月の王とかぐや姫   作:名無しのマスター

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第28話 Decision

 それから子育て期間の間、手早く食事を済ませられるように、と買っておいた冷凍のオムライスをレンチン。ついでに私たちもお腹が空いていたので私はレトルトカレーとレンチンご飯。彩葉はバイト先の賄い――タコライスを用意した。

 

「お~……お?」

「いただきます」

 

 少女は目の前に置かれたオムライスに目を輝かせるがすぐに首を傾げる。そして、賄い飯を食べ始めた彩葉を見て左手でスプーンを持ち、オムライスを一口。

 

「っ~~~~~~! うまうまっ!」

 

 すると、その美味しさに感激した様子で勢いよく食べ始めた。とりあえず、ミルク以外も与えてよさそうなので私もカレーを食べる。うん、美味しい。

 

「これなに!」

「オムライス、かな」

「オムライス!! このとろとろの黄色いのとか、赤いやつとか、もきゅもきゅしてる茶色いやつは!?」

「鶏の卵、ケチャップ、鶏肉かな」

「うっは~! オムライスすげぇ!!」

 

 少女の質問に淡々と答える彩葉。どうやら、この子は知的好奇心が旺盛というか。気になるもの全てが輝いて見えるタイプだ。いずれヤチヨになるのでおしとやかな子なのかと思っていたが現状だとあまり似ていない。

 

「ねぇ、あなたはどこから来たの?」

 

 そんなことを考えていると彩葉が少女に質問する。赤ん坊の頃から気になっていたが、話せるようになった今、確認するのは当たり前か。

 

「ん? ん~? んっ」

 

 問われた少女は首を傾げ、数秒ほど考え込み、後ろを振り返って窓から見える月を指さした。やはり、この子こそ『かぐや』。月から落ちてきた電子の歌姫になる子だ。

 

「で、宇宙人は何しに来たの? 侵略」

「うーん、なんかあんまりよく覚えてない」

「覚えてないって……まさか」

「記憶喪失は一人で十分だって……」

 

 少女は自分のことなのにまるで他人事のように肩を竦める。それを見て目を見開く私。そして、私と少女を交互に見た彩葉は項垂れた。まさかこの子も記憶喪失だとは思わなかった。いつもご迷惑をおかけしております。

 

「とにかく毎日超つまんなくてー、楽しいところに逃げたーい、って思った気がする」

「逃げんな。取り返すの大変なんだからね」

「え~、でも、つまんないのやだー!」

「やだじゃない! 白野もさっきから黙ってないで何か言ってよ!」

 

 おっと、こっちに飛び火してきた。本来の未来では私はここにいなかったため、可能な限り、会話に入りたくなかったのだが、仕方ない。

 

「お名前なんていうの?」

「そういうことじゃなーい!」

「なまえ?」

「そう、私は岸波白野。あなたは?」

「んー? ない!」

 

 私の質問が気に食わなかったのか、彩葉が叫ぶが無視。いつまでも少女と呼ぶのは可哀そうだし、『かぐや』という名前を聞き出せば彩葉も自然とそう呼ぶ。そう思っての質問だったのだが、予想外にも彼女に固有名詞は付いていなかった。

 

(もしかして……『かぐや』って名前は彩葉が?)

 

「名前がない? 忘れてるとか?」

「そもそも付けられてない? 月では呼ばれたことなかった、ような?」

「ほんと曖昧……白野、どうする?」

「名前つけてあげれば?」

「え、私?」

 

 仮に彩葉がこの子の名前を付けたのだとしたら可能な限り、そうしてあげたい。どうして、ヤチヨが『かぐや』という名前を使わなくなったのか、その理由はわからない。だが、一度だけ自分のことを『かぐや』と言ったことがあった。きっと、彼女にとってその名前はとても大切なもの。誰かが言った、名前は人生で最初のプレゼント。ヤチヨは今もそれを大切にしているのだ。

 

「えー、うーん……保留で」

 

 おい、今、付けてあげろよ、可哀そうだろ。そう思いながら少女はどんな反応をしているか様子をうかがう。しかし、少女もオムライスを食べ終え、彩葉のタコライスを涎を垂らしながらロックオンしていた。花より団子改め、名前より団子。

 

「彩葉~、それちょうだーい?」

「え、嫌だけど……って、なんで私の名前」

「お腹すいた~。白野のは?」

「カレーだけど、多分辛いよ?」

 

