月の王とかぐや姫   作:名無しのマスター

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タイトルの綴りは意図的に間違えております。
正しい綴りは『promise』です。



はくのんを手に入れる直前にカズラドロップがピックアップして運がいいなーと思っていましたがBBドバイも来て少しビビっております。
無事に引けました、ありがとうございます。
あとはパッションリップ(セイバー)だけですが、水着なので気長に復刻待ちます。


第19話 Promiss/ばーか

 季節は廻り、秋となった。夏休みも終わり、学校が再開したのだが、少しだけ問題が起こっていた。

 

「うーん、魔術(コードキャスト)の調整が上手くいかないかぁ」

 

 私の報告を聞いて難しい表情を浮かべたのはヤチヨ。あのデビュー配信から約半年。魔術回路なしで発動できるようにはなったものの、出力を抑えたりバリエーションを増やす作業が思いのほか進んでいなかったのである。

 

「今、完成してるのってどれだっけ?」

攻撃(スタン)かな」

 

 ヤチヨは事あるごとに攻撃(スタン)系を撃ってほしいとお願いしてくる。しかし、今のままだと魂に傷がついてもおかしくないため、全力で出力を抑える作業をしていたのだ。そのおかげで今では耐久を上げなくても『あ、ちょっと痛い』程度まで抑えられることに成功。配信ではヤチヨがボケた時のツッコミとして使用しており、今では配信中に何度か彼女のアバターが派手に吹き飛ぶのが恒例となっている。

 

「ありゃりゃ、ちょっと求めすぎちゃったか。強化(バフ)は?」

「どれくらいの比重にするか悩んでるところ。強すぎても弱すぎても駄目だから」

 

 強化(バフ)が強すぎた場合、ゲームのバランスを崩壊させる要因となるし、弱すぎたら使う意味がない。こればっかりは試行錯誤を繰り返さなければならないのだが、アシスタント業が意外と忙しいため、そこまで作業が進んでいない状況だった。

 

「あれ、そんなに忙しい?」

「ほぼ毎回出てるから」

 

 ヤチヨのアシスタント・ザビ子。ネタキャラとして扱われる反面、デビュー配信後に行ったヤチヨの雑談配信にお邪魔した際に流れでリスナーの相談事に乗ったのだが、それが思った以上に反響を呼び、定期的に開催してほしいといくつものDMが届いたのである。今では一週間に二回ほど私が主体となって相談窓口配信をするようになっていた。なお、その時のヤチヨはアシスタントの如く、後ろでニコニコと控えており、私の指示があるまで動こうとしない。貴女のチャンネルなんですが?

 

 そういうことで何かとアシスタントとして呼ばれることが多いため、解析や調整の時間が取れていないのだ。その分、お賃金を貰っているので文句はないのだが、やはりそろそろ魔術(コードキャスト)の実装に向けて準備を進めたいところである。

 

 また、ヤチヨに内緒で開発している魔術(コードキャスト)のこともあるため、できれば作業時間を増やしたいところだ。

 

「あちゃ~、調子に乗っちゃった。ごめんね、白野」

「ううん、大丈夫。でも、攻撃(スタン)を実装するのは他の魔術(コードキャスト)を実装してからにしたいんだけど」

 

 理由としては強力すぎるからだ。ダメージが小さいとはいえ、吹き飛ばし(ノックバック)行動不能(スタン)が入るため、大きな隙ができる。そこを突かれたら形勢は一気に逆転するだろう。そうなればゲームバランスが崩れ、クレーム待ったなしだ。

 

魔術(コードキャスト)は強力だから専門職にする?」

「武器は持てないのはかなり厳しいんじゃないかなぁ? 白野が特別なだけで普通、あんなことできないから」

「?」

 

 ヤチヨにジト目を向けられたが何の話をしているかわからず、首を傾げてしまう。リスナーからもたまに先読みのコツとか聞かれるのだが、特別なことはしていない。相手の行動パターンから動きを予測するだけ。もちろん、HPの残量や敵の数、感情の高ぶりなどその時の状況によって変化する部分はあるがそれも踏まえて推測すればいい。私にできるのなら他の人にもできるだろう。

 

「いや、無理! 普通はできません!」

 

 そう言ったのだが、ヤチヨは腕で×を作って叫んだ。どうやら、私のこれは普通ではないらしい。私としては特別なことをしているつもりはないのでよくわからなかった。

 

