月の王とかぐや姫 作:名無しのマスター
「よーし、それじゃあ、ツクヨミに行くぞー! うわっ、壁ドンだ! このやろっ!」
夜、彩葉の部屋でやけにテンションの高いかぐやがスマコンのケースを鷲掴みにして声高らかに叫んだ。そして、間髪入れずに隣の住人から壁ドンされて対抗するようにリズミカルに壁ドンを返した。
「ほら、迷惑になるよ」
「ちっ、後で覚えておけよ……そんなことより! 白野、スマコンは持ってきた!?」
「うん、ここにあるよ」
私はポケットに入れていたスマコンを取り出して彼女に見せる。それで満足したのか、かぐやは腕を組んでうんうんと頷いた後、彩葉の畳んである布団にドスンと腰掛けた。
「ほら、白野も座って座って」
「そこでいいの?」
「昨日もこれだったからいいの!」
普通に椅子の方が楽だと思うがかぐやは特に気にしていないらしい。因みに彩葉はバイトだ。今日は遅くなると言っていたのでツクヨミにログインするのはかぐやと私だけ。仕方なく、彼女の隣に腰掛けてスマコンを目に装着した。
「おー、手慣れてるねー」
「バイトで使ってたからね。じゃあ、正門前で集合で」
「りょ~かい!」
かぐやもささっとスマコンを目に付けて起動する。そのまま、ほぼ同時にツクヨミへログインした。
「……」
ログイン後、私はいつもの控室に降り立つ。そして、自分の格好を確かめた。問題なし。そして、ワープ装置を使って正門前へ移動する。
「よーしよしよし!」
正門前に着くとそこには可愛らしい犬を撫でまわしているギャルい金髪かぐや姫がいた。あれがかぐやか。でも、あの犬はなんだろう。
「かぐや」
「ん? おおー!! もしかして、白野!? うわぁ、何その格好! ちょーかっけぇ!!」
「そう?」
私を視認したかぐやは犬を抱きかかえてずいっと近づいてくる。私はミリタリーチックの衣装に目元を隠すような大きなバイザーを付けていた。ヤチヨが一日で作ってくれました。また、動きやすいように髪を一本に束ねている。
「へぇ、ほー? あんまり現実の方と変わらないんだね!」
「っ……あんまりキャラクリに興味なくて」
「そっかそっか! でも、めっちゃ似合うよ! その目に付けてるのかぐやもほしー!」
「かぐやは目が綺麗だからそのままの方がいいよ」
「お、おう……じゃあ、そうする!」
残念ながらこのバイザーはヤチヨのお手製。私しか持っていないレアアイテムだ。かぐやに渡すわけにはいかない。そう思って本心を伝えたのだが、何故かかぐやは一瞬だけ目を見開いた後、嬉しそうに頷いた。
「ところで、その犬は?」
「あ、これは『犬DOGE』! 携帯ゲームから連れて来れるみたいなの! 昨日、ログインしたらいた!」
「わんっ!」
かぐやが見えやすいように抱きかかえてくれた『犬DOGE』をこちらへ突き出す。それと同時に一吠えした『犬DOGE』。おー、私の着ぐるみとは違い、とても可愛らしい。思わず、頭を撫でてしまうほどには。
「可愛いね」
「でっしょ~! これならザビ子にも負けてない!」
「それはそう」
あれはどちらかといえばきも可愛い系だから。そして、何かとザビ子をライバル視するのは止めて欲しい。バレていないとはいえ心臓に悪いのだ。
「とりあえず、フレンド交換しよっか」
「オッケー! ニシシ、かぐやが白野の友達一番乗りぃ~」
「あー……」
「え? もしかして、すでにフレンドいるの?」
残念、私の最初のフレンドはヤチヨだ。それが頭に過ったせいで微妙な反応をしてしまい、目ざとくかぐやに見つかってしまう。
「まぁ、ね……」
「え、ええ? だって、アカウント作って少しログインしただけって言ってたよね? まさかその短時間で見知らぬ誰かと友達に?」
「えっと……流れで?」
「流れで友達ができたら対戦相手が必要なゲームで対戦相手を探す必要ないんだよ! どれだけのオタクたちがそれで苦しんでると思ってるの!?」
