月の王とかぐや姫   作:ホッシー@VTuber

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第63話 世紀の竹取合戦 二回戦

「ごめん、完全に足引っ張った」

「かぐやも……悔し~!」

 

 二回戦が始まる前の僅かなインターバル。帝に残機を減らされた私とかぐやはザビ子に声をかけた。彼女は雷を撃破して乃依から天守閣を守り通している。私たちが帝を突破できていれば勝利だって見えた試合だった。

 

「ううん、乃依相手に不利だと思ってボトムの櫓を捨てたけどやっぱり、櫓は捨てるべきじゃなかった。これは私の判断ミス。ごめんね」

「でも、魔術(コードキャスト)は遠距離の乃依には届かないんだよね? それなら動きの遅い雷を相手にするのは当然だし」

「……なら、乃依を先に倒せばいいってこと?」

 

 むしろ、ザビ子に謝られてしまい、慌ててフォローする。しかし、それを聞いていたかぐやは不思議そうな顔をしてそう言葉を口にした。

 

「うん、それが理想的。でも、ボトムに二人向かえばミドルの雷が進路変更してそっちに向かうはず」

「乃依が狙いだってばれないようにしなきゃ駄目ってことか」

「……んー、ならさー」

 

 それからかぐやが立てた作戦を聞き、ザビ子からもお墨付きを貰い、二回戦はそれで行くことになった。上手くいくのか、本当に。

 

 

 

 

 

 

『二回戦が始まりました。ですが、黒鬼、当たり前のようにトライデント継続です!』

『しかし、今回はザビ子の行動が違います! 一回戦はミドルでしたが今回はボトムへ! 遠距離特化の乃依に宣戦布告か!?』

 

 一回戦と同様、高速ライドに乗ってトップに向かった私は早速、帝を発見したので遠慮なく斬りかかる。

 

「おっと、かぐや姫は?」

「さぁ、月に帰ったんじゃない?」

 

 不意打ち気味に攻撃したのにムカつくほどあっさりと剣を受け止めた帝に問いかけられ、はぐらかす。その時、ボトムでザビ子と乃依の戦いが始まった。

 

「ザビ子ちゃんをボトムに、か。魔術(コードキャスト)は強力だけどさすがに無謀じゃない?」

「そう? 今までも予想外なことばっかりしてたでしょ、ザビ子」

「それは確かに……いや、違う。そうか、かぐやちゃんか!」

 

 さすがプロゲーマー。ミニマップにかぐやの反応はあるのに一向に姿を見せないことに違和感を覚えて上を見上げる。そこには優雅に宙を泳ぐレプトケファルスとそれに乗るかぐやがいた。

 

「よっと」

 

 帝も気づいたがその時にはすでにかぐやは準備を終え、ハンマーのジェット噴射を起動させてボトムレーンへと飛び立った。私はあくまで囮。図らずとも最初に私が提案したようにかぐやとザビ子が一緒に戦うことになったのである。

 

「雷、トップレーンフォロー! 乃依がやられる!」

 

 すかさずミドルレーンにいる雷へ指示を出す帝。しかし、かぐや曰く、一定以上の高さを飛べばミニオンからの攻撃を無視することができるため、地上を移動する雷よりも高高度を飛んでいるかぐやの方が先にボトムに到着するはずだ。

 

(私も今のうちに!)

 

 もちろん、ただの囮で終わるつもりはない。帝がかぐやに気を取られている間に櫓へと一直線に向かう。本命はボトムの櫓だが、私がトップの櫓を占拠すれば天守閣に向かう前にコールド勝ちとなる。それを狙わないわけがなかった。

 

『ここでかぐやが乃依へ奇襲!』

『乃依も咄嗟に対応しますがそこに迫るのはツクヨミで唯一の魔術師(ウィザード)! 距離さえ詰めればお得意の魔術(コードキャスト)も当たるぞ!』

『そんなことと言ってる間に当たったー! 攻撃(スタン)直撃からのかぐやのフルスイング! ちょっと乃依が可哀そうです!』

『泣きエモート出してる時点で余裕はありそうですが……そのままザビ子がボトムの櫓を占拠! 雷は間に合わなかった!』

 

 よし、作戦成功。じゃあ、私も、と続こうとしたところで視界がグルリと回転。音もなく近づかれたのか、気づいた頃には錐もみ状に回転して吹き飛んでいた。

 

「あと一歩ってとこだな」

 