「もー、白野って自分のことになると無頓着になるよね~……ヤッチョ、ちょっと心配しちゃうなぁ」

 

 首を傾げているとどこか呆れたような顔で笑うヤチヨ。意識を取り戻してすでに一年が過ぎ、今のところは問題なく生きている。そこまで心配しなくてもいいような気がした。

 

「ノンノン! そういうことじゃないよ、白野。なんていうか……他人のことを優先しちゃって自分が大怪我しちゃう、みたいな? それで助けた人に君はこう言うの。『無事でよかった』って。血だらけで今にも死にそうなのに心底ホッとしたような笑顔で」

「……」

「君ってそういう人でしょ。昨日までは元気だったのに誰かを助けるために無茶をしていつの間にかいなくなってる。たまにいたんだよね、そういう人」

 

 いつもニコニコ笑っているヤチヨだが、今みたいに無表情で話す時がある。怒るわけでもなく、悲しむわけでもなく、悔いるわけでもなく、ただ事実を述べているだけ。きっと、何度も経験したからこそ、淡々と語れるのだろう。しかし、私にはそれがどうしようもなく、寂しく思えた。

 

「……私はそんな大層な人間じゃないよ」

「え~? ほんとかにゃあ? 白野って誰にも想像つかないようなことをやっちゃうじゃん?」

「そんなことない」

 

 そうだ、私はヤチヨの言うような人ではない。だって、自分がどんなことを望んでいたのか。何をしたかったのか。それすらもわからないのだ。ただ流されるように高校に入学して、ヤチヨにお願いされたからアシスタントになって、ダラダラと聖杯戦争のことを調べて、何の成果も得られていない。そんな何もない人間に何が成せるというのだろうか。

 

「……白野。これだけは約束して」

「何?」

「勝手にいなくならないで。自分のことを大切にして。あの未来に白野もいないと嫌だよ……」

 

 どこか縋るような目で私を見つめるヤチヨはそう言った後、優しく微笑みながら一粒の涙を零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白野が去った後、私はミーティングルームに置かれたテーブルに倒れ込んだ。あんなことを言うつもりはなかった。今日はもっと楽しくお話をして今後の配信活動の方針を決める予定だった。なにより、白野にアシスタントとしてライブに出てみないか(・・・・・・・・・・)、と提案するつもりだった。

 

 しかし、蓋を開けてみればご覧の通り。私が余計なことを言ってしまったせいで話がこじれた。結局、満足のいく話し合いはおろか、変な空気のまま、解散してしまったのである。

 

 

 

 ――可能な限り頑張るけど……ヤチヨたちが悲しむようなことがあったら私は動くと思う。こんな私に何ができるかわからないけど、絶対に助けるよ。

 

 

 

「……白野のばーか」

 

 私の懇願に白野は優しく微笑んだ。違う。そういうことではない。そうなってほしくないから言ったのだ。そう言いたかったのに私の口は僅かに動くだけで何も言葉を発してくれなかった。

 

 私はあの目を知っている。だって、これまでに何度も見てきた。もし、彼女が彼らと同じならきっと――。

 

「ヤチヨ」

 

 その時、私の目の前に白い塊が顔を出す。この八千年もの間、一緒にいてくれたウミウシの相棒、FUSHIだ。

 

「FUSHI、また白野から逃げたの?」

 

 彼は白野が苦手らしく、彼女とミーティングする時は決まって逃げてしまう。配信の時もたまに一緒に出たりするが白野に声をかけることはない。きっと、白野もそれに気づいているがこれまで特に聞いてくることはなかった。

 

「だって……」

「もー、せっかくアシスタントとして手伝ってくれてるのに……このままじゃ駄目だってわかってるんでしょ?」

「それはそうだけど……怖いんだ」

「ッ……」

 

 FUSHIが零した言葉に私は息を詰まらせる。

 

 岸波白野。一年ほど前に眠りから覚めた記憶喪失の女の子。月の聖杯戦争なる戦いに巻き込まれていたはずなのにいつの間にか地上で目を覚ましたという。

 

 口数は多い方ではなく、凛とした容姿から少し冷たい印象を受けるが一度話せば意外とノリが――いや、それなりの頻度でとんでもないことをしでかす面白い女である。

 

 しかし、重要なのは前の(かぐやだった)時、白野はいなかったこと。ヤチヨにあんな奇天烈なアシスタントはいなかったし、彩葉の友達は芦花と真実だけだった。そう、前回とは違う流れ。FUSHIは白野がいるせいであの未来に辿り着けないのでは、と恐れているのである。

