月の王とかぐや姫 作:名無しのマスター
「立ち絵はツクヨミのアバターをコンバートすればできるって」
「ほー」
夏休み初日、今日からかぐやも本格的にライバー活動を始めるらしく、昨日の
因みに彩葉はバイトである。いつもお疲れ様です。
「いいねいいね! なんか始まるって感じ!」
「昨日、デビュー配信はしたでしょ?」
「あれはかぐや一人だけだったから! でも、今日からは白野も彩葉も手伝ってくれるんだよね? なら、やっぱり、今から始まるんだよ!」
「……そっか。それなら頑張らないとね」
「うん!」
現在、かぐやの順位は八千位ぐらい。残り一か月でこの順位を一位にしなければならない。かぐやのためにも、彩葉のためにも――そして、ヤチヨのためにも。
「最初はどんなことするの?」
「動画! 動画めっちゃ撮りたい!」
「なら、カメラが必要じゃない? スマホだけじゃ限界だし」
それに三脚、動画編集ソフト、小道具。何かと入用だ。もちろん、かぐやにそんなお金はなく、私が立て替えるしかないだろう。
「あ、そうだ。スマホ」
「スマホ?」
「かぐやのスマホは必要だよね。私が契約してかぐやに渡せばいいかな」
私の年齢は二十歳。特に興味がないため、手は出していないがお酒やタバコも大丈夫な年齢になった。
「おー、とうとうかぐやも文明の利器を手に入れる時が来たかー。今から買い物に行かない? かぐや、何が必要かいまいちわかってなくてさー」
「うん、いいよ」
特に用事はないので頷く。それから私たちはスマホの契約や配信機材を買いに出かけた。
「おー!」
買い物が終わり、家に帰っている途中、かぐやは目を輝かせてつい先ほど手に入れたスマホを操作していた。歩きスマホは危ないのだが、今の彼女に何を言っても無駄だろう。
「これがこうなって……ふんふん」
「いい感じ?」
「めっちゃいい感じー! 白野、ありがとう!」
「ううん、気にしないで」
私の名義なので使用料は私が払うことになっている。こちらとしてはそれでもいいのだが、彩葉に知られたら怒られそうなのでライバーとしてお金を稼げるようになったら返してもらう予定だ。その点はかぐやも了承済みである。
「カメラも買ったし、小道具も買ったし……じゃあ、次は動画撮影だね!」
「そうだね。でも、どんな動画を撮るの?」
「色々考えてるよ! 踊ってみたりー、歌ってみたりー、ゲームしたりー、大食いしたりー」
「……」
大食いとは? しかし、歌ってみた、踊ってみた動画は練習が必要であり、ゲームもプレイするものによっては追加の機材が必要だ。大食いも今すぐ料理を用意しても――。
「――料理動画は? かぐや、料理好きだし」
「ッ!? 料理! それだぁ!」
こうして、かぐやの初動画は料理動画となった。
「かぐやっほー! 月から来た、かぐやだよ! 今日は料理作りまーす! しかも~、今回はアシスタントとしてはくのんも手伝ってくれるよー!」
「はくのんでーす。お願いしまーす」
動画撮影が始まった。今回は私も手伝うのだが、基本的にはカメラ役に徹して声だけの参加である。名前は安直に『はくのん』。ツクヨミと同じものにした。
「では、シェフ。今日のメニューは?」
「シェフ!? ふふーん、今日はねー! こちらの材料を使います! はくのん、これだけでメニューわかる?」
黒いTシャツを着たかぐやシェフは目を輝かせて台所に置いた食材たちを紹介する。なお、少し流れを確認しただけで台本はない。基本的にアドリブだ。今のかぐやの質問も全く予定になかったものである。
(主な食材はパスタとアボカド、エビね)
「なるほど、チャーハンですね」
「ご飯どこにもないが!? 違うよ~、今日はアボカドとエビのパスタだよ!」
「くっ、惜しい」
「惜しくないけど? よーし、じゃあ、さっそく料理開始ー!」
それからかぐやは解説しながら料理を始めた。言動は大げさだが、きちんと豆知識や動作のコツなども交えているため、非常にわかりやすい。
