月の王とかぐや姫 作:名無しのマスター
おそらく、映画の残機マーク(桃)の消え方からして三回倒され、残機がなくなった後、撃破されたら退場、という1回+残機3回という仕様っぽいです。
ですが、その部分を少々変更させていただき、三回倒された時点で退場、ということにさせてください。
理由としましては今作では映画、小説でカットされた第三回戦の前半部分を全て描写するつもりですが、残機が多すぎて長ったらしくなってしまうことが大きいです。
申し訳ございませんがご理解のほどよろしくお願いいたします。
「……」
自陣へ入った私たちだが、試合が始まるまでの数分で作戦を立てなければならない。しかし、ザビ子とは初対面なため、どのように話せばいいかわからず、彼女をちらちらと見ることしかできなかった。
(本当に白野なのかな)
白野は今日、バイトで欠席している。つまり、ザビ子としてここにいてもおかしくない。だが、隣に立つ彼女はどこか覇気が漏れており、少し声がかけづらい様子。うーん、このまま連携はできるのだろうか。
「ザビ子って『SENGOKU』やったことあんの?」
「ちょっ、おい!」
そう思っていた矢先、かぐやは馴れ馴れしく声をかける。さすがは猪突猛進バーサーカーかぐや姫。しかし、その物言いは完全にザビ子の実力を舐めているようにしか聞こえなかった。
「多少、作戦とかセオリーを調べたくらいでやったことないよ」
「えぇ!? そんなんで勝てんの!?」
「私はあくまで助っ人だから。今日の主役は二人だよ」
「んー? おー、なるほど! 確かに!」
「納得するんかい」
ザビ子はかぐやの言葉を気にした様子はなく、普通に受け答えをしてくれた。よかった、これでギスギスしたら試合どころではないからだ。
「……で、作戦は?」
では、次の問題は試合のこと。『SENGOKU』は黒鬼の十八番。真正面から戦っても勝ち目はない。今のザビ子の様子からして彼女から作戦は提案してこないだろう。だから、私はかぐやに問いかけたのだが――。
「まずはガーっと行って、シュタタタってした後にバーン!」
「オッケー」
「いや、オッケーじゃないが?」
――かぐやの立てた作戦はあまりに擬音語だった。そして、何故、ザビ子はそれで頷けるのだろう。
「相手の出方がわからない現状、一先ずセオリー通り、トップに二人を送って様子見。行けそうならそのまま倒して櫓を占拠。そして、最後に天守閣を落とすってことじゃないの?」
「合ってる!」
「合ってるんかい」
「トップにはかぐやといろPが行って。私は少し様子見してからミドルかボトムに向かう」
「え、でも、それだとザビ子が単独行動になるんじゃ?」
彼女の持ち味は
「慣れていないからこそ私の指示に咄嗟に動けないと思う。でも、かぐやを一人にすれば三つある残機を一瞬で使い切っちゃうだろうし……かぐやのフォローに慣れてるいろPと一緒に行動した方が勝率は高いよ」
「うぐっ……それは確かに……」
無策で敵に突っ込んで返り討ちに遭うかぐやを想像してしまい、肩を落とした。私はゲームの中でもかぐやのお世話をしなければならないのか。
「よっしゃー! 絶対に勝つぞー!」
なお、当の本人はやる気に満ちており、拳を天に突き上げて声を上げていた。その上で透明なボディの巨大なレプトケファルスが緩やかに身体をくねらせて泳いでいる。優雅でいいなぁ。
「あ、いろP、一つ注意があるんだけど」
「え、何?」
「多分、トップには帝が来るから気を付けてね」
「げっ……って、なんでわかるの?」
先読みが得意だからといって相手の作戦までわかるのはさすがに異常だ。しかし、ザビ子はどこか不思議そうに首を傾げるだけだった。
「だって、トップって上でしょ? なら、リーダーが上に来るんじゃない? それに……かぐや、上と真ん中と下、どこがいい?」
「上! なんか強そう!」
「ね?」
「いや、ね、じゃないけど」
「相手の出方がわからないのなら何となくそう来るかなって当てずっぽうで行くしかない。でも、今回、帝の目的はあくまでかぐや。なら、かぐやの性格から上に来そうだなって予想してそうじゃない? なら、こっちもその動きに合わせるだけ」
