月の王とかぐや姫 作:名無しのマスター
彩葉が熱中症によって倒れてから数日後、ヤチヨカップ終了まで数日。私も
なお、本来であれば真実の家でみんなで集まる予定だったのだが、この数日間、ほとんど動けなかったため、急遽バイトが入ったことにして辞退させてもらった。その時、私を見る彩葉の顔が少しいつもと違うような気がしたが藪蛇になりそうだったので気づかないふりをして自分の部屋へ逃げてきたのだ。
「……はぁ」
しかし、かぐやの手伝いはともかく、月人対策の方はあまり順調とは言えなかった。数の暴力。それをどうにかするためにはこちらも数で押すのが一番手っ取り早い。だが、かぐやの秘密を知っている人は私と彩葉、ヤチヨ、FUSHIのみ。事情を説明して協力してくれそうなのは芦花と真実ぐらいだ
もちろん、ヤチヨは自らかぐやの代わりになろうとしているので作戦に入れられない。FUSHIは協力してくれているがウミウシなので戦力外。かぐや本人が運命に抗うと言って戦いに参加してくれたとしても全員で五人しかいない。
(イベントだって言って観客たちを参加させる?)
FUSHIの情報では9月12日の満月の日、かぐやは卒業ライブを開催する。きっと、一か月弱で100万人ものファンを獲得した彼女の最後を見るために多くのツクヨミユーザーが集まるだろう。彼らが戦いに参加してくれるだけでグッと勝率は上がる。
しかし、問題はヤチヨだ。当日はKASSENのルールが適用される。つまり、管理者権限を持っているヤチヨが許さなければツクヨミユーザーたちの参加は認められない。私が持っているのはアシスタント権限だし、FUSHIも私以上のそれを持っているがヤチヨには敵わないだろう。もし、この作戦を決行するならヤチヨの説得、もしくは管理者権限を奪う必要がある。
(あの様子だと説得するのは厳しい……かと言って権限を奪うのも至難の業だ)
ツクヨミはヤチヨの世界。どんな優秀なプログラマーだろうと彼女のプロテクトを突破するのは難しいだろう。少なくとも私には無理だ。
そして、もう一つの問題。私が現実世界で
この世界でも同じように記憶を封じられ、地上にいると錯覚しているのかもしれない。だが、それなら月の聖杯戦争のことを思い出したのは少し変だ。
もう一つは私が
これまで地上で魔術の痕跡を調べてみたが伝手がないため、いくら調べても怪しげなオカルトページにしか辿り着けなかった。魔術は神秘。人に知られる度にその神秘性を失ってしまう。そのため、魔術は限られた人にしか知られていないもの。ネットで調べられる範囲で簡単に出てくるわけがない。
しかし、この二つの仮説には証拠がない。あくまで私の想像でしかなかった。
(それとも無意識に気づかないようにしてる、か……)
「……よし」
今は考えることが多く、思考が分散しているような気がする。それなら、一旦、思考を停止して気分転換しよう。そう思い、タブレットを操作していると丁度、忠犬オタ公のツクヨミニュースが流れる時間だった。ヤチヨカップの順位をおさらいしてくれるらしい。とりあえず、暇つぶしにそれを再生する。
(かぐやたちのランキングは四十位か)
忠犬オタ公のツクヨミニュースを閉じて天井を見上げる。四十位。一か月前に比べ、かぐやのランキングは急上昇して上位に食い込んでいる。
だが、ヤチヨカップの優勝者は一組。一位になった人でなければならない。特に一位を独走している黒鬼たちは厄介だ。ヤチヨカップが開催される前から人気だったため、すでに彼らのチャンネルを登録している人は多かった。そのため、新規のファンを集めるのは少し不利なはずだったのに蓋を開けて見ればご覧の通り。ネットの反応も今回の優勝者は黒鬼だろうと予想している人が多かった。
(あとはヤチヨの言ってたラストチャンスか)
かぐやに事前に連絡が来るらしいので特に何も対策を立てていないが少し不安になる。あくまでヤチヨの言っている未来は私がいない世界。私の存在によってバタフライエフェクトが発生している可能性だって否定できない。そろそろ対策を立てた方が――。
「ん?」
――そう思っていた矢先、机の上に置いていたスマホが震えた。画面を見れば相手はかぐや。スマホを手に取って通話ボタンを押した。
『白野! 黒鬼と戦うよ!』
「黒鬼と?」
『うん、今、帝からメッセージ来て世紀の竹取合戦しよって!』
「……」