 久しぶりに激辛麻婆豆腐を食べてから妙に辛い物が食べたくなる。このレトルトカレーも巷で激辛と噂されているものだ。

 

「からい? えい!」

「あ、ちょっと」

 

 しかし、私の言葉は彼女の好奇心を刺激してしまったようで強引にカレーにスプーンを突っ込み、大きな口を開けて食べてしまった。そのまま笑顔でもきゅもきゅと咀嚼していたが次第にその動きが遅くなり、我慢の限界が来たようで大きく目を見開く。

 

「い、いったーい!! このオムライス痛い!」

「カレーだってば。それが辛いっていうの」

 

 ぎゃあぎゃあ喚く少女を放置して彩葉はタブレットを操作し始めた。その間に冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注いで少女に渡してあげる。牛乳では辛さは誤魔化せないらしいがないよりはマシだろう。

 

「ぷはぁ……これおいしっ! これは何?」

「牛乳だよ」

「ぎゅーにゅー! おかわり!」

「お漏らししちゃうから少しだけね」

「やった、ありがと白野!」

 

 コップに牛乳を注いであげると少女は満面の笑みを浮かべ、ごくごくと飲み干す。そして、コップをテーブルに置いた瞬間、素早く彩葉のタコライスを奪った。

 

「あ、こら!」

「カレーは辛いからやだ! こっち食べる!」

「せっかく取ってあったのに……」

「うっま~! どーすればもっと食べれるの!?」

「え、買うか……自分で料理して作ればいいと思うけど……」

 

 奪われたタコライスがどんどん少女の口へ消えていくのを見て肩を落とす彩葉。しかし、突然、少女から質問され、驚いたように答えた後、何故か私の方を見た。何かを求めるような視線。もしかして――。

 

「――食べる?」

「食べるか!! そもそも夜中に激辛カレーを食べんな!」

 

 カレーの皿を差し出したが大きな声で拒否されてしまう。美味しいのに。落ち込みながらカレーを一口。うん、美味しい……。

 

「って、違う違う。ねぇ、これに心当たりとかある?」

「んー?」

 

 タコライスを食べている少女へ彩葉がタブレットを見せる。そこには日本最古の物語、『竹取物語』の絵本が表示されていた。

 

「これなに~?」

「竹取物語。月から来たお姫様が竹の中から生まれて、おじいさんに拾われて地上で暮らすって話……あなた、かぐや姫なの?」

「たけ~? ひめ~?」

「まぁ、あんたは電柱だったけど……どう?」

「ん~……やっぱ、これ美味しい!」

 

 彩葉の質問に少女は首を傾げ、何故か再びタコライスの感想を叫んだ。その反応に彩葉は頭を抱えてしまう。

 

「駄目、話が通じない……」

「おー、すごーい、横にスライドするー」

「いや、話戻すんかい」

 

 タコライスに感激していたと思ったら次はタブレットを操作してケラケラと笑い始める。好奇心旺盛すぎて興味があちこちに向かうのだろう。

 

「この後どうなるの?」

「地上で暮らしてたかぐや姫は色々な人に結婚を申し込まれて、色々難題を押し付けて断って……その後、月からお迎えが来て、翁たちが必死に抵抗するんだけど駄目で、羽衣を着せられたかぐや姫は地上のことを忘れてそのまま月に帰るんだったっけ?」

 

 記憶を失っているせいか『竹取物語』の詳細が曖昧だ。試しにタブレットを操作して内容を流し読みしたがだいたい合っているようで少し安心する。しかし、『竹取物語』の結末を聞いた少女はキョトンと首を傾げた。

 

「……え? 続きは?」

「ない、終わり。めでたしめでたし」

「え、月に帰って終わり? なにそれ、何がめでたいの? 超バッドエンド! かぐや姫、絶対不幸じゃん! しかもなんかいい話風になってるのが余計許せない!」

「これはそういう話なの」

 

 少女の疑問を彩葉がバッサリと切り捨て、空になったお皿を流しへ運んだ。しかし、それでは納得できなかったようで少女はその場で寝転がり、ジタバタし始める。

 

「バッドエンドやぁーだぁー! ハッピーなのがいーいー! らららー、ノーサンキューバッドエンド~♪」

 

 暴れながら歌い始めた。その旋律は不思議と悲しい気持ちになるものであり、即興にしてはよくできていた。子煩悩(親バカ)というわけではないがこの子、歌の才能があるかもしれない。

