月の王とかぐや姫   作:ホッシー@VTuber

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長い長い竹取合戦編、始まります。
しばらくお付き合いください。


第61話 世紀の竹取合戦 開戦前

『注目のイベントが始まります! 王者『Black onyX』が異例の速度でのし上がった超新星かぐや・いろP・はくのんに宣戦! そして、まさかの求婚! 運命を懸けたKASSENが今まさにここツクヨミ特設スタジアムで始まろうとしています!』

 

 光の速さで決まったかぐやVS帝のバトルは巷では『世紀の竹取合戦』と言われているらしく、始まる前から憂鬱になってしまう。しかし、そんな私の気持ちと反比例するように超満員の会場の中、モニター席では『かぐや争奪KASSEN選手権』でも実況していた乙事照琴と忠犬オタ公が盛り上げるために口上を述べている。

 

『ヤチヨカップの結果発表まで残り一時間ですね』

『この勝負の結果次第ではかぐいろはくチームの逆転も……と、言いたいところですがここで残念なお知らせです。動画では救済処置として有名であり、初心者ながら凄まじいプレイヤースキルを持つ『はくのん』はリアルの都合で欠席となります。くぅ、三人の連携が見たかった……』

『まぁ、仲間の後頭部を殴打した後、遠慮なく顔面に膝を入れる女の子ですからね。どんな戦いをするのか、とても気になりますがリアルの都合であれば仕方ありません。なお、ルールは『SENGOKU』! かぐや・いろP側は助っ人を入れての戦いとなりますがオタ公さん、どのような展開になると思いますか?』

『そうですね、やはり注目するべきはかぐやの突破力といろPの技術力――』

 

(ホント、なんでいないの白野……)

 

 MCたちの話を聞きながら着ぐるみの中でそっとため息を吐く。そして、隣に立つかぐやと真実を見る。

 

「あわわわわ……」

「ねぇ、ま~だ~?」

 

 片やこれから推しに会う関係上、情緒が不安定になっているグルメインフルエンサー。そして、もう片方は未だ姿を現さない『Black onyX』に不満げなバーサーカープリンセス。本当にこの三人で勝てるのだろうか。

 

『来ました! 黒鬼です!』

 

 そろそろかぐやの不満が爆発する、というところで会場上方の岩壁が爆発。その破片の向こうから虎バイクに乗った帝が巨大な鬼と戦いながら登場した。相変わらず派手な登場の仕方だ。なお、虎バイクとは虎が左右の前足で前輪を、左右の後ろ脚で後輪を掴んだ状態で疾走するバイクである。ツクヨミは本当に何でもありだ。

 

『黒鬼! ご来臨ー!』

 

 空中で巨大な鬼を目にも止まらぬ速さでフルボッコにし、ド派手な花火を打ち上げた帝が私たちの前に降り立つ。そのすぐ後に雷と乃依も彼の後ろに華麗に着地した。

 

「どーも、対戦受けてもらってありがと」

「あの、わ、私っ! ふぁふぁファンで!」

 

 キザったらしい振る舞いでウインクしながら挨拶をする帝に思わず顔を歪める。だが、彼の大ファンである真実にはクリティカルヒットだったらしく、これまで以上に挙動がおかしくなった。白野の勧めで助っ人を真実にしたのだが、まさかここまで動揺するとは思わなかった。これ、本当に大丈夫か?

 

「まみ、悪いけど今日は手加減できない」

 

 そんな彼女を見て一瞬だけ目を細めた後、どこか演技染みた言動で真実に話しかける帝。名前は大方ユーザーネームから推測したのだろう。

 

「な、名前……きゅうっ」

「え、ちょっと真実!?」

 

 しかし、そんなことなど今の真実が気づけるわけもなく、勢いを失った独楽のようにその場でくるくると回転しながら倒れた。おい、おいおい!? 戦う以前の問題なのだが!?

 

 慌てて彼女に駆け寄り、様々なグルメの写真を見せていく。いつもの真実ならグルメの気配を感じて臨戦態勢に入るのだが、反応はなし。多分、気絶している。あと数秒ほどでツクヨミから自動ログアウトされるだろう。

 

「これどうする~?」

 

 どこか幸せそうに死んでいる真実のアバターから装飾のおにぎりやメロンパンを毟りながら問いかけてくるかぐや。おい、こんな時におにぎりを食べるな。そして、メロンパンをポケットに入れるな。

 

(今から芦花を呼ぶ? でも、会場から見るって言ってたからこんな大勢の中を移動するとなるとそれなりに時間がかかる。それだと試合の時間が押してヤチヨカップの結果発表に間に合わない)

 

 いっそ、今から白野を呼んだ方が早いかもしれない。そんな思考が巡った時、空から巨大な玉手箱が降ってきた。その光景を私は動画で何度か見たことがある。まさか、これは――。