「ここでパスタをどーん! あー、小麦のいい香りー!」
なにより、とても楽しそうだった。カメラ越しでもうきうきしていることが伝わってきて見ているこちらまで楽しくなる。これはいい動画になりそうだ。
「はい、白野! あーん!」
「……あーん」
そう思っていた矢先、普通に私の名前を口にしたため、減点。予想していたおかげで特に動揺することなく、かぐやから差し出されたフォークを口で受け入れる。
「うん、美味しい」
「やったー! はい、これでアボカドとエビのパスタ完成でーす! じゃあ、次は付け合わせの――」
もちろん、メインだけでは終わらないのが料理に妙なこだわりを持つかぐやである。それからサラダ、スープと手際よく作って無事に全ての作業が終了した。
「よーし、これで全部完成! じゃあ、温かいうちに……って、言いたいところなんだけど彩葉が帰ってくるまで待ってよーっと!」
「あ」
私はともかく彩葉の名前はマズイ。ここだけ音声を切って効果音で誤魔化すか。いや、でも、どうせすぐに口を滑らせるからこのままでもいい気がする。
「ただいまー」
「彩葉、おかえりー!」
それから数時間後、彩葉がバイトから帰ってきた。もちろん、このシーンも使うかもしれないのでカメラを回している。なお、彩葉を映さないようにレンズはキャップで塞いでいる状態だ。
「おかえり」
「うん、ただいま……って、カメラ?」
「動画撮ってる」
「はぁ!? あ、いや、キャップしてるから映らないか……って、かぐや、あんた私の名前、言ったでしょ!」
「えー? そうだっけ? そんなことより、ほらご飯できてるよ! 早く食べよ!」
そう言ってかぐやは早速、夕食の準備を始めてしまった。そんな彼女の背中を見てため息を吐いた後、私の方へ近づいてくる。
「ねぇ、本当に動画撮ってるの?」
「うん、料理動画。やっぱり、食べるところも撮らないとね。因みに私ははくのんです」
「……じゃあ、私は『iro』かな」
彩葉がツクヨミで使っている名前を口にした。やはり、そこに落ち着くか。うん、彩葉の名前はやっぱり消そう。
「いろPー! 手、洗ってきてー!」
しかし、かぐやが口にしたのは私たちが予想していた名前ではなかった。思わず、彩葉と顔を見合わせて首を傾げてしまう。
「いろPってなに?」
「プロデューサーだからじゃない?」
「なんか外堀、埋められてる気がするんだけど……」
「いろP、早くー!」
「あー、はいはい! わかったから大きな声を出さないで!」
それから手分けして準備をしてテーブルにおしゃれなパスタたちが並んだ。カメラをかぐやだけ映るように固定して早速、食べ始める。
「美味っ」
「でっしょ~! やっぱ、エビの背ワタを取るのが大事! そこを怠っちゃうと味がうーんってなっちゃう!」
「へぇ……でも、これ、予算内に入ってる?」
「ばっちり! 本当は食後のデザートも用意しようとしたんだけど白野に止められちゃった」
スーパーで生クリームを買おうとしたので話を聞き、予算オーバーだとデザートは却下したのだ。しかし、彩葉が私をどこか気の毒そうに見てくる。
「……名前いいの?」
「どうせ、配信でも言うだろうから諦めてる」
「あぁ……」
「と、いうことで今回の料理動画はここまで! みんなも試してみてね~! カニカニ!」
「いや、エビだろ」
ダブルピースしているかぐやへツッコむ彩葉。それを最後にカメラを止める。これで料理動画の収録は終わり。あとは動画編集だ。
「かぐや、動画編集できる?」
「一応? 勉強はした!」
「なら、私と手分けしてやろう。かぐやはとにかく動画を撮りまくって、時間がある時に編集ね」
「オッケー! よっしゃー、どんどんやるぞー!」
「……はぁ。美味しい」
私とかぐやのやり取りを見て彩葉はため息を吐き、パスタを一口。
色々あったものの、かぐやの初めての動画撮影は思いのほか、順調に終わった。