 トップの櫓を占拠した後、王のように私を見下ろす帝。そんな彼をただ睨みつけることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 かぐやと合流した私は乃依を撃破して櫓を占拠した後、ボトムから天守閣に向かう。もちろん、魔術(コードキャスト)によるライドの速度強化によってミリオンを置き去りにしているため、黒鬼よりも早く天守閣に到着する。それをわかっているのか、雷と帝が自陣の天守閣を守るためにこちらへ戻ってきていた。さすがにスムーズに二回戦を取ることは難しそうである。

 

『ごめん、やられた』

 

 そんな中、帝に撃破されて自陣に戻された彩葉から申し訳なさそうな声で通信が入った。思わず、隣を飛ぶかぐやと顔を見合わせてしまう。

 

「全然! むしろ、帝相手に頑張った! あとは任せて!」

「私たちは仲間。自分にできることをすれば勝てるよ。だから、大丈夫。あれは彩葉にしかできなかったことだよ」

『……ありがと。今からそっちに向かうのはできないから天守閣を守ってる』

「うん、お願い!」

 

 今のタイミングで彩葉がやられたのは怪我の功名かもしれない。櫓を落とされている現状、私たちの天守閣の前にも達磨落としが出現している。雷が天守閣に向かう可能性もあるので守ってくれているとこちらも帝との戦いに集中できるというものだ。

 

 しかし、戦いが長引けば乃依も戦いに参加してくるだろう。これは一気に決めた方がいい。問題は魔術師(ウィザード)である私は瞬間火力が足りず、達磨落としを天守閣に撃ち込めないこと。つまり、帝たちはかぐやを天守閣に近づかせなければいいため、徹底的に彼女をマークするはずだ。

 

(そのマークを突破して達磨落としを撃ち込むか。私が達磨落としを撃ち込めるような何かを考えるか)

 

 前者は技量の高い帝とタンクの雷が相手なので真正面から戦えば時間がかかる。その間に乃依が来れば私たちは撃破されるだろう。

 

 しかし、後者の場合、単純に作戦を考える時間があまりにも少ない。あと一分と経たないうちに天守閣へ到着する。その間に何か――。

 

「……かぐや、少し相談があるんだけど」

「ん? なに?」

「この後の動きのことで――」

 

 ふと妙案が浮かび、かぐやにそれを伝える。すると、彼女も面白そうだと笑って作戦は決まった。これもヤチヨが『玉藻鎮石(たまものしずいし)』を実装してくれていたおかげである。

 

(そういえば、まだ聞いてなかったな)

 

 何故、ヤチヨはあの鏡のことを知っていたのか。最近、色々とありすぎて聞いていなかったことを思い出す。この一件が落ち着いたら聞いてみよう。

 

 そう考えたところで天守閣が見えてきた。達磨落としもちゃんと出現している。私とかぐやはライドを降りて一直線に天守閣へ向かう。しかし、階段に辿り着く前に横から人影が滑り込んできた。

 

「かぐや!」

「おうっ!」

 

 私はその場で立ち止まり、かぐやを先行させる。そして、滑り込んできた人影が振るった金棒をハンマーで受け止めた。

 

「押し返して!」

 

 

 

 

 ――【gain_str(32);】

 

 

 

 

「フ・ル・パァワー!!

「ちっ、さすがハンマー職!」

 

 ほぼ満タン状態のMPを三割ほど消費してかぐやに筋力強化を施すとかぐやは人影――帝を吹き飛ばした。しかし、その後ろから雷がハンマーを振るった直後で動けない彼女に肉薄しようとしている。

 

「すぅ」

 

 息を吸い、かぐやの横から潜り込むように前へ。雷の前に立って右手に魔力を充填。そのまま、前に向かって突き出した。

 

 

 

 ――【shock(32); 】

 

 

 

「ぐっ」

 

 右手に纏った魔術(コードキャスト)を武器で受け止める雷。魔術(コードキャスト)は味方以外に効果を与える際、基本的に球体を飛ばして当たった相手に効果を付与する仕組みだ。だが、それだけだと芸がないため、今のように一時的に身に纏うことができるようにした。これに関してはヤチヨとの作業配信の時に見せているので黒鬼たちも知っているだろう。

 

 特に雷は一回戦目で攻撃(スタン)を受け、その効果の恐ろしさをその身を持って知っている。だからこそ、多少態勢を崩すことになっても武器で強引に受け止めたのだ。

 

「せいやっ!」

「ッ――」

 

