月の王とかぐや姫 作:名無しのマスター
三回戦。世紀の竹取合戦、最終戦。こちらのチームはこれまでと配置を変えたのだが、向こうも余裕がなくなったからか、トライデントを止めた。そして、不幸にも私の担当であるトップレーンに帝と雷が向かっている。
「かぐや、いろPは残機に余裕がない。絶対に守って。乃依の狙撃は正確だから常に警戒」
『オッケー! 彩葉はかぐやが絶対に守る!』
『こら、名前……ザビ子の方は大丈夫?』
「雷だけでも落とすよ」
ヒポ君――月で一緒に戦ったライダーのアストルフォ。彼の相棒であるヒポグリフの姿に似ていたため、そう勝手に名付けた高速ライドを操作しつつ、通信を入れると彩葉から心配そうな声が返ってきた。雷は一回戦で落としているため、もう一回倒せば後がなくなる。そうすれば多少なりとも相手の動きを制限できるはずだ。
「……」
私は櫓に向かいながら装備している礼装を入れ替えた。ここまで私を除いた全員が
しかし、私の場合、最後の最後まで使うつもりはなかった。今の状況でザビ子が『はくのん』だとバレたらザビ子のファンが一斉にかぐいろはくチャンネルを登録する。そうすれば優勝したとしてもザビ子のおかげだとケチが付くだろう。それだけは避けたかった。
(ヤチヨからの連絡はなし、と)
だから、少なくともヤチヨから連絡があるまで私は武器を使わない。例え、この合戦に負けることになったとしても、だ。
「ッ――」
その時、下から無数の銃弾が飛んできて慌ててヒポ君を操作して回避。速度強化している高速ライドはミニオンの攻撃を置き去りにする。つまり、今の攻撃は――。
「よぉ、やっと会えて嬉しいぜ、ザビ子ちゃん」
ヒポ君から降りて地上に立つと目の前に帝と雷が立っていた。私は今からこの二人を相手に時間を稼がなければならない。はたして、どれだけ持つか。とりあえず、彩葉たちがボトムの櫓を占拠するまでは頑張ろう。
「
「おいおい、前衛の雷を一人で撃破しておいてそりゃ通用しないじゃん? 俺としても一人で戦いたかったんだが……ザビ子ちゃんにやられっぱなしってのもカッコ悪いしな」
「……」
私の軽口に帝は肩を竦め、雷は無言でこちらを睨みつけてくる。きっと、黒鬼の中で唯一、私に撃破されているため、悔しさは他の二人よりも大きいだろう。
「乃依は? 後衛を一人にするのはさすがに悪手じゃない?」
「そりゃこっちの台詞だっての。そっちは最初からザビ子ちゃんを俺にぶつけるつもりだったんだろ?」
「ザビ子を撃破した後、すぐに向かえばいい」
そう言って二人は武器を構えた。時間稼ぎはこれ以上無理だ。私も重心を低くして身構える。
――【move_speed();】
私が自身に速度強化の
「おい! ここは正々堂々と戦うところだろ!」
「二人相手にまともに戦えると思う?」
――【add_poison();】
そう言いながら右手を雷に向けて
――【cure();】
「げっ」
状態異常回復の
「やっぱ、使ってきたか。でも、さすがに対策済みだ」
「それで二人で行動してるんだ」
「俺は動きが遅いから
速度強化のおかげで追いつかれていないがこのままではジリ貧だ。今のうちに彩葉たちには頑張ってもらいたいのだが――。
『ボトムでかぐや・いろPと乃依が交戦中! しかし、乃依が速度強化の
『もはやマシンガン! さすがのかぐや・いろPも防ぐので手がいっぱいです!』
『だあああああ! なんなのあれ、ずるくない!?』
『いいから矢を叩き落して! そのハンマーでも何度も受けてたら壊れるよ!』
『それだけは勘弁~!』
速度強化の
