月の王とかぐや姫 作:名無しのマスター
――奏者よ、話がある。
――マスター、最近の君の行動に関して少し物申したいのだが。
――ご主人様? 少々、お話がございます。
――夢を見て、いる?
三者三様の声に私は戸惑ってしまう。薔薇の皇帝が、無銘の弓兵が、自称良妻賢母狐がずいっと私の方へ顔を近づけてきたからだ。
――最近の奏者はまさに人たらし待ったなし。余のことは忘れてしまったのか?
――あまりいい顔をするものじゃない。勘違いした人たちが君を手に入れようと迫ってくるからな。
――浮気はいけません。いくらご主人様がイケ魂であったとしてさすがに見境がなさすぎると言いますか?
それは申し訳ない。しかし、目の前で困っている人がいたら勝手に体が動いてしまう。こればっかりは私の性分なのだ。赦して欲しい。
――やはり、阿呆だな、貴様は。
更に声の主が追加された。目がチカチカする黄金を着た王様が腕を組んで私を見下ろしていた。
――困っているのなら誰でも救うのか? そんなわけなかろう。貴様とて選んでいるはずだ。
選んでいるつもりはない。私は私にできることをしているだけ。
――たわけ。選んでいないのは自分だと何故、気づかん? 自己犠牲は行き過ぎればただの自殺行為。それすらもわからなくなったか、
選んでいないのは自分。いや、捨てていたのは『自分』だと言いたいらしい。そうだろうか。私にそんな自覚はない。自覚がない。きっと、それが悪いことなのだろう。
――そこまでわかっていても助けちゃう。それが先輩ですもんね。
後ろから声をかけられ、振り返る。そこにいるはずの誰か。しかし、その姿は見えない。まるで、最初からいなかったように。
――先輩の良いところでもありますが、悪いところでもあります。それはわかってます?
わかっているつもりだ。わかっているのだが――どうしても止められない。何かに突き動かされるように手を差し伸べてしまう。
――質問を変えましょう。それで悲しむ人はいますか?
「……」
いる。そう、いるのか。記憶を失くし、自分がここにいる理由すらわからなくなった空っぽの人間にも、そう思ってくれる人が、いてくれる。それだけは、知っている。知っていなければならない。
――きっと、白野は知らないと思うけど、私はあなたに助けられたの。一生かけても返せない恩。だから、少しでも返させて。そのために、私はここに来たんだから。
いつしか聞いた誰かの声がする。その人を思い出そうとすると思考にノイズが走り、上手く思い出せない。いや、違う。今は思い出すべきではないと私自身が邪魔しているような感覚。
「さぁ、ここからが本番だよ、
その声に顔を上げると――真っ白なワンピースのような礼服を着た私が堂々とした様子で笑っていた。
「はぁ……」
ヤチヨ、好き。もう、好き。大好き。
ヤチヨのミニライブを見た私はすっかりやられ、思考がヤチヨに埋め尽くされていた。きっと、漫画なら目にハートが浮かんでいることだろう。
「彩葉! ねぇ、彩葉ってば!」
そんな余韻を邪魔するように肩を揺すられ、振り返ると驚いた様子で私を見ているかぐやがいた。どうやら、トリップしている間に何度も呼んでいたらしい。
「なんで泣いてるの?」
「え?」
続けて問いかけられ、私のアバターが涙を流していることに気づく。ツクヨミは『ふじゅ~』支給システムの都合上、ユーザーの感情を検知する。そのため、感動したり、悲しくなったりするとアバターもその感情を基に反応を示すのだ。
「イエーイ、感謝感激雨アラモード! ヤチヨは果報者なのです。あ、ここでお知らせ!」
指で涙を拭っていると大きな鳥居の上に立つヤチヨが笑顔で手を振り、お知らせがあると告げた。果たして、次の配信の告知か。ライブの開催日の通知か。AIザビ子チュートリアルに実装に関する情報か。いや、正直、どれでも嬉しい。
「じゃじゃーん! なんとヤチヨカップっていうイベントを開催しまーす! FUSHI、詳細よろしくぅ!」
「はーい! 参加資格があるのはツクヨミの全ライバー! 一か月の期間の中だけで最も多く新規ファンを獲得した人が優勝だよ。優勝者にはなんとヤチヨとのコラボライブの権利を進呈! 世界一盛り上がるコラボライブステージを一緒に作れるよ!」
は? ヤチヨカップ? ヤチヨとのコラボライブ? ヤチヨ? ヤチヨー!!!
