月の王とかぐや姫   作:名無しのマスター

16 / 18
前話でザビ子無双しましたが、正直、やりすぎだと言われるかと思っていました。
二次創作で主人公が無双すると一定数ご意見が届きますので。
しかし、蓋を開けてみれば『ザビ子だから仕方ない』、『相手が悪かった』などご感想をいただき、改めてザビ子の異常性を認識しました。
やっぱ、この子、普通じゃないって。


余談ですがFGOで無事にはくのん手に入りました!


第15話 VSBlack onyX Epilogue

「はい、今回はザビ子初お披露目と新モード『RENKEI』、魔術(コードキャスト)のテストを兼ねた配信でしたー!」

 

 勝敗が決まった後、私たちは横一列になって配信の締めに入る。二戦目はヤチヨが目立つように立ち回ったため、コメント欄は彼女を褒め称えるもので溢れているに違いない。

 

『ザビ子、やはり化け物だった』

『なんで帝様たちが動く前に読めてるんですかね』

『ヤチヨへの指示が的確過ぎて詰将棋見てる気分だった』

『相手にあえてバフかけてリズム崩すとかやばすぎ』

 

「???」

 

 そう思いながらコメント欄を見てみればまた私を化け物扱いするものばかりだった。それらはまるでヤチヨとの会話を聞いているようで――ハッとしてヤチヨの方を見る。

 

「あ、しまった! ザビ子とのプライベート回線、間違って配信に聞こえるようにしてた! ヤッチョったらおっちょこヤッチョい!」

「わざとだろ」

 

 二戦目が始まる時に何か企んでいたがこれのことだったようだ。思わず、低い声でツッコんでしまった。

 

「でも、マジでやばかったぞ。こっちの動き、完璧に読まれてたよな?」

「うん、指示受けてるヤッチョもドン引きだったよー。ザビ子の右手を狙ってきた時も誘い込むように言われたし」

「そうだ、それだよ! 右手を握りしめるのが魔術(コードキャスト)の使用条件なんじゃないのか?」

 

 私の右手を斬り落とした時のやり取りを思い出したのだろう。帝は声を荒げて叫んだ。確かに今回の戦いで私は魔術(コードキャスト)を使う時、右手を握りしめた。しかし、魔術(コードキャスト)の使用にそんな制限はない。

 

「……つまり、最初から騙すつもりでやっていた、と?」

「引っかかればいいな、程度だけど」

 

 雷の質問に頷いておく。帝が私の右手に視線を向けたのに気付いた時は少し嬉しかった。そのおかげで帝の手から剣が離れたのだから。動揺した彼が剣を拾わずに私を追いかけてきてくれて助かった。

 

『引っかかる保証もないのに罠を仕掛ける犬』

『見事に引っかかる鬼』

『つまり、一戦目からこうなることを見越して?』

『もはや未来予知じゃん』

 

 いや、一戦目の時から仕掛けていたが引っかかるとは限らないので手札の一つとして用意していただけだ。未来予知などできるわけがない。

 

「ふーん、未来予知とか面白いじゃん」

「えっと?」

「まぁ、ザビ子はすごい! これでいいでしょ!」

 

 しかし、何故か乃依が興味深そうに私の方を見てきたため、言葉を詰まらせる。そのせいでヤチヨが割って入ってしまい、弁解するタイミングを逃してしまった。

 

「それで魔術(コードキャスト)はいつ使えそうなんだ?」

「それはザビ子の解析次第かにゃあ。出力の調節がなかなか難しくて……今回も魔術(コードキャスト)を使う代わりに武器の所持禁止っていう制限もかけてたから」

 

『魔法使い、まさかの素手で応戦』

『それでなんで右手の欠損だけで済んでるんだ』

『攻撃魔法はないの?』

 

 出力の調節が難しいのは本当だが、コメントで攻撃系魔術(コードキャスト)の話が出てきてしまう。ヤチヨに撃ったら痛みを伴うため、あまり解析が進んでいない。どう答えるべきか。

 

「あるよー。でもねー……あ、じゃあ、ザビ子、ヤッチョに撃ってみてよ」

「え?」

「あ、耐久は上げてほしいなー」

「いいけど……いいの?」

「配信の締めにはちょうどいいよ! 私が締めの挨拶をしたら撃ってね!」

 

 まさかの要求に戸惑っているうちにヤチヨは話を進めてしまい、配信を締め始めてしまう。攻撃系魔術(コードキャスト)を撃つことになってしまった。えっと、じゃあ、まずは耐久を上げて、と。あ、幸運も強化しておこう。気休めかもしれないけど。

 

「――と、いうことで帝様たちの宣伝も終わったということで今日はこの辺でクローズ! じゃあ、ザビ子、派手にやっちゃって!!」

「行くよ」

 

 

 

 ――【shock(32);】

 

 

 

「きゃああああああ♪」

「ヤチヨちゃんが派手に吹っ飛んだー!」

「しかも、地面に倒れた後、動かなくなったな」

行動不能(スタン)付きです」

「うわぁ、あれ使われたらマジで終わりだったじゃん」

 

 こうして、ヤチヨが地面でピクピクと痙攣する映像で私のデビュー配信は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後十時。デビュー配信を終えた私はシャワーで汗を流した後、ジャージに着替え、勉強道具を入れたトートバッグを手に二つ隣の部屋を訪ねていた。