そう考えながらちょっとした崖を跳び越えようとジャンプした時だった。
「ここだな」
――【vanish_add(b);】
「っ……」
雷のバフを解除する
「やっと、追いついたぜ」
でも、ダメージよりもマズイのは帝と雷に追いつかれたこと。両脇も岩の壁で逃げ場が少ない。さすがにここで戦うのは――。
『ザビ子、雷の
「……」
MCの言葉にほう、と息を漏らした。なるほど、私たちの姿は見えていないのか。ふーん。
「俺たちの戦いは見せられないのは残念だが、全力でやろうぜ」
「……そうだね、ここならいいよ。声は配信に乗らないようにしてほしいな」
そう言って私はすっかり相棒となった『
「はっ、ネットでは噂になってたけどマジだったのかよ」
「……」
私の正体に気づいた二人は素直に声を配信に乗らないようにしてくれたらしい。MCが騒いでいないのがその証拠だ。雷も眉間にしわを寄せて武器を構えた。
『ザビ子、そっちは大丈夫!?』
「うん、今から帝と雷と真正面から戦う。さっきも言ったけど雷だけでも落とすから」
『……わかった! そっちはお願い!』
『ザビ子、ファイト~!』
彩葉とかぐやの声援も貰った。後は戦うだけ。正真正銘の真っ向勝負だ。MPの残量は三分の一程度。速度強化の
なら、やることはただ一つ。MP回復を待って強化を行い、
片手で仮想キーボードを操作し、礼装を変えながら鏡を帝に向かって飛ばす。咄嗟に雷が前に出て大盾で防いだ。そのまま、雷を跳び越えて帝が金棒を振り上げながらこちらへ落ちてくる。後ろへ下がってそれを回避するが金棒を引っこ抜いて銃モードに変形させて乱射した。
「すぅ……」
鏡を引き戻しながら銃口から軌道を読み、左右へ逃げる。もちろん、回避しきれず、いくつかは被弾するがHPが全損することはなかった。
――【heal(16);】
――【move_speed();】
ここでHPを小回復。三割ほど回復したところで私の手元に鏡が戻ってくる。そして、速度強化の
「っ」
――【vanish_add(b);】
やはりというべきか。雷もすかさず
「おっと」
再び、武器を金棒に戻した彼は私の殴打を受け止める。そこへ上空からの鏡。もちろん、角度は縦。当たれば痛そうな一撃だが、帝の後ろから雷が錫杖で鏡を横から叩き、軌道を逸らした。鏡は地面を僅かに砕くだけに終わる。
「おらっ!」
――【heal(16);】
咄嗟に両腕を胸の前でクロス。そこへ帝の金棒が直撃して後方へ吹き飛ばされた。しかし、攻撃が当たる前にHPを回復させていたおかげでなんとかHP全損は免れる。
(半分か)
視界に映る自身のHPバーを見て小さく息を吐く。わかっていたが厳しい戦いだ。雷の防御。接近、遠距離共にこなせる帝。その二人を相手にしながら
『乃依の
『ザビ子サイドも戦っているようです。HPバーの状況からしてザビ子が圧倒的に不利なもよう!』
だが、今のなお、彩葉とかぐやは戦っている。それなら私も負けていられない。小さく息を吸って意識を集中する。そして、即座に礼装を入れ替え、残ったMPを使って
――【add_regen(32);】
「っ……
「時間稼ぎに最適でしょ?」
そう言って私は再び後ろへと下がる。こちらの目的は時間稼ぎと
「雷、全力で行くぞ!」
「ああ、わかっている!」
放置すればどんどんHPを回復される。彼らは回復しきる前に私を倒そうと同時に襲いかかってきた。帝の金棒には鏡をぶつけ、雷の錫杖はギリギリのところでかわす。
こうして、私は狭い崖下で前衛二人相手に全力で時間稼ぎをすることになったのである。