FUSHIから告げられたヤチヨカップの詳細を聞き、私は言葉を失ってしまう。周囲にいる人たちもざわざわと騒ぎ始め、一気にお祭りモードが広がっていく。
「コラボライブ? 何それ、すごいの?」
「当たり前じゃん!」
しかし、そんなお祭りに乗り切れていないかぐや姫が一人。キョトンとした様子で問いかけてきた彼女に詰め寄り、大きな声を出してしまう。
「ヤチヨはね、これまで配信のコラボはあったけどライブはいつも一人で歌ってたんだよ!? うっわぁ、誰とやるんだろ? いや、誰とでも歴史的なライブになるのは確定! 今のうちにチケット代を稼いでおかなければ!」
「へー、じゃあ、彩葉、一緒にやろ」
「はぁ!? できるわけないでしょ! こういうのは最初から決まってるもんなの!」
そもそも私もかぐやもライバーではない。最初から参加資格がないのだ。それに今からライバーになったとしても一か月で新規ファンを稼いだ人が勝つ。無名のライバーが一か月で稼げる新規ファンは限られている。
(でも……)
興奮する自分とは別に少しだけもやもやしている自分もいた。てっきり、ヤチヨと最初にコラボライブをするのはアシスタントであるザビ子だと思っていたからだ。
「これ、もしかしてザビ子のチャンネル開設される感じ?」
「え? マジ!? そうなったら速攻で登録しに行くのに!」
「配信ですっごく仲いいからライブやって欲しいよねー。その時、犬の着ぐるみを脱いでくれるとなお良し!」
周囲にいるファンたちも私と同じことを思っていたのか、ザビ子の話をする人が多かった。うん、やっぱり、私もヤチヨと最初にコラボライブをするのはザビ子であってほしい。上手く言えないが彼女たちはお互いを信頼している。そんな二人が行う息の合ったライブはこれまでにないほど感動するはずだ。
そんな思考を遮るようにバーン、というド派手な爆音と共に牛車――ではなく、虎が屋形を引く虎車が登場する。うげ、と声をもらしてしまい、慌ててかぐやの後ろに隠れた。
「お? おお? 彩葉、どうしたん?」
「しっ!」
おそらくバレることはないが念のため、奴には見られたくない。そんな気持ちでそっとかぐやの陰から顔を出すと丁度、屋形が割れた。
「よう、子ウサギども。お前らの帝様が来たぜ」
そんな声と共に虎車から降りたのは『Black onyX』リーダーの『帝アキラ』。そして、その両隣にローブのような服を着たアバターと地雷系少女っぽいファッションのアバターが現れる。残りのメンバーである雷と乃依だ。
「また、祭りが始まるな」
「俺って今日も作画良すぎ♡ でしょ♡」
そんな特徴的な言葉を呟く二人を見て帝はパチリ、と指を鳴らす。すると会場のモニターがジャックされ、輝かしい経歴をまとめたPVが流れる。ユニットのロゴ、スポンサー企業、数々のeスポーツ大会の優勝記録、ライブ映像。今、世間を賑わせているアイドルとしても活躍するプロゲーマーチームだ。
「俺たちに優勝してほしいよな? 底なしの夢を見せてやる……と、言いたいところだが、ヤチヨちゃん!」
「んー? 何ー?」
普段の彼なら俺たちが優勝すると断言していただろう。しかし、今回ばかりは少し難しい顔をしてヤチヨを呼んだ。呼ばれた彼女はふわふわと宙を浮き、帝の傍に近寄ってきた。
「このままヤチヨカップが開催されたら俺たちが優勝する。もちろん、全力で新規ファンを手に入れるため、活動する予定だ」
「うんうん、日々努力するその姿勢、ヤッチョ的にも
「でもな、このまま俺たちが優勝してもユーザーたちは納得しねぇ……ザビ子を出せ」
「……へ?」
帝の言葉は彼女にとっても予想外だったのだろう。いつも笑っているヤチヨがコチリ、と硬直した。
「ザビ子が参加していれば優勝していたのは彼女だった。そう言われるに決まってる……そんなの俺たちのプライドが許さない。だから、ザビ子のチャンネルを開設してヤチヨカップに参加させてほしい。そして、完膚なきまでに叩きのめす! 一年前の屈辱、ここで晴らすぜ!!」
『おおおおおおっと! まさかここで帝アキラがヤチヨのアシスタント・ザビ子に宣戦布告だー!』
ヤチヨに指さして宣言する帝と場を盛り上げるために忠犬オタ公の絶叫がツクヨミ中に響き渡る。これは、もしかしてもしかする? 帝の言うとおり、ザビ子がチャンネルを開設すれば新規ファンが一気に彼女のチャンネルに押し寄せる。そして、ヤチヨとザビ子の夢のコラボライブが――。
「――駄目ッ!!」
しかし、そんな思考を遮るようにヤチヨが悲鳴のような声で拒否した。まさか考える時間もなく、断られるとは思わなかったようで帝が大きく目を見開く。もちろん、それを聞いていた私たち一般ユーザーたちも今までに見たことのない彼女の姿に驚いてしまった。
(ヤチヨ?)
宙に浮いて胸を抑えている彼女は今にも倒れてしまいそうなほど顔を青ざめさせている。一体、ヤチヨの身に何が起こっているのか。彼女は今、何に怯えているのか。ただのファンである私にはわからなかった。
今後、掲示板回を入れる予定ですがそのボリュームがすごいことになりそうで
何話にも続けて投稿することになりそうです。
しかし、掲示板回の需要がどれほどあるかわからず、
アンケート設置したのでご協力よろしくお願いします。
よろしければ感想、高評価よろしくお願いいたします。
掲示板回のボリュームどれくらいがいい?
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思う存分やってくれ(少なくとも2話以上)
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1話でいいかな
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なくていい