 

「いらっしゃい、白野。今日はちょっと遅かったね」

「うん、少しね」

 

 扉を開けたのはパジャマ姿の彩葉。少し眠れるようになったとはいえ、完全に不眠症が治ったわけではないらしく、その目の下にはまだクマがある。彼女がよく眠れる日が早く訪れるのを願うばかりだ。

 

「お邪魔します」

「はーい、どうぞ」

 

 そのまま彼女の部屋へ入る。引っ越してから一か月ほど経つがやっと机やテーブルが設置され、部屋らしくなっていた。私に母親のことを話した後、祖父母からの仕送りを少しだけ使い始めたらしく、あの頃よりずっとマシな生活を送っている。最近、カフェでバイトを始めたそうだ。今度、お邪魔しよう。

 

「じゃあ、昨日の続きから」

「お願いします」

 

 トートバッグから勉強道具をテーブルに広げて頭を下げる。彩葉は頭がよく、記憶喪失の影響で何かと勉強に困ることが多かった私は少し前から勉強を教わっているのだ。お駄賃は非常食。さぁ、こちらをお納めくださいませ。

 

「うん、いつもありがと。うわぁ、レトルトカレーだ。これで三日はいける!」

 

 いけません。バイトを始めたのなら食事はちゃんとしなさい。それでは前のように倒れそうになってしまう。

 

「はーい……あ、そこ違う」

 

 私の小言に唇を尖らせた彩葉だったが、こちらの手元を見て指さした。おっと、話すのに夢中で計算を間違えてしまったらしい。消しゴムで消して計算をやり直した。

 

「白野ってさ、記憶喪失なんだよね?」

「そうだけど?」

 

 その様子を見ていた彼女の問い。一か月前に教えてから話題に出ていなかったので思わず首を傾げてしまった。

 

「記憶喪失ってどんな感じ?」

 

 普通なら相手のことを気遣って聞かなそうなことを遠慮なく口にしたため、少し驚く。だが、普段の私が記憶喪失をほとんど気にしていないことに気づいているからこそ、躊躇いなく聞いたのだろう。たった一か月の付き合いだが、彼女とはほぼ毎日のように顔を合わせているため、お互いの人となりはすでに把握済みだ。

 

「……こんな感じ」

「いや、わからんて……なんか想像もできなくて。両親と話す時とか気まずい?」

「もういないからわからない」

「そうなんだ……は?」

 

 私の答えを聞いた彩葉は頷いた後、ガバッと顔を上げた。あんぐりと口を開けている。あれ、もしかして言ってなかった?

 

「数年前に事故に遭ったらしくて両親はその時に亡くなった。それからずっと植物状態だったんだけど一年前くらいに目を覚ましたの」

「……はああああ!?」

 

 いい機会なので私の事情を説明したのだが、彼女はテーブルに両手を叩きつけて立ち上がった。そして、すぐに頭を抱える。

 

「待って……色々と頭が追い付いてない……」

「因みに十八歳です。白野お姉さんって呼んでね」

「追加情報いらん!! もー、なんでそんなケロッとしてんの!?」

 

 場を和ませようと冗談を言ったのだが、彼女は求めていなかったらしく、へなへなとその場で座り込んだ後、背中から床に倒れた。そんなところで寝たら腰が痛くなるよ。引っ越し初日の私みたいに。これだから固い床は嫌いなのだ。

 

「……はぁ。気にしてないんだよね?」

「記憶喪失だからよくわからなくて。あと、入学するまで忙しすぎて気にしてる暇がなかった」

「それなのに人にはお節介を焼くのか……白野らしいけどさ」

 

 しょうがないじゃないか、そういう性分なのだから。因みに入学後はヤチヨのアシスタント業が本格化したため、そっちの準備で忙しかった。ツクヨミや魔術(コードキャスト)の解析も必要だし。

 

 なお、配信が終了する直前に攻撃系魔術(コードキャスト)を放ったが、受けた本人は『痛い、痛いよぉ……うへ、うへへ』とちょっとやばい笑みを浮かべていた。プライベート回線だったため、私にしか聞こえていないだろうが早急に痛み以外の触覚を与えてあげなければならない。彼女の性癖(SG)が変質する、その前に。

 

「学校でも困ってる人がいたらすっ飛んでいくじゃん」

「そう?」

 

 だって、目の前でどうしよう、と悩んでいる人がいたら声をかけるだろう。昨日は科学室の鍵を借りた後、ちょっとした不注意で失くしてしまった女子生徒がいたため、一緒に探した。私が見つけた時、その子は泣きながらお礼を言ってきたので『気にしないで』と別れたのである。

 

「うわぁ」

 

 そのことを話すと彩葉はどこか引いた様子で私を見ていた。ただ困っている人を助けただけなのに『またやってるよ、この人』みたいな目。別にやましいことはしていないのだが。

 

「まぁ、それはいいとして……白野は寂しくないの? 親もいないし、親戚も頼れないんだよね?」

「別に寂しくないよ」

 

 学校にも無事に通えるようになったし、ヤチヨも暇を見つけてコミュニケーションを取ってくれる。なにより――。

 

「――戦友(彩葉)がいるからね」

「……ほんま、そういうところやわ」

 

 顔を上げてそう言った後、彩葉はテーブルの向こうに再び消えた。どういうところ?







彩葉「……お姉さん、か」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。