 

「じゃっじゃーん! 呼んだー?」

 

 玉手箱が軽快な音を立てて開き、煙と共に普段と同じ装いのヤチヨが飛び出した。これは『お助けヤッチョ』! 突然の回線切れやどうしても人数が合わなかった時に助っ人として現れるヤチヨである。助っ人に入る場合、相手との力量の差を鑑みてヤチヨの強さが変化する親切設計。しかし、彼女の衣装はいつものそれ。バトル用のものではない。

 

「なに? ヤチヨちゃんが入るの?」

「ふふーん、残念ながら私じゃないんだよねー。よかったね、帝様。リベンジマッチ(・・・・・・・)だよ」

「は?」

「では、ご登場していただきましょー! どぞー!」

 

 そして、宙を駆けるヤチヨが両手を大きく広げると地面に落ちたままの玉手箱がいきなり爆発を起こして砂埃が盛大に舞い上がる。この場にいる全員が顔を庇った。

 

「……」

 

 砂埃が落ち着いた頃、その向こうに人影が一つ。今の私と同じ着ぐるみアバター。そして、妙にダサい犬の顔。しかし、その佇まいはどこか圧があり、まさに強者という雰囲気を纏う女の子。

 

「ザビ子……」

「ザビ子だー!?」

 

 そう、そこに立っていたのはヤチヨのアシスタント兼魔術(コードキャスト)の開発者、ザビ子だった。彼女はゆっくりと顔を上げて黒鬼たちへと視線を向ける。

 

「再戦希望だったよね。いいよ、本気でやろう」

「……はは、こりゃいい。色々とわかってるねぇ」

「敵として不足なし」

「今度は前みたいにいかないよー♡」

 

 これまでライバーとして立っていた黒鬼たちはザビ子の姿を見てその雰囲気をプロゲーマーのそれに変える。ザビ子はデビュー配信の時、魔術(コードキャスト)を使って黒鬼たちを最初から最後まで翻弄し続けた。それを黒鬼たちは忘れておらず、ヤチヨカップの時にわざわざ名指しで宣戦布告するほどである。

 

 そんなザビ子と黒鬼の再戦。ヤチヨファンとして、ヤチザビ派として絶対に見逃せない対戦カードだ。これは心躍るというもの――この場に私が立っていなければの話だが。

 

「と、いうことで今回はお助けヤッチョならぬお助けザビ子! 神々のみんなもザビ子の登場を待ちわびてたもんね!」

 

 ザビ子の頭上でクルクルと回転しながら笑うヤチヨ。もちろん、会場の盛り上がりは最高潮であり、ヤチヨカップの中で一番の熱狂だった。

 

「更に更に!! ここで新しい魔術(コードキャスト)も本格実装! とうとう、攻撃(スタン)などこれまでヤチヨの配信で紹介した魔術(コードキャスト)を全て実装されました!」

「はぁ!?」

 

 そして、更なるサプライズ。ずっと調整中と言われていた残りの魔術(コードキャスト)の実装。ザビ子の言っていた本気で戦う、という言葉の意味がわかった気がした。

 

「もちろん、ザビ子は魔術師(ウィザード)なので全ての魔術(コードキャスト)が使用可能! 以前と同じMPシステムを適用するよ! そして……今回のザビ子は本気なので武器も使っちゃいます!」

「ッ……ガチで本気じゃん」

「前は『SETSUNA』だったから制限したけど今回のルールは『SENGOKU』。陣取り合戦で無手はさすがに不利すぎるかなーって。あの黒鬼様が文句、言わないよね?」

「ああ、もちろん。むしろ、ザビ子ちゃんのデビュー配信の時、相当手を抜かれてたって知ってちょっと腹立ってるぐらいだ」

 

 ヤチヨの言葉に笑った帝はそのままザビ子へと視線を戻す。ザビ子もそれを受けて静かに彼の言葉を待った。

 

「あの時はしてやられたがいつかリベンジできる日を期待して色々、研究した。前みたいにすんなりと勝てると思うなよ?」

「……ふふっ」

 

 戦う前から殺気全開の帝にザビ子は小さく笑う。その笑みはどこか余裕の色が見え、ここにいる全員が予想外の反応に目を見開いた。

 

「とりあえず、初戦はそっちが思ってるような戦いにはならないと思うよ」

「なんだと?」

「まぁ、やってみればわかるよ。行こ、かぐや、いろP」

「お、おう! 帝、ぜってーボコボコにしてやるからな!」

 

 そう言ってザビ子はかぐやを従えて自陣へと向かい始めてしまう。私も慌ててその後に続いた。

 

(本当に大丈夫なのかな……)

 

 そして、私の不安は見事に的中することになる。

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