月の王とかぐや姫   作:名無しのマスター

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第16話 Chat Live

「いけるいける! ザビ子なら大丈夫だって! ヤッチョ、保証しちゃう!」

「……」

 

 ヤチヨのアシスタントとしてデビューを果たした私だが、リスナーたちの反応は良好。むしろ、『とんでもないニュービーが現れた!』とツクヨミ内で騒ぎになるほどだった。ちょっとプロゲーマー相手に魔術(コードキャスト)で初見殺ししただけなのにどうしてそこまで話題になるのか、わからない。

 

 なお、ヤチヨガチオタク彩葉も(ザビ子)に注目しているようで勉強時間の合間に興奮した様子で早口で語ってくる。やはり、ヤチヨの犬(アルバイト)のことは言わない方がいいだろう。白目をむいてひっくり返る様子が思い浮かぶ。

 

 そんな感じでアシスタント・ザビ子はヤチヨの配信に時々、出没するレアキャラとして定着しつつある中、ヤチヨの雑談配信にお邪魔した時に少し問題が起こった。ツクヨミのシステムに予期せぬバグが発生してしまい、ヤチヨが対応しなければならなくなったのである。普通ならAIヤチヨが上手くやってくれるのだが、そこそこ大きな問題らしく、ヤチヨ本人が行かなければならないらしい。

 

「私、ただのアシスタントなんだけど」

「こういう時のアシスタントでしょ! ヤッチョが帰って来るまで神々のみんなとお話しするだけでいいからさ☆ みんなもザビ子とお話ししたいよね?」

 

『正直、ヤチヨ以上に気になってる存在と言っても過言ではない』

『何度か配信では見てるけどゆっくり話す機会はなかったからなぁ』

『聞きたいこといっぱいある!』

 

「そういうわけだから後はよしなに~♪」

「あ、ちょっと」

 

 リスナーの反応を見て満足そうに頷いた後、ヤチヨは消えてしまった。制止する暇さえ与えぬその早業。まさに電子の世界に生きる自由人である。

 

「はぁ……じゃあ、少しの間ですが、よろしくお願いします」

 

『やったー!』

『ザビ子の雑談配信だー!』

『お願いしまーす!』

 

 さすがヤチヨの神々(リスナー)。私という脇役の登場でも盛り上がってくれる。しかし、何を話せばいいのだろうか。あ、そうだ。とりあえず、気になったことから聞こう。

 

「今までこんな風に配信中にトラブルが起きたりした?」

 

『何度かあるけどその時は配信を中断してたね』

『ごめんねーって謝って爆速で問題解決して違う枠を取ってる』

『いつもなら申し訳なさそうに行くけど今日はザビ子がいるからにっこにこしてた』

 

 私の質問に律義にリスナーは答えてくれた。おお、自分が話せば反応があるのは少し嬉しい。これがライバーの醍醐味、というものだろう。

 

「えっと、あまりこういうのは慣れてないけど……何か質問ある?」

 

 しかし、私はライバーどころか、ただのアシスタントだ。いきなりリスナーと雑談しろと言われても無理なので質疑応答形式にする。私に質問したいという(コメント)もあったし。

 

『どうして、ヤチヨのアシスタントになったの?』

『アシスタントになった経緯が知りたい!』

『ヤチヨからどんな風にスカウトされたの?』

 

 すると、コメント欄が加速。数秒ほどコメントの様子を見たが私がヤチヨのアシスタントになった理由が気になるらしい。あまり時系列を言えば私の身バレに繋がる可能性もあるため、少しぼかして話そう。

 

「ツクヨミに初ログインした時、何故かアカウントにロックがかかってて、ヤチヨに対応してもらったのがきっかけかな」

 

『アカウントにロック?』

『聞いたことない』

『バグ?』

 

「バグじゃないっぽい。ヤチヨも前例がなくて困ってた。それから少しずつ仲良くなってアシスタントになった?」

 

 そういえば、まだアカウントがロックされていた理由は不明だ。おそらく、月の聖杯戦争関連だと思うのだが、調査は何も進んでいない。

 

『いや、なんで疑問形?』

『アカウントのロックかぁ。どんな問題があったの?』

『まさに運命。そして、ザビ子が誕生したのか』

 

「アバターの容姿がリアルのままで衣装が固定だった。だから、身バレ防止にこの着ぐるみを貰ったの」

 

『ザビ子の着ぐるみ、まさかの身バレ対策だった』

『くっ、着ぐるみの下見せてって言いたかったのにそれじゃ言えないじゃないか』

『これ、脱いだらとんでもない美少女が出てくるぞ。俺、漫画で何度も見た』

 

「美少女じゃないので外れです。どこにでもいる女子高校生だよ」

 

 彩葉とか芦花、真実の方が可愛い。異論は認めない。しかし、否定した途端、何故か更にコメント欄が加速し始める。

 

『え、ザビ子、JKなの?』

『帝様たちの行動を先読みしてたから歴戦の戦士だとばかり』

『戦争帰りの傭兵とか考察されてたのに一瞬で否定されて草』

 

「え?」

 

 どうやら、女子高校生と言ったのが悪かったらしい。謎多きヤチヨのアシスタント・ザビ子。その正体を探ろうと少ない情報から色々と考察されていたのだろうか。

 

「別に普通だけど……」

 

『いや、あれは普通じゃねぇんだわ』

『絶対、将棋とかチェス強いぞ』

『戦略ゲーとかやってみて欲しい』

 

「私はヤチヨのアシスタントだから個別で配信する予定はないです」

 