 

「ヤチヨは怖くないのか?」

「……怖くないって言ったら嘘になるね」

 

 怖いに決まっている。私はこの八千年、あの未来に辿り着くことを夢に見ていた。しかし、白野はその未来にいない。彼女の存在そのものがあまりにもイレギュラーだった。

 

 もし、白野にその気がなくても未来が変わってしまうかもしれない。いや、違う。私はすでに自らの手で未来を変えてしまった。

 

 魔法の使える女の子をアシスタントにする。最初はただの思い付きだった。面白そうなことにすぐに飛びついてしまうのは八千年前から変わっていない。

 

 しかし、彼女が彩葉の近所に住んでいることが発覚した時、我に返った。ヤチヨにはアシスタントはいなかった。そうだ、私は間違えたのである。慌てて軌道修正しようとしたがすでに白野は彩葉と関わり、彼女を助けていた。

 

 

 

 ――本当はヤチヨの答えが出るまで様子を見るつもりだった。でも、あのまま放置するのは危険だと思って……勝手なことをしてごめんなさい。

 

 

 

 最初から彼女は私の意志を尊重するつもりだった。でも、苦しんでいる彩葉を見捨てられなかった。私が目指す未来が変わってしまうことを承知で手を差し伸べた。

 

 それを聞いた時、頭を金槌で殴られたような衝撃が走ったのを今でも思い出せる。未来のことばかり気にして(かぐや)と出会うまでの彩葉を見ていなかった。

 

 いや、違う。苦しんでいることを知っていたのに助けようとしなかった。もし、私が手を出して彩葉が母親と仲直りしたら地元に戻ってしまうかもしれない。そうなれば(かぐや)とは出会えなくなってしまう。そう考えるとただ見ていることしかできなかった。

 

 

 

 ――ヤチヨがいいならそれでいいけど……もし、未来がズレそうだったら教えてね?

 

 

 

 それでも白野は動いた。私の事情を知りながらも彩葉を助けた。もし、そのせいで未来がズレてしまったら責任を負うことを覚悟して。

 

 きっと、彩葉と(かぐや)が出会わない可能性が出てきた場合、白野は喜んでこの土地を離れるだろう。それがわかってしまった。だから、彼女を受け入れた。だって、仲良くなった人と離れ離れになるのはもう嫌だったから。

 

「でも、それ以上に白野がいなくなるのが怖い」

 

 未来はまだわからない。彩葉は前回と同じ学校に通い、芦花と真実とも仲良くなった。むしろ、白野のおかげで前より遥かに健康的な生活を送っている。喜ばしいことだ。そう、未来は確実にいい方向へ進んでいる。

 

 そうだ、未来は変えられる。白野の存在によって良くない方向に進んだとしても私が修正すればいい。

 

 しかし、白野はどうだ? あの子は普通とは違う。きっと、何か起きた時、彼女は取り返しのつかないことをする。具体的にどんなことが起こるのかわからないが、嫌な予感がするのだ。

 

「ねぇ、FUSHI覚えてる?」

「何をだ?」

「白野みたいな目をしてる人たちのこと」

「……」

 

 私の問いにFUSHIは答えなかった。やっぱり、白野がいるから未来が変わるのが怖いのは嘘だ。FUSHIも薄々気づいている。白野の異常性を察してこれ以上、仲良くならないために近寄らないのだ。

 

 

 

「ああいう目をしてる人って教科書に載りやすいんだよね」

 

 

 

 自分の命を顧みず、多くの人を救い、救われた人が敬う。だから、後世に伝わり、教科書に載る。救うために自らの命を散らせた人の身近にいた人たちがどれほど悲しんだのか、語ろうともせず。

 

 

 

 

 

 

 

 人はそういう人たちを決まって英雄(・・)と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと……何も起こらないでほしいな」

 

 白野は普通の女の子だ。記憶喪失で、両親が亡くなって、頼れる親戚もいなくて、魔法が使えて、未来予知のように人の動きが読めて、不思議と人の心に踏み込むのが上手くて、もうなくてはならない私の大切な友達(アシスタント)

 

 きっと、大丈夫。この時代は平和だ。昔のようにはならない。白野もあの未来に行ける。英雄を必要とする事件など起こるはずがない。

 

 そう言い聞かせるように私は今にも泣きそうになっているFUSHIの背中を優しく撫でた。








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