撃無効の強化(バフ)でMPを全て消費してしまったので再びリチャージに入る。しばらくは援護できないがまぁ、ヤチヨなら大丈夫だろう。

 

「ちっ、あんま時間かけてるとヤチヨちゃんがどんどん強くなる! さっき話した作戦で一気に決めるぞ!」

「わかった」

 

 帝たちの目つきが変わった。特に帝。あれは何か作戦がある時のそれ。視線の先は――私か。

 

(なるほど)

 

「……ヤチヨ、帝たちの攻撃を避けながら少しずつ私の方に戻ってきて」

「いいけど、大丈夫? 急にそっちを襲うかもしれないよ?」

「そう仕向けるの。向こうもそうしたいみたいだし……これで片方は落とせる」

「わぁお……ヤッチョ、心の底からザビ子が敵じゃなくてよかったと思ってる……」

 

 来るべき時のために礼装を切り替えて再びリチャージ。しかし、何故か味方であるはずのヤチヨの声が恐怖で震えているような気がした。

 

「ヤチヨちゃん、覚悟!」

 

 作戦会議はここまで。帝が剣と銃を持って先行し、ヤチヨに突貫してきた。そのまま彼女に斬りかかるが速度強化が残っているヤチヨはひらりとそれをかわす。

 

「今度は俺だ」

「よっと」

「おらっ!」

「ほっ」

 

 その逃げた先に先回りしていた雷が錫杖を振るう。もちろん、それも避けるヤチヨ。すかさず、帝が襲い掛かってくる。ヤチヨの逃げる方向を誘導するように。

 

「っ……」

 

 ヤチヨもそれに気づいたのか、どこか驚いた様子で私の方を振り返り、盾を構えて突っ込んできた雷を慌てて避ける。私のことはいいから集中してほしい。すでにこの勝負の勝敗は決まったのだから。

 

「――ここだ!」

「っ! ザビ子!」

「俺が相手だ」

 

 ヤチヨに攻撃を仕掛けようとした帝は突然、私の方へと向かってきた。ヤチヨが咄嗟にその進路を塞ごうとしたが、その前に雷が彼女の前に立ちはだかる。一対一。図らずとも一戦目と同じ構図となった。

 

(でも、違うのは)

 

「さっきぶりだね、ザビ子ちゃん! もう一回、相手してくれよ!」

「私じゃ荷が重いので勘弁して下さい」

 

 そんな軽口を聞きながら帝が振るう剣を避ける。その猛攻は先ほどよりも激しく、速度強化を自分に施していないせいで少しずつ余裕がなくなっていった。

 

「――」

「それを待ってた!!」

 

 私は魔術回路に魔力を流しながら右手を開く。その直後、帝はニヤリと笑って剣を――投げた。それは寸分違わず私の右手首にヒット。桜の花びらを散らしながら着ぐるみと一緒に右手が飛んでいく。

 

魔術(コードキャスト)を使う時、右手を握りしめていた! つまり、右手を落とせばもう使えないんだろ!」

「……残念。不正解」

 

 

 

 

 

 ――【move_speed();】

 

 

 

 

 

 剣を失った帝を尻目に私は自分に速度強化を施す。そして、そのまま彼の横を通り過ぎてヤチヨの足止めをしている雷へと向かった。

 

「何ッ!? 待て!」

 

 不意を突かれた帝は剣を拾うことなく、駆け出しながら私に銃を放つ。チラリと後ろを見てその銃口から軌道を予測。右へ左へとジグザクに走って全て避けた。

 

「銃弾かわすとか漫画かよ!」

「ヤチヨ!」

「あいさー!」

 

 私の合図でヤチヨは傘を開き、投擲の構えに入る。彼女の傘は投げることで高速回転し、相手を両断できるそうだ。

 

「ちっ」

 

 大技が来ると判断したのか、雷は彼女から目を離して帝の方へと走る。ヤチヨの傘を盾で受け止める算段なのだろう。

 

「うっそぴょーん」

 

 だが、投げようとした手を止めたヤチヨは傘の柄に口を付けて一気に息を吹き込む。すると、傘の先端からいくつものガラス玉の形をした爆弾が飛び出した。速度は遅いものの帝と雷のいる場所に向かっていく。彼らは慌ててガラス玉の軌道上から離れる。

 

「ヤチヨ、追加。帝の右に三つ。雷の左に四つ、放って」

 

 柄に口を付けているからか、彼女からの返事はない。しかし、私の指示したようにガラス玉を飛ばしてくれた。もちろん、ただのガラス玉型爆弾でやられる二人ではない。簡単に避けてみせた。

 

「更に追加。帝の左に一つ。その一秒後に右に二つ。それから雷の右に二つ。二秒後に左側へ四つ。その後、五秒経ったら二人の中間地点に傘を投げて。それで終わる」

「?」

 

 ガラス玉型爆弾を作りながらヤチヨが『本当に?』と言いたげにちらりと私の方へ視線を向ける。だが、私のことを信じてくれたのか、追加のガラス玉を飛ばし、それらを避けようと帝は左に、雷は右に足を踏み出す。

 

(ここ)

 

 

 

 ――【move_speed();】

 ――【move_speed();】

 

 

 

「なっ!?」

「ぐっ!?」

 

 その直前、帝と雷に速度強化を施した。いきなり自分たちの速度が上がり、アバターのコントロールが効かなくなった二人は肩から激突。その場でひっくり返った。

 

「そぉれ!」

 

 そんな二人に向かってヤチヨが傘を投げる。思わず耳を塞ぎたくなるような高音を響かせ、傘が帝たちに迫った。帝はともかく雷は重量系の武器を持っている。すぐには動けない。しかし、それでも雷は諦めずに体を動かしていた。彼の判断は正しく、速度強化のおかげでギリギリのところで回避できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、残念。逃がしはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――【vanish_add(b);】

 

 

 

 相手の強化(バフ)を一つだけ消し飛ばす魔術(コードキャスト)。それにより、私の掛けた速度強化が消え、雷の動きが見るからに遅くなった。

 

「……ふっ。見事だ」

 

 そして、ヤチヨの傘が彼の体を捉え、体を両断。HPバーも全損した。

 

「雷!」

 

 傘を回避した帝は彼がいた場所を見て悔しげに顔を歪める。彼の剣は遠いところに落ちており、取りに行く前にヤチヨに追いつかれてボコボコにされるだろう。彼もそれがわかったのか、銃を地面に落として両手を挙げた。

 

「降参だ」

「と、いうことで今回もヤチヨ&ザビ子の勝ち~!」

「いえーい」

 

 帝が降参したことにより、私たちの勝ちが確定。欠損していた右手も治り、私はヤチヨとハイタッチを交わして勝利の喜びを分かち合った。








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