ザビ子は尤もらしいことを言いつつ、かぐやの隣に立って試合開始の合図を待つ。一瞬、納得しかけたが少しずつ彼女の言葉を噛み砕いていき、最後はジト目を向けてしまった。
「つまり……直感ってこと?」
「言いかえたらそうだね」
そう言ってクスっと笑うザビ子。その仕草がここにはいないはずの白野にそっくりだった。
『試合開始です……おっと! これはどういうことだぁ!?』
問題は法螺貝の音が鳴り響き、KASSENが始まった直後だった。私は巨大な黒いオオタカに、かぐやは自身の武器であるハンマーのジェットエンジンに点火してその上に乗ってトップレーンへ向かう。しかし、相手の出方を見るためにミニマップを見た瞬間、思わず後ろを振り返った。
「ちょっとザビ子!?」
『ザビ子、動かない! 自陣でMPチャージの構えを取って動きません!』
MCも驚いているようにザビ子のアイコンが一切、動いていなかった。ザビ子は
『更に黒鬼! トライデントです! ザビ子相手でもトライデントを決行!』
『じゃあ、私はミドルレーンに行くね』
黒鬼はトップ、ミドル、ボトムに一人ずつ向かう作戦、トライデントだった。それが分かった直後、MPチャージもそこそこにザビ子から通信が入って彼女のアイコンがミドルへと移動し始めた。だが、その速度はあまりにも速い。私やかぐやも飛べる高速ライドを使っているがそれ以上に彼女のスピードは速かった。
『ザビ子、
『あれ、ライドにも適用されんの!? やばっ!』
(そっか、そのためにMPチャージを……)
黒鬼たちは地上を移動する中速のライドを使用しているらしく、ザビ子はあっという間に中間地点を突破。そして――そのまま直進し続けた。
「ザビ子、ミニオンは!?」
高速ライドは空を飛べる分、ある一定のところまで移動すると地上に無数にいるミニオンたちから総攻撃を受けてしまう。そのため、途中で降りる必要があるのだが、ザビ子は構わず飛び続けていた。
『大丈夫、私のヒポ君は速いから』
「ヒポ君って何!? それに速いって……あ」
そうか、速度強化。ミニオンの総攻撃すら置き去りにして飛べば関係ない、ということなのだろう。
「っ……かぐや、私たちはここで降りるよ!」
「オッケー! よーし、やっちゃうぞー!」
きっと、ネットで大騒ぎになっているだろうと冷や汗を流していると不意に下から無数の矢が飛んでくる。慌ててライドを操作して地上に向かい、そのまま武器を取り出して近くにいたミニオンへ斬りかかった。ミニオンは基本的に邪魔なのだが、彼らを倒すことで必殺技――ウルトゲージを溜めることができる。つまり、ミニオンを倒せば倒すほど強力な技を使えることができるのでゲージ溜めも必要なのだ。
「ッ――」
そして、響き渡る銃声。ミニオンを攻撃していた手を止めて慌てて岩陰に隠れた。接敵。そう短くザビ子へ伝えて両手に持っていた双剣を合体させて巨大なブーメランにする。そのまま岩の後ろから敵へ投げつけた。もちろん、相手は軽々とそれを避けるがそれと同時に岩陰から飛び出して仕込んでいたワイヤーでブーメランを回収。更に片手剣へ変形させてそいつへ斬りかかる。相手も瞬時に反応して金棒で剣を受け止め、火花が散った。
(帝アキラ!)
ザビ子の予想は的中し、トップレーンを担当していたのは帝だった。正直、顔を合わせたくなかった相手。だが、今は戦闘中。私情を殺して真剣に――。
「お前、彩葉だろ」
「違います」
――戦おうとしたのに向こうから核心をついてきて思わず否定してしまった。その時、後ろからうなぎ形の弾丸が飛んできて帝は金棒を乱暴に押して私を突き飛ばし、その勢いを利用してその場を離脱した。
「彩葉!」
「ちょっ、また名前――うぐっ」
私を助けたのはかぐや。しかし、問題はその後に私の本名を口にしたことだった。いきなり、帝に名前を呼ばれたことに動揺していた私はいつものように小言を口にしてその隙を突かれて金棒でボコボコにされる。
「そのスキン当てやすくて助かるわー。はくのんちゃんと戦ってた時もめっちゃ足引っ張ってたもんな。後悔しない? 本気でやろうぜ」
「ぐっ」
金棒のラッシュを剣で弾き、後方へ下がった。白野の時もそうだったが、ヒットボックスの大きさが足を引っ張る機会が多すぎる。覚悟を決めて着ぐるみを脱いだ。
『ここでいろPが脱いだー!』
『可愛い女の子の登場! 会場も大盛り上がりです!』