「また余計な知識付けてる」
多分、ライバーになる方法を探している間も色々と情報を集めていたのだろう。そのうち、ネットミームで会話しそう。
「ちぇ、せっかくかぐやが一番乗りだと思ってたのにぃ」
「まぁまぁ、ほら、時間もないしツクヨミを見て回ろうよ」
彩葉が帰ってきたら寝る時間だ。そのため、今回の散策はタイムリミットがある。それを思い出したのかかぐやもハッとして慌てて『犬DOGE』を地面に降ろした。
「そうだった! じゃあ、早速、ツクヨミ探検だー!」
「おー……って、どこに行くか決めてるの?」
「決めてない!」
今日の予定を聞いたが胸を張って答えるかぐや。そうだろうと思っていたのでさほどリアクションもせず、私は一つの
――【view_map();】
「およ? 白野、それなに?」
地図を表示する
「
「ッ! こーどきゃすと! なんで白野……じゃなくて、はくのんが使えんの!?」
「ログインした時に誰でも一つもらえるよ。お知らせにない?」
「えー、お知らせ多すぎてあんま見てないんだよなー。これか? いや、これ?」
かぐやはツクヨミにログインしたばかり。お知らせの数も相当なものだろう。彼女に断りを入れてお知らせを見せてもらい、
「これが
「あ、ほんとだ! えっと、貰えるのは速度強化、筋力強化、耐久強化、回復、マップかぁ。はくのんはマップにしたの?」
「うん、速度強化とマップはバトルフィールド以外でも使えるし、ツクヨミ案内には必要かなって」
「彩葉は速度強化だった! この中で一つしかもらえないの?」
「最初に選んだもの以外もクエストをクリアすれば報酬としてもらえるみたい。彩葉も多分、いくつかの
なんだかんだで彩葉は『KASSEN』好きだ。そんなゲーマーな彼女が
「へー、どれにしよっかなー。これ!」
「早いな……筋力強化?」
「そう! ヤチヨのライブ見た後、黒鬼のMVに戦うやつあったから!」
「ああ、なるほど」
それで筋力強化。押せ押せなかぐやにピッタリだ。武器にもよるがやはり火力は大事である。ガードの上から削ることもできるし、砲撃のような高火力の遠距離攻撃も相殺可能だ。
「これで敵をボッコボコにする!」
「それは今度ね。今はツクヨミを見て回るんでしょ」
「あ、そうだった。じゃあ、はくのん、案内よろしく!」
先ほどまで自分で案内すると言っていたのに私に任せるらしい。今は『KASSEN』のことで頭がいっぱいのようだ。
「じゃあ、有名なところから行くよ」
「はーい!」
それから私たちはツクヨミ観光を始める。私もこうやってゆっくりツクヨミを見て回るのは初めてかもしれない。ツクヨミは不思議な場所だ。夜なのに昼間のように明るく、たくさんの人で賑わっている。それでいて電脳空間では当たり前のように存在するNPCが少ない。つまり、ここにいる人たちはちゃんと中身のある人間。月の聖杯戦争とは大違いだ。
「うっはー! やっぱ、ツクヨミおもしろー!」
かぐやはそんなツクヨミを楽しそうに見て回っていた。全てに興味を持ち、私に矢継ぎ早に質問してくる。一応、ツクヨミ初心者としてログインしているのだが、あんな目をキラキラさせて聞いてくる彼女を放っておけず、知っていることを答えてしまう。
「へぇ、白野って物知りだね!」
「少し調べたから。マップに詳細も出るし」
「へー、マップ便利だなー。次はマップの
しれっと嘘を吐くがかぐやは気にした様子もなく、素直に受け取ってウィンドウを操作し始める。どうやら、
「お、あったあった。『ツクヨミ内の指定されたポイントに訪れる』だって! なんかその隣に6/8って書いてる!」
「……」
お使いクエストかな? それも私たちは知らず知らずのうちにクエストを進めていたらしい。残り僅かだ、今日中に終わらせてしまおう。
「よーし!
「うん、それとはくのんね」
それからほどなくして私たちは指定されたポイントを踏み、無事にかぐやはマップの