なるほど、これがヤチヨの言っていたラストチャンス――暫定一位の黒鬼との直接対決か。かぐやたちの順位は四十位だが、急上昇しているライバーとして知名度は高い。きっと、ヤチヨカップ最後の催しとして盛り上がるだろう。
『もちろん、白野も一緒に戦ってくれるよね!?』
「……スケジュール確認してからね」
『えー! 白野、彩葉と同じくらい強いじゃん! 戦おうよー! 結局、一回も遊んでないしさ!』
ヤチヨに確認したいことがあるのでこの場での返答を避けたがそれですらかぐやは気に食わなかったらしく、ぶーぶーと文句を言った。確かにかぐやとはまだ一度もKASSENをしていない。
だが、問題なのが今回のルールがSENGOKUであること。『はくのん』として戦うのならどうしても相手とは接近戦をしなければならないが、SENGOKUは陣取り合戦なので自然とフィールドが広くなる。遠くから狙撃されたり、距離を取られると厳しくなるだろう。
「因みに私が出れない時はどうするの?」
『んー……芦花か真実に手伝ってもらう!』
「わかった。明日には返事をするね」
『はーい、じゃあ、お仕事頑張ってね!』
いつもならもう少し駄々をこねるかぐやだが、そう言って電話を切った。彩葉が倒れてから彼女は少し大人しくなり、相手の様子を確かめる習慣が付いた。特に彩葉には『体調大丈夫? できる?』と少し不安そうにしながら頼んでおり、それがまた彩葉特攻となって結局、断れなかったりする。かぐやは魔性の女だ。
(さて……)
普通であれば私たちは三人組。『Black onyX』と同じ人数なので頭数は合っている。しかし、私はかぐやのアシスタントであると同時にヤチヨのアシスタントだ。かぐやが優勝するのはもちろん、ヤチヨカップを盛り上げたい気持ちがある。
「……」
とりあえず、ヤチヨに相談か。この前のことがあった手前、少々気まずく、会うのは久しぶりだが何とかなるだろう。
「と、いうことで会いに来た」
「白野のそういうところ好きだよ。それにしてもやっぱりそうなったかー」
いつものミーティングルームでヤチヨにかぐやから竹取合戦に誘われたことを伝えると少しだけ難しい顔をした。当たり前だが、前とは少し展開が違うのだろう。
「前回はどうだったの?」
「真実が助っ人で参加してくれたんだけど帝の大ファンでしょ? だから、ファンサ受けて死んじゃった」
「死んじゃったか。それで……ああ、お助けヤッチョか」
「そのとーり! まぁ、あくまで助っ人って立場だったから彩葉とかぐやがすごく頑張ったんだけど……白野、一つ相談があるの」
そう言ってヤチヨは一つのウィンドウを表示して私に向かって投げた。それを指先で受け止めて内容を確認する。そして、小さく笑った。
「いいね、それで行こう」
「いいの? あんまり目立つのは嫌がってたのに」
「うん、これは面白そう。やるなら徹底的に、ね。一緒に彩葉とかぐやを驚かせちゃおう」
「うーん、我ながら恐ろしい存在を作り出してしまったのかもしれない」
「改造人間かなにか?」
腕を組んで唸るヤチヨに首を傾げる。とりあえず、今後の方針は決まった。早速、ツクヨミと連携しているSNSを開き、かぐやにその日は都合悪くバイトがあることを伝える。
『えー!? どうしても無理なの!?』
『ごめん、すっごく大事な案件だからどうしても予定をずらせなくて』
『ぬぉぉぉ……芦花か真実に頼むしかないかなぁ』
『真実、帝の大ファンだからチームに入れたら喜ぶんじゃない?』
『なるほど、確かに! じゃあ、真実誘ってみる!』
さりげなく真実を
「かぐやはなんて?」
「真実を誘うって。彩葉が倒れてからこっちの都合を聞くようになったから案外スムーズだったよ」
「そっか……彩葉、大丈夫そう?」
ヤチヨが心配そうに問いかけてきて私は少し驚いてしまう。彩葉が熱中症で倒れた時、ヤチヨはタブレットの中にいなかったらしい。だが、一部始終を見ていたのなら私が現実世界で
「うん、次の日には普通に勉強してたよ」
「あれ? 夏風邪だったんだよね? 前の時は二日ぐらいフラフラしてたけど」
「……私がかぐやの手伝いをしてたからその分、彩葉の負担が減ったのかも」
違う。おそらく、
「確かに……白野、ありがとう」
「私のやりたいようにやっただけだから。じゃあ、もう少し計画を練ろうか」
「かしこまり~!」
それから私たちは竹取合戦当日の動きと
次回から竹取合戦ですが、丁寧に描写した結果、とても長くなりました。
おそらく7話ほど戦いますし、映画、小説とは少し違う展開になりますのでご了承ください。