 そして、その隙を見逃すほどこちらのお姫様はお淑やかではない。態勢の崩れた雷へ遠慮のないフルスイング。ハンマーの直撃を受けた彼は盛大に真横へ吹き飛んでいく。だが、その短い時間で帝が立ち上がって銃口をこちらに向けていた。

 

「雷、十秒持たせるぞ! かぐやちゃんを徹底マーク!」

「わかっている!」

「へへーん、もう遅いよーっと!」

 

 

 

 ――【gain_str(32);】

 

 

 

 乃依が来るまでの時間を稼ごうと突貫してくる帝と雷。だが、すでにこちらの準備は整っていた。

 

「行くよ、かぐや」

「おっしゃー!」

 

 自身に筋力強化を施してかぐやと同時にその場でジャンプ。強化された脚力は私たちを階段の上に立つ達磨落としと同じ高さまで運んだ。

 

「合体宝具(ウルト)!」

「かぐやちゃん砲、発射ー!」

 

 空中で態勢を整え、かぐやのハンマーに両足を付ける。そして、かぐやが全力でそれを振るい、私を射出した。凄まじい勢いで達磨落としが迫る中、必死にアバターを操作して右足を前に突き出す。まさにその姿は例の飛び蹴りを放つキャスターと同じだった。

 

 

 

 

 ――みこーん☆ なんだか、呼ばれたような気がして登場しました、あなたの良妻賢母、キャス狐ちゃんです! ではでは、ご主人様。声を合わせていきますよー、せーの!

 

 

 

 

 

「一夫多妻去勢拳!」

『一夫多妻去勢拳!』

 

 

 

 

 

 かの良妻賢母狐が編み出した浮気防止対策。またの名を金的。構図的に彼女の技に似ていたため、思わずその技名を叫んでしまった。私の右足は達磨落としに直撃し、そのまま天守閣へ撃ち込まれて見事に陥落。激しい爆発と主に城が崩れ落ちていく。

 

『決まったー! なんか思わず股がヒュッとなってしまうような技名が聞こえたような気がしますがかぐいろはくチームが見事に二回戦を取った!』

『今回はかぐやの奇策がハマりましたね。今回の試合で私たちの知らない仕様ばかり出てきません?』

『今頃、『SENGOKU』攻略レスは阿鼻叫喚としていることでしょう!』

『さぁ勝敗は三回戦へと持ち越されました!』

 

 二回戦が終わり、私とかぐやは自陣へと戻される。そして、そこにはすでに彩葉が立っていた。

 

「おかえり」

「うん、ただいま! 勝ってきたよ!」

「わかってるって……ありがと」

 

 かぐやがピースして勝利を喜ぶが彩葉の表情は曇ったまま。一回戦、二回戦で帝にやられているため、勝利に貢献できていないと考えているのだろう。真面目な彩葉らしいが三回戦目を前にテンションが下がっているのは今後のパフォーマンスに影響する。

 

「いろPは自分の仕事をした。だから、気にする必要はない。あそこで帝を足止めしてくれたおかげで天守閣の戦闘がグッと楽になったよ」

「……それならよかった。でも、三回戦はどうする? さすがに同じ作戦は通用しないと思うけど」

 

 そう、彩葉の言うとおり、先ほどの奇襲は一回しか通用しない作戦。三回戦は別の方法を考える必要がある。私が考えてもいいがやはりここは彩葉かかぐやに任せたいところだ。

 

「かぐや、何か作戦はある?」

「んー、思いつかんなー。でも、帝に負けっぱなしは悔しいかも」

 

 腕を組んで難しい顔をするかぐや。確かに今のところ、帝は一度も倒されていない。実際に戦った彩葉とかぐやはさぞ悔しいだろう。

 

「……ザビ子、帝を止められる?」

 

 その時、ずっと黙り込んでいた彩葉が静かに私に問いかけた。彼女の目は真剣なものであり、投げやりになったわけではないとわかる。

 

「私とかぐやがボトムに行く。櫓を占拠したらそのまま天守閣へ。その間、ザビ子に帝を足止めしててもらいたいの」

「……多分、次は向こうもトライデントじゃない。ボトムに雷と乃依が行くはず。勝てる?」

「もちっ! 絶対に勝つ!」

 

 かぐやの自信満々な顔に私は小さく笑みを浮かべた。よし、その作戦で行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

『三回戦開始! かぐや・いろPはボトムへ! ザビ子、一人でトップに向かい――あーっと! 黒鬼、トライデントを止めてトップに帝と雷が向かったー! ザビ子、大ピーンチ!』

「……」

 

 うーん、さすがに無理かも。ごめん。







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