 今だってヤチヨの急用が入ったため、アシスタントの仕事の一環で雑談しているのだ。私としてはもう少しひっそりとやらせてほしい。具体的にはお料理番組で使い終わったお皿などを画面に映らないように片付けるスタッフぐらいのレベルが好ましいです。

 

『えー、絶対面白いのに』

『淡々と死にゲーを初見クリアしそう』

『ホラゲーとかも悲鳴一つ上げることなく、銃で敵の眉間を撃ち抜きそう』

 

「私、どんな印象持たれてるの……」

 

『化け物』

『軍師』

『ヤチヨの犬』

『フランシスコ・ザビエル』

『おもしれー女』

 

 何気ない一言に私の異名が流れていく。やはり、最初のコラボ配信の印象が強いようだ。私としても意識して目立つような言動を取ったのだが、こんなことになるとは思っていなかった。

 

「……ん? 待って」

 

 ため息を吐き、今もなお止まらないコメント欄を眺めているとふと気になるコメントを見つける。あまりにもコメントが流れるスピードが速いため、一瞬しか見えなかったが私の見間違いじゃなければ――。

 

「……」

 

 仮想キーボードを出現させ、コメント欄にアクセス。アシスタント権限でコメントの設定や流れてしまったコメントを追えるため、一瞬だけ映ったそのコメントを探しに行く。

 

『急にどうしたの?』

『キーボート叩くスピードはや!?』

『なんだなんだ?』

 

「……見つけた」

 

『すみません、こんな状況で話すことでもないんですが、今、学校が辛くて行くことができません。ザビ子さんは学校楽しいですか?』

 

 私の行動に困惑するリスナーを放置して件のコメントを発見。それは楽しい配信には似合わない愚痴のようなもの。おそらく、どのような形でもいいから誰かの目に映って欲しかったのだろう。

 

「ねぇ、このコメントをした人、まだいる? 大丈夫、あなたのアカウントで書き込まれたコメントをピックアップできるようにしたから気軽に手を挙げてね」

 

『あ、はい。私です、ごめんなさい』

 

 ウィンドウを操作して配信にもコメントが見えるようにして呼びかける。すると、怒られると思ったのか、コメントした人は謝罪のそれを書き込んだ。

 

「ううん、怒ってるんじゃないよ。お話、聞かせて欲しいなって」

『お話、ですか?』

「うん、ほかのリスナーさんには悪いけど……少し気になっちゃったの。もし、嫌じゃなかったら話してみて」

 

 きっと、ライバーとしてリスナーの一人を贔屓するような行為はNGだろう。でも、見過ごせなかった。目立ちたいから嘘を吐いたのかもしれない。大げさに言っただけなのかもしれない。

 

 それでも、私は――見過ごしたくなかった。その不安や悲しみを拾えるのなら手を伸ばしたい。何も持たない私だからこそ、誰かの持つそれを放っておきたくない。それが『岸波白野』なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、その方がいいんじゃないかな。とにかく、自分が悪いって責めすぎないこと。反省しないことも悪いけど、反省しすぎもよくない。必要以上に自分を傷つける必要はないんだから」

 

 右に展開されたウィンドウに書き込まれたコメントを読んで答える。

 

「なるほど、それは確かに難しい問題だね。誰かに相談した? 相談って聞くと大げさに聞こえるかもしれないけど、自分の気持ちを整理する役割もあるんだよ。相手に負担をかけちゃうからなかなか踏み出せないかもしれないけど……私でもいいからもっと深く相談してほしいな」

 

 次は上。話の流れをサッと読み返して答える。

 

「苦しいってことはさ、それだけあなたにとって大切なことだと思うんだよね。捨てたくても捨てられない。持っているだけで傷つくとわかっていても捨てられない。だって、捨てた方が辛いんだから。なら、その持ってるものから棘を抜こう。どうして、辛いのか。苦しいのか、考えよう。でもね、これだけは言わせて。苦しくても捨てなかったあなたの勇気。それは褒められるべきことだと思うんだ」

 

 右のウィンドウに新しくコメントが書き込まれたのを尻目に左のウィンドウに話題を移して答える。

 

「私はただ思ったことを話してるだけ。お礼は必要ないよ。あなたが救われたいって思ってたからできたこと。ありがとう、まだ諦めないでいてくれて。こんな私でも役に立ててよかった」

 

 下のウィンドウに表示されたお礼の言葉に小さく笑う。着ぐるみを着ているため、リスナーには見えないだろうが少しでも私の気持ちが伝わって欲しかった。

 

「順番待ちができちゃってるけどみんな、眠くない? 相談するのは私じゃなくてもいいんだよ? 相談しようと行動しただけでも前進。次の機会があるかわからないけど、あなたの話を聞いてくれる人は私以外にもいるはずだよ」

 

 もちろん、相談に答えながらリスナーたちにも声をかける。ここはヤチヨのチャンネルだ。私が好き勝手やったせいで彼女が炎上することは避けたい。

 

「たっだいまー! ザビ子、調子は――え?」

「ヤチヨ、おかえり。はい、これ。ヤチヨが答えた方がよさそうなものをピックアップしておいたから。あ、お待たせ。これはね」

「え? ええ? えっと、じゃあ、枠を分けるよ! ヤチヨに相談を回された人は移動して!」

 

 ヤチヨにウィンドウを投げて相談に戻る。先ほども言ったがこんな機会はもう来ないかもしれない。だから、可能な限り、リスナーたちの悩みを解決してあげたかった。

 

「次の相談はこれ。このコメントした人、まだ起きてる?」

 

 

 

 

 

 

 

 ――さぁ、リスナーたちよ。相談事の貯蔵は充分か!

 

 

 

 

 

 

 

 この日、私の異名に『聖徳太子の生まれ変わり』が追加された。








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