「やっぱ、彩葉じゃん」
「なんで私のアバター知ってんの?」
「お兄ちゃんにはなんでもお見通しってね」
「え!? お兄ちゃん!?」
『それはさすがにわからなかった』
帝の言葉にかぐやとザビ子が驚いた様子で言葉を零した。もちろん、この会話は会場にいる観客たちにも聞こえている。
『な、なななんと! 衝撃の告白! 帝といろPは兄妹だったー!』
『これは新解釈! 帝にお兄ちゃん属性、いろPに妹属性が付与されたー!』
大げさな実況と解説の声が耳に届く。会場もざわめいているがもう後戻りはできない。
帝――酒寄朝日。私のお兄ちゃん。よくこうやって一緒にゲームで遊んだ。それなのに、ある日、突然、家を出て行ってしまった。
「そいや母さん気にしてたぞ。連絡くらいすればいいのに」
「こっちにも順序ってもんがあるの!」
「とりゃあ! のわぁ!」
帝と交戦しながら少しずつ櫓へ向かう。ザビ子はミドルレーン。ボトムの櫓を捨ててトップの櫓を取った瞬間に天守閣へ達磨落としを撃ち込むつもりだ。つまり、ここで私とかぐやが負けた時点でコールド。二対一という圧倒的に有利な状況で負けるわけにはいかない。
『雷と交戦。タイミングを見て撃破する。そっちは大丈夫そう?』
「だいじょばない、かも!」
だが、やはり、帝は強い。私とかぐやが全力で攻撃を仕掛けても全て対応され、反撃すらされる。今も真上から奇襲したかぐやのハンマーをノールックで受け止めて軽々と弾き飛ばした。
『……オッケー。じゃあ、速攻で倒すね』
「は?」
ザビ子の言葉に思わず間抜けな声を漏らしてしまう。だが、その真意を確かめる前に帝の金棒が迫り、咄嗟に受け止めた。
「ザビ子ちゃん? なんて言ってた?」
「速攻で倒すってさ!」
「さすがにそれは舐め――」
『ザビ子、雷を撃破ー! そのままミドルを戻り、ボトムから天守閣に向かっている乃依の対応へ向かう!』
「はぁ?」
「え?」
「隙ありぃ!」
実況の声に私と帝がほぼ同時にキョトンとしてその隙を突くようにかぐやが帝へハンマーをフルスイング。ちょ、それ私にも当たるって!
慌てて私と帝はその場から離脱。その直後、かぐやのハンマーが地面を砕き、破片が周囲へと散らばる。
「雷、何があった!? はぁ、スタン受けて毒と呪いと殴りでやられたぁ!?」
「っ!
そうだ、ザビ子は全ての
「これ、行けんじゃね!?」
『ごめん、無理。雷は相性がよかっただけ。乃依は遠距離だから
「なら、結局、帝を倒して櫓を占拠するしかない、か」
ザビ子がボトムを捨てたのは単純に乃依の相手をしたくなかっただけだったのだ。それに雷を倒せたとしても今頃、復活してトップか天守閣に向かっているはず。ここで私たちが帝を止めなければ結局、コールド負け。戦況は絶望的だった。
「さすがザビ子ちゃん。確かに予想外の展開だ……でも、SENGOKUはチームプレイ。一人だけ強くても意味がない。だろ?」
「しまっ」
ザビ子の方に意識を取られていて帝が牛鬼に接近していることに気づくのが遅れた。そのまま彼は超加速の
『瞬殺! そして、ザビ子が乃依と交戦! やはり、遠距離型の乃依に
『今のところ、使っていない様子。どうやら、ここぞという時に使うようです!』
「かぐや、櫓を守るよ!」
「あいあいさー!」
櫓まで少しだけ距離がある。帝が櫓に辿り着く前に私たちが撃破。もしくは櫓を横取りすれば戦いはわからない。そもそも、ザビ子が乃依にやられるのも時間の問題だ。ここからはスピード勝負。絶対に負けられない。
「威勢いいねー」
そう思っているのに彼には届かない。私の剣を簡単に受け止め、金棒を僅かにずらして剣を滑らされる。そのままバランスを崩し、お腹へ蹴りを入れられて吹き飛ばされた。
「ぬおー!」
「動きが直線! 解釈一致!」
「ヴぇ! いってーんだけどマジ!」
「かぐや!」
起き上がっている間にかぐやが帝に撃破されてしまう。急いで帝へ斬りかかるがその前に彼の金棒が櫓の鐘を鳴らした。
『両櫓占拠でコールドです! ザビ子が雷を撃破した時はもしやと思いましたがやはり黒鬼は強かった!』
「もっと上手くやれよな、俺みたいに」
そして、私たちは一回戦を落としてしまった。
よろしければ感想、高評価よろしくお願いいたします。