 

「どうしようもないんだよ。暴れたって、歌ったって、決まってることが変わるわけじゃない」

 

 

 

 ――せやけど……私は一人で生きていかなあかん。お母さんはできたから私にもできるんやって。

 

 

 

 流しでお皿を水に浸けた後、彼女はこちらを振り返る。その目はどこか真剣であり、去年、母親のことを話した彼女がフラッシュバックした。

 

(そっか、彩葉、まだ……)

 

「この世にはどうしようもないことがたくさんあって人はそれを受け入れて生活してるの。だからどんなに理不尽なことでも……受け入れて、覚悟して、前に進むしかない」

「……」

 

 驚いたように少女も彩葉の方を見て茫然としていた。それが数秒ほど続き、スイッチを点けたようにその瞳に光が瞬く。

 

「よし、決めた!」

 

 そして、勢いよく立ち上がり、私と彩葉の方を見てとびきりの笑顔を浮かべた。そのあまりの輝きに私は思わず視界がくらりとする。

 

「自分でハッピーエンドにする!」

「ッ……」

 

 私は少女の宣言を聞いて顔を歪めた。

 

 ああ、なんだ。そういうことか。それは、なんという――酷い話だ。

 

「はぁ?」

「そんでハッピーエンドまで彩葉も白野も連れてく、一緒に!」

「……はぁ、ハッピーエンドいらない。フツーのエンドで結構です」

「うそうそうそ! そんなわけないでしょ!」

 

 少女の言葉に彩葉は眉をひそめ、ため息を吐いた後、歯を磨き始めた。そんな彼女に少女は焦ったようにすり寄ってまた駄々をこねる。

 

「……」

 

 そんな二人の姿を見て私は気づかれないように浅く呼吸を繰り返した。あれだけ美味しく感じたカレーも今は喉を通りそうにない。

 

「ごめん、今日は向こうで寝るね。おやすみ」

「え? うん、おやすみ」

「白野、どこ行くのー!?」

「白野は二つ隣の部屋に住んでんの! あんたを育てるためにここに泊まってくれてたんだからね!」

 

 二人の顔を見ずに部屋を出る。そのまま半分ほど残ったカレーの皿を持って自宅へ。そして、カレーにラップをかけて冷蔵庫に押し込み、そのままその場で崩れ落ちる。

 

「それは、ないよ……」

 

 『かぐや』は月に帰る。そして、彩葉の歌を聞いて地球に帰ってきた。しかし、その途中で事故に遭い、八千年前の地球に不時着。それから2030年の7月を目指してたった独りで歩み続け――やがて、彼女は『月見ヤチヨ』となり、彩葉とかぐやの物語を眺める。

 

 それがヤチヨから聞いたこの物語の結末。ハッピーエンドどころではない。あんまりなバッドエンド。あれだけ幸せな結末を望んでいた彼女が陥るのは絶望的な結果。それは、あまりに慈悲がなかった。あまりに救いがなかった。

 

「……」

 

 だが、それはあくまで前の話。『岸波白野』がいなかった物語。まだこの物語の結末は決まったわけじゃない。まだ――(イレギュラー)がいる。

 

 再び、体に力が入り、立ち上がって振り返った。そこにはいつもと変わらない『岸波白野』が立っている。普通の女子高生。ちょっと魔術が使えるだけの普通の女の子。

 

 だが、やるんだ。こんなちっぽけな私がやらなければならない。覚悟は決まった。この身を挺してでも彩葉とかぐやとヤチヨをハッピーエンドに連れて行く。もう、彼女たちの泣き顔は見たくないから。




感想でも言いましたが匿名に関しては一応、日間一位になるか、この作品が完結するか、fate/EXTRAを配信で実況プレイできるようになった場合、外そうかと思います。
一応、匿名にした理由としては前話でも言ったようにfate/EXTRAシリーズの中でプレイしていないゲームがあるので少し罪悪感があったこと。
また、別の超かぐや姫の小説を投稿しておりましたがそちらの更新を止めてこちらの作品を投稿するのは少しよろしくないかと思ってのことです。
前者はすでに謝罪したので残りは後者なのですが最早理由はないレベル。でも、ここまで来たら特段、理由もなく外すのもなぁ、ということで区切りを設けました。
作者のことはどうでもいいとは思いますが、ご了承ください。
それではこれからも『月の王とかぐや姫』をよろしくお願いいたします。
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